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ごぼうかえるのTOKIの世界!
皆に元気を与えたい! 前向き楽しいブログを目指す(*^.^*) 口蓋裂の娘ちゃんと軽いADHD、軽いチック症状を持つ旦那と楽しくのんびりな日常をドールちゃん達が紹介する! 独自世界の幻想日本神話、自作小説書いています! 神と人形と人間と霊、そして『K』の季節感じる幻想データ世界TOKIの世界へようこそ! 和風SF日本神話の世界です( ´∀`)
変わり時…1交じる世界7
 駕籠に乗ったマナ達はクロノスがいるという例の村へ行く事にした。
 駕籠の中は快適だった。プラズマが言った通り電車のワンボックス席のようなシートがある。外からではそれがわからない。空間的におかしい気もしたがマナは気にするのをやめた。
 プラズマとマナはそのワンボックス席の椅子に座った。
 座った刹那、鶴が飛び立ち始めた。
 「では、いくよい!」
 ツルの一声で駕籠がふわりと浮いた。だが気持ち悪い感覚はなく、中からでは浮いているのかどうかもわからない。
 ツル達は高く飛び上がるとそのまま飛行を始めた。駕籠にはなぜか窓がついており、その窓から外の眺めを楽しめた。
 「なんだかわけがわからないけど外が見えるね。」
 「まあ、神々の関係ではわけわかんない事の方が多いよ。」
 マナが興味津々に窓から外を眺めている。飛行機に乗っているみたいなのに浮遊感がないのだ。不思議で仕方がない。
 プラズマはまたも興味が窓からの眺望に移ったマナに関心の目を向けた。
 「ああ、そうだ。クロノスについて少し調べておくか。しかし、はやいよなー……もう携帯電話の時代じゃないんだもんな。アヤが悪戦苦闘していた時代ではまだ携帯電話だったしな。ま、俺はもっと未来から来たけど。」
 プラズマはマナから目を離し、代わりにスマートフォンを取り出した。
 「スマホで神様の事が出てくるの?」
 マナが不思議そうに尋ねた。マナがいた世界では神のかの字も出てこない。
 「ん?まあ、ふつうの人間向けのやつにも出てくるが……俺は当然、神々向けの情報通信を見る。」
 プラズマは『天界通信本部ネット支部』と検索欄に入れるとその中の『ようこそ!外国神!』のコーナーを開いた。
 「このサイトは……?」
 マナがすかさずにプラズマのスマホ画面を見つめた。
 「これは日本に来た外国神を取材する記事だ。写真を見る限りだと田舎の野球少年って感じだな。」
 プラズマは今週の記事の中で『クロノス来日!』と書かれた記事を開いた。クロノスの写真も載っていた。野球帽に半袖短パンの子供が豊かな自然をバックに満面の笑みを浮かべている。
 パッと見て日本の子供にしか見えない。
 記事を読むと現在はリョウと名乗っていると書いてあった。
 「ふーん……。この子、過去、現代、未来の三方向からものが見られると。つまり、俺なんかよりももっと世界を見れているわけだ。これは期待だ。」
 プラズマはマナに向かってほほ笑んだ。
 次元が違いすぎる話にマナはどう反応すればいいかわからなかった。 


 しばらく静かに駕籠は飛んだ。窓からは一面の海が見える。潮風が流れカモメがどこかで鳴いている。ぽかぽかした太陽がなんだか眠気を誘った。
 「そろそろ着くよい!」
 ツルが声を上げた。ぼうっとしていたマナは驚いて半分腰を浮かせてしまった。
 「ははっ!あんたにとっちゃあわけわからん状態なのによくぼうっとできるな。」
 マナが飛び上がったのをプラズマが隣で楽しそうに見つめていた。
 「ちょ、ちょっと気持ちよくなっちゃって……うとうとと……。」
 マナも自分で自分の神経をさすがに疑った。やっぱり自分はだいぶんおかしいようだ。
 「ま、いいや。とりあえずそろそろ着くらしいぞ。」
 プラズマが心底楽しそうな顔をしながら地面が近づいてくるのを窓から見ていた。
