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ごぼうかえるのTOKIの世界!
皆に元気を与えたい! 前向き楽しいブログを目指す(*^.^*) 口蓋裂の娘ちゃんと軽いADHD、軽いチック症状を持つ旦那と楽しくのんびりな日常をドールちゃん達が紹介する! 独自世界の幻想日本神話、自作小説書いています! 神と人形と人間と霊、そして『K』の季節感じる幻想データ世界TOKIの世界へようこそ! 和風SF日本神話の世界です( ´∀`)
明かし時…1ロスト・クロッカー7
 ナオ達は再びアヤの部屋に入り込み、たくさんある時計を一つ一つ調べていた。
 「栄次、時神の神力、わかりますか?残念ながら何もわからないのですが……。」
 ナオは首を傾げながら時計を撫でていた。
 「うむ……。はっきりとはわからないのだが……この時計だけ不思議な感じがするな……。」
 栄次は眉をひそめながら新品そうな時計を持ち上げた。横にいたムスビは栄次が持っている時計をまじまじと見つめていたが何もわかっていなさそうだった。とりあえず栄次はムスビに時計を渡した。
 「……これ、新しそうだな。やっぱ俺にはわからないなあ。」
 ムスビは一通り眺めると今度はナオの手に時計を置いた。
 「そうですね……。私もよくわかりませんがまだ買ったばかりのような気もします。」
 「ちょっと貸してくれるかの?」
 「はい。ヒメさん、どうぞ。」
 ムスビからナオに渡った時計はナオの隣にいたヒメに渡った。
 「歴史の分析をした所、職人さん手作りの目覚まし時計のようじゃ。昨日完成し、この家に届いたようじゃな。値段は一万円超じゃ……。アヤは前々からこの時計を狙ってお金を貯めていたようじゃな。」
 ヒメの分析にムスビは驚いた。
 「そんなこともわかるのかい?」
 「……わかるというか……この時計に携わった人々の歴史を見ただけじゃ。時計の事はわからぬがそれに関わった人の歴史ならば見れるからの。ワシは人の歴史を管理しておる故。」
 「な、なるほど……ヒメちゃんってすごいんだね。」
 ムスビは時計とヒメを交互に見つめながらつぶやいた。
 「で?栄次殿、これが時渡りした時計なのかの?」
 ヒメは時計から目を離し、栄次に目を向けた。
 「それはわからんのだがこの時計だけ神力が宿っているように思えるのだ。」
 栄次はなんとも言えない顔で首を傾げた。自信はなさそうだった。
 「まあ、今の段階では少しでも可能性がある方へかけたいな。栄次の思った通りに動いてみるしかねぇだろ。な?ナオさん。」
 ムスビはナオに目を向けた。
 「そうですね。今はそれしか手がありませんので……。ここは栄次の時神の勘を信じましょう。」
 ナオは大きく息を吐きだすと気合を入れた。
 「では……この時計が示す時間に行ってみるかの?昨日の昼過ぎくらいの時間帯だと思われるのじゃ。」
 「よし、じゃあそれで行こう。俺はよくわかんないからさ。」
 ヒメの言葉にムスビが元気よく答えた。
 「お、おい。正しくないかもしれんぞ……。」
 勝手に話が進み、栄次は困惑した顔でナオ達を見ると焦った声を上げた。
 「大丈夫です。間違えたら急いで戻りましょう。なにせ手がかりがないのですから片っ端からやらないといけないと思います。」
 「そうか。」
 ナオの発言に栄次は一言短く言うと口を閉ざした。
 「では行きましょう。ヒメさん、お願いします。」
 「う、うむ。いいのじゃな?それではさっそく転送するのじゃ。」
 ヒメはナオの合図でナオ達を過去の世界、参(さん)に飛ばした。
 ほぼ一瞬で何も考える余地はなく、ナオ達は白い光に包まれていた。気が付くと少しだけ違うアヤの部屋にナオ達はいた。昨日の日付の特売のチラシが床に散らばっており、先程触っていた時計は箱の中に入ったままだった。
 「……昨日に来た……ようだな。」
 栄次が小さくつぶやき、ナオとムスビはハッと我に返った。
 「あ、あれ……?ヒメちゃんは……?」
 頭が働きかけてきた頃、ムスビはヒメがこちらに来ていない事に気が付いた。
 「もしかするとヒメさんは送る事はできますが自分が過去に来る事はできないのではないでしょうか?」
 「じゃ、じゃあどうやって元の世界に……。」
 ナオとムスビは顔色を悪くした。
 「ん?ワシがどうしたのじゃ?」
 ふと隣からヒメの声がした。ヒメは廊下の方でこちらを窺うように立っていた。
 「良かったです。ヒメさんも過去に渡れたのですね。」
 ナオから安堵の吐息が漏れる。ヒメは少し複雑な表情で首を振った。
 「あ……えっといや……そなたらの世界で言うと……ワシは過去……えーと、参の世界のヒメじゃ。今は明日の自分とリンクしておるので一応、話はわかっているぞい。」
 「え……?よ、よくわかりませんがあなたは昨日のヒメさんという事ですか?」
 「うむ。そなたらからするとそうじゃな。しかし、中身は明日の自分じゃ。」
 戸惑うナオにヒメは落ち着いて答えた。
 「中身が明日の自分って……。」
 「じゃから、記憶を明日の自分とリンクさせておるだけじゃ。」
 「じゃ、じゃあ、別にさっきまで一緒にいたヒメちゃんと変わらないわけだよね?」
 「そうじゃ。」
 ムスビの動揺している声にもヒメは落ち着いて答えた。
 「ま、まあ話が通じるのならばそれでいいです。では、行きましょうか。」
 ナオはまだ戸惑っていたが徐々に落ち着きを取り戻した。
 「あ、ちょっとナオさん、行きましょうってどこへ?」
 ムスビがナオに手を広げて「わかりません」のポーズをとる。
 「……そ、それは栄次の時神を探知する能力で……なんとか……。」
 「俺か?何度も言うが……俺には自信がないぞ。」
 もじもじとしているナオに栄次は呆れたようにため息をついた。
 「やっぱり勢いで来たのかよ。」
 ムスビは頬を赤くしているナオを楽しそうに見つめた。
 「ム、ムスビ!楽しそうに笑っている場合ではございません!早くしないとアヤさんがっ……。」
 「あーあー、わかったよ。少し落ち着いて。ナオさん。とりあえず、栄次に任せよう。」
 「お前も結局は俺なのか……。」
 ナオをなだめるムスビを横目で見た栄次は再びため息をついた。
 

 アヤ達はとりあえず、ファミレスで春野菜を使ったセットメニューを二人でつつき、ある程度お腹をいっぱいにした。
 「実はね……。」
 少し安心したこばるとがアヤにひかえめに声をかけてきた。
 「ん?どうしたの?」
 「実は神は別に食事をとらなくてもいいんだよ。僕達はこの世界に生きているわけじゃないんだ。僕達は人間から想像して作られたプログラムのようなものだからパソコンのデータと同じなんだ。」
 「あら……。そうだったの?じゃあ、こばると君はお腹がすいてなかったのね。」
 アヤはもう何を聞いても驚かなかった。驚く事が多すぎて今更驚けなくなったのだ。
