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ごぼうかえるのTOKIの世界!
皆に元気を与えたい! 前向き楽しいブログを目指す(*^.^*) 口蓋裂の娘ちゃんと軽いADHD、軽いチック症状を持つ旦那と楽しくのんびりな日常をドールちゃん達が紹介する! 独自世界の幻想日本神話、自作小説書いています! 神と人形と人間と霊、そして『K』の季節感じる幻想データ世界TOKIの世界へようこそ! 和風SF日本神話の世界です( ´∀`)
ゆめみ時…1夜を生きるもの達7
 「あっ!」
 スズとトケイは驚いた。上空でずっと見ていたはずのサスケが消えていた。
 「サスケがいない……。」
 「もう……何が何だか……。」
 トケイはスズを抱きながら安全な空にいる。しばらくサスケを探していたがやはりサスケは近くにはいなかった。
 「ん?」
 スズが城から走って出てくる人影を見た。かなりの人間が城から逃げるように外に出てきている。
 「……なんかあったのかな……。」
 トケイが不安げにスズに目を向けた。
 「更夜……大丈夫かなー……。相手かなり強かったけど、襲われてたりしたら無事じゃすまないかも。」
 スズは心配そうに城を眺めた。
 「行ってみようか?」
 トケイが恐る恐る聞いてきた。スズは首を横に振った。
 「……。更夜に任せよう。わたしが行ってもあんたが行っても足手まといになりそう。忍は相手の弱みにつけこむのも得意だから。」
 「そっか……。じゃあ、ライを探そう。」
 「そうね……。今度は間違いなくあの男を仕留めるよ。」
 トケイとスズはお互い大きく頷いた。なんとなく城から出てきた人間を眺めていると人に紛れてやたらと速く走る人間が目に入った。
 「……?」
 「どうしたの?スズ。」
 トケイには見えていないようだった。
 「あれは……忍?何か……持ってる……。」
 スズにはその忍の姿ははっきりと見えていた。
 「?」
 「笛……。」
 忍が持っていたのは縦笛だった。スズの視力は自慢できるほどに良い。かなり遠くまで見渡す事ができた。おまけに動体視力もかなり凄い方だった。
 「笛だって!?」
 「声大きすぎ!」
 トケイの驚きの声に耳を塞いだスズはトケイの肩をポンポンと叩いた。
 「あれ、怪しすぎるねー。まさか優勝賞品?トケイ、とりあえず追うよ!」
 「う、うん。でもライは?」
 「みつからないモノを見つけるよりも見つかったモノから追及していったほうが後にいいの。落ち着いて今を見る。」
 「わ、わかった。」
 トケイはスズの指示した方向に高速で動き始めた。


 マゴロクがどこをどう走って来たのかわからないが城から離れた所で抱えていたライを降ろした。
 木々が覆い茂る森をマゴロクは歩き始めた。
 「あ、あの……。」
 「ついてくればいいよ。」
 不安な顔をしているライにマゴロクは優しく手を握り、微笑んだ。
 ライは仕方なくマゴロクに手を引かれ歩き出した。しばらく歩くと焚火の炎が揺れているのが見えた。何人かが焚火を囲んでいる。皆黒っぽい格好をしていた。
 その中にひときわ若そうな男がマゴロクを見て微笑んだ。
 「うまくいった?」
 「芸術神は連れてきた。絵括神だよ。主。」
 マゴロクは学生服を着ている若い男にライを紹介した。
 「あ、あの……どうも。」
 ライはとりあえず若い男に挨拶を返す。
 「ところであんた、月に行けるんだろ。」
 男はいきなりライにそんな事を聞いた。
 「月……?」
 「僕を月に連れてってくれよ。」
 男はライに近づいてきた。
 「え?えーと……無理だよ。あなたはもう弐の世界の住人だから……。」
 ライは戸惑いながら男に答えた。
 「無理矢理でも連れて行ってもらう。僕は月を経由して現世に戻らないといけないんだよ。マゴロク、僕の言うことをきかせてくれないかな?」
 男は狂気的に笑うとマゴロクをちらりと見た。
 「了解。……あんたの身体はもう動かない……。」
 マゴロクはライに糸縛りをかけた。
 「……っ!え!?う、動けない!」
 「悪いな。ビジネス対象に君は今、なってしまった。主の言うことをきけば痛い思いはしないよ。君は忍じゃないから選択肢をあげよう。」
 「そんな……。」
 怯えるライにマゴロクは冷たく言葉を吐いた。
 「素直に言うことをきけばこのまま何もしないが反抗するというなら俺は容赦しないよ。できればこのまま素直に言うことをきいてほしい。」
 「せ、選択肢も何も弐の世界の魂を現世になんて送れないよぉ……。弐の世界からもう一度、現世なんかに戻ったら魂がおかしくなっちゃうよ!」
 ライは半泣きで叫んだ。
 「別におかしくなってもいいんだ。僕はまだのうのうとあちらで生きているあいつを殺したいだけだから。そんでこっちの世界に連れこんで何度でも殺してやるんだよ。マゴロク、拷問しろ。いう事を聞けるようになるまでな。」
 男は狂気的にライを睨みつけた。
 「……や……やめて!あ、あなた、おかしいよぅ……。」
 ライはガタガタと震えながら目に涙を浮かべた。
 「……っ。」
 マゴロクは冷徹な瞳をしていてもその瞳が揺らいでいた。
 「マゴロク、何やってんだ。僕は主なんだろう?……っち、セイの演奏不足か。」
 「……!」
 男の言葉にライは反応した。ライはマゴロクの真黒な瞳を見上げた。
 よくマゴロクを見るとマゴロクのまわりには禍々しいが音括神セイの神力を感じた。
 「さすがにこれはビジネスだって言ってもなあ……。やりたくない。忍相手でもしかたなしにいままでやってたんだ。気を抜くと俺が死ぬからさ。だけどこの子は普通の子だ。俺はできないね。本当はセカンドライフで人殺しはしたくないんだよー。ショウゴ君。」
 マゴロクは男をショウゴと呼んだ。
 「ノノカとタカトもあの笛を狙っている……。あの笛は気がついたらこの大会の優勝賞品になってた……。セイにも逃げられて……僕はただ壱に行きたいだけだ。絵括神ライでも壱にいけるんだろ!だったら、もう笛なんてどうでもいいから連れてけるようにしてくれよ!マゴロク!」
 ショウゴと呼ばれた男はマゴロクに掴みかかる。
 「音括神セイは音楽で魂の俺達を主に繋いだ……。だがな、俺達は殺人鬼じゃない。もともとは隠密だよ。残酷な事がしたいわけじゃない。」
 マゴロクは怯えるライに目を向けた。
 「……セイちゃんを……知っているの?」
 ライは震えながらマゴロクを仰いだ。
 「俺は知らないなあ。主と残り二人の男女の間でセイと何かあったらしいがね。俺はその後、勝手に魂が主にくっついてしまっただけだよ。ただ、音楽を聴いただけなんだけどね。」
 マゴロクはふうとため息をつく。
 「ショウゴさん……セイちゃんと何があったの?」
 ライはマゴロクからショウゴに目線を移した。
 「……。」
 ショウゴはライの質問に何も答えなかった。


