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ごぼうかえるのTOKIの世界!
皆に元気を与えたい! 前向き楽しいブログを目指す(*^.^*) 口蓋裂の娘ちゃんと軽いADHD、軽いチック症状を持つ旦那と楽しくのんびりな日常をドールちゃん達が紹介する! 独自世界の幻想日本神話、自作小説書いています! 神と人形と人間と霊、そして『K』の季節感じる幻想データ世界TOKIの世界へようこそ! 和風SF日本神話の世界です( ´∀`)
かわたれ時…1月光と陽光の姫7
 ……あれ?オレ……どうなったんだろ……。
 チイちゃんはぼやっとした中、目を開けた。何故だかすごく眠たい。
 「もし……。もし……。しっかりしてくださいまし。」
 優しそうな女性の声がする。チイちゃんは誰かに揺すられていた。
 「ん……?」
 チイちゃんは焦点の合わない瞳で揺すっている者を見た。最初に瞳に映ったのはきれいな女性の顔。その次に烏帽子。その次はピンクのストレートロングヘアー。
 「もし!起きてくださいまし!」
 先程よりも揺すり方が激しくなっている。チイちゃんは徐々に我に返ってきた。
 「ほえ!?」
 しばらくしてチイちゃんは不思議な声を出し、がばっと起き上った。
 「あら、目が覚めました?」
 「……んん!?ひ、ひざまくら!ひざまくらぁ!」
 チイちゃんはこのきれいな女性にひざまくらをさせていた事に気がついた。状況を思い描き、顔を真っ赤に染めた。
 ……ひ、ひざまくら……だと!
 ついこないだまで刀だった事もあり、女性にあまり触れた事のなかったチイちゃんは異常に興奮していた。
 「も、萌える!」
 「大丈夫ですよ。あなたは燃えていません。怖い夢を見たのですね。」
 「え?えーと……。」
 女性は丁寧に答えてくれた。チイちゃんは真っ赤のまま改めて女性を観察した。見た目は白拍子だ。大人な女性という感じで物腰も柔らかい。色々とチイちゃんのドツボだった。
 「やっと戻ってきましたね。わたくしの刀……。」
 「……ん?」
 女性はチイちゃんの頭をそっと撫でた。チイちゃんは戸惑いと気恥かしさで真っ赤になったり戸惑ったりしている。
 「あら、わたくしを覚えていないのですか?わたくしは月照明神。あなたの持ち主です。まさかあなたが人型になって戻って来るとは思いませんでしたが……。」
 「月照……明神……?」
 微笑んでいる月照明神の顔を眺めながらチイちゃんはぼそりとつぶやいた。


 「なんであんたなんかが……。」
 月子はサキを睨みつけながらつぶやいた。
 「……?」
 サキは何の事を言っているのかわからず訝しげに月子を見ていた。月子は憎しみに満ちた顔で刀を振りかぶってきた。
 「サキ!」
 みー君が叫んだと同時にサキは素早く横に避ける。霊的着物を着ているため、体はかなり軽い。月子の斬撃もうまくかわせた。月子は間髪を入れず刀を振るう。
 「ちょっと!落ち着きなって!」
 サキはなだめるように月子に話しかける。もちろん、斬撃を避けながらだ。
 「うるさい!死ね!」
 「死ねって……こら!そんな言葉使うなってば。」
 月子の斬撃はサキを殺傷するために放たれている。冗談ではなく本気でサキを消そうとしているらしい。
 サキは剣で月子の刀を危なげに受ける。悔しいが月子の剣術能力は高い。しっかりと避けたはずだが肩先の着物がバッサリと裂けていた。
 「……っち……。」
 サキは露わになってしまった右腕を押さえ、苦渋の表情で月子を見つめた。
 「あら。右腕をもらうはずだったのに。ざーんねん❤」
 「サキ!」
 みー君が慌ててサキに向かい走り出したがすぐに月子のカマイタチで動きを止められてしまった。
 「あんたはそこにいろ。邪魔。」
 月子がしゃべるのとみー君がカマイタチを避けるのが同時だった。
 「月子、お前……!」
 「邪魔しないで。天之御柱神……。あんたには関係ないから!」
 「関係ないだと。誰のせいでこうなってんと思ってんだ。俺はサキの護衛を頼まれた。お前からサキを守れとワイズに言われている。これはおかしいと思うんだが。サキよりも先輩のお前が月を乱し、サキを消し、お前は一体何がしたい?」
 月子の叫びにみー君は冷静に答えた。それが怒りに触れたのか月子がさらに感情を爆発させた。
 「あんたには関係ない!……サキ、あんたはいいねぇ。こんな守ってくれる者まで現れて太陽を助けてくれる神が沢山いて!太陽を奪いグチャグチャにした欲深い人間の娘だっていうのに!」
 「……!」
 月子がゆっくりとサキの方を向く。刹那、サキの眉がぴくんと動いた。
 「知ってるよぉ。あんたの母親は概念化しているアマテラス大神を無理やりその身に宿して神になろうとした巫女なんでしょ。そんなやつが太陽を統べれるわけないわよねぇ?だいたい……人間だし。」
 「お母さんを侮辱するな……。」
 先程と明らかにサキの表情が変わった。月子はそんなサキを眺めながら涼しげに話し出す。
 「ほんと、消えて正解。太陽をぐちゃぐちゃにしてそのままポイとはどこまでも腐った親だわね。あんたはその女の娘なのになんでそんなに呑気にしていられるの?親も親なら子も子ってことね。」
 「あたしを馬鹿にするのはいい……。だけど、お母さんを馬鹿にするのは許さない!」
 月子の発言でサキの怒りが爆発した。たとえどんな親でも親を馬鹿にされるのは子供として耐えられない。サキもそうだった。もう冷静にはなっていられなかった。
 ……お母さんは確かに最低だった。だけどそれをこいつに言われる筋合いはない!
 サキは月子の刀を乱暴に振り払った。
 「サキ?」
 みー君はサキの変貌ぶりに戸惑い、そこから近づく事ができなかった。
 ……お母さんはあたしなんて見向きもしてくれなかったけど!でも……それでも……
 サキは感情を制御できなくなっていた。まわりに不必要な炎が噴き出す。
 「やめろ!サキ、落ち着け!」
 みー君の言葉は最早サキには届かなかった。
 ……それでも!あたしはあの人の娘だった!
 サキは月子に剣を振るう。容赦のない一撃を月子はかろうじて受けた。
 「何よ。いきなり感情的になっちゃって。」
 「ふざけんな!あんたに何がわかるっていうんだい!あんたがお母さんの何を知っているっていうんだい!何もわかっていないくせに偉そうに言うな!」
 サキはまた乱暴に刀を弾くと剣を振りかぶった。
 「そんな最低な人間の事なんて知りたいとも思わないわ!その娘であるあんたをなんでどいつもこいつもかばうのか私には全然わかんない!」
 月子も刀を振るう。刀を振るっている内に月子からツクヨミ神の力が溢れ出した。
 また、サキからもアマテラス大神の力が噴き出した。
 お互いが凄まじいエネルギーをおびながら武器を振るい合っていた。サキも月子も体中斬りきざまれながら怒りの感情のみでぶつかっていた。
 「やめろ……。」
 みー君が危機を感じ二人に向かい走り出す。ウサギは震えながら近くの柱に隠れていた。
 「おい!止まれ!やめろ!」
 膨大なエネルギーを持っている二人がぶつかり合ったら何が起こるかわからない。それにみー君は女性同士が殺し合うのを見たくなかった。
 「やめろ!」
 斬撃が飛び交う中、みー君は二人の間に立った。
 「やめろって言ってんだろうが!」
 みー君の神力が一瞬、時を止めた。
 「み、みー君!」
 サキが驚いて剣を引いた。赤い液体が大量に宙を舞う。みー君は色々と遅かった。
 みー君は二人を止めようと神力を放ったが間に合わず、二人の斬撃をその身に受ける事になってしまった。サキはみー君の背中を深く斬り、月子はみー君の胸から腹を思い切りえぐった。
 「がっ……。」
 みー君は口から血を吐きながらその場に崩れ落ちた。
それを見た月子は楽しそうに笑っていた。
 「あら……斬っちゃった。好都合だわ。ふふ……。」
 「そ、そんな……みー君……。」
 月子は絶望的な顔をしているサキを一瞥するとみー君を破壊されたエスカレーター部分から突き落とした。刹那、落ちゆくみー君の遥か下に宇宙空間が出現した。きれいな星々がサキには悪魔にしか見えなかった。まるでブラックホールのようにみー君はその星空に吸い込まれていく。
 「みー君!みー君!」
 サキは必死で手を伸ばしたがみー君に手は届かなかった。
 「ふふ……。弐の世界で永遠に眠りなさい。」
 月子はクスクスと笑いながら落ちていくみー君を冷たく見つめた。
 「……お前ら……落ち着けよ。せっかくのきれいな身体……傷になるぞ……。」
 みー君は最後にそうつぶやき、宇宙空間に飲まれ、跡形もなく消えた。
 「みー君……そんな……。みー君……あたしがみー君を……斬った?」
 うなだれ震えているサキは立っている事ができずその場に座り込んだ。まだ手に肉を断ち切った感触が残っている。サキの頭は真っ白になった。
 「さて、じゃあ、これで二人きりだわね。サキ。」
 月子が平然とサキの頭を足で踏みつぶした。
 「あんた……みー君に何をしたんだい……?」
 「何をしたって弐の世界へ連れてっただけよ?もう戻ってこないと思うけど。」
 「みー君をあたしが……。みー君……。」
 サキは耳を塞ぎ、震えながら涙を流していた。
 ……おかしくなってたあたしを止めようとしてくれてたのに……あたしは彼を……。
 サキは震える手で剣を握ったが握りきれず剣はそのまま地面に落ちた。手についた血を見て震えはいよいよひどくなった。
 ……もう何も考えられない……怖い……。
 「ふふ。無様ね。サキ。もうあんたを守ってくれる者はいない。あんたは助けてくれる者の影でふんぞり返っていただけなんだから奪っちゃえば私はあんたを容赦なく蹴落とせる!」
 月子は戦意喪失しているサキの顔を蹴り飛ばす。
 「っぐ……。」
 サキは顔を押さえ立ち上がろうとするが身体の震えがおさまらず立ち上がる事ができない。
 「満身創痍ね。ふふふふ!あははは!」
 月子は狂気的に笑いながら絶望しきっているサキを蹴り続けた。
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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

かわたれ時…1月光と陽光の姫6
 サキ達はもう一度天守閣の中へ入った。ピンク色の廊下の先にエスカレーターが動いていた。エスカレーターももちろんピンク色だ。
 「何と言うか……ピンク色には慣れたが城の内部にいる月神、兎達に全然会わないのが気になるな。」
 みー君はエスカレーターを登りながらつぶやく。
 「確かにねぇ。恐ろしいくらい静かだよ。」
 先程から何も物音がしない。エスカレーターが動く音のみ響く。とても不気味だ。
 「む……。ここら周辺にいる皆の心が弐にいるでごじゃる。肉体は行っておらぬ故、眠っている状態であります……。城の外にいた者達は肉体ごと弐に行ってしまわれたでありますが……。城内の者達はまだなんとか……。」
 ウサギが怯えながらあたりを見回した。
 「なんでわかるんだ?お前、あれか?パーティの中にいる物知りキャラか?」
 「みー君!声がでかいよ!」
 「お前もな……。」
 サキとみー君がこそこそ話しているとウサギが恐る恐る声を出した。
 「自分達は弐の世界の上辺と月を守っているであります……。月神、兎も睡眠はとるのでシフト制で休んでいるのであります。その時に何人弐に行っているのかとか……まあ、つまり何人寝ているのかを随時把握しているのでごじゃる。月の兎の特殊能力とでも言うか、とにかく兎は弐にいる人数を把握する能力を持っているのでごじゃる。」
 ウサギは話しながらじわっと瞳を潤ませた。今にも大泣きしそうな雰囲気だ。
 「わっ……待つんだよ。こんなところで泣かないでおくれ。」
 サキは慌ててウサギの涙をふく。ウサギは同胞が消えてしまった事にだいぶまいっているらしい。
 「こんな状態なのに月子ってやつは何やってんだ?って、こりゃあ月子がやったのか。」
 みー君は二階から三階へ行くエスカレーターに乗りながらつぶやいた。
 「つつつ、月子さんを悪く言うなであります!月子さんはそんな事をするお方ではないでごじゃる!」
 「でもその月子ってやつはサキを殺そうとしていたんだろ?悪く言うなって言う方が無理じゃねぇか?」
 みー君のそっけない言動にウサギは突然怒り出した。
 「月子さんはそんな神じゃないであります!絶対に同胞にひどい事したりとか……し、しないであります!」
 ウサギはどこか必死の面持ちでみー君に掴みかかるように言葉をまくし立てる。
 「……お前も……もうわかってんだろうが。こういう状態になったのは月子のせいだとな。何むきになってんだよ。隠したい事情でもあるのか?」
 「みー君、やめなよ。兎には兎の何かがあるんだよ。きっと。」
 みー君とウサギの会話が喧嘩腰になってきたのでサキは慌てて止めに入った。
 「お前は黙ってろ。」
 みー君はサキをじろっと睨みつけた。それを見たサキはなんだかカチンときた。
 「黙ってろってなんだい!あんたがそんなデリカシーの無い事ばかり言うから……!」
 「わわわ、待つであります!喧嘩はよくないでごじゃる!」
 止め役だったサキ本人が喧嘩腰になってしまったので今度はウサギが止めに入った。
 「喧嘩なんてしてねぇよ。こいつが勝手に怒ってるだけだろ。」
 「はあ?」
 サキはみー君の言動でさらに腹が立った。みー君は涼しげな顔で四階に続くエスカレーターに乗る。
 「少し落ち着けよ。俺は別に喧嘩しようってわけじゃない。ただ……言い方が悪かったな。すまない。お願いだ。少し何もしゃべるな。俺はウサギと会話がしたい。」