 「うん……。まあ、食べなくてもいいんだけどやっぱりお腹はすくんだよね。電子機器の充電と同じ感じかなあ。高天原では皆、人間が想像した物を食べているね。その場にあって実はその場にない。想像物がデータ化されて置いてあってそれを体に取り込むみたいな感じ。はたからみると人間と同じように普通に食事しているように見える。」
 「へ、へえ……じゃあ、私もそうなるの?私、これから時神になるのよね?」
 アヤはからのお皿を店員に渡しながら尋ねた。
 「時神は人間から神に変わっていくから君の場合、まだしばらくは変わらないと思うよ。と、言っても時神の生が人間から始まるっていうのも人間が想像してできたルールなんだけどね。だから君は人間の想像から人間と変わらない仕組みにされたわけだよ。えっと、つまり今の段階でも君は人であって人じゃないんだ。」
 「なるほどね。私は人間に想像されて作られた人間って事ね。今は。」
 「そういう事だね。」
 「時神は人に見えるって言うのも人が決めたルールなの?」
 「うん。『昔から時神は人に紛れて生活をしている』って人間が決めたんだよ。」
 こばるとの言葉でアヤは神が人を支配しているのではなく、人の想像力が神を生み出していることを知った。
 「……人は考える力でルールを作り、それで自分達を無意識に縛っているわけね。」
 「ま、まあ……そう言われればそうかもしれないね。でも、この世界の人は皆けっこう楽しそうに生きているからいいんじゃないかな。それでも。」
 「そうね。人は考える生き物だもの。大脳が発達しているからね。」
 アヤはふふんと笑うとお冷に口をつけた。
 「大脳……。こ、細かい話はよくわかんないけど、そろそろ出ようか?あ、大丈夫、もう僕は君を殺そうなんて思わないから。歴史は元に戻したよ!」
 「え?あ、うん。」
 必死な顔のこばるとにアヤは戸惑いながら答えた。
 「僕、君といると……なんだか落ち着くんだ。同じ現代神同士だからかな。」
 「……こばると君……。」
 こばるとは小さくほほ笑むとそっと立ち上がった。アヤはそんなこばるとをせつなげに見つめていた。

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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

明かし時…1ロスト・クロッカー6
 夜八時を回ったか回っていないか……時計が狂っていてわからないが暗い道をムスビとヒメが歩いていた。
 「鉄骨が落ちている所ってもっと先かの?」
 「道の合流部とか言っていたから俺は交差点とかかなって思っているんだけどね。」
 ヒメの言葉にムスビは笑顔で答えた。
 「そうじゃな!もう少し歩いてみるのじゃ。」
 「いいよ。転ばないようにねー。」
 ムスビはヒメに優しく声をかけながら道を進む。しばらく歩くと交差点が見えた。その交差点の大通りの方に太い鉄骨が数本散らばっている。
 「あれじゃな……。ム……。あの鉄骨は昨日のお昼頃に起きた事故で投げ出されたものじゃ。しかしおかしいの……、この鉄骨はもう回収されているはずじゃ……。そしてなによりおかしなことが歴史の一部が切り取られここに持ってこられている事じゃ。」
 ヒメは鉄骨に近づき、戸惑った顔をしていた。これだけ鉄骨が散らばっているのに野次馬も警察も誰もいない。
 「たしかにおかしいね。誰もあの鉄骨に気が付いていないなんて。」
 ムスビもヒメに近づいた。
 「!」
 刹那、ヒメが目を見開き驚いてムスビを振り返った。
 「ん?どうしたの?」
 「また歴史が変わったのじゃ!」
 「え?」
 ムスビが慌てているヒメに向かい首を傾げた。
 「今、急激に歴史が元に戻ったのじゃ!」
 「歴史が元に戻った?」
 ムスビは不思議そうにヒメに目を向けた後、鉄骨に目を移した。
 「……あれ?」
 先程までそこにあった鉄骨はなぜか跡形もなく消えていた。
 「この鉄骨が元の時間軸に戻ったのじゃ……。一体何なのじゃ!いままでこんなことはなかったぞよ……。わしはどうすればよいのじゃ……。うわーん……。」
 ヒメは突然起きた事象に戸惑い、泣き出した。
 「な、泣かないで!ヒメちゃん。俺達がいるでしょ?一緒に何とかしよう!」
 「うん……。」
 ムスビは泣いているヒメに飴を一つ渡した。ヒメは泣きながら一つ頷くと素早く飴を口に入れた。
 「じゃ、じゃあまずはあれだ!時神過去神の……栄次に相談してみようか。人間の過去なら彼の方が詳しいと思うし……ね?」
 ムスビはヒメを優しく撫でながらほほ笑んだ。
 「うん……。」
 ヒメは一つ頷くと涙を拭った。
 「じゃ、行こうか!」
 ムスビがヒメの背中を軽く押しながら歩き始めた時、遠くで銀髪の男が走り去る姿が目に入った。着物を着ている若そうな男だった。
 「ん……?あいつは確か……。」
 「どうしたのじゃ?」
 「え?ああ、何でもないよ。行こうか。」
 ヒメが不安そうな顔をしていたのでムスビは表情を元に戻し、ヒメと手を繋いで歩き出した。
 ヒメとムスビはナオと栄次に会うため、とりあえずアヤの住むマンションに向かった。
 二神は細い道を黙々と歩きコンビニを越えてマンションへたどり着いた。
 「ナオさんと栄次いるかな?」
 「あのアヤという名の少女を追って行ったのじゃろ?ここがあの子の家ならばいるのではないかの?」
 ヒメは首を傾げながらムスビに目を向けた。
 「ま、とりあえず、アヤって子の部屋前まで行くか。」
 ムスビは優しくほほ笑みながらヒメの手を取り歩き出した。ヒメは恥ずかしがりながらもムスビに従った。
 マンションの階段を上がり、四階のアヤの部屋前まで来た。廊下部分でナオと栄次が真剣な顔つきで何かを考えていた。
 「あ!ナオさん!栄次!いたいたー!」
 ムスビが声を上げた時、栄次が一言ナオにつぶやいていた。
 「……あるとすれば……劣化異種だ。」
 「……え?」
 話の内容が理解できなかったムスビは不思議そうな顔でナオと栄次を見つめた。
 「……あ、ムスビにヒメさんですか。実はアヤさんが突然、例の男性と消えてしまって……。」
 ナオがムスビとヒメに気が付き、困惑した表情のまま状況を説明した。
 「……こちらもおかしかったのじゃ。鉄骨を調べたところ、歴史の一部が切り取られておった。」
 「歴史の一部が……。そうですか……。」
 ヒメの発言にナオはまた顔を青くした。
 「やはりな。……あの男は劣化異種で間違いないだろう。」
 栄次が勝手に自己解決してしまったのでナオ達は慌てて質問をした。
 「あの……劣化異種とは何でしょうか?」