 スズとトケイは忍を追っていた。忍はもうこちらに気がついているようだ。お互い高速で森の中を進む。トケイはスズの指示でその忍と一定の距離を保っていた。
 「……女忍だね。やっぱり手に持っているのは笛。かなりのやり手だね。」
 スズが先を走る女忍の隙を狙うがまったく隙が見えなかった。
 刹那、突然空がカッと光った。
 「な、なに!?」
 トケイは驚いて上を見上げた。
 「大丈夫よ。そのまま追いなさい。右!」
 「う、うん!」
 トケイはウィングをうまく動かし木の幹を潜り右に曲がる。
 「上に意識を集中させて逃げる技よ。線光弾か何かを投げたんでしょ。」
 「へ、へぇ……。」
 トケイは圧倒されながら声を発した。
 「わたし達と対峙しようとしないって事は交戦を避けてわたし達を撒きたいって思っているって事。」
 「なるほど。うわっ!」
 スズの言葉に頷いていたトケイは急に驚きの声を上げた。トケイのウィング目がけて鉤縄が飛んできていた。スズはトケイのウィングに鉤縄が巻きつく前に縄部分を小刀で切った。鉤の部分は暗闇に落ちていった。
 ふとスズが前を向くと女忍がいなかった。
 「!」
 スズは何かを感じ後ろを振り向く。後方から八方手裏剣が飛んできていた。
 「トケイ!後ろ!」
 「え?」
 トケイは慌てて後ろを振り向いた。スズはトケイに抱かれたまま、小刀で手裏剣を弾いた。
 「いない……。」
 スズは周囲を警戒した。木の枝から枝へと飛び移る影が映った。
 「トケイ、あっちの森の中!」
 「え?い、いけるかなあ……。」
 トケイは困惑した声でつぶやきながら木々の間にウィングを滑らせた。木の枝を避けながら女忍を追う。刹那、突然女忍から火が上がった。
 「!」
 轟々と炎が女忍を包んでいく。女忍は炎に包まれているが何事もなかったかのように高速で動いていた。
 「……はっ……。トケイ!止まりなさい!」
 「う!?うん!」
 トケイは木にぶつかりそうになりながら危なく止まった。
 ……これは火遁渡りの術!
 「もうあそこに女忍はいない。あの凄い速度で燃えながら動いているモノはおそらく布か何か。それを糸を使いながら動かす。わたし達は糸で動いていた布を追いかけていたわけ。」
 「よ、よくわかんないけどあの女の人はいなくなったんだ?」
 「いや、近くにいる。」
 スズはトケイに下に降りるように言った。トケイは素直に頷くとそのまま地面に足をつけた。足をつけたトケイとスズの前に黒い影がヌッと現れた。
 「せっかく撒けたと思ったのに残念です。」
 スズ達の目の前にいたのは例の女忍だった。女忍は服を着ておらず、胸元にさらしを巻いて下は布一枚巻いてあるだけだった。
 「この術は相手に炎を追わせる術だからね。大概術者は近くにいると踏んだだけ。」
 スズはまっすぐ女忍を睨みつけていた。
 「ふう……自分の服まで燃やしたっていうのに……やっぱり忍相手では見つかってしまいますね。」
 女忍はやれやれとため息をついた。
 「う、うわー!ごめんなさーい!」
 女忍の格好を見てしまったトケイは顔を真っ赤にしてひたすらあやまっていた。
 「あら、うぶな子がいるのですね。」
 「そんな事はいいよ。あんたの持ってる笛、それ優勝賞品じゃなくて?」
 悶えているトケイの肩を叩きながらスズは女忍に質問した。
 「どうでしょうかねぇ?あなた、怪我しているのですね。サスケとマゴロクにでもやられましたか?ダメですね。女忍の主な術は色香。男に手を上げさせてはダメです。真っ向から男と対峙して勝てるわけないでしょう?相手の力をどんどん減らしていくのですよ。」
 女忍は色っぽく笑う。不思議と女のスズもそれに魅了されかけた。
 「話を逸らさないでよ。」
 「あら?何のお話しでしたっけ?」
 女忍は潤んだ瞳をそっと細めると微笑んだ。大した仕草をしているわけではないのだが不思議とそそるくらいに美しく見惚れてしまうほど艶やかに見えた。
 ……この女は色香に特化した女忍……。
 「チヨメ!笛は?」
 ふと木々の間から学生服を身に纏った少女が現れた。
 「ノノカちゃん……いい時にきますね……。悪い意味ですけど。」
 チヨメと呼ばれた女忍は現れた少女をノノカと呼んだ。
 「それより笛。」
 「はいどうぞ。主。」
 ノノカが急かすように手を出してきたのでチヨメはため息をつきながら持っていた笛をノノカに渡した。
 「あんがと。これでセイを捕まえられるかな。」
 ノノカは笛を奪い取るとクスクスと笑った。
 「……ねえ、スズ……。」
 「しっ。」
 トケイはスズに声をかけようとしたが止められた。スズは手をわずかに動かし、綿毛を風に流した。
 ……風移しの術を使って笛がここにある事を伝えないと……。きっと優勝賞品だったこの笛はチヨメって女忍に盗まれたんだね……。更夜……気づいて。
 スズはノノカとチヨメが逃げた時に対応できるように静かに構えた。
 それを見たトケイもスズに習い、二人に隙をつかれないように気を引き締めた。

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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

ゆめみ時…1夜を生きるもの達6
 ……この大会はいつまで行われるんだ?
 更夜はため息をついていた。自分を含めた六人はまだ大会に参加している。
 ……だいたい、舌の良い者達が集まっているという事は皆正解してしまい、いつまでたっても終わらんという事なのではないか?
 更夜は運ばれてきた鍋料理を味見しながら考えた。この最中にもどこからかクナイやら刃物やらが飛んできている。
 ……いつまでたっても終わらんのに優勝賞品は一つ。……それを巡って忍が動いている。
 ……裏で何をしているかわからないが俺をここに足止めさせようと考えている忍もいるはず。今、襲ってきている者は俺を殺そうとしているのではなく、俺に余計な考えをする暇をなくさせているとも考えられる。単純に俺を殺したいのかもしれんが……。
 更夜はちらりと隣を仰ぐ。残りの人間におかしい所はない。
 ……これはさっさとかたをつけた方が良さそうだ。他の者には悪いが……手っ取り早く勝たせてもらう。
 更夜は小さく指を動かし唐辛子を微量、風に流して残り五人の鍋の中に入れた。
 ……この鍋料理に唐辛子は入っていない。これで全員ひっかかる。
 更夜はついでに気づかれないように懐に入っていた香料のビンの蓋を開ける。中から唐辛子の匂いが風に乗って五人の鼻に届く。
 ……人間は匂いで物を判断する時もある。一応、鼻も狂わせておこう。
 ……微量の唐辛子でも匂いつきとなればここまで生き残ってきた者達ならば狂うはずだ。
 更夜は飛んできたクナイを軽やかに避け、そのクナイを拾い、懐に忍ばせる。いままで飛んできた物はすべて回収済みだ。だからこそ、ギャラリーや司会に気がつかれない。
 ……誰だか知らんが非常に迷惑だ。
 更夜はペンをその場に置いた。先程クナイが飛んできた方面目がけてそのままクナイを投げる。周りの人間はペンを置いただけだと思っているので気がついていない。
 ……先程からずっとこの調子だ。この人数でばれないように振る舞うのがどれだけ大変か……。
 司会の女性が記入用紙を持っていく。更夜は笑顔で会釈をした。女性は頬を赤らめると楽しそうに微笑んだ。


  夜空から突然人が降って来た。スズとトケイは驚いて目を見開いた。
 「あー!あんたはサスケね!」
 スズはサスケを鋭く睨みつける。サスケは頭をポリポリかくとニコリと笑った。
 「マゴロクに芸術神ライをさらわれたとねェ。んま、マゴロク強いから仕方ないんじゃねぃかィ?」
 サスケの言葉にスズの眉がぴくんと動いた。
 「ああ、あやつ、鵜飼マゴロクって言うんだァよ。マゴロクがなんで芸術神をさらったか知りたいだァろ?え?」
 「知りたい!知りたいです!」
 サスケの言葉に即座に反応したのはトケイだった。
 「馬鹿。罠に決まっているでしょ!」
 スズがトケイを止めた。
 「ワシに勝てたらいいよォ。教えてやらァ。ただし、ワシもお前らが邪魔だ。言っている意味がわかるなァ?」
 サスケの瞳が突然、鋭くなった。しかし、気は水のように静かだ。
 ……気持ち悪い……。
 スズとトケイはじりじりと後退していた。
 「トケイ!こいつはまずい!逃げるよ!」
 スズがトケイを引っ張ろうとした刹那、地面が突然爆発した。吹っ飛ばされたのはスズだけだ。
 「スズ!」
 トケイはスズに叫ぶ。土煙でスズの姿は見えない。
 「そこ、危ないんだがなァ。」
 サスケの声が土煙の中で聞こえる。トケイはサスケを探した。しかし見つからない。
 焦っているとスズが土煙の中から勢いよくトケイを引っ張った。
 「スズ!」
 「ダメ!勝てない!」
 スズが珍しく焦っていた。
 「スズ?」
 トケイは引っ張られながらスズを一瞥した。スズの腕からは血が滴っていた。
 「……なんでさっきからこんな強い忍ばっかり……。」
 スズの言葉は途中で切れた。
 「……っちぃ!」
土煙の中、突然現れたサスケの蹴りを腹にくらい、スズは遠くにまた飛ばされた。
 「スズ!なんでスズばっかり狙うんだよ!僕と闘え!」
 トケイは再び消えてしまったサスケに向かい叫んだ。どこからかサスケの声が聞こえた。
 「お前は同業者じゃねぃからな。動けなくするだけだァよ。忍相手にこれをやったら失礼だからあの娘にはやらん。だいたいかからんだろう。術自体になー……。」
 「……!え?え?な、なんだこれは!」
 トケイは気がつくと指一本動かせなくなっていた。
 「言っただろぃ?ワシに勝てたら教えてやるがワシもおめぇ達を邪魔だと思っているんだってな。ほいっとな。」
 サスケが一言そう発した刹那、土煙が風ですべて飛んで行った。
 「……!」
 トケイの目が見開かれた。視界が良くなりあたりの風景がよく見える。
 トケイのすぐ近くにスズが座り込んでいた。
 「ごほっ……微塵隠れか……。なるほど。すごいわね。」
 スズの服は破れており身体からは血が滴っている。
 「ご名答。ワシがもっとも得意とする忍術だィ。ちーとやりすぎたがなァ。ふむ。まだ息があるのかぃ?」
 「こんなんじゃ死なないよ。」
 スズはふうとため息をついた。
 「くそ!なんで動かないんだ!スズにもうひどい事しないでよ!教えてくれなくていいから!」
 トケイは動かない身体を必死に動かそうとしている。
 「あーあー、わたし、なんだか負けばっかり。やっぱり強い男忍は違うねー。」
 スズは必死のトケイとは裏腹、呑気に言葉を発した。
 「マゴロクは紳士な方だァ。ワシならやられる前にやるけどなァ。」
 「じゃあ、これは油断ね。」
 スズはサスケに冷酷な目を向けた。
 「!?」
 スズの身体から突然火柱が上がった。
 「す……スズ!?」
 トケイは目の前で燃えるスズに動揺していた。
 「馬鹿ね。こっち。」
 スズは何故かトケイのすぐ後ろにいた。
 「スズ……。」
 「糸縛りの術ね。糸で縛ってある程度動けなくして後は催眠。こんなのきっちゃえば動けるよ。」
 スズは持っていた小刀で糸を切った。とたんにトケイの身体が軽くなった。催眠術でかなしばりの状態にされていたらしい。
 「トケイ、ぼうっとしてないでさっさと飛んで!」
 スズの言葉にトケイは慌ててウィングを広げ空に飛びあがった。
 トケイはスズを抱きかかえる。かなり上まで飛び、下を見下ろした。
 サスケはこちらをじっと見ていた。
 「バレてたのね……。わたしの火遁(かとん)……。」
 「この高さならつたうものも何もないし、奴も追ってこれない。それより、スズ、大丈夫?」
 「大丈夫よ。最初の爆発とその次の爆発でかすり傷を負っただけ。後の攻撃は全部防いだよ。逃げやすくするためにわざとボロボロのフリをしただけ。それよりもこれじゃあ、下に降りられないね……。」
 スズは呆れた顔でトケイを見つめる。
 「でもここだったらやつも来れないし安心じゃない?」
 トケイは相変わらずの無表情でスズを見返した。
 「馬鹿ねー……。これじゃあ、わたし達、一歩も動けないよ。サスケはわたし達が邪魔をしなければいいわけだから……これ、ハメられたんだよ……。」
 スズが再びため息をついたのとトケイが「なるほど」とつぶやいた声が重なった。