 みー君の鋭い瞳にサキが映る。みー君はサキとは違いとても冷静だった。それを感じたサキはみー君が何かを言おうとしていると判断した。
 「みー君。あんたはあたしよりもはるかに長く生きている。あんたがまわりにイライラをぶつけるわけないね。イライラしてたのはあたしだ。わかった。少し黙る。」
 「お前、イライラしていたのか。」
 みー君は少しだけ驚いた顔をしていた。
 「当たり前だよ。太陽も思うように動かせてないっていうのに他のやつらから月の様子を見て来いって言われておまけに月のやつらにあたしは殺されかけるし。チイちゃんもどうなったかわからない!」
 サキは愚痴をこぼしながら深呼吸をし、心を落ち着けた。
 「そうだな。お前は不運だ。不運だが死ぬほどの不運ではない。あの男も確実に死んだとは言いきれない。」
 「まあそうだねぇ。確かにまだ何にもわかってない。もう、イライラしてないよ。……とりあえず、あたしはいいから二人で話しな。」
 みー君の不器用な慰めに満足したサキはため息を再びつくと黙り込んだ。
 「わりぃな。……で、ウサギ、先程はまわりくどく言ったが……俺にはやっぱり難しいんで、簡潔に結論を言おう。」
 みー君はそこでいったん言葉をきった。ウサギは瞬きをしながら言葉の先を待っている。
 「これ、だいぶん前に起こった月照明神がいなくなったそれにとても似ているんだが……。月神の王は姉妹そろって一つの神なんだろう?月子は妹だったはずだ。姉はどうした?消えたのか?それとも消したのか?先程むきになってたのはそれだろう?お前は何か知っているな?」
 「!」
 みー君の発言にウサギは狼狽していた。
 「し、知らないであります!げ、月照明神様……いえ、主上は自ら弐の世界へと向かわれた。自分達に何も言わずに行方不明になられた。つ、月子さんにも何も言わずにいなくなられた。自分達は主上が何らかの理由で弐に行き、その理由が解決したら月に戻ってくると思っているであります。」
 「それは苦しい理由だな。お前、さっき弐の世界に入り込んだら出て来れないって言ってたじゃないか。お前は実際、自ら弐に行く月照明神を見たのか?月子にそう言われただけなんじゃないのか?」
 みー君の諭すような口調にウサギは黙り込んだ。しばらく静寂が包んだ。みー君はウサギが何かを口にするまで声を発さないつもりのようだ。黙ってウサギを見据えている。
 やがて観念したようにウサギがぼそぼそとつぶやきはじめた。
 「先程述べた理由は……自分が他の月神様や兎達に流したウソでごじゃる。自分は月神様の使いでごじゃる故……どんな状態でも月神様の意向に従う。……だが……もうそれは先程の件で守れそうにないであります。」
 「という事は……お前は本当を知っているんだな……。」
 みー君は一つの結論を導き出し、大きく頷いた。ウサギはみー君の鋭い瞳に怯えながら続きを話しだした。
 「自分は月子さんが姉君を弐に突き落とすのをこの目でみたでごじゃる。なぜそうなったのかはわからないでごじゃる。ただ、自分は誰にも悟られぬようにこの件を必死で隠してきた。誰にも見られていなかった故……自分は知らない顔をしようと思ったのでごじゃる。これは月子さんにとって外に漏らしてほしくない内容だと判断し、自分はウソを言って隠ぺいしたであります。」
 ウサギは怯えながらゆっくりと言葉を漏らした。
 「なるほどな……。まあ、お前の判断も間違ってはいないな。」
 みー君はウサギから目を離すとサキに目を向けた。サキが意見を言うか言わないかで迷っているような感じだったからだ。
 「なんだ?なんか言いたそうだな。」
 「みー君、ごめん。しゃべるよ。……今の話を聞くかぎりだと……ウサギの判断はあまり正しいとは思えないよ。現場を見ていたんだったらウソで隠ぺいするんじゃなくてさ、原因究明とか色々するべきだったんだとあたしは思うよ。見て見ぬふりってよくないんじゃないかい?」
 サキはみー君を見た後、ウサギに目を向けた。ウサギは唇を噛み、うつむいていた。
 「まあ、お前の言っている事も正しい。が、よく考えろ。今となっては月子の不審感が月神達に知られているが当時はどうだったか。ツクヨミ神の加護を受け、月照明神は尊敬の対象だったはずだ。そんな状態でこのチビ兎が、『妹が姉を弐の世界に突き落とし消した』と言ってしまったらこいつは間違いなく死刑だ。こいつには何の力もない。ただの反逆罪だ。保身のためならこいつの判断は正しい。ただ、こいつの身は相当苦しかったと予想される。一人で誰にも相談せず、月子に不審感は持っているものの従順で……子供なのに精神がよく持ったものだ。」
 みー君はウサギの頭にそっと手を乗せた。
 「……みー君……。……そうか。それを考えてなかったよ……。あたしの言った事は正義の味方きどりで何も考えていないだけだ。」
 サキは自分の意見を恥じた。うつむき、何を言うか迷った。サキの顔を見たみー君は突然ふっと笑った。
 「な、なんだい?」
 「いや、変な顔しているなと思ってな。」
 「変な顔だって?」
 「いや、怒るな怒るな。……お前の言った意見だがな、それもあっているぞ。弱い立場のやつができなかったら強い立場のやつらがやればいいんだ。原因の究明や、月子に関しては現在やっているだろ?」
 みー君がサキに向かい笑いかけた。刹那、サキの瞳に輝きが戻った。
 「そ、そうだね!そうだ!あたしがやればいいんだよ!って……あれ?あたし、なんであんたにいいようにコントロールされているんだい?」
 「モチベを上げただけだろ。コントロールなんてそんな……お前が自機だったらまともに動かないだろうな。AボタンのコマンドなのにBボタンのコマンドやるだろ?」
 「まったく、たとえがいちいちわからないんだよ……。みー君は。」
 サキに元気が戻った。みー君は満足そうに頷き、意味深に「さてと」とつぶやきエスカレーターの到着地点を睨んだ。
 「みー君?ん?……ウサギ?」
 ウサギが静かにサキの腰回りにひっついてきた。ひどく怯えているようだ。サキはふと何かを感じみー君が向いている方向を向いた。
 「!」
 エスカレーターの到着地点に月子が立っていた。氷のような瞳の奥には憎悪が見えている。
 「あれが月子か。実際見るのははじめてだな。」
 みー君は不気味に笑った。
 「あれが月子……不思議とはじめてな感じがしないね……。なんでかな。」
 サキはなぜか懐かしい気持ちになっていた。会った事がないというのにどこかで会っているようなそんな気がした。
 「おそらく、今、概念化しているツクヨミ神とアマテラス大神が関係しているんだろうな。サキはアマテラス大神の色々を受け継いでいてあいつはツクヨミ神の色々を受け継いでいる。もともとあのツクヨミ神とアマテラス大神は姉弟だ。色々細かい理由があって仲が悪くなったらしいがな。」
 「遠い記憶がこんな懐かしい気持ちを呼び起こしているってわけかい。」
 サキは月子を睨みつけた。
 「!」
 刹那、月子が手から刀を出現させ、勢いよく振るった。刀からはカマイタチが飛び、エスカレーターを粉々に破壊した。
 「うわあ!ちょっ……!」
 「いきなりかよ!」
 みー君は慌てて風を起こし、三人の落下を防いだ。
 「ぎゃあああ!」
 しかし、みー君は元々厄災の神、台風じみた風しか出せずサキ達は吹っ飛ばされる形となった。
 だがなんとか月子がいるフロアまでは到達する事ができた。地面に叩きつけられる勢いだったがサキもウサギも不思議と怪我はなかった。
 「おっと、すまん。怪我してないか?いきなりだったもんで制御がちょっとできなかった。」
 「あ、あんたはいつもそうじゃないかい……。」
 慌てているみー君にサキは吐きそうになりながらも言葉を発した。エスカレーターは原型を留めていないくらい破壊されていた。もう足を乗せる所もない。
 「ま、まあ、ここから落ちるよりはマシでごじゃる……。……つ、月子さん……自分、やっぱりこのままではいけない気がするであります……。」
 ウサギはサキにしがみついたまま月子を怯えた目で見つめていた。
 「月は吉凶を占う所でもあるわね。厄神を連れてきたって事は凶かしら?そうね。さっきので全員しとめられなかったんだもの。私にとっては凶だわ。」
 月子はウサギの問いかけには答えず不気味に微笑みながらサキ達を睨みつけていた。
 「月子さん!外の警備をしている者達が弐の世界へそのまま入り込み、城内の者は魂が弐に行っているであります。なんとか元に戻してもらえないでごじゃるか……?」
 ウサギは震える身体を押さえつつ叫んだ。月子の瞳は暗く、冷たいままだ。
 「あなたは私に意見できる立場ではないわ。このままでいいのよ。場がおさまったら元に戻すから……。」
 「とはどういう事だ?」
 みー君がウサギの代わりに月子に質問をした。その瞬間、月子の顔に冷笑が浮かんだ。
 「あなた達はもう外へは出られないわ。」
 「ほお。」
 みー君の瞳が青色からスウッと赤色に変わる。サキはみー君の豹変に驚きながらも剣を手から出現させ構えた。
 「やっぱりすべての原因は月子か……。話し合いでなんとかなりそうにないし、どうしたもんかね。」
 「さて、原因究明はどうしたものか。……しかし、舐められたもんだな。俺はイザナギ神とイザナミ神との間に生まれた子供だぜ?」
 「知っているよ。みー君。」
 サキとみー君の間に恐る恐る入り込んできたウサギがきょろきょろと二人を見上げていた。
 「じ、自分に何か……できる事は……?」
 「今はまだいい。少し退がっていろ。」
 「そうだね。話せる状況でもないし、もうちょっと様子見をするべきだね。」
 ウサギはサキとみー君の答えを聞き、おとなしく後ろに退いた。
 「みー君、いいかい?これは敵を叩きのめすわけじゃないよ。いいね。」
 「わかった。」
 二人は月子に向かい構えをとった。このまま、月子と対峙をし、チイちゃんが帰ってくるとは思えなかったが二人はここからどうすればいいかわからなかった。ただ、月子さんに会うという目的だけでここまできてしまったため、会ってから何をすればいいのかまったく決めていない。
 底冷えするような瞳でこちらを見ている月子と対峙しながら二人は頬を伝う汗もそのままこれからどうするか必死で考えていた。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

かわたれ時…1月光と陽光の姫5
 「ライ、あいつは消せたの?」
 少女の声がうつむいていたライの耳に届いた。ライはそっと顔を上げる。ここは月光の宮最上階、月子の部屋。女性アイドルが好きなのかあちらこちらにポスターが張ってある。部屋全体はピンク色をしており机などの家具も全部ピンク色だ。床に敷いてある絨毯は真っ赤なハートが描かれている。好きな人は好きかもしれないがあまり落ち着く雰囲気ではない。
 「……月子……天御柱神がサキと共に動いているの……。私、あの神に勝てないわ。」
 ライは今にも泣きそうな顔で目の前に立つ少女を見つめた。少女は明るいピンク色の髪をしており、柄物の大きなリボンで髪を二つにまとめている。少女の正装である十二単を纏い、勝気な瞳で怯えているライを見据えていた。
 「さっさと消してくれないと困るのよね~。あなた、さっきまで外で何していたわけ?」
 少女、月子は自身の髪を指でクルクルと動かしながらライに感情をぶつけはじめた。どうやら月子は虫の居所が悪いらしい。
 「だから、天御柱神がいるんだってば。どうやっても勝てないわ。私の世界を塗り替えてしまうの。……それと……月子、なんでウソなんてついたの?」
 ライは少し迷いながら言葉を発した。
 「ウソ?私がいつウソなんてついたかしら?」
 月子はクスクスと笑いながら複雑な表情のライを見据える。
 「サキは……輝照姫大神は悪い神じゃなかったよ?あなたを救いたいって言ってた。月子はさ、『私を苦しめる神』って言ってたじゃない?……でも、全然悪くなかったよ?」
 「何言ってるのよ?私を苦しめるのは間違いないわ。きっとあなたも苦しめられる。お姉ちゃんの件は明るみに出てほしくないな~。ねぇ?ライ?」
 月子はライの近くによると耳元でそっとささやいた。ライはびくっと身体を震わせる。
 「……そ、そうだね。」
 「でしょ?」
 「ねぇ、月子。」
 「なあに?」
 ライは一呼吸おいて話しはじめた。
 「私ね、あなたのお姉ちゃんが持っていた刀を見たかも……。」
 「!」
 ライの一言で月子の表情が一瞬で曇った。
 「どこで?」
 「サキ達と一緒にいたよ。確信はないけど。人型をとってた。」
 ライは自身なさそうにぽつりぽつりと言葉をこぼす。
 「人型になったって事?あの刀神が?あの時、一緒に始末できてなかったのかしら?」
 「刀だけ月子のお姉ちゃんが逃がしたのかもしれないよね。確か、剣王の所で修行していたとか。」
 ライの発言に月子の表情が険しくなった。
 「剣王の所で……ねぇ……。」
 「剣王とかもう気がついているかもしれないよ。……月子。」
 不安そうなライの顔を見て月子は怒りを押し殺した表情になった。
 「……私のまわりは皆敵……私に仲間なんていない。」
 「月子……。」
 ライは『私は友達だよ』と言いかけたがやめた。月子がライを睨んだからだ。
 「あんたと私は共犯者。だけどあんたもいつか私を裏切るんでしょ。いつもそう。皆そうなのよ!皆私に冷たくするの。」
 「月子、違うよ。私達は本当はしちゃいけない事をしたんだよ。だから……」
 怯えているライを月子はさらに睨む。
 「だから何?お姉ちゃんがいたらいたで私は否定されてお姉ちゃんがいないならいないで否定される。皆私を否定する。兎も私の言う事を聞かない!だからなんとかして私の言う事を聞かせてやる。あんたももう、逃げられないから。」