 「ああ、時神の仕組みだ。時神は自分よりも力がある時神が生まれた場合、力がある時神の方が生き残り、力のない時神は消滅する……という仕組みで回っている。時神の生は人間から始まり、徐々に神になる。人間から時神に変わる神を向上異種と呼び、反対に消えてしまう時神を劣化異種という。今回は時神の内、現代神の向上異種が現れたんだろう。それがおそらくあの娘だ。あの娘はこれから時神になる。それで今存在しているあの男、現代神が劣化異種となった。」
 「つまりは……アヤさんが現代神になってあの男の子が消えてしまう現代神……ということですか?なんだかデリートを押されているような仕組みですね……。」
 ナオが眉を寄せ、気難しい顔で唸った。
 「時神は自分の歴史を自分で動かせない。つまり自身の体の時間は止まっている。人間と共に生きなければならない時神にとって変化することは大変な事だ。人間は常に変動する。それに合わせられる神でないと時神は務まらない。おそらく今に合った時神をこの世界が選んだのだろうな。あの男の方もかなり長い年月を生きているようだった。」
 栄次の言葉を聞いていたムスビが頭をポリポリとかきながら声を発した。
 「その仕組みはわかったけどさ、歴史が動いたのとどう関係があるんだよ?」
 「時神の生は人間から始まると言っただろう。まずは向上異種から説明しようか。人間は歴史を動かす能力を持っている。向上異種は人間の歴史を動かす力と時神の力が入り混じった状態だ。その作用か時を渡れ、人間の歴史を動かせる。次に劣化異種だが劣化異種が劣化していくのは時神の力が消えていき、逆に人間の力が戻ってくる。そして人間の力が大半を占めた時、時間が逆流し、死ぬ。時神は最低でも百年は生きている。人間が生きられる時間を凌駕しているので消えるのは仕方があるまい。その消えるまでに劣化異種も向上異種同様に時神の力と人間の力を両方持っている事となる。つまりだ……。劣化異種も歴史を動かせ、時を渡れる。」
 「……。」
 栄次の説明を聞いてナオ達は黙り込んだ。今の話を頭で整理しているようだ。
 その中、ヒメはこの話を知っていたのか一人頷いていた。
 「うむ……。向上異種を別名でタイムクロッカーと呼び、劣化異種を別名でロストクロッカーと呼ぶのじゃよ。おぬしら、神々の歴史を管理しておるのにこの事を知らなかったのかの?」
 「うっ……。」
 ヒメに突っ込まれ、ムスビとナオは返答に困った。
 神々の歴史の管理と言ってもそんなに細かいところまでの歴史は管理していない。ナオは大雑把な神々の歴史を管理しているだけだ。細かい歴史は他の神が担当している。
 「あっ、では……劣化異種……ロストクロッカーはアヤさんを連れて何をしているのでしょうか?」
 ナオは突然、言いようのない不安に襲われた。
 「……劣化異種の心情はおそらく、自分は消えたくないと思っているのだろうな。つまりは……。」
 「……アヤさんを消そうと動いている可能性があるという事ですか!」
 「そうだ。あの娘が消えればあの男はまだ時神を続けていられる。あの男はあの娘を殺そうと動いている可能性が高いだろう。」
 「そんな!私達も時を渡らないとっ……。」
 「それが俺達はできないだろ。」
 焦っているナオの頭にムスビがポンと手を置いた。
 「なっ、何をするのですか!」
 「あっ……いや、少し落ち着くかなーなんて……。」
 「な、なんですか……。もう……突然。」
 ムスビの笑顔を見て焦っていたナオは顔を赤くしてうつむいた。ムスビは顔を赤くしているナオをかわいいと思ったが口には出さなかった。
 「で……時を渡る方法だが……そこの……ヒメだったか?ができるのではないか?」
 栄次が会話に割り込み、ヒメに目を向けた。
 「う、うむ。ワシは人間の歴史を管理している神故、歴史神や時神なら時渡りさせてやれるかもしれぬがおぬしら本体ではなく、おぬしらの一部を過去の世界に召喚する形となるの。過去の世界は参(さん)の世界と呼ばれておるが現世であるここ、陸(ろく)の世界と過去にあたる参の世界は違う世界じゃ。絶対に参の世界を生きるおぬしらに会ってはいかぬぞ。」
 ヒメが気乗りしない顔で答えた。
 「ちょっと待って。そもそも、あの男とアヤって子がいつに行ったのかわからないんじゃないか?歴史を動かしたからって過去に行っているとは限らないだろ。もしかしたら未来へ行っている可能性も……。」
 ムスビが慌てて声を発した。
 「……その可能性もあるが……向上異種や劣化異種が未来へ行くときは未来の時計を想像して描き、行きたい未来の年代も書くことで人の持つ想像力で未来へ飛べる仕組みだ。だが、アヤとかいう小娘の部屋に紙も筆もなかった。未来に行った線は薄い。反対に過去に行くには作られた時計に触れば行ける。あの子の部屋には時計が沢山あった。あの時計の内のどれかを触ったと考えた方がいいだろう。」
 栄次は特に焦った様子もなく冷静に言葉を発した。
 「むぅ……もし未来へ飛んでいたらワシは何にもできんの。時神未来神をこの世界に召喚することはできるが未来へおぬしらを召喚することはできぬ。ちなみに未来の世界も過去の世界同様、別の世界じゃ。未来の世界は肆(よん)の世界と呼んでおる。」
 ヒメはため息交じりに答えると頭を抱えた。
 「じゃ、じゃあ、あのアヤって子の部屋の時計を調べてどこの過去に行ったのか正確に把握しないといけないってわけな。」
 ムスビがナオをちらりと見ながらつぶやいた。
 「このままではアヤさんが危険な可能性があります。……過去へ行きましょう。神力を辿ってどこの時計に触ったか調べる事から始めます。」
 ナオは大きく息を吸うともう一度アヤの家のドアノブを握った。
 

 アヤは再び行われた事故の質問攻めから脱出し、やっとのことでファミレスの椅子に腰を落ち着けることができた。
 「はあ……なんでこんなに私……死にかけるのかしら?」
 アヤは独り言を言いながら向かいに座っているこばるとを見つめた。こばるとはどこか苦しそうに目を伏せていた。
 「……ねえ……こばると君……。突然どうしたの?大丈夫?……な、何でも好きなもの食べていいから元気出して。」
 アヤは急に元気のなくなったこばるとにメニューを差し出し、柔らかくほほえんだ。
 「アヤ……。僕はね……僕は実は……。」
 こばるとはアヤに何かを言おうとしていた。店員がお冷を置いて去っていくのを見つめるとすぐにまた口を閉ざしてしまった。
 「ん?どうしたの?なんか悩みでもあるのかしら?悩みがあるのなら相談に乗るわよ。」
 アヤの優しい声にこばるとはさらに顔を歪ませた。
 「……。」
 「どうしたのよ?さっきまでの元気は?お腹すいているんでしょ?ほら、メニュー。」
 アヤがメニューを再び差し出した時、こばるとが小さく声を発した。
 「僕は……やっぱり君を殺せない……。殺したくない……。」
 「……何?」
 アヤはこばるとが発した一言に首を傾げていた。
 「でも僕は……僕は死にたくない……。」
 「……だから何を言っているのよ?」
 こばるとはアヤの戸惑った顔を見つめた。