 更夜はあっさりと大会に優勝した。
 「おめでとうございます!これが優勝賞品です!」
 司会の女性から更夜は古そうな縦笛を受け取った。
 「まさか勝てるとは思いませんでした。とても嬉しいです。」
 更夜は心底嬉しそうな顔でギャラリーに手を振った。ギャラリーの歓声が響く。
 しかし、平和な時もすぐに終わった。
 「な、なんだ!」
 ギャラリーの誰かが叫んだ。刹那、シャンデリアの明かりが落ち、あたりは急に真っ暗になった。歓喜の声を上げていたギャラリー達は次第に騒ぎはじめ、動揺と不安があたり一帯を包む。
 ……来たな……。
 更夜はさっと身体を低くし、何かをかわした。更夜は強く目を瞑り、すぐに目を開いた。
 いくら忍でも明るい所から急に暗くなると目が慣れない。こういう時は目をすぐに閉じ、すぐに開けると夜目の訓練をしている者ならば見えるようになる。
 ……奇襲は失敗したな。
 更夜の背後に人の気配がした。気配はゆらりと揺れ消えると更夜の下から突然、拳が現れた。
 更夜は素早く後ろに退きかわした。
 今度は真横から気配が消え、鋭い風が首元で唸りを上げた。更夜は前かがみになり紙一重でかわした。
 ……今のは刃物だな。俺の首を狙ってた。
 周りのギャラリーは突然、明かりが消えた事で不安が大きくなっていた。慌てて逃げる者、戸惑ってその場にいる者と様々だ。
 更夜はまわりが見えているはずだが襲ってきている者だけは見えない。更夜の視界に映らないように襲ってきているようだ。
 更夜は腰に差している刀を抜こうとしたがなぜか抜けなかった。
 ……っち……糸縛りか……
 更夜は刀に巻きついている糸を断ち切った。その隙を突き、手裏剣が更夜の肩を深く切り裂いた。
 「……っ。」
 ……怯んだら負ける。
 更夜は何事もなかったかのように刀を抜いた。
 「さすがだなァ。殺せそうで殺せんよ。」
 「サスケか。」
 「その笛、渡してくれんかな?」
 サスケの声だけが聞こえた。ふと気配がまた急に下から漂う。サスケはそのまま小刀で薙ぎ払い、更夜の首を狙った。
 ……俺を殺す気か……。
 更夜は少し退くと刀を振り下ろした。何かを捉えた気はしたが斬った感じではなかった。
 ……かなり速い……。
 刀がサスケの小刀とぶつかった。サスケの目と更夜の目がはじめて合った。
 「ここではお互い派手な事はできんはずだ。サスケ。」
 「暗殺する予定だったんだがなァ……。もうここまで来たら失敗かねェ。」
 「……だな。」
 更夜はもうサスケを視界に捉えていた。
 「ああ、一つ、お仲間さんの女忍、今どうなってるか知りたくねぃか?」
 「……。」
 わずかに更夜の気が乱れた。その一瞬の隙を突き、サスケは更夜の首を小刀で凪いだ。
 更夜は咄嗟にのけ反り斬撃をかわした。
 「……っ。」
 しかし更夜の首からは血が滲んでいた。完全に避けきれなかったようだ。
 「あの冷酷な鷹であるはずのあんたが気を乱されるとは珍しいもんみたよォ、ワシはァ。」
 更夜はまた消えてしまったサスケを気配だけで追い、刀を振りかぶった。サスケは横に飛んでかわした。
 「それからなァ、芸術神の方はさらわれちまったよォ。」
 サスケはにやりと笑い、また気が乱れた更夜から笛を奪おうとした。
 更夜は手を斬り裂こうとしたサスケの腕を取ると膝でサスケの腹に打撃を加えた。そのまま、サスケの腹を再び深く蹴りつけた。サスケは一瞬苦しそうに呻いたが再び更夜と距離をとった。
 「そう簡単に渡さん。」
 「怒っているのかィ?忍に守る者はいない方がいぃ。あんたもわかってんだろうが。利用されんだけよォ。あんたもそうやって生きてきたんだろうが。」
 サスケは再び更夜の首を狙う。更夜の視界に炎が突然現れた。更夜が炎に囚われている間、サスケは更夜の首を思い切り蹴り飛ばした。
 「……っ!」
 更夜は呻くと膝を床についた。
 「落ちなかったかィ……。」
 「げほ……はあ……はあ……。」
 一瞬息ができなくなった更夜は肩で息をし、呼吸を整えていた。
 「あんたはなァ、凄い才能を持っているんだィ。忍は天職だと思うがなァ。ワシは。」
 「……この職を良いと感じた事はない。……最悪だ。」
 「凄い才能を持ってて何を言うかィ。他の忍もなるべくあんたとは戦いたくないんだろうよォ。」
 サスケはケラケラと笑う。
 「……じゃあ襲ってくるな。」
 「それはできねェなァ。戦いたくはねィが仕事なら仕方ねェい。もう一つ教えとこかね。この世界に入り込んだ忍はあんたんとこの娘を覗いて皆甲賀者だァよ。」
 「いらん情報だな。」
 更夜とサスケは再びぶつかり合った。

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ゆめみ時…1夜を生きるもの達5
 「はーい。では予選を通過した六人の最終決戦を行います。」
 マイクを持った女性が楽しそうに声を上げた。
 お城の内部、シャンデリアが眩しい大きなホールで味覚大会が開かれていた。床は赤い絨毯がひかれ、白いテーブルクロスが高級そうな長テーブルにかぶっている。椅子は金色をしていて高級感あふれているが忍からすると眩しすぎるようだ。
 その長テーブルに六人の予選通過者が座っていた。その内の一人は更夜だ。更夜はライが色々やっている間に予選を通過していた。忍ではなさそうな残りの五人は自信を持ち、運ばれてくる料理を待っている。着物で座っているのは更夜だけではなく、ちらほらといた。まわりにはギャラリーも多く、応援する声がしきりに聞こえてくる。ギャラリーの服装もまちまちだ。洋服の人もいれば着物の人もいる。服装は自由らしい。
 「……。」
 更夜はしきりにまわりを警戒していた。
 まわりは嬉々としている。場に合せて更夜も楽しそうにふるまっていた。
 やがて料理が運ばれてきた。黒い椀にお吸い物が入れられていた。
 ……次はこれをあてればいいんだな。
 更夜が箸を持ち上げた刹那、クナイが飛んできた。更夜はそれを箸で防いだ。そのままクナイを床に落とす。
 司会をしていた女性がすかさず声をかけてきた。
 「大丈夫ですか?」
 「ええ。問題ありません。ごめんなさい。お箸が割れていたので変えてもらえませんか?」
 更夜は紳士的に微笑むと折れた箸を女性に渡した。
 「割れていましたか!大変申し訳ありませんでした。今、変えてきますね。」
 女性は顔を青くすると慌てて箸を取りに行った。
 ……観客、司会は気がついていない。クナイは観客がいる部分から投げられた。
 更夜は鋭い瞳で人影を探す。一瞬、黒い影が動いた。更夜はすかさず、下に落としたクナイを拾い上げ、影に向かい投げた。
 当たったかどうかはわからないが影は消えた。
 ……俺を狙う奴は誰だ……。サスケか?
 司会の女性がおずおずと箸を持って来た。
 「ご迷惑をおかけいたしました。」
 「いえ。こちらこそお手数をおかけいたしました。」
 更夜は柔和に笑い、小さく頭を下げた。女性は更夜の態度が気に入ったのか頬を赤らめると微笑みながら去って行った。
 ……さて。
 更夜は吸い物を口に含む。またクナイが飛んできた。更夜は椅子に座ったまま少しだけ身体を動かし、クナイを避けた。
 ……またか。俺が避けても影縫いをするつもりだったか。
 更夜は後ろに突き刺さるクナイをちらりと見た。更夜が身体ごと動いたのでクナイは更夜の影に刺さる事はなかった。
 影縫いは影を縫いつける忍術。術にかかればその者はその場から動けなくなってしまう。
 ……まったくスズ達は何をしている……。
 更夜はあたりに気を配りながら入っている物を紙に書いていった。