 月子の吐く息が重くライにのしかかる。ライはその場に座り込んだ。重圧がライの背中を押しつぶす。月子は言雨(ことさめ)を発していた。威圧とは少し違い、言葉一つ一つが重圧となり雨のように降り注ぐ、それが言雨だ。これができる神は今はほとんどいないと言われている。
 月読神の力を持っている月子にはそれができた。
 「つ、月子……。」
 重い空気にライは肩で息をし、震えながらその場にうずくまっていた。
 「あんた、その刀の神を弐の世界で封印してきなさい。わかったわね。」
 月子は冷たく言い放ち、苦しそうなライをただ見下ろしていた。


 金色のドラゴンかぐやは徐々に月光の宮に近づいていた。いつの間にかあたりはクリーム色に染まっている。おそらく霊的月に入ったのだろう。月の空間に色がついているわけではないが遠目でみると淡いクリーム色に見える。それは透明だけど遠目で見ると青い、青空の感覚に近いかもしれない。
 「なんというか……黄色いな。」
 みー君がつまらなそうにあたりを見回している。月に入ってからずっとこの黄色い空間だ。
 「太陽はオレンジ色だったけど月は黄色なんだねぇ……。まったくいつになったら月光の宮に着くんだい?」
 サキはリラックスしながらかぐやに乗っている。完全に集中力がきれていた。
 「サキ様……しっかりなさってください……。」
 チイちゃんは今にも寝そうなサキを揺すって起こしていた。
 「おい、ウサギ。後どれくらいだ?」
 みー君はうんざりした声を上げた。その後、ウサギが慌てて答える。
 「えー……もう少しであります。あ、ほら、あのピンク色のお城が……。」
 ウサギはクリーム色に霞む先を指差した。
 「なんだい……あのショッキングピンクの天守閣は……。」
 サキはウサギが示した方向を見てため息をついた。目の前にショッキングピンクの日本のお城が建っていた。その城周辺だけ島のように砂の陸地が広がっている。
 「あ!見てください!かぐやのしっぽが!」
 チイちゃんが突然叫んだ。サキ達は咄嗟に後ろを向き、かぐやのしっぽを見た。
 「ん!」
 かぐやはしっぽから徐々に消えていた。
 「おや、かぐやが消えているよ……。」
 「まあ、もともと月に連れて行ってくれるだけだったからな。こいつはよく頑張ってくれた。」
 サキの言葉にみー君がそっけなく答えた。
 「あー……お二人ともちょっと冷めていますね……。」
 「みー君は興奮の余韻でこうなんだろうけどあたしはなんだか眠くなってきちゃったから寝たいんだよねぇ……。」
 サキはチイちゃんに疲れた顔を向けた。気がつくとピンク色の城がもう目の前にあった。
 「ついたでおじゃる!」
 ウサギが談笑しているサキ達に向かいビシッと言い放った。それと同時にかぐやは完全に消え、サキ達は地面に放り投げられた。
 「うわああ!」
 サキ達は絶叫をあげながらもうまく着地した。
 「な、何なんだい!もっと優しく降ろしておくれよ……。びっくりしたじゃないかい。」
 冷や汗をかいているサキの横でみー君が消えてしまったかぐやの方を向きながら、なんだかさみしそうにしていた。
 「かぐや……俺のかぐやが……。」
 「はいはい。センチは後でやっておくれ。」
 「少しくらい浸らせろよ……。」
 さみしそうなみー君をサキは呆れながら引っ張って行った。
 「しかし、凄い建物ですね……。特に色が……。」
 「月子さんの趣味であります!」
 顔がひきつっているチイちゃんにウサギがおかしい事はないと言った風に頷いた。
 「まったく目がちかちかするよ。あたしには良さがまったくわからんね。」
 場違いなピンク色の天守閣を眺めながらサキはうんざりした顔をしていた。
 「お前、女なのにあれの良さとかわかんないのか?」
 「女が皆ああいうのが好きだと思っている事がみー君の間違いだよ。」
 サキはみー君の頭をこつんと小突くと建物に向かい歩き出した。
 あたりには月神と月神の使い兎が多数いた。どの月神も兎も動揺しながらこちらを見ている。襲ってくる気配はなさそうだ。
 「なんか見られてますけど見られているのみー様とサキ様だけですね……。」
 二人の隣りを歩くチイちゃんは肩身狭そうにしている。ウサギは無言で前を歩いているが見られて緊張をしているのか歩き方がぎこちない。
 「んん……見てくるだけで別に襲ってくるわけじゃないんだねぇ……。一応、招かれていないわけだから侵入者なんだろうけどさ。」
 サキは用心のため、太陽神特有の霊的な剣を手から出現させた。それと同時に月神、使いの兎達から怯えの声があがり、どよめきが起こった。そしてサキ達が歩くたびに彼らは後ろに一歩二歩と退く。城を守る気がないのか城を守れないのかはわからないがどの月神にも覇気がない。
 「なんだ?やる気のねぇ警備兵だな……。」
 みー君はまわりを見つつ呆れた声をあげた。
 「お二人は神力が違いすぎるゆえ、警備兵達は勝てないと悟っているのでおじゃる。それと殺気を感じないとあれば無駄に戦う必要はないと判断したのであります。」
 「なるほど。賢明だ。警備としては失格だがな。」
 「オレは?あれ?オレの立場が……。」
 ウサギの言葉にチイちゃんはさらに肩を落とした。
 さらに歩いていると城門の前に辿りついた。城門は開けっ放しになっており、すべてショッキングピンクに塗られている。その城門の真ん中にライが立っていた。
 「やあ、待ってたよ。」
 「ライ、あんた、やっぱり月子の所にいたのかい……。」
 「うん。」
 サキの問いかけにうつむいて答えたライはどこか悲しそうな顔をしていた。
 「そこに立っているって事は……俺達を月子さんのとこに連れて行ってくれるのか?……っふ。そんなわけないか。」
 みー君は一瞬、笑顔になったがすぐにライを睨みつけた。
 「うん……用があるのはチイちゃんだけなの。後は別に城の中に入ってもいいよ。月子が待ってるよ。」
 「おっ!オレに用だって!?」
 チイちゃんはやたら嬉しそうにライに目を向けた。ここにきてはじめて気にかけてもらって嬉しかったらしい。
 「そっか。じゃあ、お前、後はよろしく。俺達は城ん中行くからな。」
 みー君は呆れつつさっさとライの横を通り過ぎ城の内部へと入って行った。
 「ちょ……みー君!あんた、なんかこう……疑ったりとかしないのかい?」
 「んー?」
 サキの言葉にみー君はポリポリと頭をかきながらこちらを向いた。
 「いや、んー?じゃなくてさ。拒んでいたやつがこう……あっさりと城の内部に入れてくれるわけないじゃないかい?」
 「だが入っていいと言っているぞ。それにそこの坊やが全力で芸術神に挑もうとしてるんだから男として先に行くのが普通だろう?」
 「みー君?ライが戦うつもりなのかわからないけど……何にしてもチイちゃんは弱いんだよ!一人にしておけるかい!」
 「あ……。」
 チイちゃんはサキの言葉を聞いてがっくりと肩を落としていた。
 「おいおい、サキ、少しは気持ちをくんでやれよ。男は強い部分がほしくて見栄を張る生き物なんだよ。弱い弱い言われたら落ち込むのは当然だぜ。」
 「そ、そうなのかい?」
 みー君の発言にサキは戸惑った。チイちゃんを傷つけてしまったと思ったらしい。
 「そ、そんなんじゃないですよ!違いますよ!弱いって言われても平気ですよ!」
 慌てて否定するチイちゃんにみー君は大きく頷き、よくわからないが
 「うむ。ツンデレだな。」
 とつぶやいた。
 「わけわかんないし……。あんた、なんだか会った当初からツンデレにこだわっているねぇ……。まったく。」
 「と、とにかくね、お城で月子さんがあなた達に会いたいんだって。だから早く行ってくれるかな……。」
 しびれをきらしたライが早口に言葉を発した。サキはうーんと唸った後、城に向かい歩き出した。
 「まあ……チイちゃんを立てるためにもここは城に入った方がよさそうだね。チイちゃん、先行くよ。」
 サキはチイちゃんにそっと目を向けるとささやいた。チイちゃんは胸を張って勢いよく答えた。
 「すぐに追いかけます!ここはオレにまかせてください!」
 「ウサギ、あなたは案内よろしくね。」
 ライは始終黙っていたウサギにそっと目線を送った。
 「……。ウサギンヌ。」
 ウサギは納得いっていない顔でライを見上げるとみー君の元へと走って行った。サキはライの様子を見、ウサギの様子を見て城へ入る事を若干拒んでいたがしぶしぶみー君を追い、城の内部へと入った。
 「!」
 城の内部へ入った刹那、ウサギがビクッと肩を震わせた。
 「どうしたんだい?」
 「……そんなっ……弐の……っ!どうして……同胞が沢山いるのに!」
 「おい、なんだ?いきなり豹変するなよ。びっくりするじゃないか。」
 ウサギの戸惑い様にサキとみー君は慌てて声をかける。しかし、ウサギはみー君やサキに答えず、必死な面持ちで城の外へ向かって叫んでいる。
 「同胞と月神様達を殺すつもりでごじゃるか!」
 ウサギは血相を変えて城の外へ飛び出した。
 「おい!だからなんだ!どうした!城に入ったばっかなのに出るなァ!」
 「ウサギ!……たく……しょがないねぇ!」
 みー君とサキもなんだかわからずにウサギを追う。
 「どうして……こんな事を……。」
 ウサギは月の地面に力なく座り込み泣いていた。
 「ちょっと、いきなりどうしたんだい?泣く意味がわからないよ。」
 あまりのウサギの変わりようにサキは戸惑いながらそっとウサギの肩に手を置く。
 「おい。ライもチイちゃんも月神も兎もいねぇぞ!」
 みー君の声にサキは顔を上げた。まわりを見ると誰もいない。先程までいた月神、兎達、チイちゃん、ライも消えており、ただ、月の地面が遠く続くのみだった。
 「なんで……さっきまでいたのに……おかしいねぇ。チイちゃん……は……?」
 サキは黄色のモヤがかかった空間をただ茫然と見つめていた。
 「ライが……自分達以外全員……弐に閉じ込めたのでごじゃる……。弐に入り込んだら通常抜け出す事は不可。芸術神が作り出す弐の世界ではなく、もっと大きな本当の弐の世界に……心の世界に連れこんだのでごじゃる……。自分は弐をよく見ている故、よくわかるのであります。」
 「弐の世界って妄想だけじゃなかったな。心の世界もそうか。で、あの小娘がどうやって妄想以外の弐の世界を出したんだ?芸術神って言ったら心の上辺、妄想、アイディア関係の弐の世界しか出せないんだろ?」
 みー君が動揺しているウサギに冷静に話しかける。
 「ちょっと、みー君、なんで芸術神が妄想関係の弐の世界しか開けないって事を知っているんだい?他の弐の世界も出せるかもしれないじゃないかい。」
 「今、その質問をする時か?まあ、いいか。いままでの状態を見ればわかるだろう?お前は一体、いままで何を見ていたんだ?ライは妄想関係と勝手に自分で作った世界しか出してないじゃないか。はじめ俺達を襲って来た時に妄想の弐の世界じゃなくてそこのウサギが言ったみたいな本当の弐の世界とやらに閉じ込めれば良かっただろ?してこなかったって事はできなかったんだ。」
 みー君の言葉にサキは顔を曇らせた。
 「あんた、観察力が凄いね。意外に色々見ているんだねぇ……。」
 「ま、そういう事だ。」
 みー君は半分割れた面から覗く目をわずかに細め不気味に笑った。
 「弐の世界は言わば銀河系と同じ……それぞれ散らばる星が地球のように世界をつくり存在しているのでごじゃる。その星が人の心。弐の世界に入り込むという事は宇宙に放り出されるのと同じ事。流れ着く先はどこかの星。つまり誰かの心の中。途方もない世界観の中で一生戻るアテもなくただ彷徨い続ける……。」
 ウサギが肩を落としながらつぶやいた。それを聞き、サキは事の重大さに気がついた。
 「ちょっと!じゃあ今の話だとチイちゃんは……っ!」
 「あの世に行ったのと同じだな。」
 サキの言葉をみー君がそっけなく繋げた。
 「みー君、これはやばいよ!」
 「あの坊や、助太刀とか言ってついて来てこんなのばっかりだな。そしてサキ、少し落ち着け。」
 みー君は鋭い瞳をサキに向けた。みー君と目が合ったサキはごくりと息を飲んだ。
 「……と、取り乱していてもしかたないね。ライも一緒に弐に行ってしまったのかね。」
 サキは深呼吸するとそっとウサギに目をやった。
 「……わからないでごじゃる。でもこの場所で本当の弐の世界を開く事は芸術神だとしても無理でごじゃる。我々月の者は弐の世界の上辺を守る者。生きた肉体や意識を持つ者が入らないように見守る役目がある。弐の世界と直接つながっている部屋はあるがそこ以外は弐に入る術はないであります。」
 「って事は……だ。ライがやったわけじゃない可能性もあるわけだ。もしくはライは共犯で誰かと一緒に術かなんかを使って真の弐の世界を出したとかな。それと……なんであの男を単品で弐に入れたんだ?俺達も一緒に閉じ込めれば良かったじゃないか。」
 「……それは……わからないであります。」
 「そうか。」
 ウサギから目を離したみー君はピンクの天守閣の最上階を睨みつける。サキもみー君につられ天守閣を見上げる。
 ……誰かと目が合った気がした。
 「と、とりあえず、中に入ろう。まずは月子に会って……。」
 サキは頭を横に振ると天守閣の中へ入って行った。
 「そうでおじゃるな。月子さんに原因の究明をしてもらうであります……。」
その後を追い、みー君とウサギも続いた。


 月子はこちらを睨みつけている二人をいらだちながら見つめていた。
 ……うざい!うざい!なんなの?あんな目で私をみるなんて……。
 ……あいつは……あいつの母親は人間だったのに……アマテラスの加護までうけて私よりも良い待遇……。
 ……最低な女なのになぜ皆持ち上げるの?