 「いままで起きた事故は僕が歴史をいじって動かしたんだ。僕は江戸後期くらいから出現した君をそこら辺の事件事故の歴史を動かしてずっと殺そうとしていたんだ。全部、運がいいのか、かわされちゃってさ。君は……なかなか時神として覚醒しなくて何度も同じ顔で転生しているんだよ……。何度も何度も歴史を動かして君を殺そうとした……。でも、君は生き残ったままだ。」
 「ちょっと待って……。何言っているかわからないわ!話が飛びすぎよ……。」
 こばるとの暗い瞳を見ながらアヤはさらに困惑した顔で近くに置いてあったお冷に口をつけた。
 「……君はこれから時神になる神……向上異種、別名タイムクロッカー。反対に僕はこの世界から消える時神……劣化異種……別名ロストクロッカー……。」
 「ろすと……くろっかー……?」
 アヤの動揺はさらに大きくなり、こばるとの瞳は徐々に光がなくなっていった。
 「ねえ、アヤ、君は死んでくれって言ったら死ぬ?」
 こばるとは苦しそうな表情でアヤに尋ねた。
 「何言っているのよ……。そんなことを言われたって死ねるわけないでしょ。」
 アヤはまったくこばるとの心情が読み取れなかった。だいたい、何を言っているのかよくわからない。
 「そう。だから僕は……君を殺さないといけないんだよ……。」
 「ちょ、ちょっと待ってよ。理由を聞かせてちょうだい!あなた、さっきからわけわからないわよ。」
 「僕達時神の仕組みはね……自分よりも強い力を持った時神が生まれた時に弱い方が消滅する仕組みなんだ。僕は君よりも力が劣っている……。だから僕は死なないといけない。でもね……僕は死にたくないんだ。これから時神になる君を殺せば僕はずっと時神として生きていられるはずなんだ。でもね、僕がいつまでも生きていると他の時神が殺しにくるかもしれないんだ。」
 こばるとの追い込まれているような表情でアヤは冗談だと笑い飛ばせなかった。
 「……それって選択肢は私が死ぬかあなたが死ぬかしかないの?そういう極端な選択だけじゃなくて二人で生きる道を探すって選択はないの?」
 アヤは戸惑いながらこばるとに話を合わせた。
 「……それは無理だと思うんだ。」
 こばるとはほぼ即答した。アヤは困惑した顔のまま、こばるとに言い放った。
 「無理じゃないわ!やってみないとわからないでしょ!大丈夫。私はあなたに味方をするから。」
 アヤは向かいに座っているこばるとの震える手にそっと手を置いた。こばるとはとても悲しそうな顔をしていたがなんだか安心しているようにもみえた。
 「……。君は本当に優しいんだね……。やっぱり人を殺した事なんてない僕にこんなことは無理だ。僕が生きたいから君を殺すなんておかしな考えなんだ。」
 「こばると……君。」
 こばるとは再び目を伏せた。理由はまだよく理解していなかったのだがこばるとの瞳から涙が零れ落ちるのを見てアヤはなんとかして彼を助けてあげたいと思った。
 「こばると……君……。」
 「僕、死にたくないよ……。助けて!助けてよ!」
 絞り出すような声を出し、こばるとはアヤの手を握り返した。
 「……大丈夫よ。二人とも生きられる方法を探しましょう?ね?こばると君。」
 「……アヤ……ありがとう。」
 こばるとは小さくアヤにお礼を言った。アヤには目の前にいる彼がとても小さくか弱い存在に見えた。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

明かし時…1ロスト・クロッカー5
 マンションの廊下、アヤの部屋の前でナオは何回かチャイムを鳴らした。
 「……反応が……ありませんね……。家に入っていくところまで見たので家にいるはずなのですが……。」
 「……待て。時神の力を濃厚に感じるぞ……。」
 ナオと一緒についてきた寡黙な侍、栄次が静かにナオに言い放った。
 「時神の力……!?アヤさん!いらっしゃいますか?アヤさん!」
 ナオはドアを叩き、アヤに直接呼びかけた。しかし、アヤの返答はない。
 「さきほど家に入って行ったのだ……いないわけがない。だが……この扉の先から誰かがいる気配がない。」
 「アヤさん……さきほどの男性と何か関係が……。」
 ナオは栄次の言葉でドアを叩くのをやめた。
 「……やはり、先程、あの路地で見た男は時神だったか……。」
 栄次は腕を組み、男の身なりを思い出す。小柄な体で学生服を着た少年……。栄次の時代では学生服というものが存在していない。栄次からすれば洋装をしている少年だ。
 ナオはダメもとでドアノブを握った。
 「……あ、あら?鍵がかかっていなかったようですね……。」
 「開いていたか……。どうするのだ?入るのか?」
 栄次に問われ、ナオは眉間にしわを寄せた。
 「……人様のおうちに勝手に入り込むのは私はしたくありませんが……ここは仕方がありません……。入ります。アヤさんが心配ですので。」
 「そうか……。では俺も入る事にしよう。」
 ナオと栄次は玄関先で靴を脱ぎ、物音ひとつしないアヤの部屋へと入って行った。
 部屋の電気はついていた。
 「アヤさん!」
 ナオがアヤの自室、時計が沢山ある部屋に顔を出した。そこにはアヤの姿はなかった。
 「……アヤさん……。これはずいぶんとおかしな状態になっていますね。」
 ナオは部屋の様子を見て小さくつぶやいた。
 電気がついており、真ん中のちゃぶ台にまだ食べていないおにぎりが置いてある。
 先程までここにいたという雰囲気とぬくもりが残っていた。
 「つい先程、今の今までここにいたようだ。床の一部が温かい。」
 栄次がちゃぶ台付近の床の一部に手を置いていた。
 「突然消えてしまったという事ですか?アヤさんもあの男の子も?」
 「そういう事になる。」
 「時神が時渡りをした可能性は……?」
 「……時神は原則、時を渡れない。俺も時は渡れないぞ。」
 栄次の答えにナオの表情が青くなっていく。
 「で、では……なぜ突然消えてしまったのですか?」
 「……可能性があるとすれば……あれか。」
 顔色を悪くしているナオに栄次は鋭い瞳を向けた。


 アヤとこばるとはアヤの部屋にいた。
 「……?」
 アヤは状況が理解できず、何も言葉を発することができなかった。
 「ふーん。昨日の君の部屋に来たみたいだよ。」
 「……?何にも雰囲気変わってないじゃないの。」
 「そりゃあ変わらないさ。だって昨日の君の部屋だもの。変わっているとすれば……あれだけかな?」
 こばるとは不安げなアヤにほほ笑みながら目の前の箱を指差した。
 「……っ!これは昨日買った時計の箱じゃないの。捨てたはずだけど……。」
 「だからここは昨日の君の部屋なんだよ。」
 こばるとはため息をつきながらその場に座った。
 「……昨日に戻ったって事なの?なんで?どうして?こんなこと……あるわけないわ。」
 アヤは動揺し、部屋をウロウロと歩き始めた。
 「ちょっと落ち着いてよ。だから僕は時の神で時を渡れるんだよ。」