 「芸術神……絵括神ライはどこにいるんだ?」
 茶髪の短い髪をオールバックのようにしている男がスズを見据え冷たく声を発する。瞳は冷徹で鋭い。茶色のダウンジャケットのポケットに手を入れている。
 「あんたもずいぶん、どす黒い目をしているんだね。誰だか知らないけど。」
 スズは今、子供の姿になっている。子供の姿の方が身軽に動けるからだ。
 ここは城の外、城門よりは少し離れている場所だ。暗闇の中だがお互い相手をハッキリ見ていた。
 スズは突然、この謎な男に襲われた。
 「いないよ。ここにはね。」
 スズはにやりと相手を見て笑った。
 「そうかよ。やってもいいがお前は負ける。」
 そうつぶやいた男は突然スズの前から消えた。リーンリーンとどこからか鈴の音が聞こえてきた。
 ……鈴の音?
 「!」
 気がつくと男はスズのすぐ後ろに立っていた。風を凪ぐような音が聞こえ、スズは身体を前かがみにした。スズの頭を何かが滑るように通り過ぎて行った。スズは慌てて男から距離を取る。
 ……今のは回し蹴りだね……。女の子の顔目がけてって酷い男。
 ふと上を見上げると何本ものクナイが同時に降ってきた。スズはそれらを軽く避ける。
 ……強い……それに速い!
 スズはまた後ろをとられていた。今度は横に飛んで逃げようとしていた刹那、スズの眼下に男の髪が映った。
 ……いつの間に!前に?
 スズの後ろから身体を低くし、スズの視界に入らない下から前にまわったようだ。
 スズは顎を狙ってきた男の拳を掌で防ぐ。そしてまた大きく距離を取った。
 ……っち……右手で防がなきゃ危なかった。腕の骨……いったかな……。
 スズは身体を低くし、なるべく高身長の男の視界に入らないように動いた。四つ身分身を使いながらクナイを投げる。小刀を右手に持ち男の隙を狙う。
 スズは高速で動きながら小刀を投げつける。
 ……傀儡の術……
 スズの小刀はまるで生き物のようにあちらこちらに動き出した。小刀に糸を巻きつけ、あたりの木などに糸を引っ掛けて動かす術だ。繊細な指の動きが必要となる。
 ……焔……
 動き出した小刀に突然火がついた。男は変則で動き出した小刀を避け、スズが投げる手裏剣も避けている。
 ……これでもう一つの小刀で奴の首を取る。
 スズは四つ身で手裏剣を投げつつ男の背後に移動した。男は小刀を避ける事で精一杯だ。
 ……もらった。
 スズがもう一つ持っていた小刀を懐から出すと男の首を狙って飛び上がった。
 刹那、男はスズとは逆方向に手裏剣を投げた。小刀は急に力を失い、燃えながら地面に落ちた。男はそれを確認した後、首を狙うスズに振り向き、スズの脇腹を思い切り蹴りつけた。
 「うぐっ……。」
 スズは遠くに飛ばされ木に激突した。
 「良い線はいっていたな。闇夜に傀儡の術かね。炎でメカクシも同時に……。確かに夜だと糸は見えにくく、炎は眩しい。お前の所は居酒屋だったな。酒を使って火を起こしたのか。」
 男は無表情でスズを見据えた。
 ……ぐうたら言ってると痛い目見るよ……。
 スズは痛みに顔をしかめながらふふっと笑った。そして指をわずかに動かす。
 「!」
 男は何かに勘づきさっと横に避ける。横に避けたが頬からは血が滴っていた。ふと気がつくと男の目の前には小刀が刺さっていた。先程スズが持っていた小刀だ。スズは懐に忍ばせていた小刀にも糸を巻きつけており、傀儡の術をもう一度行ったのだ。
 「残念だね。あんたはもう動けない。」
 ……影縫いの術……
 スズは脇腹を押さえフラフラと立ち上がる。先程の燃えている小刀で男には影ができていた。その影に懐から出した小刀が刺さっていた。
 「なるほど。お前はかなりできる忍だよ。でも幻覚にかかったな。」
 ふと声が後ろから聞こえた。
 「!?」
 男は動けないはずだがその場にいなかった。幻のように溶けて消え、その場には太い木の幹が一本刺さっているのみだった。
 ……幻覚!
 男は後ろからスズの首を絞めつけた。
 「お前は動けない。抵抗の色をなくす。鈴の音がだんだんと心地よくなってくる。」
 リーンリーンとどこからか鈴の音が聞こえる。
 ……っち……しくったね……こいつ……最初からわたしに催眠術と幻覚を……。
 「鈴の音が心地いいだろ。この心地よい鈴の音を聞いた段階でお前はもう終わってたんだ。これ、効かない奴のが多いんだけどな。」
 スズの身体はもう動かない。動き方を忘れてしまったかのようだった。
 ……畜生……眠い。寝たら完全に催眠にかかる……。鈴は……どこから……鳴ってる?
 スズは動かない身体で鈴の位置を探す。
 ……鈴はこんなに鳴らない……動物かなんかにくくりつけているんだね……。
 スズは暗くなっていく瞳で音を探す。草むらから黒い影が動いたのが視界に映った。
 ……そこだ。
 スズは先程男の影に差した小刀を動かした。指を使い小刀に巻きつけた糸を操る。鈴の音が突然止んだ。
 止んだと同時に猫が一匹草むらから顔を出した。巻きつけられた糸がきれている。
 スズが小刀で猫に巻きついていた糸を切り、鈴をはずしてやったのだ。
 鈴の音が聞こえなくなるといままでぼうっとしていたのがウソのように体が軽くなった。
 「やっぱりばれたかね。催眠でしゃべった方が楽だったのにな。こちらもめんどくさくなくていいしな。」
 男はスズの腕を取ったまま地面に押し付けた。
 ……さすがに男相手に力で戦おうとは思わない。このまま関節をはずして逃げるか。
 「無駄だ。」
 男が冷たい声を発した。急にスズの身体は動かなくなった。
 気がつくと足首と手首に蛇が巻きついていた。男はスズを仰向けにさせる。
 ……動物を使う……忍……。
 「心配しなくていい。こいつは俺の命令でしか動かないから。噛まれたら死ぬけどな。さあて、もう一度言う。芸術神ライはどこだ?」
 「ふん。忍相手に『これ』やるの?時間の無駄になるよ。」
 「さあ……どうだか。」
 男は冷酷な表情のままスズの首筋からそっと胸に手を伸ばす。
 「……っ。」
 スズに少しだけ怯えが浮かんだ。
 「なんだ?女忍は色香を使えるんだろう?……なんか過去にトラウマでもあるのかね?え?」
 「ふふ……馬鹿な男。何をされてもしゃべらないわよ。忍だもの。」
 スズは男に笑ってみせた。男は冷酷に笑うとスズの顔を思い切り殴りつけた。
 「舐められたもんだな。」
 「ほんと……容赦ないわね……。わたし、一応女の子なんだけど。」
 スズは別段痛がるそぶりも見せず男を見据えた。
 「まあ、お前が忍じゃなかったら俺は手をあげないがね。さすがに女に拷問はしたくないよ。まあ、ビジネスとプライベートの違いさ。」
 「あーそう。もうどうでもいいわ。好きにしなさいよ。」
 「忍は皆こうだからイヤなんだよ……。まずは腕の一本からいってみるか。」
 男は無表情のままスズの腕に手をかけた。