 ……私の領域まで入って来て……ずうずうしい……。
 ……絶対に許さない。
 月子は近くにあった兎のぬいぐるみを踏みつぶした。
 ……私には仲間はいない。
 ……そう。
 ……私を認めてくれる神はいなかった。
 ……私は頑張ったのに努力したのに……
 「あいつやお姉ちゃんに全部っ!全部持っていかれる!」
 月子は何度もぬいぐるみを踏みつぶす。兎のぬいぐるみから綿が飛び出て手足は無残にちぎれていた。その兎のぬいぐるみと重なるように一瞬、姉の顔が映った。
 「あいつは上手に消せた……。こいつらもうまく消してやる……。」
 そうやって生き残らないと私はいつまでたっても認められないままだ。
 月子は悲しみを含んだ瞳で静かに笑っていた。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

かわたれ時…1月光と陽光の姫4
 高天原東。
 白い雲と青空が風に吹かれ流れていく。金色の建物は太陽の光を反射し、眩しいくらいに輝いていた。その建物の屋上に立つ二つの影。男と幼女の影。
「ワイズ、約束通り刀のあの子を送ったからね。あの芸術神の事は忘れてあげるよ。これで一応皆プラスになるねぇ。」
 剣王は冬の冷たい風をその身に受けながら口を開く。ここはワイズの別荘、あの金色のビルの屋上だ。剣王はワイズと話すため、駕籠に乗らずに待っていた。
 「輝照姫にはめんどうをかけたけど月の本当を暴くには仕方ない事だNE。あんたが条件をのんでくれて助かったYO。輝照姫には天御柱をつけたから弐に取り込まれる事はおそらくないと思うYO。」
 ワイズは腕を組み、街並みを見つめる。
 「君もよく考えるねぇ。自分が不利にならない方法をよくもまあ、思いつくものだよ。それがしの要件はあの名もなき神のあの子を月照明神に会わせる。だったんだけど、君は月照明神に会わせてやるから芸術神の件は黙っていろとそれがしに言った。名もなき神のあの子は弱いし、君が簡単に月照明神にあの子を会わせられるとは思えない。どうするのかと思っていたら信仰心の足りない太陽に援助してやると言い、輝照姫を月に行かせた。彼女なら強いからそれがしの部下のあの子も守ってやれる。天御柱もつけて体勢を万全にしてくれたしね。輝照姫が月に行く事によって月照明神が大きく動き出すだろう。それがしには月の事情なんて関係ないんだけどねぇ。」
 剣王は険しい顔をしているワイズをちらりと横目で見る。
 「月照明神の件で芸術神が関わってくるとしたら私にはかなり関係してくるYO。剣王。約束はかわしたYO。この件……漏らすな。」
 ワイズはサングラスの奥で剣王を睨みつけていた。
 「はいはい。それがしの要件を守ってくれていたら月の件に関しては黙っててあげるよ。」
 剣王はワイズにニコリと微笑むと待機していた駕籠に乗り込んだ。ワイズはそれをただ黙って見ていた。


 「白、黒プラス基本色十五パーセントってところね!この雪の塊は色々使えるわ!うふふ。」
 ライは近くに溜まっていた雪を触りながら不気味に微笑んでいる。
 「おーい。早く行くぞー。」
 なんとなくついて行く事になったライにみー君は控えめに声をかけた。
 「あら、こちらの草は……。」
 「もういいから行くよ……。」
 サキはライを引っ張り歩き出した。先程から時間がけっこう経ったがまだトンネルを抜けたばかりだ。
 「いやー、ライは芸術に飲み込まれるとめんどくせぇなあ。」
 「……へ?誰?」
 サキは声が聞こえた方を向いた。声の主はチイちゃんだった。
 「お前、いつからキャラ崩壊したんだ?さっき会ったばかりだが。」
 みー君も驚いてチイちゃんを見つめていた。
 「え?なんでしょうか?みー様。サキ様。」
 チイちゃんは特に慌てる素振りもなく当たり前に元の口調に戻った。
 「いや、なんでしょうかって……。」
 みー君が戸惑っているとチイちゃんはライに話しかけていた。
 「おい。ライ。さっさと来い。迷惑かけんじゃねぇぜ。鬱陶しいんだよ。」
 「……あー……えっと……なんか態度がだいぶん違うけど……。私達、会うのはじめてだよね?」
 ライは怯えた目で乱暴に言葉を発するチイちゃんを見上げる。
 「態度がちげぇのは当たり前だろ。あのお二方は破格に神格がちげぇんだよ。オレとお前は同じ神格。お前に対して下手に出る必要はねぇんだよ。わかったか!この芸術バカ。」
 チイちゃんの気迫にライは怯えながら何度も頷いている。
 「うわあ……。」
 「口悪っ……。」
 サキとみー君はそれぞれ声を漏らした。
 「お、同じ神格でも礼儀ってあるじゃない?あ、あんまり口が悪いとタケミカヅチ神に報告しちゃうよ……。」
 ライが何か反撃しようと小さく言葉を発した。
 「お前が剣王様に会えると思っているのか?舐めた口きいてんじゃねぇよ。」
 サキは少しチイちゃんを落ち着かせようと動き出した。
 「あんた、ちょっと口が悪いよ。ライの代わりにあたしがタケミカヅチ神に言いつけるよ。」
 「!」
 サキの言葉でチイちゃんは顔を真っ青にした。こう見ると子犬のようだ。
 「さささ……サキ様!ごめんなさい!許してください!だいぶ調子乗りました……。同神格に会ったのがはじめてで舞い上がってました!どうかお許しを……。」
 「よわっ!」
 さっきとはうって変わってチイちゃんは濡れた子犬のようにサキを見つめていた。
 ……ふう。見栄を張りたいけど張れない、そんな気持ちが表に出たのかね。何と言うか素直な男だよ。
 サキが頷いている横でみー君が呆れた声を上げた。
 「ほんと、鬱陶しい男だな。お前がめんどくさいぜ。」
 「で、結局これからどうやって月に行くんだい?」
 サキはとりあえず全員の顔を見回した。
 「あの……鶴を使えばよろしいのでは?」
 委縮しきっているチイちゃんが恐る恐る声を発する。
 「ああ、それはいい考えだな。霊的鶴ならば霊的月にも入れる。生きている鶴だったらマジな宇宙旅行になってしまうし、人間が見ている月はただの砂だ。だいたい生きている鶴が宇宙に行けるわけがないがな。ははは。」
 みー君はまた楽しそうに笑っていた。
 「普通、霊的月に行くなら月神か、使いの兎が門を開いてくれなきゃ入れないよ。太陽だって太陽神か使いの猿じゃないと門を開けないし。現世だと特に条件があるし。それを丸無視して鶴で行けるのかい?」
 「んん……あー……どうなんだろうな?そう言われたら無理かもな。」
 サキの質問にみー君は顔を曇らせた。
 「あ、あの。私の能力を使えば行けると思うわ。」
 ライが話すか迷っている表情でサキ達の会話に割りこんできた。
 「あんたの能力ってなんだい?」
 サキは少し期待のこもった目でライを見つめた。
 「ええと、私が作り出す弐の世界で条件を満たせば月に行けると思う。私は演出家でも小説家でもないからただ、単純なお話って言うか絵になっちゃうんだけど……。」
 「ちょっと全然わからねぇですよ。」
 少し言葉に気をつけたチイちゃんがライに向かいボソボソと話す。
 「ああ、ごめんね。チイちゃん。ちゃんと説明するね。」
 「ち……チイちゃん……!?あんたには言われたくねぇんですけど……。」
 ライの言葉にチイちゃんの眉がピクンと動いていた。ライはそれに気がつかずに説明を続ける。
 「まず、私が月のお話を絵にする。この場合、竹取物語がメインでいいと思う。ただし、私は小説家じゃないからストーリーのない絵になると思う。それで描いた月は人間の心とか妄想心とか心霊が住む世界、弐の世界にいく。この月はアイディアとか妄想と一緒だからね。私が作り出す弐の世界へ……私の世界へ送られる。その月はもともと物語をベースでできている月だから現実世界にある本当の月ではない。それは月神が住んでいる霊的月も同様。あの霊的月も人間が作り出したもの。人間の想像力。つまり霊的月同士でリンクする。」
 「なるほどな。わかりやすい。」
 ライの説明でみー君は目を輝かせていた。なんだか冒険しているみたいで楽しいのだろう。
 「まあ、あたし達神も人間が作り出した想像の塊だしねぇ。霊的月同士で入るのが一番簡単かもね。」
 サキは険しい顔をしながらライに目を向けた。
 「でもこれ、月子に凄い怒られるかも……。月子、今誰も月に招こうとしないし。」
 「大丈夫だよ。ここで月に行かないと月の謎は解けないよ。さあ、やっておくれ。」
 目を伏せているライの肩をサキはポンと叩いた。
 「うん。わかった。やってみるね。」
 ライは少し迷いながら手からスケッチブックを出現させた。そのまま絵筆を取り出し、サラサラと絵を描いていく。竹取物語をイメージした竹と月があっと言う間にできあがった。色彩は水彩のように淡く月だけが輝きを放ち描かれていた。
 「ほお……。けっこうすげぇですね。」
 チイちゃんがスケッチブックを覗き込む。
 「ありがとう。チイちゃん。」
 「チイちゃんはやめてくれねぇですか。」
 「じゃあ、なんて呼べばいいの?」
 「うっ……。」
 ライの言葉でチイちゃんは詰まった。実際名がないのだからしかたがない。
 「もう誰が呼んでもチイちゃんでいいじゃないかい。チイ・チャンとかでさ。」
 「なんか海外の人っぽくなったな。」
 サキの発言にみー君は呆れた顔を向けた。
 そんなのんきに会話している時、ライの持っていた絵が光り出した。
 「じゃあ、準備できたから私の絵の世界へご案内するね。」
 ライはそう言うと隅っこに慣れた手つきで自身のサインを書いた。刹那、光がサキ達を包み、サキ達はスケッチブックに吸い込まれて行った。


 「えーと……。」
 閉じていた目を開けるとサキの目に竹藪が映った。あたりは暗いがやたらと明るい月がサキ達を照らしていた。
 「うーん……。」
 サキの隣りでライが一人唸っていた。
 「どうしたんだい?」
 「うーん。なんかね、ちょっと私の世界とは違うなあって……。」
 「これはあんたの絵の中なんだろう?」
 「そうなんだけどね。」
 ライはなんだか納得がいかない顔をしている。サキはさらにあたりを見回す。
 「まあ、一人一人、別々に世界があってその個人の世界がごちゃごちゃになっているのが弐なんだろう?別の人の世界観が少し混ざったんじゃないのかい?」
 「そんな事ないよ。私は芸術神だよ。ただの妄想だと世界観は曖昧になるけど私はちゃんと絵を描いたよ。サインもしたし。さっきあなた達をハメたのと同じやり方だよ?」
 ライは不安そうな顔をサキに向ける。サキもなんだか不安になってきた。
 「おーい!なんか赤ちゃんのモンスター見つけたぞー!」
 二人に不安が渦巻きはじめた時、みー君のやたら楽しそうな声が聞こえてきた。
 「てか、そういえばみー君がいなかった!あれ?チイちゃんもいない!」
 サキはライと二人きりな事に気がついた。ふと声が聞こえた方を向くとみー君が何かを抱えてこちらに走って来ていた。もう嫌な予感しかしなかった。
 「ああ!待ってください。みー様!」
 続いて後ろから追いかけているチイちゃんが映った。
 「おい。見ろよ。こんなの見つけたぞ。」
 みー君はサキ達の前で足を止めると抱えている物体をサキ達に見せた。
 「な……なんだい。この生き物は。」
 見た目、ドラゴンだ。だが、みー君の腕におさまるほど小さく、なぜか十二単を着ている。色は金色で背中から翼が生えている。目はくりくりしていてとてもかわいらしいが口元から覗く牙はこの世のものとは思えないくらい鋭い。
 「きっとあれだ。こいつはかぐや姫だ。かぐや姫!」
 「そんなわけあるかい!かぐや姫は人型だよ!」
 サキは顔を青くして楽しそうなみー君に叫んだ。
 「この龍は竹にくっついていたんです。輝きながら。」
 チイちゃんは頬をポリポリとかきながら龍を見つめる。
 「竹にくっついていたのをなんで持って来ちゃったんだい!戻してきな!かぐや姫は竹の中にいるんだよ!」
 「こいつが十二単着て竹にくっついていたらほら……捕まえたくなるだろう?凄い目立つしなあ?ははは!」
 みー君は楽しそうに笑っている。サキはふうとため息をついて心を落ち着かせた。
 それを横目で見ながらライが口を挟んだ。
 「そ、それね。かぐや姫だわ……。みー君の妄想力が私の世界を壊したんだね……。みー君が私の絵を見て勝手に想像を膨らませてたんだわ。ここはもうみー君の世界。」
 ライが肩を落としながらつぶやいた。
 「なんだって!てことは!ここはライの絵だけどみー君が勝手にシナリオを作っちゃった世界って事かい?」
 「うん。」
 「そんな……信じらんない……。」
 サキの胸に不安が広がる。みー君はまともではない。この世界もきっとまともではない。
 「おい。どうした?」
 みー君はきょとんとした目でサキを見ている。サキは再びため息をつくと無意識のみー君に質問をしてみた。
 「ねぇ、みー君。そのドラゴンをどうするつもりなんだい?」
 「育てて強くしたい。ほら……育成ゲームみたいに!」
 みー君の瞳は月に負けじと輝いている。
 「OK。わかった。質問を変えるよ。みー君の考えるシナリオは何だい?」
 「ん?シナリオ?そうだな。こいつを育てて強くして五つのアイテムをゲットしてエンディングで月に行くってのはどうだ?育成ゲーム風かぐや姫ドラゴンだ!」
 「こなくそ!」
 笑顔のみー君の頬をサキは思い切りつねった。
 「いででで……。何するんだ?つねるな。痛いだろう。」
 「ああ、ごめんよ。みー君。思わずね。とってもつねりたくなってしまってね。そしてそのアイテムはたぶん手に入らない……。」
 サキはみー君の頬を引っ張りながら怒りを押し殺していた。
 ……さすが厄災の神。彼といるとほんと厄だらけだよ。
 「あの話は有名だからな。知っているぞ。おい。いつまでつねってるんだ。痛いぞ。」
 みー君の両手がドラゴンによって封じられているのを良い事にサキはみー君の頬をつねり続けた。
 やがてため息をついたサキは開き直る事にした。
 「じゃあ、さっさとそのドラゴン強くして五つのアイテムとやらをとってきな。あんたが作った世界ならそのアイテムはあるかもしれない。あたしは見ているからさ。」
 「おう!わかった。頑張るぜ。」
 サキは遠ざかるみー君に向かい手をひらひらと動かすと近くにあった岩に座った。
 「ふう。じゃ、ちょっとあたしは寝ようかね。」
 サキが寝ようとした時、慌てている声が聞こえてきた。
 「さ、サキ!大変よ!これ見て!なんか地図が落ちてたわ!」
 慌てて近寄ってきたのはライだった。手には大きな地図を持っている。
 「はあ?地図?時代背景めちゃくちゃじゃないかい……。」
 サキはライが開いた地図を覗き込む。その地図はダンジョンマップと書かれており、なぜか世界地図のような広さがあった。サキはギョッとして声を上げた。
 「だ、ダメだ!あいつに任せちゃダメだ!追いかけないと!」
 サキは鼻歌を唄いながら遠ざかるみー君を青い顔で見つめた。
 「あ、サキ様。攻略本が落ちていました。」
 「はあ?攻略本だって?もうどこにかぐや姫の要素があるんだい!」
 チイちゃんが持って来たのは分厚い本だった。中を開くとかぐや姫ドラゴンの育成方法がびっしりと書かれていた。
 「ああー!もうやだ。あたし、帰りたい……。」
 「お!野生のドラゴンだ!いけ!かぐや!強くなれ!」
 サキがつぶやいた時遠くの方でみー君の独り言が響いていた。
 「さ、サキ様。こちらに最速クリア方法が書いてあります!本当にチート技らしいですが。」
 「なんだって?それはチートじゃない!本当のルートだよ!教えておくれ!」
 サキは必死でチイちゃんに食らいつく。
 「えーと。かぐや姫所有者……この場合、みー君ですね。……の妻となり……えーと……知意兎(ちいと)って書いてあるツボがある場所で所有者と寝ながら×××をするとかぐや姫は月に帰るエンディングになる……そうですが……。」
 「ええと……ちょっと、ちょっと待っておくれ。その……寝ながらの先はなんなんだい?」
 サキは戸惑いながらチイちゃんを見つめる。
 「わかりません。秘密だよって書いてあります。」
 チイちゃんは攻略本のページをサキに見せた。寝ながらの先は黒く塗りつぶされておりその上から白字で秘密だよと書かれていた。
 「ああ。もうダメ❤私違う想像しかできないわ。だって妻になってから寝ながらなにかをするなんて……もうねぇ?」
 「やめておくれ……。みー君の事だからきっと突拍子もない事なんだと思うよ。」
 「だからね、やっぱり……❤」
 「あんたはそっちの考えから抜けてくれるかい?それだけは絶対に違うと思う。」
 頬を真っ赤に染めているライにサキはきっぱりと言った。
 「おそらく寝ながら相撲をすると……とか、プロレスをすると……とかだと思う!」
 「サキ様……それもそれでおかしいと思いますが……。」
 自信満々のサキにチイちゃんはため息をついた。