 こばるとが頭を抱えているアヤをなだめつつ、座るように言った。アヤは目を忙しなく動かし、戸惑っていたが素直にこばるとの横に座った。
 「冗談よね……。」
 「冗談じゃないよ。あー、おにぎり向こうに置き忘れちゃったね……。」
 よくみるとおにぎりどころかちゃぶ台もない。アヤは普段、ちゃぶ台をしまっている。
 床に散らばっているまだ片づけていない安売りのチラシもすべて昨日のものだった。
 「……本当に一日ずれている……。あなた……。」
 アヤは恐怖に支配された顔でこばるとを見つめた。
 「そんなに怯えないでよ。それよりもお腹がすいたよ……。おにぎりは置いてきちゃったし……この辺のファミレスにでも行こうか!」
 こばるとは笑顔でアヤを一瞥した。
 「……行こうかって……私のお金よね……。だから。」
 アヤは震えながらもかろうじて声を出した。
 「お願い!」
 「……まったくしょうがないわね。もう一度おにぎりを買うのもなんだか疲れるし……近くのファミレスくらいなら行ってもいいわよ。」
 「やった!」
 こばるとの必死の表情でアヤの恐怖感は幾分か和らいだ。
 仕方なしにアヤはこばるととファミレスに行くために家を出た。外は明るく、眩しい太陽が頭上にあった。そしてぽかぽかと暖かい。
 「あら……明るいわね。今何時かしら?」
 「お昼の十時か十一時くらいじゃないかな。感覚的に。」
 「昨日の十時か十一時って事よね?」
 「そうだね。」
 アヤはやっと冷静に物事を考えられるようになってきた。昨日に戻った事をなんとか受け入れる事ができたようだ。
 コンビニに向かう道とまったく同じ道を歩いている途中、少し心に余裕が出てきたアヤはこばるとに質問をした。
 「あなた、さっき、歴史の神に追われているみたいなことを言っていたけど何をしたのよ?」
 「……それなんだけどね、正確に言えば歴史の神と一緒にいたあの時神過去神が僕を殺そうとしているんだ。理由はちょっと言えないんだけど。」
 「……殺そうとって……物騒すぎるわ。時神って種類があるの?」
 「うん。過去神、現代神、未来神の三神がいるよ。僕は現代神。」
 こばるとがそう答えた刹那、なんだか騒がしい声が聞こえた。アヤ達は先程寄ったコンビニの少し先の交差点に来ていた。目と鼻の先にファミレスがあるがその横は工事現場だった。
 「危ない!」
 工事現場の誰かが叫ぶ声でアヤは工事現場に目を向けた。突然吹いた強風に鉄骨を運んでいたクレーン車が横転しかけて、クレーン部分がそのままアヤにぶつかってきた。
 「ひっ!」
 アヤは小さく悲鳴を上げしりもちをついた。
 ……ぶつかる!
アヤはそう思って目を強くつぶった。しかし、吊っていた鉄骨が近くの電信柱にぶつかりクレーン車は完全には倒れず、アームもアヤにぶつからなかった。
 鉄骨の二、三本は道路に散乱した。幸い車が通っておらず、投げ出された鉄骨は誰にも当たらなかった。
 「なっ……。危なかった……。こ、ここに電柱がなかったら……死んでいたわ。」
 電信柱は軽くヒビが入っていたが倒れてはいなかった。
 「アヤ……大丈夫!?」
 こばるとが震えているアヤの元へ駆けつけた。
 「だ、大丈夫よ。ケガもないし……。」
 アヤが小さくつぶやいた時、クレーン車を運転していた男性が慌ててこちらに向かって来た。
 「大丈夫かい!」
 クレーン車の運転手は顔面蒼白のままアヤに駆け寄った。
 「は、はい。私は大丈夫でした……。あの……あなたにおケガは……?」
 「ああ、俺は大丈夫だよ。いきなりあんな風が吹くなんてびっくりしたよ。クレーン車が倒れなくて良かった……。とりあえず、警察と救急車を呼ぶから……。」
 運転手の言葉にアヤはまたかとため息交じりに思った。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

明かし時…1ロスト・クロッカー4
 トラック事故の少し前……。
 アヤはお腹がすいたのでコンビニで何か買おうと思い、部屋から外に出た。
 「あら?」
 アヤがマンションの階段へと向かう途中、アヤと同じくらいの歳に見える小柄な男の子が廊下で座り込んでいた。
 「あの……?どうしたの?」
 アヤは様子がおかしい男の子に小さく声をかけた。
 「あ……。君は……アヤだよね?」
 男の子は弱々しい瞳でアヤを見上げた。
 「なんであなたは私の名前を知っているの?お初よね?」
 アヤは訝しげに男の子を見据えた。
 「え?あ、ああ……えっと……お、同じ学校なんだ。君と。」
 「制服が違うんだけど。」
 アヤは男の子の格好を見て、目を細めた。男の子は学ランを着ていた。アヤの学校とは似ても似つかない制服で、ひと昔前のもののような気がした。
 「こ、これはファッションで着ているだけだよ。そう、ファッション!」
 「そ、そう。……それで……なんでマンションの廊下なんかにいるの?」
 「君を探していたんだよ……。さっきはいなかったみたいだけど、うちに帰っていたんだね。」
 「……よくわからないわ。なんで私を探してたの?……私達初対面じゃない。」
 「うん。それは後で説明したいんだけど……今はとにかくお腹がすいていて……ここから動けないんだ……はあ……。実は三日も食べていなくてさ……。」
 男の子は大きなため息をつき、うなだれた。
 「三日も?一体何をしていたの?いままで。親は?……ごはんならコンビニとかで買えば……。」
 「……コンビニね。今、お金を持っていないんだ。それと……しゃべりたくないことってあるでしょ?あんまり聞かないでほしいな。」
 アヤの質問に男の子は陰りのある表情で答えた。
 「……そう、ごめんなさい。深くは聞かないわ。……これからコンビニに行く予定なんだけど、おにぎりくらいならおごってもいいわよ。」
 「ほんと!嬉しいな!ありがと!じゃあ、早くコンビニに行こうよ!」
 男の子は急に元気を取り戻し、勢いよく立ち上がった。
 「……切り替え早いわね……。それと元気じゃないの。あなた、名前は?」
 アヤは呆れながら男の子に尋ねた。
 「僕は立花こばるとって名前だよ。よろしく!」
 「こばると……不思議な名前ね。」
 元気に声を発したこばるとを見ながらアヤは彼にどこかであったような気がしていた。
 「じゃあ、悪いけど食べ物恵んで下さい!」
 こばるとは愛嬌のある顔つきでアヤに頭を下げた。
 「……わかったわよ。あんまり高いのはダメだからね。」
 アヤはこばるとの雰囲気に心を許し、ほほ笑んだ。そしてそのまま二人はコンビニに向かうべくマンションの階段を降りて行った。
 近くのコンビニでいくつかのおにぎりを買い、帰り道である細い道路を歩いている時だった。急に背後が光った。
 「……っ!?」
 アヤが何かしらと振り返った時にはもう遅く、目の前にトラックの影が映った。
 ……トラック!?なんでこんな細い道を……っ。轢かれる!