 「な、何しているんですか!」
 男がスズの腕に手をかけた時、女の叫び声が聞こえた。
 「ん?」
 男はすぐ近くにいた女をじろりと睨む。
 「はあ……あんた、来ちゃダメよ……。今は特に……。」
 スズは金髪の女を見上げながら大きくため息をついた。
 「スズちゃん!」
 「ん?お前は……居酒屋の……。」
 金髪の女はライだった。男はライをじっと見つめ、目を見開いた。
 「なるほど。あんたが居酒屋に入り込んだ男だったのね。変装してたからわかんなかった。」
 スズの鋭い質問に男は顔を曇らせた。
 「っち。口が滑ったな……。しかし、この子……忍じゃないのか……。」
 男はそれに動揺していたようだった。
 「あんたねー、この子に軽い火傷を負わせたのよー。忍でもなんでもないこの子にー。」
 スズはやれやれとため息をついた。
 「スズちゃん!大丈夫!ちょっと、あ、あなた、何しているんですか!酷い!これ暴行です!レイプです!」
 ライはビクビク怯えながら男の近くに寄る。
 「ひ、人のやる事じゃないです!目を覚ましてください!」
 ライは男をそっと揺すった。
 「う……えーと……そうだねー……。そ、それよりも君の……て、手の傷は大丈夫かな?女の子だし……傷残ってしまったら大変だし……。本当にすまない。知らなかったんだ。忍だと思ってた。」
 男はかなり動揺しているようだ。目があちこちに動いている。
 ……わたしの顔を思い切り殴って腕まで折ろうとしたこいつがまるで別人ね。敵の忍を人外とでも思ってるのかな。でも……この男、ライが芸術神だって気がついていない……。
 「ねえ、君、芸術神ライを知らないかな?」
 「え?それ私です!」
 男の質問にライは素直に答えた。
 ……ばかーっ!
 スズは心から叫びたい気持ちになった。
 「そうか。君だったのか。ちょっと来てもらうよ。」
 男はすっとスズから離れるとライに近づいた。
 「ちょっ!ちょっと待ちなよ!っちぃ!」
 スズが立ち上がろうとしたが蛇に押さえつけられてしまった。
 「俺も今の主人に雇われているんでね。大丈夫。俺は女の子には暴力は振るわない。優しく扱うさ。同業者は別だけどな。」
 男はスズの方に冷酷な瞳を向けるとライを優しく抱きかかえた。
 「あ、あの……。もしかしてスズちゃんのお友達さんとかでしたか……?」
 「ん?ああ、そんなもんだね。」
 男はそう言うとライに優しく微笑みかけ、その場から忽然と消えた。
 「あんの野郎ォ……。」
 スズのまわりにはもう蛇はいなかった。後をつけようかと思ったがもう見つからず、あたりは静かな闇の中だった。
 「スズ?どうしたの?こんなところで座り込んで。」
 ちょうどタイミングよくトケイが木の影から顔を出した。
 「あ!あんたね!どこ行ってたの!今、大変だったんだから。なんでもっと早く来なかったの!」
 トケイは来て早々、スズに怒りをぶつけられた。トケイはなんだかわからずただ、戸惑っているばかりだった。
 「え?え?僕は一度この世界から出て、ライをとりあえず僕達の家に帰してあげようかなって思って世界から出たんだけどライがいなくなってたからもしかしたらコッチに入れたかなって探していたんだけど。」
 「何わけわかんない事言ってるの!ライ、変な男忍にさらわれちゃったよ!」
 「え?何言ってるかよくわかんないよ。スズ。」
 トケイとスズは噛みあわない会話を始めた。
 「あー、もう……ちょっと落ち着く……。」
 スズは人差し指を立て大きく息を吐いた。
 「スズ……顔少し腫れてるよ?どうしたの?転んだ?」
 「そんなわけないでしょ。殴られたの!すんごい痛かったんだから!」
 「殴られた!?それで僕がもっと早く来ればって言ってたんだね……。敵に襲われたんだ……ごめんね……スズ。僕が来てたら守ってあげられたかもしれないのに。」
 トケイがしゅんと肩を落とす。トケイがあまりに落ち込んでいるのでスズはトケイの肩を叩きながら慰める方向へ言葉を持って行った。
 「それはもう……別にいいよ。それより、ライがその男にさらわれちゃって……。」
 「えーっ!それまずいよ!どっちに行った?」
 「さっき言ったよね!どっち行ったかはわかんない。」
 スズとトケイはがっくりと肩を落とした。


 ……なるほど。ワシになりすましとったのは鵜飼(うかい)マゴロクかぃ。
 サスケは高い木の上でスズとトケイの会話を聞き、ここで起きたことを見ていた。
 ……あやつは誰に雇われてんのかねぇ。んま、ワシはあの笛さえ手に入ればそれでいィんだが。更夜が出てくると最終的に笛を奪いにくくなるから嫌なんだァよ。ワシは。
 ……後、もう一人、何人目のあやつかは知らんが望月チヨメが何故か更夜を狙っているようだがァ、まあ、ワシには関係ない。これで更夜が落ちてくれたらワシは働きやすいんだがなァ。とりあえず、奴らを始末して更夜のコマを減らす。
 サスケはふわりと木から飛び降りた。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