 「まあ、考えてもしかたないね!よし、じゃあまず知意兎ツボを探そう!……ってこれかいぃ!」
 サキが立ち上がった時、自分が座っている物が岩ではなく大きなツボだった事に気がついた。ツボには知意兎と書かれており、なぜか逆さまになっている。
 「チートツボあっけなく見つかりましたね……。」
 「よし。まあ、ラッキーという事で。とりあえず今すぐみー君をここに連れてくるんだよ!」
 サキはすぐさま走り出した。こういう時の行動力だけサキは優れていた。
 「ああ。待ってください。」
 「サキ、待ってよー。」
 チイちゃんとライはたったと走り去るサキを戸惑いながら追いかけて行った。
 「あ、いたいた。なんかおっきい生き物が倒れているけど何やったんだい。まったく。」
 みー君はすぐ近くにいた。みー君の前には一匹の大きなドラゴンが倒れておりみー君の横に立っているかぐや姫ドラゴンは姫に似つかない咆哮をあげている。
 「かぐや!お前強いな。さっき拾ったスキルアップのアイテムも使ってみるか!えーと、ロキソなんとか……って書いてあるな。痛み止めみたいだな。ははっ。」
 「ちょっと、みー君。いいかい?」
 サキは感動しているみー君を静かに呼んだ。
 「ん?サキか。なんだ。お前も一緒にこいつ育てる気になったのか?」
 「そんなわけないじゃないかい。いいから来るんだよ。」
 サキはさっさときょとんとしているみー君の手を引き、走り出す。
 「お、おい!なんで戻るんだ?なんで走るんだー!?」
 「ちょっと用事があるんだよ。」
 「ああ、サキ様!」
 戻っているとチイちゃんと疲弊しているライが待っていた。
 「私は運動得意じゃないんだってば……はあ……はあ。」
 ライは今にも倒れそうな状態でサキを見つめていた。ライはサキを追いかけていたがおそらく追いつけないと悟りここに立ち止っていたらしい。チイちゃんはライの様子を見るために立ち止ったのか。
 「まったく情けないねぇ。しっかりしな。さっきの所まで戻るよ。」
 「ゆっくりでいいかな?」
 ライはひかえめに声を発する。
 「後からチイちゃんと一緒にきな。あたしは彼の気が変わらん内に行かなきゃならないから先行くよ。チイちゃん、ライを見ててあげておくれ。」
 「おまかせください!」
 チイちゃんはビシッとサキに言い放った。
 「あーん……もう、なんでそんなにキャラが違うのー?」
 「うるせぇですよ。待っててやるからさっさと歩くですよ。」
 ぼやいているライにチイちゃんはうんざりした顔で対応している。サキはそれを眺め、大きく頷くと再びみー君を引っ張り走り出した。
 「うおい!一体なんなんだ!なんで走るー……。かぐや置いて来てしまったんだが!」
 みー君は叫んでいたがサキはそれを丸無視で走り続けた。しばらく黙々と足を動かしているとツボが見えてきた。
 「はい。ついた。」
 サキはふうとため息を一つつくとツボを確認した。ちゃんと知意兎と書いてある。
 「なんだ?ここはさっきの所じゃないか。」
 みー君は不安げな顔であたりを見回していた。
 「みー君、覚悟!」
 サキは突然、みー君に襲い掛かった。みー君を大外刈りで押し倒し、サキはそこに覆いかぶさる。サキとみー君はぴったりとくっついたまま地面に転がった。
 「うわっ!な、なんだ!恥じらいもクソもないのか!お前は!」
 みー君は素っ頓狂な声を上げているが非常におとなしい。暴れると予想していたサキはどこかほっとしていた。
 「なんでこんなに積極的なんだ……。俺、はじめてなんだぞ……。」
 「何言っているんだい?」
 みー君は盛大な勘違いをしていた。顔を真っ赤にし泣きそうな顔でサキを見つめている。サキは素早くみー君を締め上げた。とりあえずツボの前でプロレス?を実行してみた。
 「いだだだ!腕を締め上げるな!何がしたいんだ!お前は!ひょっとすると男の悲鳴が趣味か!こ、これは何プレイと言うんだー!」
 みー君はじたばたと苦しそうに動いている。
 「違う。これじゃないね。そうか!まず妻じゃない!妻になってから……。」
 「妻!?」
 サキの一言にみー君は過剰に反応した。
 「じゃあ、これからあたしはあんたの妻になるよ!よし。」
 「妻って……妻ってぇええ?何故だ!なんでだ!うああああああ!」
 サキは戸惑いすぎておかしくなっているみー君にそう言うとまた腕を締め上げた。みー君は叫び声をあげている。
 「ごめんよ。みー君、少しだけの辛抱だよ!」
 サキもみー君の腕を締め上げるのに必死だった。ふと横を見るといつの間に来たのかチイちゃんとライが真っ青な顔でこちらを見ていた。ライはこの壮絶な現場に涙を流している。
 「こういうのってもっと甘々で天国にいるような気持ちになるものじゃないのか!お前がやっている事は辛々で地獄だ!」
 みー君が叫んだ時、サキはふっと我に返った。色々となんだかよくわからないが必死になりすぎていた。そして今、自分がやっている事とみー君と密着しすぎている事に気がついた。
 ……あたしは一体何をやっているんだい!
 「あ……えっと……ごめん!」
 サキは力を緩めると頬を赤く染めた。サキは冷静になるべく一度みー君から離れようとした。
 「待てよ。」
 離れようとしたサキを今度はみー君が押し倒した。
 「え?ちょ……な、なんだい?」
 サキは戸惑いながらみー君を見上げる。
 「お前、本当は甘々な事がしたかったんだろう?俺はその気になったぞ。」
 みー君が真面目な顔でサキを見つめているのでサキはさらに戸惑った。
 ……まずい……というかこれは……やばい。
 ちらりとライとチイちゃんを視界に入れる。二人は顔を真っ赤にして興奮気味にこちらを見つめていた。
 ……やっぱり……そういう事だよねぇ……。
 みー君の顔が徐々に近づいてくる。
 「み、みー君、ええっと、あっち向いてホイ!」
 サキは戸惑いつつ、人差し指で右を差した。運よくみー君は反射的に右を向いた。その時、一瞬、力も緩んだのでサキは慌てて脱出した。
 「みー君、ごめんよ。」
 「なんでだ?俺にあんなことしたというのに!妻になるって言ったのに!別にお前の事、何とも思ってなかったがその気になったじゃないか!」
 みー君はがっくりと肩を落として寂しそうにしていた。
 ……この男は……こっち関係は子供のようにピュアすぎるだろ……。まいった。
 「ごめん。ほんとにごめん。みー君。」
 「まあ、別にいいが……お前は一体何プレイを俺とするつもりだったんだ?」
 みー君は呆れた目でサキを見据えた。
 「まあ、プレイとかじゃなくてねぇ……。」
 「サキ様!あれを!」
 サキがごもっているとチイちゃんが指で何かを差していた。
 「なんだい?」
 サキはチイちゃんの指が示す方向を目で追った。
 「ん?」
月の方面から金色の大きな龍がこちらに向かって来ているのが見えた。ドラゴンはなぜか十二単を纏っている。
 「あれ?かぐやか?なんであんなデカくなっているんだ?」
 みー君は大きな金色のドラゴンを眺めながら首をひねった。
 「じゃあ、あれが……正解……。つまり××の所は寝ながらあっち向いてホイをするって事かい!やっぱりまともじゃなかったよ!たまたま当たっただけで普通だったら一生不明だよ……まったく。」
 サキは長いため息をついて頭を抱えた。
 「じゃあ、あのドラゴンは知意……」
 ライが声を発しようとした時、素早くサキが口を塞いだ。
 「チイちゃん!」
 「は、はい!」
 サキはライの『知意』発言からチイちゃんにつなげた。チイちゃんは何故呼ばれたのかわからないまま大きく返事をした。
 「名前を呼んでみただけだよ。気にしないでおくれ。」
 「は、はい!」
 サキはそう誤魔化し、ライの耳にそっとささやいた。
 「みー君にこの事がチート行為だって知られたらけっこう落ち込むよ。なんだかわからないままでいいんだよ。」
 「そ、そっか。」
 ライは恐る恐る頷いた。
 「おい。乗せてくれるって言っているぞ。」
 みー君はかぐやを指差しながら楽しそうに笑っている。もう先程の事は引きずっていない。なかなか平和な性格の持ち主のようだ。
 「とりあえず、あれに乗れば月にいけるって事ですね。」
 チイちゃんは徐々に近づいてくるドラゴンを眺めながらつぶやいた。
 「そうだねぇ。もう、月に行く事が目標みたいになってしまったね……。」
 ドラゴンは風を纏いながらサキ達の前に降り立った。かなりの大きさのドラゴンだったがサキはもうあまり驚かなかった。いままで破天荒な事が起こりすぎて感覚が色々と麻痺していた。
 「こうやって間近で見ると迫力凄い!肩甲骨から左右対称の翼がバランスいいね。輝きの光沢も特殊……。ちょっとスケッチを……。」
 ライは金色に輝くドラゴンを興味津々に見つめながら分析を始めた。
 「そんなのいいから行くよ。」
 サキはライを引っ張りながらドラゴンに近づく。大きすぎてどこから乗ったらいいかわからない。
 「よし、俺が風を起こしてドラゴンに乗せてやるよ。」
 みー君はいつの間にかドラゴンの背に乗っていた。そして手を振りながら楽しそうに笑っていた。
 「みー君、なんでもう乗っているのかって事は聞かないから優しく頼むよ!」
 サキが叫んだ刹那、サキ、チイちゃん、ライの身体がふわりと浮いた。浮いたと思ったら突然、台風並みの突風が吹いた。
 「ぎゃあああ!」
 三人は突然の事に目を回しながら完璧すぎる絶叫を上げていた。自分達がどんな感じで空を舞っているのかすらわからないまま、ただクルクルと飛ばされていた。
 「んー……やっぱり俺は厄災の神だった。」
 ふとみー君の呑気な声がすぐ近くで聞こえた。
 「……うう……。」
 気がつくとサキ達はもうドラゴンの背に乗っている状態だった。
 「なんか嫌な予感はしてたけど……優しくって言っておいたじゃないかい……。」
 サキは今にも吐きそうな顔をみー君に向けた。ちなみにライとチイちゃんは白目を向いたまま気絶している。
 「すまん……。もともとが鬼神なんだ。俺にはここまでが精一杯だ。」
 みー君が素直にあやまってきたのでサキはそれ以上何も言えず、とりあえずチイちゃんとライを起こした。
 「ちょっと……あんたらは何気絶しているんだい。さっさと起きな。ほら!」
 サキは二人を乱暴に揺すった。
 「んん……気持ち悪いです。」
 「は、吐きそう……。」
 サキの声掛けにより二人は目を覚ました。顔色は悪く、今にも意識を失ってしまいそうだ。
 「ほら!しっかりするんだよ!おっとっと……。」
 サキが二人に喝を入れている時、ドラゴンが急に空へ羽ばたいた。風はやや冷たいが乗り心地は最高だ。暗い風景の中、ひときわ明るい月に向かいドラゴンはゆっくりと進み始めた。
 揺れもなく滑るように飛んでいるのでサキ達の心もだんだんと穏やかになってきた。
 「ああ、だんだんと気分が良くなってきたわ。意外に乗り心地いいね。」
 「そうでごぜぇますね。もう気持ち悪くねぇですよ。」
 先程まで青い顔していた二人はだんだんと元の調子を取り戻してきたようだ。顔色が元に戻ってきている。
 「お?」
 そんなまったりとした空気を壊したのはまたもみー君だった。かぐやの背中にボタンがあるのを発見したみー君はそのボタンをとりあえず押してしまった。それと同時にかぐやの口から火の弾が飛び出した。
 「お?……おお?」
 「な、なんだい?なんか火を吐いたよ……。」
 「なんだかものすごく嫌な予感がしますね。違う世界観に入ってしまったような……。」
 みー君のうずうずしている声を聞いた三人の胸中にはまずい雰囲気が渦巻きはじめていた。よくわからないが前方から何かが飛んでくる音が聞こえてくる。ヒュルルとなんだか不気味な音だ。
 「おお!ミサイルだ!」
 「ミサイル?ミサイルだって?」
 みー君の声を聞いた三人は恐る恐る前方を覗く。
 「ちょっ……ちょっ……ちょっ!ええええ?」
 三人は言葉を詰まらせながら顔を青くした。前方からかなり大きなミサイルが多数飛んできていた。風景は先程の場所からはうって変わって星空輝く宇宙になっている。少し先に輝いている月が見えた。
 「シューティングだ!ハイスコア狙うぜ!」
 みー君はかぐやの背中にある謎のボタンを操り、右に左にミサイルを避け、火の弾をミサイルにぶつけている。はじめから世界観はなかったがかぐや姫の世界観は完全に崩壊した。
 「きゃあああ!えええ?ちょっとどういう事!?」
 ライは右に左に揺れるドラゴンに必死につかまりながら絶叫を上げている。
 「あー、もう厄だらけだよ……。早く帰って寝たい!」
 サキもぼやきながらドラゴンにしがみつく。
 「ゲームはリアルにするとやばいですね……。さすがみー様……妄想たくましい。」
 チイちゃんはもう完全にまいっている。神力のない神にはこの現実は重すぎた。
 ……あーあ……チイちゃんもライもこれはかわいそうだよ……。
 サキはそう思いつつ、呆れた目でみー君を見つめた。
 「ボムは後何回使えるんだ?あたり判定は狭いのか?一度当たってみて試すしかないな。」
 「試すんじゃないよ!何を言っているんだい!まったく!あたし達を殺す気かい?」
 サキは呑気なみー君の耳をぎゅっと引っ張った。
 「いででで……。なんだ?お前もやりたいのか?」
 「そんなわけあるかい!今の状況でも普通じゃないけど頼むから普通に進んでおくれ!」
 「普通には進めないな。なぜならそこにミサイルがあるからだ!」
 「このやろ!」
 かっこよく言い放ったみー君の耳をサキはさらに引っ張った。
 「やめろー!耳がもげる。今、真剣なんだ。代わってやりたい所だが難易度がこれはかなり高い。ここを突破できたら代わるから少し待っててくれ。」
 「そういう事を言っているんじゃなくてだね……。」
 みー君ののんびり発言にサキはため息をついた。そしてもう諦める事にした。サキはみー君の耳を引っ張るのを止め、おとなしく後ろにさがった。
 「っち!ミサイルに追尾機能がついているな。誰だ?こんなかっこいいものを作ったのは!」
 みー君は悔しそうにつぶやいていた。
 『自分であります!ラビダージャン!』
 ふとどこからか凛々しい女性の声が聞こえた。
 「こ、今度は何ですか……。」
 チイちゃんは声の主に怯え、キョロキョロとあたりを見回している。
 「あ……ねぇ、上。」
 ライがげっそりとした顔で上を指差した。サキ達もそっと上を仰ぐ。
 「……な、なんだい?あれ……。」
 サキはもう驚かなかった。もう慣れてしまっていたからだ。サキ達の上空にいたのはプラモデルにありそうなロボットだった。デザインセンスに関してサキは一切わからない。
 『悪いですが月には来てほしくないであります!』
 これはロボットが話しているのではなく、おそらく中に誰かがいてその誰かが拡声器かなんかを使って話しかけているらしい。
 「おいおい。なんだ?そのかっこいいロボは……。」
 みー君は一人感動している。そしてみー君の心に反応するかのようにリズミカルなBGMがどこからともなく流れてきた。本当にゲームに入り込んだみたいだ。
 『弐の世界は不確定要素が強い世界。当然、妄想の塊も沢山落ちているであります!これは弐の世界に散らばっていたそれを組み合わせて作った鎧であります!ウサギンヌ!』
 ロボットの中にいる者も声が弾んでいる。単純に楽しんでいるのか。
 「ウサギンヌ?……もしかして……兎?」
 ライがぼそりとロボットに声をかけた。
 『その通り!自分はウサギであります!月のガーディアンでごじゃる!』
 声の主、ウサギは語尾を統一しないまま、元気な声で自己紹介をした。
 「ああ、月の使いのウサギかい。あたしらは月照明神の月子に会いたいんだよ。そこをどいておくれ。」
 サキが疲れた目でロボットを見上げた。返答はもう予想できていた。
 『ダメであります!現在月は誰も招いておらんでごじゃる。ラビダージャン。』
 ウサギは予想していた言葉を吐くと突然ミサイルを飛ばしてきた。ミサイルはまっすぐかぐやを狙い飛んで行った。
 「お?ボス戦か!」
 みー君の瞳がまた輝いた。
 「もうやめておくれ!頼むからこれ以上、みー君の心に火をつけないでおくれー!」
 サキは誰かに祈りながら叫んでいた。みー君はかぐやを素早くボタンで動かし、ミサイルをすべて避けた。もちろんサキ達は左右に激しく振られ、落ちるか落ちないかのギリギリのラインを彷徨う事になった。楽しそうにしているのはみー君だけだ。
 「くらえ!」
 みー君は火の弾が飛び出すボタンを連打した。かぐやは口を大きく開け、火を吐く。ロボットは素早く横に避け、炎を回避した。
 「なかなかやるであります!」
 「お前もな!」
 ウサギとみー君はお互い楽しそうだ。
 「だから、なんでこんなゲーム大会みたいなノリなんだい!」
 「ほんとだよぉ!こんなはずじゃなかったのにぃ!」
 サキの叫びにライが答えた。サキは一瞬固まった。
 ……こんなはずじゃなかった?