 アヤが動けずにその場に棒立ちになっているとトラックの運転手はすぐにアヤに気が付き、アヤを避けようとハンドルを切ったがそのまま電信柱に激突してしまった。
 はじける音とタイヤが擦る音が閑静な住宅街に響いた。何かの破片やらガラスやらがアヤの足元に散らばった。
 「……はあ……はあ……。危なかったわ……。」
 アヤはその場に尻から落ちた。
 「アヤ!大丈夫?」
 しばらく茫然としていると目の前に心配そうな顔をしているこばるとが映った。
 「ケガは?大丈夫?」
 「え、ええ……私は大丈夫だけど……運転手さんは大丈夫かしら?」
 アヤは冷汗をかきながら電信柱にぶつかったトラックを見つめる。トラックの運転手は外に出てこない。
 「そ、そうだわ!きゅ……救急車を呼ばないと……。」
 アヤは絞り出すように言葉を発したがアヤは携帯を持っていない。こばるとも何も持っていなそうだった。
 「そ、そうだね!救急車か!よし!きゅーきゅーしゃあああ!」
 こばるとはとりあえず原始的に救急車を呼んだ。この時のアヤは気が動転しており、こばるとに突っ込むことはできなかった。
 そのうち、近隣住民の誰かが救急車を呼んだようだ。救急車のサイレンの音とパトカーのサイレンの音が同時に聞こえてきた。
 頭が冷静になってきたころ、アヤはようやく救急隊にケガの有無を聞かれている事に気が付いた。
 「私にケガはありません。それよりもあの運転手さんが……。」
 「奇跡的に運転手もケガがないようですね。」
 救急隊の人と軽く言葉を交わし、アヤは解放された。
 「……じゃあ、お気をつけて帰ってくださいね……。」
 「はい。すみません。」
 アヤは安堵のため息をつくと隣にいたこばるとに目を向けた。
 こばるとは少しずつ集まりつつある野次馬達を見つめていた。一点をじっと見つめ、どこか怯えた表情をしていた。
 「……?こばると君……だったわよね?大丈夫?どうしたの?」
 アヤはこばるとの様子を見て、不安げに声をかけた。
 「え?あ、ああ、うん。大丈夫だよ。行こうか。おにぎり、おうちでごちそうになってもいいかな?そしてそのまま一泊させていただいたりとかは……ダメ?」
 こばるとは我に返り、不安げな表情をしているアヤに向き直った。
 「え?うちに来るつもりなの?あなたなら大丈夫そうだけど……見ず知らずの男性を家に入れるのは……ちょっとね。しかも泊まるって……うーん……。」
 「……僕、帰る家がないんだよ……。おまけにお金もない……。」
 こばるとは絶望的な表情で目を伏せた。今にも泣きだしてしまいそうだった。
 「……ちょっ……泣かないでよ。わ、わかったわよ。い、一日だけなら泊まらせてあげるわよ!どうせ一人暮らしだしね。」
 こばるとの表情にアヤは折れ、彼を家に入れてあげる事にした。
 再びマンションへと戻り、階段を上ってアヤの部屋へとたどり着いた。
 鍵を開けて自室に入る。
 「上がっていいわよ。どうせ誰もいないから。」
 アヤは玄関先でまごついているこばるとに声をかけた。
 「う、うん。独り暮らしって大変そうだね……。」
 こばるとは靴を脱ぐと小さく「おじゃましまーす。」とつぶやき、部屋に上がった。
 アヤは時計が沢山ある自室の真ん中に小さいちゃぶ台を置いた。
 「ごめんなさい。机がなくて、このちゃぶ台になっちゃうけど……ごはんにする?」
 アヤはちゃぶ台の上にコンビニで買ったおにぎりを並べる。
 「あ、お湯かけるだけの味噌汁とかならあるわよ。」
 「う、うん。」
 こばるとはどこか上の空で返事をしていた。
 「こばると君……?あ、ごめんなさいね。私の部屋、時計だらけで気持ち悪いでしょ?これ、私の趣味なの。」
 こばるとがじっと時計を見つめているのでアヤが慌てて口を開いた。
 こばるとはそんなアヤにはおかまいなしに部屋にたった一つだけあった和時計を凝視していた。
 「こばると君……。それはうちの家宝。江戸後期の和時計よ。」
 「……。これを使って一度、彼女を連れて江戸に……。」
 「……こばると……君?」
 こばるとはアヤの問いかけに答えず、何かを考え込んでいた。
 「……いや、もう一度、江戸に行くのは危険だ……。こっちの時計を使って五年か六年前に飛ぶのもありだね……。」
 こばるとは和時計の隣に置いてある比較的新しい時計を見つめる。
 「……こばると君!」
 「はっ!あ、ああ、ごめん。ごめん。い、いい時計だね。これ。」
 何回目かのアヤの呼びかけでこばるとは我に返った。
 その時、ピンポーンと玄関先でチャイムが鳴った。
 「あ、はーい。」
 アヤが返事をして玄関先へ向かおうとした刹那、アヤの手をこばるとが素早く掴んだ。
 「きゃあ!何?」
 「あれは歴史の神だ……。さっきの野次馬の中にいたあの子達だ……。僕を追って来たんだ!」
 「え……?神?……神って……どっかで……。」
 アヤはついさっき会った神様だと名乗る赤髪の少女を思い出した。
 「アヤ、君を巻き込んじゃう形になるけどここから逃げよう!」
 こばるとはアヤの手を引くと立ち上がった。
 「え?ちょっと!なんだかわからないわ!に、逃げようって……どこへ?私、関係ないわよね?」
 アヤは怯えた表情でこばるとを見つめていた。玄関先のチャイムがもう一度鳴った。
 「……よし。この時計でいいや。」
 こばるとは一番新しそうな時計を掴むと大きく頷いた。
 「ちょっと何するのよ!その時計は昨日買った新品なのよ!」
 「僕達はこれからこの時計を使って昨日へ行く。」
 こばるとの発言にアヤは半笑いで首を傾げた。
 「あなた……頭……大丈夫?何?昨日へ行くって……。」
 「僕はいたって正常だよ。……僕は時神なんだ。時を渡れるんだよ……。そして君も時を渡れる。」
 こばるとは軽くほほ笑むとアヤの手を強く握り、新品の時計にもう片方の手をかざした。時計は突然輝きだしアヤとこばるとを光で包んだ。
 「えっ……ちょ……なにこれ……。」
 アヤの戸惑いの声を残してアヤもこばるともその場から忽然と姿を消した。

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明かし時…1ロスト・クロッカー3
「では。アヤさんのお宅に上がらせてもらいます。」
 公園を後にしたナオ達はアヤが住んでいるマンションにたどり着いた。
 今はアヤの部屋のドアの前にいる。
 「あ、あんまり片づけていないから、ジロジロみないでね。」
 アヤは一言、念を押してから鍵を開けた。
 「……あれ?」