ゆめみ時…1夜を生きるもの達4
 次の日、トケイが指定した時間より少し早い午前三時にライは叩き起こされた。
 「あんたね、だらしなく寝ている場合じゃないよ。」
 「ふ、ふわっ。あ……もう朝?は……はぃいい!」
 ライは寝ぼけているのか大きく謎の返事をした。
 「起きなさいって……。」
 スズは隣で眠っているライを大きく揺する。
 「ん……んん……。あ……おはよー。」
 ライは何度か揺すられてやっと身体を起こした。
 「のんびりしている時間はないよ。早く準備!」
 スズはライの布団を素早く片付けた。またスズが何時に起きていたのかわからなかった。
 「ああ……。う、うん。」
 ライは布団を少し恋しそうに見ていたがすぐに目的を思いだし、スズから借りていた寝間着からいつもの服に着替えた。
 「入るよ。おにぎり作ってきた。」
 トケイが襖ごしに声をかけてきた。
 「はーい。いいわよ。」
 スズが言葉を発した後すぐにトケイが襖を開けた。
 「はい。おにぎり。」
 トケイは眠たそうでもなくいつもと同じでお皿に乗ったおにぎりをスズとライの前に置いた。
 「朝ご飯!おいしそうなおにぎり……。この何も染まっていないきれいな白に正反対の黒い海苔が……。」
 ライはうっとりとおにぎりを見つめていた。
 「ライ、食べるよ。」
 「う、うん。」
 スズに急かされライは慌てておにぎりを受け取る。
 「味覚大会はこのお城でやるみたい。」
 トケイはスマホを取り出すと写真を画面に映した。
 「ふーん。」
 スズはおにぎりを食べながらじっくりと城を観察する。城は西洋風の城であんまり大きくはないが昔からある感じの城だった。この世界を作り上げた人間は西洋美術が好きなようだ。写真のはずだが油絵のように見える。味覚大会を開くくらいなら西洋美術好きの料理人というのもありうる。
 「きれいな写真……。まるで絵みたい。」
 ライはうっとりとスマホの映像を眺めていた。
 「ここに忍がいるんじゃ、なんか不つり合いね。」
 スズはおにぎりを食べ終わるとトケイが持って来たフキンで口元を拭く。
 ライもおにぎりを食べ終わり、一息ついた。
 「入口は一カ所。たぶん、僕がエントリーするために入った扉しかない。そんなに観察してないけど中はちょっと古そう。」
 トケイは腿についているウィングの調子を見ながらつぶやいた。
 「後は行って確認するしかないねー。更夜にはそのまま味覚大会に出てもらってわたし達は襲ってくる怪しい奴らを見つけ、排除。世界自体はけっこう広いみたいだからとりあえず城付近だけよ。」
 スズがビシッとトケイに人差し指を向ける。
 「うん。」
 トケイは大きく頷いた。
 しばらく準備に専念したライ達はまだ暗い空の下、外へ出た。最後に外に出てきたのは更夜だった。
 「よし。では行くぞ。ライ、あなたはトケイに連れて行ってもらえ。俺達は走って行く。」
 更夜は隣で準備体操をしているスズに目を向けつつ指示を出した。
 「は、はい。」
 「では。」
 ライの返答に一言返した更夜は地面を軽く蹴った。
 「……っ!?」
 刹那、風がライの頬をかすめ、気がつくとそこにトケイ以外誰もいなかった。
 「もう行っちゃったんだね。じゃあ、僕達も行こうか?」
 トケイが呑気に声を上げた。
 「スズちゃんもいなくなっちゃった……。」
 「彼らは忍で魂だから、消えるようにいなくなっちゃうんだ。」
 「へ、へえ……。」
 ライが驚きつつ返答をした時、トケイが背中を向けた。
 「僕がおぶっていくから乗って。」
 「乗ってって……。」
 ライが戸惑っているとトケイから「はやくー。」と声が上がったのでしかたなしに背中に手をかけた。
 「よっと。」
 トケイは軽々とライを背負った。
 「重くない?」
 「へーき。」
 ライは少し顔を赤らめてトケイに聞いたがトケイは軽く一言言ったのみだった。
 急に腿の付け根についていたウィングが半分開き、靴の裏から爆風が噴き出した。
 「わーっ!」
 ライは叫びつつ、目を強くつむった。風が縦に流れていく。目をつむっていてもトケイが勢いよく上昇している事がわかった。
 「いきなりでごめん。もう大丈夫だよ。」
 静かにトケイの声が聞こえた。風はもうない。ライは恐る恐る目を開いた。
 「!」
 ライは目を見開いて驚いた。自分達がいた場所が遥か下にあり、あたりを見回すと沢山の世界がネガフィルムのように帯状になり絡まっている。大雪の世界の隣は常夏の海の世界と様々だ。
 「弐の世界はこんな感じ。ここが真相の世界かもわからない。今見えているこの世界は嘘で固められた妄想の世界かもしれない。生きている者が創り出す心の世界は創った本人しかわからないんだ。今見えている一つ一つの世界が本当の世界の人もいるしこの世界の中に世界を隠している人もいる。だから僕もわからない。」
 トケイは話しながらウィングを最大限広げ、バランスをとる。
 「……。」
 「この一つ一つの世界の中に霊魂は住んでいるんだ。人の心の中でその人を見守りながらね。」
 「心を持つ者にはそれぞれの世界がある……。神の心もここにある?」
 ライの質問にトケイは軽く頷いた。
 「あるよ。神も夢をみるから。」
 トケイはつぶやきながらゆるゆると進む。場所はわかっているようなのでライは任せる事にした。
 同じような風景がしばらく続いた。ずっと風景を眺めていたはずなのに知らぬ間に帯状の世界はなくなっていた。真っ暗な空間に変わり、キラキラと輝く星が眩しくトケイとライを照らす。
 「宇宙みたい……。きれい。」
 「案外壱の世界の宇宙だったりして。」
 「ええ!」
 トケイがぼそりと無表情でつぶやいたのでライは急にドキドキしてきた。
 ……次元が違いすぎるけど……宇宙だったら怖い……。
 「ん?」
 トケイが突然声を上げた。
 「な、何?」
 「ライ、君、もしかしてこの世界に入れない?」
 「な、何?何?」
 トケイは真黒な空間に吸い込まれるように入って行くがライは何か壁が目の前に立ちはだかっているような気がして進めなかった。もう二人は浮いた状態でまるで宇宙の中にいるようにふわふわとしている。トケイと手を繋ぎ合って浮いているがトケイの下半身はもう黒い空間に入り込んでいて見えない。
 「そっか。ライは魂でもなければ僕のようにこの世界に存在する神でもないんだ。ライは壱の世界の神。芸術神は上辺の弐しか出せない。あ、僕達がいたあの世界は少し特殊でさ、弐の世界なんだけどまた別っぽいんだ。だから君は入ってこれたんだね。」
 「そ、そんな事はいいんだけど、わ、私はどうなるの?」
 ライは吸い込まれて行くトケイに向かい、困惑した声で叫んだ。
 「まいったなあ……。こう引力みたいに吸われるともうそっちに出られない。……ごめん。ちょっと待ってて。」
 無表情の顔が最後でトケイはライの前から姿を消した。
 「うわーん!こんなところで一人にしないでー!誰か―!」
 ライはワンワン泣きながらトケイが吸い込まれてしまった空間を叩く。その空間はライにはただの黒い壁にしか見えなかった。
 ―助けて……―
 「!?」
 ライがひたすら壁を叩いているとどこから声がしてきた。
 ―助けてー
 空耳かとも思ったが確かに誰かが助けを求めていた。
 「だ、誰?」
 ―助けて……。締め切りに……間に合わないよー……―
 声はこの暗い空間から聞こえた。
 刹那、ライの目に眩しい光が入り、あたりは黒色から真っ白に変わった。
 「!」
 ライはふと気がつくと見知らぬ空間に立っていた。あたりは真っ白だが目の前に一枚の画用紙が浮いていた。その画用紙の前に力なく女性が座っている。
 「……。」
 ライは不思議とこの時、自分のすべきことがわかっていた。これは芸術神の本能なのか……。それはわからない。ライは無言でその女性に近づいていく。
 「何にも思い浮かばない……。締め切り……明後日なのよ……。どうするのよ。」
 若い女性は一枚の画用紙の前で苦しんでいた。
 「ねえ、私が見ててあげるから思ったままに描いてみなよ。」
 ライがそっと後ろから声をかけた。女性は驚きの表情でこちらを振り向いた。目にはクマができており、悩み、疲れた顔をしている。
 「……。」
 女性の手には知らぬ間に鉛筆が握られていた。ふと横を見るとその女性の横には水彩絵の具も散らばっていた。

 
 私は『クッキングカラー』という少女マンガを描いている。いつも扉絵に使われるものは私が描くおいしそうな料理の絵。毎回カラーで描いていた。アンケートでもおいしそう、きれい、作ってみたいなどの評価をもらっている。はじめは私自身、料理好きという事もあり美術的にカラフルにおいしそうに料理を描いていたが最近はマンネリ化して描いていても楽しくない。きれいでカラフルでおいしそうな料理を描かなければと必死になればなるほど私の作画は酷くなっていく。
 苦肉の策で美術館巡りをし、色彩の本なども読んだが読めば読むほど同じようなものになっていく。料理好きだった私がいつの間に料理がトラウマになり、好きだった絵はただの仕事の道具に成り果てた。そりゃあ、仕事なんだからしかたないけど、あの時の方が楽しかったな。
 ……自分で作った料理を描写していたあの時代がなつかしい……。


 「それで色彩の勉強している最中に眠ってしまったんだね……。」
 ライはそっとつぶやいた。
 「どうしたらいいの……。今日のお昼にダメ元で神社行ってきたの。なんか漫画の神かなんかが降りてきたらいいのになあって。」
 女性は鉛筆を握りながら後ろに立つライを見上げる。
 「あちゃー……、あなたが行った神社、調べると食物神の神社だね……。いっぱいご飯は食べられるようになると思うけど……。」
 「食物神?ああ、なんだかお腹が空いてきた。おいしいラーメン食べたい。」
 「ラーメン、いいね。やっぱりラーメンはネギが入っていた方がいいな。色合いもきれいだし、あとはナルト、茶色のスープに白色とピンクって映えるよ。それとアツアツな白い湯気。」
 ライは今、女性が頭に思い浮かべているラーメンの中身を言っているだけだ。
 「……!」
 「後……スープは上から当たっている光も入れるとよりおいしそうにみえるし色合いもきれいになるよね。」
 「……!」
 ライは別に絵を描いてあげるわけではない。その人が想像している奥深くの物を外に引っ張ってあげるだけだ。それをひらめきと呼んでいる。
 「やっぱり、描いてて楽しい方がいいよ。シンプルな料理でもあなたが思ったように描けばきっと素敵な絵になる。今のそのおいしそうなラーメン、絵にしてみてよ。あなたが今、食べたいと思うラーメン、私に見せて。」
 ライの言葉を聞き、女性は少女のように顔を輝かせ頷いた。彼女は夢中になって絵を描きながらすっと消えて行った。
 「……あれ?消えちゃった……。壱に帰ったのかな。」
 ライは真っ白な空間の中、ただ佇んでいた。


 「はっ。夢!?」
 私は目を覚ました。机に突っ伏して眠ってしまっていたらしい。机の上は相変わらず散らかっている。窓から外を見るとまだ暗い。夜中のようだ。絵具やら、コミックマーカーやらが散乱している机から身体を起こし、広げられた紙を見つめる。普段、漫画はパソコンで描いているがこの扉絵だけはパソコンに頼らず描きたかった。
 ……ラーメン食べたいなー……。
 おいしそうなラーメンが目の前にある夢を見た気がする。シンプルだったかかなりおいしそうだった。ラーメンがやたら輝いて見えた。今ならおいしそうなラーメンが描けそうな気がする。この空腹の状態で一つ、食べたいラーメンを描いてからラーメン食べにいこうかな。
夢で誰かが一緒に隣でラーメンをすすってたような気がするけど誰だったんだろう。友達?
 なんかその子がスープにうまく光を当てるととか言ってたな。


 人間が見る夢なんてこんなものだ。実際は絵を描いていたのに都合よく変換され『誰かとラーメンを食べていた』に変わっていた。
 「まあ、それでもいいんだけど。」
 ライはふうとため息をついた。気がつくと白い空間は消え、西洋画のような世界にいた。
 ……中に入れたっぽい。この人、コックさんでも絵描きさんでもなかったんだ。料理好きの漫画家さん。ただ、西洋画とかも勉強していたから世界がこんなふうに……。
 ライはファンタジー風の世界を眺めながら歩く。さすが絵を描いているだけあり、風景は色彩豊かだ。
 ……更夜様とかがいる所はどこなんだろう?
 あたりが暗いのでライは怖くなり身を縮ませた。木はまるで描いたかのように風に揺れる。何かが出そうな暗い道をライは進んだ。かろうじてあたりが見えたのは空に眩しい月が浮いているからだ。
 ……あの月がなかったら私、歩けなかったよぅ……。
 そんな事を思っていると大きなお城がうっすらと見えてきた。
 とりあえず、ライは目の前に見えるお城に向かい足を動かす事にした。