 サキはライのこの一言がひっかかった。
 「こんなはずじゃなかったって……?」
 「え?いや、だってこんなはずじゃなかったでしょ?」
 ライは何かを隠すようにサキに答えた。言うべきではなかったと顔が言っている。
 「あんた、やっぱり何か隠しているね?」
 「え?何の事?」
 ライがサキの言葉を誤魔化すように答えた。刹那、かぐやが激しく動いた。みー君がミサイルを必死で避けているためだ。
 「よし、ここだ。必殺技だ!」
 みー君は難しいボタンさばきでミサイルを避けながら必殺技ボタンを押した。まるでゲームの中のようだ。そしてみー君はこのかぐやの扱い方を完璧に分かっている。
 『グルオオオ!』
 かぐやは地響きがするほどの咆哮を上げると突然回転し、しなる尻尾をロボットに思い切り打ちつけた。
 「ぎゃあああああ!」
 もちろん、乗っているサキ達は必死につかまり、絶叫をあげ、半分気絶。ロボットはかぐやのしっぽ打ちにより、真っ二つになり、爆発した。
 「うわああ!死ぬでありまーす!ラビダージャン!」
 その爆発したロボットから子ウサギがクルクル回りながら飛び出した。ウサギは人型で少女の姿をしている。髪は白色で二つによわいており、そのよわいている髪がどういうわけかまっすぐウサギの耳のように立っている。服は紫の着流しだ。ただ、子供らしく太ももまでしか布がない。
 「子供のメスウサギか!これはまずい。落ちたら死ぬな。」
 みー君は焦りながら落ちてくるウサギを抱きとめた。
 「はわわわ……はわわ……。」
 ウサギは怯えながらあたりをキョロキョロ見回し、みー君を涙目で見上げた。この仕草はどこからどう見ても兎だった。
 「なんだ。中に入ってたのは怯え症の子ウサギか。わけわかんねえ語尾は誰に教わったんだが。」
 「はわわわ……。助けてくれてありがとうでごじゃる。なかなかお強い……。」
 「けっこう楽しかったぜ。じゃ、とりあえず、俺達は月に行くが……。いいよな?」
 みー君は怯えているウサギをそっとドラゴンの背中に降ろしてあげた。
 「負けて助けてもらって月に行くなとは言えないでごじゃる。どうぞでごじゃる。」
 ウサギは諦めた顔で下を向いた。
 「おい!やっと月に入れるぞ。」
 「そ、そうだねぇ……。良かったよ……。ほんと。」
 みー君の楽しそうな声にかろうじて答えを返したのはサキだった。
 「なんだよ。俺が頑張ったから行けるんだぞ。ん?あの芸術神はどこ行った?」
 みー君が後ろを振り向いた時、サキの顔と半分死んでいるチイちゃんの顔しか映らなかった。
 「え?何言っているんだい。ライならここに……あれ?」
 ライはサキの後ろにいたはずだが見当たらない。とりあえず隣にいたチイちゃんの意識を叩いて戻した。
 「さ、サキ様……みー様……オレはもうダメです……。おえ……。」
 「ちょっとしっかりするんだよ!あんた、ライを見てないかい?まさか下に落とされたって事は……。」
 サキの発言にみー君は顔を青くした。
 「お前ら、ちゃんとつかまってなかったのかよ!」
 「あのねぇ、つかまっててもあれは振り落とされるよ!みー君……。」
 焦り始めたサキとみー君を死んだ目で見つめながらチイちゃんはぼそりとつぶやいた。
 「ああ。ライは一足先に月に行きましたよ……。」
 「はあ?」
 チイちゃんの言葉にサキは驚いた。
 「一足先にって……どういう事だ?」 
 みー君は眉間にしわを寄せながらチイちゃんを見つめた。
 「知りませんよ。ライは筆でなんか描いてそのままそれに乗って月に行っちゃったんですから。」
 「それは本当かい?」
 「はい……。ドラゴンが回転した瞬間でした。オレはその後からの意識がないんですが、あの時、ライが空を飛んで行ったのは事実です。」
 チイちゃんは今にも吐きそうな顔をサキ達に向け、つぶやいた。
 「なるほどね。じゃあ芸術神はやっぱり月子とグルだね。名探偵サキの予想はそんなところだよ。」
 「それはどういう事ですか?」
 サキはチイちゃんに自分の考えを話しはじめた。
 「だから、芸術神ライはこの世界でずっとみー君と戦っていたんだよ。」
 「はあ?俺と?」
 信じられないといった顔つきのみー君にサキは頷いて続けた。
 「あんたは無意識だっただろうけど向こうはあんたの妄想を破る事に必死だったんだよ。」
 そこでサキはチート技の事を思いだした。
 ……これはみー君には言えないけどあれのツボに書いてあった言葉は『知意兎』。深読みかもしれないけど兎って言葉。他はよくわからないけど、ウサギは確実に出て来た。もともとウサギをみー君と戦わせるつもりだったんだろうね。
 「なんか変だと思ったんだよな。なんかゲームみたいな世界だなとか思ってたが、そうか。俺の妄想だったのか!なるほどな。はっはっは!」
 みー君はまた楽観的に笑っている。
 「もうなんでこう、緊張感がないんだい!……で?ウサギだっけ?あんた、知意兎の意味ってわかるかい?」
 サキは途中声を落としてウサギに聞いてみた。ウサギは怯えつつ頷いた。
 「知意兎、月子さんとライの合言葉であります。『兎にも知られぬ意思』という意味らしいでごじゃる。自分にはさっぱり。」
 このペラペラしゃべるウサギにより、サキは一つの結論にたどり着いた。
 ……あのツボはライが描いたツボだね。みー君がライの描いた世界観を壊す存在であると知ったのでみー君の世界に変わりつつあるその弐の世界にツボを描き、ウサギを呼んでみー君の始末を試みた。
じゃあ、ライはあたしの性格を読んでチート技なんてものを用意したって事かい。あたしだったら絶対食らいつくからねぇ……。
 で、ウサギがあたしらの始末に失敗したからライは一端月に帰った。
 「あやしいと思っていたんだよ。あの子。絶対ライは月子とグルだ。」
 「そ、その根拠をまだ聞いておりません!」
 サキの発言にチイちゃんがむきになって声を張り上げた。サキは顔を曇らせ、だんまりを決め込んだ。
 「ま、なんでもいいがとりあえず月に行くぞ。ライも月に行っているんだろ?」
 みー君は渋面をつくっているサキの肩をポンと叩き、言った。
 「そうだね。とりあえず月に行くかい。あ、もう一つ、ウサギに質問。あんたは月子の命令であたし達を消しにきたわけかい?」
 「うーん。まあ、月子さんはサキ様を消せればそれでいいと。」
 ウサギがサキの顔色をうかがいながらつぶやいた。
 「じゃあ、月子はあたしに恨みがあるのかい?あたし、月子に会った事ないんだけどさ。」
 「そこらへんは自分にもわからないであります……。」
 ウサギは渋面をつくっているサキを怯えた目で見上げた。
 「あ、そう。わかった。とりあえず行ってみるしかないって事だね。あんた、月に案内しな。それと裏切ったあんたはあたしが守ってやるから安心しなよ。」
 「お、おお……ホントでありますか?月子さんは怖いであります。できれば怒らせたくないのでごじゃる。」
 「大丈夫。月子はどうせあたしが何とかしないといけないんだし、月子が力ずくでなんかしてきてもあたしはたぶん負けないよ。何があったか知らないけどあたしは月子を救わないといけない。ワイズとの約束があるからね。だからあんたの事も守ってやれるよ。」
 サキはウサギにニッコリと笑いかけた。ウサギは目を輝かせながら大きく頷いた。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

かわたれ時…1月光と陽光の姫3
どれだけ経ったかわからないがしばらくしてうっすらとみー君の声が聞こえてきた。そしてなんだか妙に生暖かい風がサキを撫でている。
「おい。朝だぞ。起きな……って。」
みー君のやたらと色っぽい声が耳に張りつく。そして何かがサキの頬をそっと撫でる。
「ん?」
 サキはそっと目を開けた。
 「みー君の声がする。私はそっと目を開けた。」
 みー君がなぜかナレーションのような話し方でぶつぶつと何か言っている。
 ……まったくなにぶつぶつ一人で言っているんだい?