 やがて駕籠は何の音もなく地面に着いた。どうなっているのかわからないが地面に着く感じも揺れる感じも何もなかった。
 「着いたよい!」
 ツルが元気よく声を上げた。それを合図にプラズマとマナは席を立った。
 外に出る。暑いほどの太陽がまずマナ達を照らした。辺りを見回すと右手に海が、そして左手に山々が堂々と立っていた。
 典型的な田舎である。近くに寂れた駅があり、券売機には蜘蛛の巣が張っている。
 「な、なんだかすごいところにきたね……。」
 マナが不安げな顔でプラズマを仰いだ。
 「まあ、いいじゃないか。俺は自然好きだぞ。虫は残念ながら嫌いだが。」
 プラズマは大きく伸びをしてツルに目配せをした。
 「よよい!もういいって事かよい?じゃ、またなんかあったら。」
 ツル達は軽く頭を下げるとさっさと飛び去って行った。なんだかさっぱりとしている神々の使いである。
 ツルが飛び去って行く水平線を眺めながらプラズマはため息をついた。
 「で、こっからどうやって探そうか……。」
 「あ……。」
 辺りは森に林にと自然豊かだが広すぎて検討がつかない。
 「とりあえずてきとうに……。」
 プラズマがてきとうに足を踏み出した刹那、近くにあった一本の木から男の子が降ってきた。
 虫取り網に半袖半パン、頭には野球キャップがついている。七、八歳くらいにしかみえない男の子だ。
 少年は写真で見たあのクロノスにそっくりだった。
 「あ、彼からわざわざ来てくれたよ。助かるぜ。」
 プラズマは別段驚く風でもなく笑みを浮かべながら少年を見つめた。
 「……ほんとにいたんだ……。」
 マナは不思議な雰囲気の男の子に目を見開いて驚いた。
 「……君が日本の時を守る時神未来神かな?」
 少年はプラズマを見て子供っぽい仕草で尋ねたが言葉はどこか大人びていた。
 「ああ。俺は時神未来神、湯瀬プラズマだ。あんたはクロノスか?」
 プラズマは日差しを手で覆いながら少年に会釈をした。
 「まあ、そうだね。クロノスだけど……今は日本に溶け込んでいるからリョウって呼んでほしいかな。なんでリョウなのかはね……。」
 クロノス、リョウはふてきな笑みを浮かべて言葉を切った。
 「なんとなくわかるが聞いてやるよ。」
 プラズマは子供だと思ったのかやたらと態度が横柄だった。
 「この物語を『了』できるからだよ。」
 リョウはクスクスと笑いながらプラズマを見上げた。
 「……なるほど……あんたは未来も見えるのか?ここにいる理由はわからないが俺達が来た理由はわかるだろう?」
 「まあね。君達は何をすればいいかわからないから来たんだよね?僕はここで過去も見た。プラズマ君、君の過去は簡単に見れるのだけどそこの女の子の過去はかなり不思議すぎる。この世界の子じゃないね?」
 リョウはマナの目を見ながら子供っぽい愛嬌ある顔で笑った。
 「ああ、おそらく伍から来ている。」
 プラズマはマナを一瞥してまたリョウに向き直った。
 「なるほど……。ところで世界はTOKIの世界と呼ばれているのを知っているかな?」
 リョウが試すようにプラズマを見上げた。プラズマはつまらなそうに首を横に振った。
 「いや。知らん。」
 「そう呼ばれているんだ。というかそうしたんだ。TOKIって文字はすべて線対称なんだ。Kは横にすると線対称だよね?つまり……この世界はけっこう単純だ。Tが『壱』と『陸』、『参』と『肆』を表していてOが『弐』の世界。……Kは飛ばしてIは『伍』の世界なんだよ。Kは横にしてTとO、そしてIを結んでいる者としている。……プラズマ君なら知っているかな?Kの存在を。」
 「ああ、まあ、そこそこはな。」
 プラズマは曖昧にごまかしていた。
 「けっこう恨みを買いやすいみたいだけどKは世界を結んでいるだけだからこの異変を解決する能力はない。マナちゃんだっけ?君は世界全体にとって異様で特例なんだ。君が望んだことのようだけど向こうのKが君をこちらへ呼んでしまったらしい。Kとしては君が伍の世界には不適格だと思ったようだね。だから君をこちらへ渡したんだ。」