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ゆめみ時…1夜を生きるもの達3
そしてすぐにライの護身修行がはじまった。スズとトケイは現在、味覚大会の真似事をして遊んでいる。スズの「後はカツオダシ!」という声が遠くから聞こえてきた。トケイが何を作ったかはわからないがキッチンで食事をとっているようだ。
「あなたには落ち着きが足りない。左手の人差し指を立て右手でそれを握り、さらに右手の人差し指を立たせて目を閉じてみなさい。」
 ライは更夜が見せた手本通りに人差し指を立てた。
 ……あっ、これって……よく忍者がやる……。ニンニン!だね!漫画とかだとここからドロンと凄い技が……。
 「それで心の平穏を保て。」
 「!?」
 更夜の発言にライは驚いて目を見開いた。
 「なんだ。」
 「ドロンと術が出るのに平穏を!?」
 更夜はライの質問に顔をしかめた。
 「何を言っている。これは単なる精神統一だ。動揺する事が一番望ましくない。」
 「は、はあ……これって……本当の忍さん達は精神統一の為にやってたんですね……。ナントカの術!ドロン!みたいなのを想像してました……。」
 戸惑っているライに更夜はふうとため息をついた。
 「何を言っているのかよくわからんが動揺した時、戸惑った時などは一度これで心を落ち着かせる事だ。そうするとおのずと周りも見えてくる。」
 「は、はい。」
 更夜の通りにライは目を閉じ、人差し指を握ってみた。なんとなくだが心が落ち着いた気がする。
 「血反吐を吐くような事を今、やったところで何も身につかない。それに俺はあまり忍術を見せたくない。だからあなたにはこれだけしか教えられない。」
 更夜は表情なくつぶやいた。
 「更夜様は血反吐を吐くような修行をしてきたのですか?」
 「まあな。何度か死にかけたこともある。幼少の頃から永遠と人を殺す術、自身を守る術を教え込まれていた。縄抜けの術では関節をうまくはずせなくて縄を抜ける事ができず……たまたま襲ってきたクマに食われそうになったな。懐かしい記憶だ。」
 更夜が平然と言葉を発しているのでライは身体を震わせた。
 「子供の時からそんな……危ない事を……。」
 「まあ……そうだな。……俺の話をしても何も出ない。時間の無駄だ。これから体術を教える。身を守るためのな。」
 「体術!?あの……私、まったくできません……。」
 「知っている。あなたには一つだけ覚えてもらう。」
 更夜はそう言うとライを鋭く睨みつけた。威圧がライを襲い、ライはガクガクと身体を震わせた。
 「ひ、ひい!」
 「これだ。」
 更夜は威圧を解いた。
 「これだって……なんですか?うう……。」
 ライは涙目になりながら更夜を仰ぐ。
 「まあ、ある意味幻術に近いができる雰囲気を出す。これで相手の隙をつく。」
 「い、インチキ……ですか?」
 「今から体術を教えても身につかんだろう。あなたには身を守ってもらわねばならない。敵との衝突はできるだけ避ける。」
 ライがポカンと口を開けている中、更夜は淡々としゃべる。
 「は、はい……ごもっともです……。」
 「自己暗示だ。できると思い込め。相手をまっすぐ見つめ、気を乱すな。……やってみなさい。」
 更夜が静かに言葉を発した。
 「そんな……無茶苦茶な……。」
ライはしかたなくやる事にした。とりあえず恐々更夜を見据えてみる。
 「まったくなっておらんな。もっと自信を持て。」
 「こんなのわかんないですよ……。」
 「演技と同じだ。では俺が逆をやるからあなたは自信を持って俺を睨みつけろ。」
 更夜はそう発言した刹那、急変した。弱々しい瞳でライを見つめる。口元にはわずかに恐怖心が出ていた。体を震わせ怯えたようにライを見上げる。
 ……え?さっきと雰囲気が……これが更夜様?まるで別人……。すごい!これが演劇か……。
 「ぶ、分野外ですが……頑張ります!えーと!わ、私がお前達をけちょんけちょんにしてやるんだからーっ!」
 ライは意気揚々と言い放った。
 「……はあ……いいか。しゃべるな……。素人感が丸見えだぞ。無言で威圧をかけろ。」
 「は……はい……。少し前の美少女アニメのセリフでノリに乗ってみようかと思ったのですが……。」
 「わけわからん事を言っていないでもう一度だ。」
 「は、はい。」
 更夜が再び鋭い瞳を向けてきたのでライは青い顔で頷いた。
 後はひたすらこれの練習と精神統一に時間を費やした。しばらくしたらトケイとスズが戻ってきた。
 「なあに?まだやってんの?」
 スズが呆れた顔でライと更夜に目を向けた。
 「ふぅうううう。」
 ライは大きく息を吸い、鋭くスズを睨みつけた。
 「いっ!?」
 スズはライから出る謎の威圧に怯え、後ずさりをしていた。
 「ふう……。スズちゃん!どうかな?」
 「ど、どうかなって何が?」
 突然、威圧が消え、笑みを浮かべたライにスズは戸惑いの声を上げた。
 「威圧!かなり練習したんだよ。」
 「なんかすごいの出てたわね……。まさか、更夜、この子を傷物に……。」
 スズが青い顔で更夜を仰いだ。
 「馬鹿な事を言うな。俺は忍以外の者に残虐な事はせん。……さすが芸術神、感覚を掴むのが早い。」
 更夜の言葉を聞いたトケイがふーんと息を漏らした。
 「じゃあ、更夜はライを忍者って思わなくなったんだ。」
 「ああ。これが忍だったら勘弁だな。演技をしている雰囲気でもない。本物の一般神だな。」
 更夜は深くため息をついた。
 「あ、更夜、また試作作ってみたんだけど……プリン。」
 トケイはお皿に乗っかっているプリンを更夜に差し出した。
 「っむ。」
 更夜はトケイからプリンを受け取るとついていたスプーンでプリンをすくい取り、一口食べた。
 「ふむ。」
 「なんて言うか……トケイって甘いモノ作るのうますぎだわ。女子力高いわねー。」
 スズがプリンを食べている更夜を眺めながら呆れた声を上げた。
 「……卵黄と牛の乳、砂糖に洋酒……だな。それと……軽くバターと塩か。うまいな。よし追加だ。」
 「うわー。型に塗っただけのバターまで当てられた。」
 トケイはどこか悔しがっていた。もしかすると更夜と勝負しているのかもしれない。
 「あの……卵とかって弐の世界は手に入るの?」
 ライの質問にトケイは首を傾げて答えた。
 「うん。普通だよ?」
 トケイをスズが軽やかに押しのけた。
 「普通じゃないのよ。トケイ。気になるのも無理ないわ。弐の世界はね、動物を食べる事はないわ。卵や魚、肉なんてものは偽物。弐の世界には存在しない。幻。わたし達は幻を食べているの。だけど幻をその場に出せるのが弐の世界。ここは元々想像とか妄想とかの世界もあるからね。というかわたし達は魂だから別に食べなくてもいいの。食べる事はただの娯楽。」
 「へぇ……つまりはバーチャル世界みたいなものなんだね?」
 ライはフムフムと納得したがスズは首を傾げていた。
 「まあ、なんでも良いがそろそろ俺は風呂に入る。」
 更夜は一言そう言うと部屋を出て行った。
 「ああ、そういえばお風呂沸かしておいたよ!」
 トケイが慌てて叫ぶと更夜は背中越しで「すまんな。」とつぶやき去って行った。
 「まーた、あのじいさんはお風呂。ほんと、決まった時間に入るのよねー。」
 「スズちゃん、お風呂ってどこにあるの?私も昨日入ってないから借りてもいい?」
 「いいわよ。一緒に入る?」
 「え!一緒に?」
 スズが楽しそうにライを見つめる。ライは恥ずかしくなり顔を赤く染めた。
 「嫌?」
 「嫌じゃないよ!うん。一緒に入ろ!」
 ライとスズはお互い微笑みあった。
 「……あの……なんだか僕が居づらいんだけど……。」
 トケイは隅の方でぼそりとつぶやいた。
 「ごめん。ごめん。さすがにあんたと一緒は無理あるからね。」
 スズは小さく笑うと大きく伸びをした。