 サキはそう思いながら何回か瞬きをした。焦点の合ってきたサキの目元近くに鬼の面が突然映った。
 「ぎゃあ!」
 サキは目の前に現れた鬼の面を見て思わずお面に向かい、足蹴りをしていた。みー君はサキに覆いかぶさるように座り、サキに顔を近づけていた。しかし、足蹴りにより、みー君は身体を大きくのけ反らせ、サキから離された。
 「おいおい。そこは色っぽく『みー君……ダメ……そんなに顔を近づけたら……』だろ?可愛くねぇな。」
 みー君はのけ反ったまま、つまんなそうに声を発した。
 「まったく!なんなんだい!普通に起こしておくれよ!ていうか痛い!あんた、どんなお面かぶっているんだい?足が折れるかと思ったよ。」
 サキはお面を蹴った右足首を涙目でさすりながらみー君に向かいため息をつく。
 「せっかく乙女ゲームみたいにナレーション付きで甘く起こしてやろうと思ってたんだがな。こんなイケメンが目の前にいるのに何故蹴るんだ……。」
 みー君は残念そうな声でサキを見つめた。
 「あんたねぇ……。だいたい、そのお面見たら誰でも驚いて蹴るよ。それにイケメンかどうかはお面とらないとわからないし、乙女ゲーム自体を知っているあんたが気持ち悪いわっ!」
 乙女ゲームとは女性向けの恋愛シュミレーションゲームだ。色々なタイプが設定されているが一緒なのは全員イケメンという事だ。
 「ああ、あのゲームをやった時はなぜか鳥肌が止まらなかったな。しばらく熱心にやっていたがふと気がついたんだ。俺はなんで鳥肌を立てながら男キャラを必死で落としているんだとな。スチル集めから隠しルートやらコンプしてから気がついた。ギャルゲーもためしたがやっぱり俺はリマオに戻ってきた。」
 なぜか誇らしげにみー君は語る。
 「は、はあ……そうかい。何言っているのかいまいちよくわからないけど……太陽には着いたのかい?」
 サキは戸惑いながらみー君に目線を向ける。
 「いや、着いていない。」
 「じゃあ、なんで起こしたんだい?」
 サキの心にどんよりと不安が広がっていく。
 「実は何かしらの敵襲にあって現在、術にハマっているのだ。」
 みー君は声のトーンを変えずに平然としゃべる。
 「て、敵襲だって?あんた、何してたんだい?起きていたんだろう?」
 「術にハマる寸前、高速で動いていたリマオをいきなり止めるわけには行かず、クリアしてからなんとかしようと思っていたができんかった。」
 みー君の呑気な発言にサキは思い切りズッコケた。つまり、何者かの術にハマりつつあることを知りながらリマオの調子がいいのでゲームを中断できず、最後までやってしまったという事だ。
 「ふざけている場合じゃないよ!何が甘く起こしてやろうだよ!何やっているんだい。まったく。」
 「何と言うか、もう術にハマったから別にいいかと思い、ちょっとやってみたかった起こし方を実践してみたというわけだ。現実だとああなるのか。はっはっは!」
 何の術だか知らないが敵の術にハマっているというのにみー君はとても楽しそうだ。サキは正反対の気持ちだ。
 ……この男といたら命がいくつあっても足りないよ……。とりあえず、この駕籠から出て……
 サキは素早く駕籠から降りた。
 「おい。駕籠に足引っ掛けないように気をつけて降りろよ。」
 呑気なみー君の言葉を無視し、サキは外の様子を伺った。外は雪が降り積もっており、どこだかよくわからないが森の中のようだ。不思議と寒くはない。そして空を飛んでいたはずだが駕籠は地面に無残に落とされていた。鶴はいない。
 ……という事はこの駕籠は突然、鶴達から切り離され、ここに落下したって事だね。ああ、あたしもなんで落ちている事に気がつかずに寝ていたんだい……。
 サキはみー君の事を言える立場ではない事に気がつき、ため息をついた。
 「!」
 サキがため息をついた刹那、みー君に手を引っ張られ駕籠の中へ押し込まれた。
 「へっ?何するんだい!びっくりしたじゃないかいっ!」
 サキがみー君に向かい叫んだ時、先程までサキが顔を出していた場所に大きな衝撃が走った。
 「おわあっ!」
 駕籠は大きくバランスを崩し、吹っ飛ばされた。サキ達が籠っていた駕籠は風圧でゴロゴロと転がり、やがて一つの木にぶつかり止まった。
 「危ないぞ。」
 ひっくり返っているみー君が呑気に言葉を発した。
 「ななな……なんだい?今のは!」
 サキは目を丸くしながらみー君を見つめる。
 「ん?ああ、お前、そういえば猫みたいな目をしてるな。猫目だ。驚くとさらに猫みたいだ。はっはっは!」
 「笑っている場合じゃないんだよ!猫でもなんでもいいから状況を教えておくれよ!」
 笑っているみー君のお面を突きながらサキは声を上げた。
 「状況?俺にはわからないな。とりあえず外に出てみるか?外には敵がうじゃうじゃ。装備は大丈夫かい?勇者よ。こんぼうとなべのふたの装備じゃ死ぬぜ。」
 「誰が勇者だい!ふざけてないでさっさと行くよ!」
 サキは能天気なみー君を引っ張り駕籠の外へ出る。
 「俺は勇者パーティの魔法使いでもやるか。生き返らせる呪文は持ってないぞ。」
 「うるさいねぇ!あんたは!今は緊迫したムードなんだよ!少しはまわりに気を配って……。」
 サキが声を荒げた時、みー君がサキの手を引き高く空を飛んだ。刹那、駕籠は爆発を起こした。
 爆風がサキ達を襲ったがみー君が空を飛んでいるため、飛ばされるほどの風ではなかった。
 「なるほど。姿を現すとなんかが攻撃してくるのか。」
 みー君はスタッと地面に着地した。サキも後を追って着地する。
 「おお……。頼もしいのかなんなのかよくわからないよ。」
 「とりあえず、勇者の剣を見せてくれないか?」
 みー君が目を輝かせながらサキを見つめた。サキは太陽神ならではの能力で太陽エネルギーを凝縮した剣を出す事ができる。サキはこれからの事を思い、ほぼ炎でできている剣を手の中に出現させた。
 「これかい?出せるけど剣術はまったくできないんだ。」
 「だろうな。持ち方から素人だ。」
 「なんだか腹立つ言い方だねぇ……。」
 サキはだんだんと目が慣れてきて、飛んでくる何かを横に飛んで避けた。なんだかわからないそれは無数に飛んできており、すべてサキとみー君を狙っている。
 サキは目を凝らしてその何かの正体を暴こうと頑張った。避けながら観察している内に原型が見えてきた。
 「……爆弾?」
 何かは絵で描いたような爆弾の形をしていた。子供用のゲームとかでよく見るシンプルな形をした丸い爆弾だ。
 ……絵で描いたかのようだね。得体が知れない。これも術の影響なのかね。
 サキが考察している最中、みー君が爆弾を軽やかに避けながらサキの元まで戻ってきた。
 「俺達はこの見える範囲の場所以外は動けないようだ。完全に外と遮断されている。」
 「まいったね。一体こんな事するのは誰なんだい?……ん?」
 サキがふと横に目を走らせた時、黒い達筆な文字が空間に浮かんでいた。
 「芸術神ライ?サインかこれ?なるほど。なんとなくわかったぞ。ここは絵の中だ。芸術神ライって奴の術の中だ。」
 「芸術神かい……。あいつらは人間の妄想とか心とか心霊の世界、弐の世界を作ったりできるって聞いた事があるよ。芸術神にアイディアを願った人間に自身のアイディアを渡し、お代として信仰心をもらっているって言う……。」
 サキは不安げな顔でみー君を見た。みー君の表情はお面のせいでわからない。
 「じゃあ、ここはなんだかわからん不安定な弐の世界なんだな。絵の中って事はたぶん、これは紙だろ?輝照姫、燃やしてしまえ!」
 「燃やすって火で囲めばいいのかい?ホントに大丈夫かねぇ……。あ、それからあたしはサキでいいよ。」
 サキはそうつぶやくとみー君の言った通り、手から炎を出現させるとあたりを覆った。炎は勢いよくあたりに広がった。
 「暑いな……。しかし、よく燃える。」
 みー君は手でパタパタとあおぎながらまわりを見回す。しばらくすると砂で描いた絵が水で流されるように風景が消えて行った。サキの炎もいつの間にか消えていた。
 気がつくとどこかの神社にいた。
 「?……さっむっ!」
 炎が完全に消えた時、刺すような寒さが二人を襲った。よく見ると雪が降っている。
 「ふむ。現世の神社だな。今年は記録的豪雪らしいぞ。この辺は雪国じゃないから大変だな。」
 みー君は雪を眺めながら一人頷いた。
 「厄災の神に心配されるなんてね……。」
 「ま、なんだかわからないが術から抜けたようだ。もうあの駕籠は使えんな。ボロボロだ。見ろあれ!はっはっは!」
 みー君は楽しそうな声で修復不可能な駕籠を眺めた後、サキに目を向けた。
 「ああ、もうやだよ……。もう、現世なら太陽へ行く門を開いてさっさと帰ろう。」
 サキは大きくため息をついてから歩き出した。
 「ん?どこ行くんだ?」
 「太陽へ行く門を開くには日の神格を持っている神が住む神社でないと門を開けないんだ。」
 「ふーん。なんだかわからないがついてくぜ。」
 サキに続き、みー君も歩き出す。
 「おい。というかこの神社は違うのか?」
 「安産祈願って書いてあるじゃないかい……。ここには日の神はいないよ。」
 サキは何本も立っている旗を指差す。その旗には安産祈願と書いてあった。
 「そうか。じゃあ、ついでだからなんかゲームを買ってもいいか?」
 みー君は声を弾ませてサキに詰め寄ってきた。
 「なんのついでだかわかんないけど、せっかく現世に来たし、あたしも寝間着買いたいしねぇ……。とりあえず寒いから服着替えよう。」
 サキは両手を広げて着物を排除するとショッピング用のオシャレな服に戻った。
 「男の前で着替えるなんてお前、けっこうチャレンジャーだな。」
 「別に裸になるわけじゃないんだからいいじゃないかい。」
 「若さがねぇな。」
 「うっさいねぇ。」
 サキはみー君の言葉を軽く流しながら神社の階段を降りる。
 「!」
 神社の階段を降りている最中だった。突然、また風景が揺らぐ。みー君はサキを抱えると神社の階段から舞うように飛んだ。
 「うわあああっ!」
 みー君は叫ぶサキに耳を塞ぎながら一気に階段を降り、地面に足をつけた。
 「びっくりした。あんた!何やってんだい!危ないじゃないかい!」
 「いやあ、危なかったのは違う方向で危なかったぞ。はっはっは!」
 みー君は楽しそうに笑いながら真っ青なサキを降ろすと神社の階段を指差した。
 「え……?」
 サキの身体からじわりと冷や汗が出てきた。神社の石段は知らぬ間に針の山に変わっていた。
 「串刺しでゲームオーバーになってたなあ。ゲームだとあれだな。この針が出たり引っ込んだりしてタイミング合せて飛んで……」
 「なんであんたは楽しそうなんだい……。もう身が持たないよ……。」
 みー君は針の山に感心しており、サキは単純に生きていた事を喜んだ。
 「ここもあれだ。芸術神の絵らしいなあ。」
 みー君は横にある黒い文字を指差した。
 「また芸術神ライってやつのサインかい……。一体何の嫌がらせなんだい。これは!」
 サキはイライラしながら先程と同様、周りに火を放った。
 「おお。今回はいきなりやるんだな。もっと探索してからのが面白いと思うぞ。」
 「いんや、もういい。あたしは疲れた。」
 サキはさらに炎を増やす。どんどん熱が上がっていき、あたりは蒸し風呂状態になっていた。
 「暑い……。おかしいな。風景が消えない。」
 みー君は手でパタパタとあおぎながらあたりを見回している。
 「確かにおかしい。どんどん暑くなっていくだけだね。なんか対策でも立てたのかね……。」
 サキは頬に垂れる汗をぬぐいながら激しさを増す炎をじっと凝視していた。
 「今度は紙じゃねぇな。熱がこもっているって事は鉄とか石とかなんかに絵を描きやがったな。」
 「なるほどね。そう言う可能性もあるのかい。いったん炎を消すよ。」
 サキは一瞬で炎を消して見せた。徐々に温度が下がっていき、しばらくすると元の寒さに戻った。
 「とりあえず出られる場所を探すか。……ん?」
 みー君は上から飛んでくる何かに気がついた。とりあえずサキを抱え、走り出す。
 「またなんかあったのかい?」
 サキがみー君に抱えられながらつぶやいた。
 「ん?わからん。」
 みー君が走り出した場所から狙いを定めるように何かが爆発した。狙いを定められているらしくみー君は足を止める事ができない。止まったところで爆発物が命中するからだ。何が飛んできているのかはわからない。
 「あんた、けっこう反射神経とか凄いんだねぇ。走るのも速いし。」
 「見直したか?おおっと。」
 みー君は大きく空を飛んだ。目の前に大きな落とし穴があり、その落とし穴の中から針が覗いていた。
 「ひぃ……。あ、あんたが頼りだよ……!ほんと頼りにしているよ!」
 サキは顔を強張らせながらみー君を見上げた。
 「おお!リマオだ!俺はリマオだ!ははっ!最上級のスリルだ!」
 サキとは正反対にみー君はとても楽しそうだった。落とし穴がみー君の心に火をつけてしまったようだ。
 ……ワイズ……確かに彼はやり手だが……これは嫌がらせにしか思えないよ……。
 サキはため息をつきながらこの状況をどうするか必死に考えていた。
 「というか、なんでお姫様ダッコなんだい?せっかく助けてもらっているしどう持たれても文句言わないよ。」
 サキはだんだん慣れてきた爆発の音を聞き流しながらみー君を見上げる。
 「お前は姫だ。姫になれ!俺はリマオだーっ!」
 ……ダメだこりゃ……。しかし、いい感じの乗り物だねぇ。これは。
 一人で燃えているみー君にサキはもうつっこむ気も起きなかった。サキは飛んだり、避けたり忙しいみー君の邪魔にならないようにあたりを見回した。みー君は一直線にしか進んでいない。おそらく一直線にしか動けないのだ。しかし、さっきとは違い、やたらと動ける範囲は広い。
 術の範囲は描くものによって違うらしい。先程は紙。サキ達は画用紙くらいの大きさの紙の中に閉じ込められていたと推測される。そして今は横長の石か、燃えない物の中にサキ達は閉じ込められている。おそらくここも弐の世界。弐の世界は生物が寝ている時に行く心の世界だったり、心霊が住む世界だったりと様々だ。それぞれ違い、変動する。世界も沢山あり、不確定要素が強い。想像力や夢に関わっている神は弐の世界を作ってしまう事もできるらしい。
 「問題はどうやって出るか。」
 サキが出られそうな場所を探していると一カ所、違和感を覚える所があった。周りの風景はみー君が走っている一本道に沿って絵で描いたような木が並んでいる。その木の一本に亀裂が入っていた。
 「みー君、ちょっと戻ってもらえるかい?一カ所、おかしな木を見つけたんだ。」
 「戻る?難易度が高けぇな……。なんか隠しルートでも見つけたか?」
 みー君は相変わらずハヤブサの如く爆弾を避け、落とし穴を避けてまっすぐ進んでいる。
 「いいから、ちょっと戻るんだよ。ゲーマー。」
 「そんな簡単に言うな。だいたいこういうのは難しいんだからな。」
 みー君は一瞬止まると振り向き、逆走を始めた。サキは若干祈る気持ちでみー君にすべてを任せた。いままで後ろから襲ってきた爆弾は今度前から襲う事になる。爆弾には追尾機能がついており、真っ向から対峙すると避けるのは難しい。先程、みー君が軽く通り過ぎた落とし穴も場所を覚えていないと落ちてしまう。
 「みー君。頑張っておくれよ。」
 サキは不安げな顔でみー君を見上げた。みー君はちらりとサキを視界に入れるともう一度しっかり抱きなおした。