 アヤがドアノブを引いたがドアは開かなかった。
 「今ので鍵をかけてしまったのではないでしょうか?」
 「そ、そんな事ないわよ。だって私、鍵かけて出てきたんだから。」
 ナオの言葉をアヤは顔色を悪くしながら否定した。
 「なるほど。密室事件かな。」
 ムスビは探偵気分になっているのか渋い顔で頷いていた。
 「別に事件ではなかろう……。」
 栄次はため息をつきながらムスビを一瞥した。
 「おかしいわね……。ちゃんと鍵をかけたのに……。」
 アヤは首を傾げながらもう一度鍵穴に鍵をさした。そのままドアを引いたら今度はドアは普通に開いた。近くにあるスイッチを押して電気をつけ、アヤはナオ達を中に入れた。
 「……妙ですね……。」
 ナオは玄関先から廊下を眺め、唸った。
 「ナオさん?探偵ごっこ的な感じになっているよ?」
 ムスビがナオを見てケラケラと笑っていた。
 「探偵ごっこではありません!ムスビもよく見てください!」
 ナオは笑っているムスビを睨みながら廊下を指差した。
 「ナオさん、怒らないで。」
 ムスビは慌ててナオをなだめると廊下に目を向けた。
 「わかりませんか?」
 「あっ!」
 ナオの言葉に返答したのはアヤだった。
 「廊下が汚れてるわ!きれいにしてたのに。」
 廊下には靴の跡のようなものが続いていた。
 「……時神の神力を感じるな……。」
 栄次がふとつぶやいた。
 「時神の力だって?」
 ムスビが廊下の先を覗くが誰かいる感じではなかった。
 「とりあえず、お邪魔させていただきます。すぐに帰りますから。」
 ナオはアヤに一つ頭を下げるとブーツを脱ぎ、アヤの家に上がった。
 「あなた達は入らないの?」
 アヤはムスビと栄次に目を向けた。
 ムスビと栄次は少し迷っているようだった。
 「あ……いや……男が女の子の部屋にズカズカと入っていいもんかなーって思っちゃってさ。」
 「……俺もそれで迷っている。」
 ムスビと栄次は顔を見合わせ、ため息をついた。
 「別にいいわよ。もう……さっさと入って終わらせて。」
 アヤは無理やりムスビと栄次を中に入れた。
 ムスビと栄次は渋々中に入ると履物を脱ぎ、廊下を歩いた。
 アヤの部屋までくるとナオが古い和時計の前でしゃがみこんでいた。
 「ナオさん?」
 「ムスビ、栄次、この時計ですが……神力が漂っているように思いませんか?」
 「……時神の力を感じるぞ。」
 ナオの問いかけに栄次が素早く答えた。
 「時神の……力ですか……。」
 「ああ。時神三神の内、俺が過去神だから未来神か現代神がこの時計の前にいたというところか……。」
 「ていうか、何しに人んちの時計を見に来たんだよ。」
 栄次の言葉にムスビがため息交じりに突っ込みを入れた。
 「しかもその時神は靴を履いています。靴の向きからしてアヤさんの部屋から外へ出ていったとみられます。この時計から時神が突然飛び出してきた……と考えてよろしいのでしょうか?」
 ナオは和時計を隅々まで眺めながら栄次に話しかけた。
 「時計から飛び出したかはわからんが……俺の時のように誰かに呼ばれてここに出現した可能性もあるな。」
 「……時神を呼べるのは歴史神だけです。呼んだと考えるのでしたら私以外の歴史神がアヤさんの部屋に未来神かもしくは現代神を呼んだと考えるのが妥当です。その歴史神がこの事件と関わり合いがありそうですね。」
 ナオが栄次の返答に大きく頷いた。
 「ナオさん、とりあえずこれからどうするんだよ?」
 ムスビがナオを不安げに見つめていた。なぜだか大きな事件のような気がしてムスビは自分達が過去神を呼んだから起こった事なのではないかと疑っていた。
 「とりあえず、神力を辿ってこの部屋から出ていった時神を見つけましょう。……アヤさん、お邪魔しました。」
 ナオは丁寧に頭を下げると廊下を渡り、外へと出ていった。
 「ね、ねえ。もういいわけ?」
 「はい。ありがとうございました。もう大丈夫です。ムスビ、栄次、行きますよ。」
 ナオは戸惑っているアヤに笑顔を向けるとぽかんと立っている栄次とムスビにこちらへ来るように手招きした。
 「な、ナオさーん!待ってよ。」
 ムスビは慌ててナオの元へと走って行き、栄次はのんびりとその後ろに続いた。
 「では。お邪魔いたしました。」
 「え……ええ。」
 嵐のように突然去って行ったナオ達をアヤは困惑した顔で眺めていた。


 「ナオさーん……。これからどうするんだよ?神力ってそんなに簡単に辿れるものなの?」
 ムスビがナオの顔色を窺いながら不安げに言葉を発した。
 今はアヤが住むマンションから出て何の考えもなしに道を歩いている。
 「神力を辿るのは私達ではなく、栄次に任せます。」
 「俺か。なんとなくは感じるがなんとなくだぞ。」
 ナオが期待を込めた目で栄次を仰いだので栄次は眉をひそめ、自信なさげにため息をついた。
 「構いません。私も……何か神力を感じるのですが……それが時神のものかわかりません。」
 「ナオさんが感じている神力は歴史神のものなんじゃない?俺も感じるよ。」
 ムスビは険しい顔で道の先を睨んでいた。
 「そのような気もします。近くにおりますね。」
 ナオがあたりを見回していると、すぐ近くで女の子の声がした。
 「おおい!おおい!お主らじゃ!おおい!」
 「ん?」
 ナオ達は遠くを眺めるのをやめ、声の方に目を向けた。いつの間にか目の前に外見七、八歳くらいの少女が立っており、どこか必死の表情でナオ達に声をかけていた。
 少女は長い黒髪に赤い着物を着こんでいた。目は大きく可愛らしいが格好が奈良時代くらいの雰囲気が出ていた。
 「ああ、やっと気づきおった。」
 「あなたは……どちら様でしょうか?」
 焦っている少女とは裏腹、ナオは冷静に言葉を発した。
 「わ、ワシを知らんのか!ワシは人間の歴史の『ばっくあっぷ』をとっている歴史神、流史記姫神(りゅうしきひめのかみ)じゃ。ヒメと呼んでくれて構わんぞい。」
 ヒメと名乗った幼女な歴史の神は腰に手を当てて胸を張ると大きく頷いた。
 「ちっちゃくてかわいいな。よしよし。」
 「な、なにをするのじゃ!」
 ムスビがほほ笑みながらヒメの頭を撫でた。ヒメは恥ずかしそうにしていたが拒んではいなかった。
 「お菓子たべるか?饅頭あるよ。」
 「お饅頭?わーい!食べるぞい!」
 ヒメはムスビから饅頭をもらうと幸せそうに食べ始めた。
 「かわいい!かわいすぎる!」
 「……ムスビ、少し落ち着きなさい。変態になりかけていますよ……。」