 その日も普通に終わった。サスケとやらが襲ってくる気配はなかった。居酒屋は普通に開店し、ライは料理の盛り付けに力を入れ、夢中になっている内に終わってしまっていた。
 明日早い事もあり、閉店を少し更夜が早めたようだった。
 「普通に終わったね……。ちょっとドキドキしてたよ。スズちゃん。」
 「襲ってくる事はまずないわ。わたしも目を光らせていたからね。ちゃんと明日の事の情報収集もしたわよ。ふふふ。」
 スズはライの肩を叩きながらクスクスと笑った。
 「す、すごいね……。私なんて盛り付けに命燃やし過ぎたよ。」
 ライとスズは今、風呂に入っている。風呂はなぜか露天風呂で満天の星空が頭上でキラキラと輝いていた。風呂はかなり広い。
 湯船につかりながらライは檜風呂の淵に手をかける。
 「ふう……気持ちいい……。」
 「さっき身体洗ったからわかると思うけど洗い場は中にあるの。ちょっと安心するでしょ?」
 スズはのほほんとしているライに微笑んだ。
 「うん。このお風呂も弐の世界だから幻なの?」
 「このお風呂もこの家も幻とは少し違うかなー。ここはね、壱の世界の時神の内の未来神が想像した世界で家とかお風呂とか外に沢山咲いている花は時神過去神が想像して作ってくれたもの。ちょっと彼らとは色々あってね。わたしと更夜も弐の世界の時神になったのよ。トケイは元々この世界にいた時神なんだけどねー。」
 「へ、へえ……そうだったんだ。」
 ライには突拍子もない話だったので相槌を打つことで精一杯だった。
 「……っ!」
 突然、スズが立ちあがった。
 「!?どうしたの?スズちゃん。」
 ライが声を上げるのと更夜が入ってくるのが同時だった。
 「え……こ、更夜様!は……あうう。」
 ライは顔を真っ赤にして慌てて手拭いを伸ばし、体を隠す。
 更夜とスズはまったく同じ方向を凝視している。
 「はーああ、バレてしまったかいねぇ。」
 ふと目の前に突然、幼そうな少年が出現した。家を囲んでいる木の陰に隠れていたらしい。幼そうな少年だが非常に落ち着いており、歳を感じた。
 「何の用だ。サスケ。」
 「サスケ!?」
 スズとライの驚きの声を無視し更夜は目の前に立つ銀髪の少年を睨みつけた。少年は肩にかかりそうな銀髪を払い、闇夜のような黒い瞳を向けニヤリと笑った。
 「別に。味覚大会に出ると聞いてな、おもしろそうだったんであんた達の下見に来ただけよォ。こりゃあ、隠れる所なさすぎて見つかるかァ。ははは!」
 サスケと呼ばれた少年は楽観的に笑った。
 「一度、店の中に入り込んできたのはお前か……?」
 「さあねェ。何のことだか。」
 サスケはケラケラと笑っていた。
 「……。」
 更夜は無言で威圧をかけていた。しかし、サスケにはまるで効いていないようだ。
 「しかし、伊賀者よ、いくら忍とて色香を使う女忍が恥じらいもなく男の前に立つなどあってはならぬ事。」
 サスケは一糸まとわぬ姿で立っているスズに感情なく言葉を発した。
 スズは怯む事なくサスケの動きを注視していた。
 「そっちの娘の方が男を惑わす良い女だァ……。」
 「彼女は忍じゃないよ。触れたら……殺してやるわ。」
 スズは怯えるライをかばうように立った。
 「穏やかじゃねぃなァ。ワシは忍以外に手はあげねぇよォ。利用し、犯し、殺すのは忍だけよォ。あんたもワシの敵にまわったらどうなるかわからないがねぇ。」
 「……っ。」
 サスケの言葉にスズは顔をしかめた。
 「俺達を見に来ただけならこれで帰ってくれないか。迷惑だ。」
 更夜がスズとサスケの間に入り込み、サスケに鋭い声を発した。
 「いんやあ、もう帰るけんど、その前になあ、一つ言っておこうと思うてねぇ。あの笛を狙っとるのはあんたらだけじゃねェい。ワシも狙ってる。ふふ……。できれば出てほしくねぃなァ。では。」
 サスケは不気味な笑みを浮かべながら姿を消した。どうやって消えたかわからないが闇夜に溶けるようにいなくなった。
 「っち……八身(やつみ)で逃げたな……。」
 ライには何も見えなかったが更夜の発言からサスケは八身分身でこの場を去って行ったようだ。
 「更夜、あの男、店に来た奴じゃないね……。」
 「ああ。違うようだ。サスケに注意がいくようにサスケだと思わせたって事だな。店に入って来た奴は俺達をあの大会に出させたいと思っている奴だ。今の話からサスケは俺達には出てほしくなさそうだった。忍の考える事はわからん。嘘かもしれん。」
 更夜がため息をついた刹那、トケイの声が聞こえた。
 「更夜!今、スズとライがお風呂入っているんだよ!入っちゃダメだよ!何やってんの!更夜!ねえ!」
 「すまん。」
 更夜は一言そう言うと脱衣所の方へと向かって行った。
 「ふん。更夜の奴といい、サスケって奴といい、忍は女の裸には絶対流されないんだからね。まあ……女忍自体、男をそうやってたぶらかすのが主な術だから男忍者が克服しているのも仕事上仕方ないけど……やっぱり何か寂しいわよね……男として。」
 スズはため息をつきながらライを見た。
 「……スズちゃん……。」
 ライが驚愕の表情でスズを見つめていた。
 「?……何よ?」
 「し、下着、堂々と服の上に置いてきちゃった……。」
 「別に大丈夫よ。」
 スズが呆れた目でライを見据える。
 「勝負下着履いて来ちゃったの……。真っ赤の奴……すごく目立つ!」
 「ぶっ……あははは!」
 ライが真剣な表情でスズに詰め寄るのでスズは耐えきれなくなり笑った。
 「スズちゃん……笑うなんて酷いよ……。」
 「ごめんごめん。だって勝負下着ってあんた、誰と闘うの?まさか更夜?ふふふふ……もうダメ。更夜と夜の営みするのは危険だって。想像できない……。ふふふふっ。」
 「うう……。すごくかわいかったから知らなくて買ったの。勝負下着だったって後で気がついたけどかわいかったから隠して履こうと思ってて……。」
 ライが顔を真っ赤にして泣きそうな表情だったのでスズは慌ててライに声をかけた。
 「ほんと、ごめん。じゃ、じゃあ、明日も早いし、さっさと出よう?」
 「う……うん。」
 スズとライは脱衣所へ向かった。
 「うえ!?」
 脱衣所に入った刹那、ライが呻くような声を上げた。
 「何やってるのよー……。」
 スズも呆れた声を上げる。真っ赤に黒のレースが入っているショーツをなぜか更夜が持ち上げており、その横でトケイが倒れていた。
 「何をやっているかって俺は落ちていたこれを拾っただけだが。」
 更夜はヒラヒラとライのショーツを振る。
 「や、やめてぇえええええ!」
 ライは顔を真っ赤にしながら泣き叫んでいた。
 「ぼ、僕は何も……そう何もしてない。」
 トケイは動揺の声を上げていたが表情は無表情だった。よく見ると頬に赤みが差している。
 「はあ……てことはトケイが更夜を呼んだ時、ライのそれが目に入って持ち上げて遊んでいたのね。それで更夜が戻ってきて……驚いたトケイはライのそれを下に落としてしまったってわけねー。で、それを更夜が今、拾ったと。」
 スズの言葉にトケイは首を横に振って否定した。
 「ち、違うよ!はじめ何だかわからなくてとりあえず持ち上げたら……女の子の下っ……下着……って、今、君達裸……うわーっ!ごめん!うわー!」
 トケイは耐えられなくなったのか両手で顔を覆い、そのまま脱衣所から走り去った。
 「あの子、純心すぎるわね……。」
 「う……うう……。」
 ライが顔を真っ赤にしたままその場に座り込んでしまったのでスズはため息をついた。
 「更夜、それね、この子の下着らしいわよ。返してあげなさい。」
 「うむ。そうだったか。すまんな。ここに置いておくぞ。」
 更夜がライのショーツを置いた場所はライの服が畳んで置いてあるカゴの中だ。
 「ひい!」
 ライは再び小さく悲鳴を上げる。服の上には勝負下着のツイである勝負ブラジャーが置いてあった。こちらも真っ赤で黒のレースがついていた。
 「ぶ、ぶら……ブラジャーが更夜様の目に!」
 ライの戸惑いが酷くなる一方だったのでスズはとりあえず更夜を外に出す事にした。
 「ああ、もう、いいから更夜、とりあえず出てって。少しは乙女心をわかりなさいよ。」
 「……?すまん。」
 更夜は表情なく一言あやまると脱衣所から出て行った。
 「更夜は胸に当てるそれ、なんだかわかんなかったんじゃないの?」
 スズはライを気にかけながら着替える。
 「ま、まあ、戦国時代の人で……男の人だから……。わ、わかんないのもしょうがないかな……。」
 ライはドキドキしながら着替えはじめた。
 ……こ、更夜様に触られた下着……は、はう……。
 「ちょっと、何笑ってんのよ。気持ち悪い。」
 スズに突っこまれ、ライは自分がニヤけている事に気がついた。
 「あ、いや……その。」
 「やっぱり、あんた、生粋の変態?」
 「ち、違うよー。」
 ライとスズは散々なお風呂を楽しんだ。

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