 「そんな顔されちゃあ、なんか燃えるぜ。」
 みー君の心にさらに火がついた。
 ……ふう。なんとなくこの男の扱いがわかってきたような気がするよ。今は彼が頼りだから頑張ってもらわないと。
 サキは前から飛んでくる爆弾に目をそむけながらみー君を心で応援した。
 「ここが落とし穴だ!ここで右から来る爆弾を避けて左に着地。ここで左から槍が飛んでくるから素早く飛び、着地。すぐに前から飛んでくる爆弾をしゃがんでかわす。」
 みー君は驚く事に爆弾が飛んでくる位置まで覚えていた。ゲーマーの能力か、長年生きた経験かわからないがサキは褒め称えたい気持ちでいっぱいだった。
 「す、すごい。すごいよ!みー君!」
 気がつくと先程サキが気になっていた木の近くにいた。
 「で、どこなんだ?」
 「もうちょっと先だよ。」
 みー君はさらに戻った。すると、木の亀裂は先程よりも大きくなっており、その亀裂の隙間から何者かの手がにょっと出ていた。
 「お?なんか手が出ているぞ。気持ちわりぃなあ……。」
 みー君は警戒しながら手が出ている亀裂に近づいて行った。
 「サキ様―!御柱様―!」
 亀裂の向こう側で若そうな男の声が聞こえてきた。
 「誰だい?」
 サキは亀裂に向かい声を上げた。
 「その声はサキ様?今助けます!」
 亀裂から出ている手から突然、大きな刀が出現した。亀裂の隙間を器用に使い、手の持ち主が刀を振るった。
 「!」
 刹那、石のようなものが飛び散り、風景は溶けるように消えた。
 「なんだ……?」
 風景は完全に消え失せ、石の壁で覆われているトンネルの中にサキ達は立っていた。
 石のトンネルの壁面には長い落書きがしてあった。サキ達はこの中に入り込んでいたらしい。
 「はあ。やっと会えましたね。」
 サキ達は声が聞こえた方を向いた。目の前に若い男が立っていた。緑の作務衣を着ており、髪はボサボサだ。目はくりくりとしており、どこかかわいらしい感じがある。
 「お前なんだァ?まさか芸術神ライかぁ!」
 みー君は冷めきらない頭で叫んだ。何故だか気持ちが上がっているようだ。
……なんだかみー君、いつの間に熱い男に変わったね……。
 「みー君、たぶん違うよ。」
 サキはみー君を元に戻そうと声を上げる。その後、付け加えるように男がしゃべりだした。
 「オレは芸術神じゃないですよ。あなた様達がこの石の絵の中に入り込んでしまったんで刀で絵を傷つけて助けるつもりだったんです。」
 男はにこりと微笑むとボサボサの頭をかいた。
 「そうか。刀で石を斬れば今度は良かったのか。炎で焼き尽くせなかったわけだ。で?お前は?」
 みー君の高ぶりがだんだんと戻ってきたらしい。声のトーンが一定になってきた。
 「ああ、オレは剣王から派遣された助っ人です。お話はいってますよね?まだ、神になって間もなくて、名前をもらっていません。お好きに呼んでください。」
 サキは剣王からの言葉を思い出した。後で太陽に派遣しておくからとかなんとか言っていた修行中の神だ。
 「あんた、よく急に消えたあたしらを見つけられたねぇ。」
 「鶴達が騒いでいるのを見つけてそこから気配を追いました。そしたらこの現世の石トンネルにあたったんです。」
 男は礼儀正しくサキに答える。好感を持ったサキは男に微笑んだ。
 「なるほどね。あんたのおかげで助かったよ。」
 「そんなお褒めの言葉をいただくなんて……オレ、最高です!」
 「あんた、なんだかかわいいねぇ。」
 「かわいいだなんてそんな……っ!滅相もない!」
 サキはなんだかこの男を見ていると癒された。サキとは逆にみー君は不機嫌そうに男を見ていた。
 「ああ、なんか鬱陶しいな。」
 「鬱陶しいなんて滅相もない!」
 「いやいや……。」
 男の反応でみー君も戸惑っていた。この若い男は偉い神二人に会った事で頭があまり回転していないようだ。
 「名がないって呼び名に困るねぇ。じゃあ、あたしが決めてあげよう。チイちゃんなんてどうだい?」
 「おいおい。どっからきたんだよ。その名前……。」
 笑顔のサキを横目で見ながらみー君がつぶやいた。
 「チイちゃん!素敵なあだ名をありがとうございます!」
 「おいおい。そんなあだ名でいいのか。」
 男はやたらと嬉しそうだ。みー君はふうとため息をつく。
 「よし、じゃあ、とりあえず太陽に行く感じでいいかい?みー君、そしてチイちゃん。」
 サキは良い気持ちでみー君とチイちゃんを交互に眺めた。
 「なんだかお前の飼い犬みてぇになったな……。別にいいが。」
 みー君はぽりぽりと頭をかいた。
 「あははは!予想以上に面白かったわ。」
 「?」
 話が一通り終わったのを見計らったかのように甲高い女の子の声が響いた。サキ達は声の主を探したが見つからなかった。
 「どこにいるんだい?ていうか誰だい?」
 「私は芸術神ライよ。主に絵を極める芸術神。絵は奥が深い。線で正確にラインをとったりとかわざとアバウトにとったりとかねっ!色もいっぱい。影のつけ方もただの黒じゃないしね。」
 サキが質問した刹那、目の前に金髪の女の子が現れた。金髪の女の子はボンボンのついているかわいらしい帽子をかぶっており、茶色のジャケットに蒼と水色のしましまのシャツを着ている。
下はキュロットスカートに黒のストッキングだ。金色の短髪を揺らしながら芸術神ライは微笑んだ。目は丸く、可愛らしい顔つきをしている。歳はサキと同じくらいか。おそらく十六、七だろう。
 「あんたが芸術神ライねぇ……。なんであたしらに嫌がらせをするんだい?」
 サキはあまり挑発しないように言葉を選び話しかける。
 「うーん。あれよ。芸術だわ!」
 ……もうダメだ……。わからない。会話になってないじゃないかい……。
 だがサキはこの質問で芸術神ライとやらが何かを隠している事に気がついた。
 「お前がラスボスか。」
 「ラスボス?何を言っているのかわからないけどとりあえず……ね?」
 みー君の言葉に一応答えたライは突然、絵筆を空中に走らせた。
 「なんだい?」
 サキが目を細めた時、ライの絵筆から大岩が多数、サキ達に飛んで行った。
 「?」
 サキとチイちゃんは咄嗟に行動ができず、ただ立ち止っていた。素早く動いたのはみー君だ。
 みー君は手からカマイタチを放ち、大岩を次々と破壊していく。しかし、大岩があまりにも多すぎてみー君一人では対処しきれず、みー君の顔面に大岩が当たった。
 「ちっ……。」
 「みー君!」
 低く呻いたみー君を横目で見ながらサキもやっと動き出した。サキは軽々と炎で岩を斬っていく。反対にチイちゃんは危なげに刀で大岩を破壊している。
 大岩をすべて破壊した後、サキとチイちゃんは顔を押さえているみー君の側へ慌てて近寄った。
 「ちょっと!大丈夫かい?どっか怪我したんじゃないかい?ねぇ?」
 「みー様……。すみません。オレが動かなかったせいで……。」
 サキとチイちゃんは不安げな顔でみー君の様子をうかがう。みー君の顔からお面の破片がパラパラと落ちていた。
 「あーあー、けっこう気に入ってたんだがなー……。」
 みー君は痛がるそぶりも見せずにサキ達の方を向き、顔に当てていた手をそっとどけた。
 「!」
 みー君のお面は半壊しており、そこから鋭い瞳が覗いていた。よく見ると端整な顔立ちをしている。
 「あんた、けっこうカッコいいじゃないかい!なんでお面なんてしているんだい?なんか色々もったいないよ。ていうか、そのお面、どんだけ固いんだよ!あんなに直撃だったのに半壊とか。」
 サキは初めて見たみー君の素顔に謎の感動を覚えていた。
 「お前、テンション高けぇな……。」
 「みー様の素顔……初めて拝見いたしました!墓場まで持っていくつもりです!」
 「お前はなんでテンションが高けぇんだよ。気持ち悪いぞ。」
 みー君はなぜか興奮しているチイちゃんに呆れた。それを眺めながらライはニコリと笑った。
 「なるほど。みー君が一番厄介そう。まずみー君を倒すわ!覚悟!みー君!」
 「お前もみー君、みー君言うな!敵なのに慣れ慣れしいんだよ。」
 みー君は不機嫌そうな顔でライを睨む。
 「なんか狙いがみー君に行ったみたいだね。」
 「少し端の方で安全をキープしましょう。サキ様に怪我があってはなりません。そしてオレはみー様の勇姿をこの目で見たいです。」
 「そうかい。じゃあ、ちょっと端に寄るかい?」
 サキはため息をつきながら目を輝かせているチイちゃんを引っ張り、石の壁の方へ寄る。
 「なんか、ずいぶんゆるいんだね……。」
 ライは頬をぽりぽりとかきながらはにかんだ。
 「なんだ?俺とお前で一騎打ちか?あれだな。銀拳だな!銀拳!」
 みー君の声がまた弾んでいる。今回は顔が見えるので楽しそうに笑うみー君を見る事ができた。
 「銀拳ってあれですね!ゲームセンターにある格闘ゲーム!」
 チイちゃんは完全に応援ムードに入っている。
 「俺は熊猫Gで勝負だ!」
 何の会話をしているのかまったくわからないがみー君は楽しそうだ。
 「もう……なんでこう、緊迫したムードがないんだい?このテンション、もう疲れたよ。」
 サキは壁に背をつけながら頭を抱えた。
 「なんかよくわからないけど本気で芸術しちゃうわよ。」
 ライもペースを崩され戸惑いながら筋骨隆々の空手着を着た男性を筆で描き、出現させた。
 「おう!来い!」
 また感情が高ぶっているみー君は出現した男を睨みつけながらファイティングポーズをとる。
 みー君は男が繰り出す拳を軽やかに避け、反撃のタイミングを計っていた。男は蹴りや拳を見えないくらいの速さで打ち込んでいる。それをみー君がどうやって避けているのかはわからないがなかなか能力の高い神のようだ。
 ……一体、何をしたらこんな神になるんだい?
 サキは戦いの風圧をその身に受けながら不思議そうに首をかしげた。隣でチイちゃんは目を輝かせてときどき大きく頷いている。
 みー君に対する憧れかなんなのか知らないがチイちゃんは運動会のバトンリレー並みに応援していた。かなりうるさい。
 「!」
 みー君が素早く足払いを男にかける。男がバランスを崩した。そのままみー君は右足を風に乗せ、男の脇腹を蹴り飛ばした。男は衝撃波と共に吹っ飛ばされ、石壁に思い切り当たり、消えた。
 「……あんたはどんな脚力してるんだい。まったく。」
 「サキ様、あれはみー様特有の台風を起こす力を凝縮して右足に集中させることによって放たれる一撃ですよ。」
 驚いているサキに興奮気味にチイちゃんは語った。
 ……なんかどっかの少年漫画とかにいそうな起こった事を説明してくれる奴みたいだね。この子は……。
 サキが呆れた目でチイちゃんを見た。
 「さてと。」
 「え?え?なに……?やめて……。」
 みー君は手をバキバキ鳴らしながらライに近づいていく。ライはまさか男が倒されると思わなかったようで戸惑って泣きそうな顔になっている。
 「ちょっと、みー君!暴力はダメだよ!」
 サキが慌てて叫んだ。みー君がライの前で足を止め、にやりと笑った。
 「ゲームは男女平等だぜ?」
 みー君は拳をビュッと怯えているライに向けて繰り出した。
 「ひっ!」
 ライは小さく叫び目を閉じた。
 「なんてな。はっはっは!」
 みー君の拳はライの額スレスレで止まっていた。
 「ほえ……?」
 てっきり殴られると思っていたライはヘナヘナとその場に座り込み、わんわん泣き出した。
 「あ、あれ?なんで泣くんだ?」
 「みー君……ああ、びっくりしたよ。そんな事する奴じゃないとは思っていたけどねぇ。」
 きょとんとしているみー君にサキはほっと胸をなでおろした。
 「ゲームはゲームだ。リアルでは俺は紳士なんだ。こんなに怯えられて泣かれたら違うゲームのスイッチが入っちまう。なんというかこの娘を攻略したくなる。」
 みー君は泣かれた事にかなり戸惑っているようだ。自分で何を言っているのかよくわかっていない。
 いじめるつもりはなくただの冗談のつもりだった。冗談だったのだが大泣きされてしまい、みー君は戸惑う事しかできなくなってしまったという事だ。
 「私をこうりゃく?」
 ライはめそめそと泣いていたがみー君のある一言でそっと顔を上げた。
 「えー……まあ……あれだ。そのごめんな。」
 「こうりゃく……。」
 ライはみー君の謝罪を半ば無視し、じっとみー君を見上げている。そして目があったとたん頬を真っ赤に染めた。
 「あれ?えーと……ちょっと待て!なんか勘違いを……。違う!違うぞ!」
 「攻略って私をどうするの?隅々まで触るの?見るの?ちょっと恥ずかしいな……。でも負けちゃったし……しょうがないかな……。」
 ライは頬を真っ赤に染めながら潤んだ瞳でみー君を見上げていた。
 「へっ?待て待て!触るってなんだ?お前は……な、何を言ってるんだ……。」
 みー君は戸惑いつつ、困った顔をサキ達に向ける。
 「あーあ……。失言だね。いきなりお前を攻略してやるなんて言われたら変な想像するのはわかっていた事じゃないか。」
 「新手の女性を落とすテクニックですか!さすがです!みー様!」
 「あんたはちょっと何と言うか気持ち悪いよ。」
 よくわからないが感動しているチイちゃんにサキは呆れながらつぶやいた。
 「俺はそんなつもりじゃなくてだな……。べ、別に変な事を望んでいるわけではなくてだな……。ああ、ダンジョンに入って宝箱を見つけたい……。」
 みー君の戸惑いがいよいよひどくなってきたのでサキは助け舟を出す事にした。
 「あんた、なんで嫌がらせをしたんだい?根は性悪じゃないだろう?」
 サキはライに違う方面での言葉を投げる。
 「私は芸術をひたすら求めているの。だから、彼氏がいないの。さみしい。」
 「あの……悪いんだけどちょっと男から離れてくれるかい?」
 サキはしくしく泣いているライに同情しつつ本題を引き出す。
 「で、なんの話してたっけ?」
 ライは涙をふくと再びサキを見つめた。
 「なんで嫌がらせしたのかを聞きたいんだよ。」
 「ああ、旧友、月子の頼み。あなた達が凶悪で月子の邪魔ばかりするから少し懲らしめてって言われた。でもなんかゆるいし呑気だし……優しいし……ああ、もう、私わからない!わからないわ!あなた達、何なのよぅ!うえええん。」
 月子とは現在月光の宮を取り仕切っている月神トップのあだ名だ。本当は月照明神という名の神だが本人が月子さんと呼べとまわりに強要している。少し変わった神様だ。
 ライは不安が爆発したのかさらに泣きはじめた。ライの泣き声にチイちゃんとみー君は戸惑い、オドオドと謎の踊りをしている。
 「あたし達は今、その月子の様子を見に行こうとしている所だよ。いいかい。よく聞いておくれ。今、月が大変な事になっているらしいんだ。月子が何かの事件に巻き込まれたかもしれないからそれを調査して助けようとあたし達はしている。」
 「それは本当なの?じゃあ、月子が言っていた事は?なんなの?嘘?」
 「それはわからないよ。少なくともあたしらは月子を助けようと動いている。別に凶悪じゃないよ。」
 サキの一言を聞いてライは安心したらしい。おそらく月子のため必死でサキ達の邪魔をしようとしたようだ。月子が言っていた事は気になるが今、この状況はおさまった。
 とりあえず一同は太陽には帰らず、直接月に行く事にした。
 

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