 興奮しているムスビをナオが呆れた目をしつつ、なだめた。
 「こ、こほん……。」
 ムスビは咳払いをし、心を落ち着けた。
 「ところで……先程焦っていたのはなんだ?」
 ムスビが落ち着いた後、栄次が優しくヒメに声をかけた。栄次は目つきが鋭く、少しきつく見えるため、怯えさせないための配慮のようだった。
 「あ、そうじゃった!人間の歴史が一部『ばっくあっぷ』のと違うのじゃ!」
 「お前が言う、ばっくあっぷとは何だ?」
 再び興奮し始めたヒメをなだめながら栄次は首をかしげた。
 「元ある歴史が壊れてしまったときのために同じ記録をもう一つ作っておく事じゃ。その予備の記録の方をワシが預かっておる。」
 ヒメは目を忙しなく動かし、小さくつぶやいた。ヒメは動揺しているようだった。
 「ヒメさん、落ち着いてください。私は神々の歴史のバックアップを取っている神ですが、人間の管轄である時計が狂ってしまった件について調べております。」
 ナオはヒメの肩を両手で抑え、ヒメを落ち着かせた。
 「や、やはり、時計が狂った事と歴史が変わってしまった事は同事件なのじゃな?」
 ヒメは口にあんこをつけた状態のまま、ナオを不安げに見上げていた。
 「それはわかりませんが関係はあると思われます。」
 「で?ナオさん、どうするんだい?」
 隣でムスビがナオの判断を待っていた。
 「そんな、なんでもこちらにふらないでください。そうですね……。とりあえず、栄次に時神の神力を追ってもらいましょう。」
 ナオがため息をつきながらそう発した刹那、ヒメの顔に怯えが浮かんだ。
 「ん?どうしたんだい?」
 ムスビが心配そうにヒメを見た。
 「……今、ここ数分間の歴史がバックアップと変わったのじゃ。」
 「なんでまた、そう唐突に変わるんだ?歴史を変えるんなら過去に戻らないとダメじゃないか?誰かよくわからん神が過去に戻ってんのかな?」
 ヒメの頭を撫でながらムスビは不思議そうにナオを見た。
 「過去に戻る事は普通の神でもできませんよ。時神ならばわかりませんが。」
 ナオは腕を組みながら栄次を一瞥した。
 「っむ……。俺は過去戻りなどできんぞ。過去を見る事はたまにできるけどな。俺は。」
 栄次は表情変わらずそっけなく答えた。
 ナオが何かを言おうとした時、救急車とパトカーが勢いよくサイレンを鳴らしながらナオ達の横を通り過ぎていった。
 「ん?なんだ?」
 栄次はサイレンの音に耳を塞ぎながら去っていく車を不思議そうに見つめていた。
 「パトカーと救急車?なんか事故でもあったのかなあ。」
 「なんだかいやな予感がします……。救急車とパトカーを追いましょう。」
 のんびりと遠くを見つめているムスビを引っ張り、ナオは足早に歩き出した。
 「ちょっ……ナオさん!事故現場見に行くなんて悪趣味だぞ!野次馬は邪魔でしょ?」
 「あの方面、アヤさんのマンションがあった所に近いのですよ。少しアヤさんの様子を見に行くだけです。」
 ムスビはナオに引っ張られてナオに続いて足早に歩き出した。その後をなんとなく栄次とヒメも追った。
 住宅地の道を戻り、アヤがいたマンションへと足を進める。
 少し行ったところで大型トラックが電信柱にぶつかり止まっていた。運転手は無事のようだ。
 ナオ達がたどり着いた時、運転手の男が警察に色々と質問をされていた。
 「あーあ。やっちゃったんだね……。でも無事そうだ。誰かがとりあえず救急車をよんだのかな。」
 ムスビがほっとした顔で警察官と運転手を見つめた。
 ナオもほっとした顔を向けていたが少し遠くで救急隊と話している少女に気が付いた時、目つきが厳しくなった。
 「あ、あの子はアヤさんではないでしょうか。」
 ナオの言葉にムスビと栄次もナオが指差した前方を向いた。
 「……そのようだね。救急隊があの子のケガの有無の確認をしているように見えるけど。」
 ムスビが目を凝らしてアヤと救急隊員の雰囲気を伝えた。
 「……この歴史が変わったのじゃ……。バックアップでは事故が起きておらん。だいたい、あのトラックはこの道を通らず、一本ずれた道を通っていたはずじゃ。」
 「はずじゃってわからないけどそうなの?」
 腰に手を当てて胸を張ったヒメにムスビは困惑した顔で聞いた。
 「そうじゃ。」
 ヒメが大きく頷いた時、トラック運転手の会話が聞こえてきた。
 「この道ともう一本向こう側の道の合流部分で鉄骨が引いてあって通れなかったんです。急ぎだったのでとりあえずこちらの道を選び走行しましたが歩いている彼女に気が付かずに走行してしまい、慌ててブレーキを踏んだら電信柱にぶつかっていました。」
 運転手は動転しながら警察官に話していた。
 「道路に鉄骨が引いてあるって……おいおい。」
 ムスビは呆れた顔で運転手を見ていた。
 「……道路に鉄骨ですか……。ヒメさん、鉄骨がある状態でもう一本の道は通らないですよね。あの運転手さんがもう一本の道を通るのが本来の歴史とおっしゃっていましたね。」
 「そうじゃ。故に鉄骨が道路に転がっているわけないのじゃが……。」
 ナオとヒメはお互い顔を見合わせて唸っていた。
 しばらく眺めているとアヤは救急隊員から解放され、近くにいた学生服の男の子と一緒に歩き出した。
 「ん?あれはあの子の彼氏かなんか?」
 ムスビは素早く、何気なく隣にいる男の子を見つめた。
 「わかりませんが……そうなのではないですか?」
 「……あれは時神か?時神の神力を感じるのだが。」
 ナオの横で小さくつぶやいた栄次にナオ達は目を丸くした。
 「時神!」
 「いや、俺は神力をあまり感じられない故、間違いかもしれぬが……。」
 「とりあえず、追いましょう。」
 ナオはさっさと決断を下し、アヤと男の子の跡をつけることにした。
 「あの、ワシはちょいと鉄骨が気になるのでそちらに行くぞい。」
 「ひとりで大丈夫かい?暗いから俺もついてってあげる。」
 「ありがとうなのじゃ。」
 ムスビはほほ笑みながらヒメを撫でる。
 「……ムスビ、ほどほどにしてくださいね。」
 「大丈夫だって。何にもしないからさ。ただ、ひとりで行かせたらかわいそうだなあって思ったからだから。」
 ナオはため息をつきながら歩き出したヒメとムスビを見つめていた。
 「では。私達はアヤさんとあの男の子を追いましょう。」
 ナオは頭を切り替えて栄次を仰いだ。
 「俺は構わん。ついて行くぞ。」
 栄次の言葉にナオは大きく頷きほほ笑んだ。


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