 「は、はあ……。」
 マナはなんで名乗ってもいないのに自分の名前を知っているのかを聞きたかったが目の前にいる少年はおそらくそういう次元を通り越しているのだろうと思いなおした。
 なんだか雰囲気が異様なのでマナは気おされてなにも言葉が出てこなかった。
 「だけど君はこちらの世界をかなり疑っている。不思議な事、おかしなこと、すべてありえないと思っている。つまりKに初めてシステムエラーが出たって事だ。普通だったらこっちに来た段階でおかしいなんて思わない。Kの誰かがミスをしたか、あるいは……。」
 「意図的にマナをこちらへ入れたか……か?」
 プラズマの言葉にリョウは答えなかった。
 「まあ、とにかくこれはあんまりよろしくない結果を生むようだ。」
 リョウは腕を組んだまま、険しい顔をしていた。マナから無理やり過去と未来を盗み見ているようだ。
 「よろしくない結果って?なんだか怖いんだけど……。」
 怯えているマナにリョウは口角を上げて軽くほほ笑んだ。
 「見てみる?」
 「え……?」
 マナはリョウの顔を見て固まった。刹那、目の前が突然、渦を巻いて消えた。


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変わり時…1交じる世界6
 マナとプラズマはここら周辺の図書館に向かって歩き出した。
 今は商店街を抜け駅前へと来ている。近くに商店街があるからか駅前には大きな商業施設がない。どうやら商店街の方がこの駅周辺では観光スポット並みに有名なようだ。
 その駅の近くに役所があった。その役所の建物の横に大きな図書館が堂々と建っていた。
 「おー、やっぱりあった!図書館。絶対駅前にあると思ってたんだ。」
 プラズマはホッとした顔をマナに向けた。
 「鋭い勘……。まあ、でも図書館なら確かに駅前の事が多いかも。」
 「じゃあ、いこっか。」
 マナの返事を待たずにプラズマはマナを引っ張り図書館内へと足を進めた。
 自動ドアから静かな館内に入る。天気が晴天だからか館内は少し暗く思えた。
 ロビーを通り抜けてプラズマは『図書館入り口』と書かれたドアを押した。
 「えーと……どこだ?」
 プラズマは図書館に入るなり独り言を言いながら辺りを見回しはじめた。
 「どこって?」
 マナが尋ねたがプラズマは答えなかった。
 しばらくまごまごしていると受付の女性がこちらに向かって来た。
 「この本棚を左へまっすぐ、その後、右です。」
 女性は意味深な一言を発すると再び持ち場へと戻ってしまった。
 「な、何?」
 マナが突然話しかけてきた女に戸惑いの声を上げた。
 「あー、あれは図書の神、天記神(あまのしるしのかみ)の操り人形だ。人間には見えない。俺達専用の図書館案内係だよ。」
 「は、はあ……。」
 プラズマはマナにほほ笑んだ。マナもよくわからずにとりあえずはにかんだ。
 「よーし、じゃあ、行こうか。えー……ここを左で突き当りを右か?」
 プラズマはマナを軽く引っ張り本棚と本棚の間を歩き始めた。
 「お、あった。」
 本棚の突き当りを右に行った時だった。プラズマが声をあげたのでマナもプラズマの脇から顔を出した。
 奥に不自然な空間があり、本棚の一つに一冊だけ真っ白な本が置いてあった。
 違和感がある理由はおそらく、本棚に本が一冊しかないからだろう。
 プラズマはその異質空間に平然と入り込み、白い本の前で立ち止まった。手招きされたのでマナも慌ててプラズマの元へと走った。
 「これだよ。」
 プラズマは白い本を手に取り、マナに見せてきた。
 白い本には『天記神』とだけ書いてあった。
 「……てんきしん?」
 「いや、これは『あまのしるしのかみ』と読むんだ。」
 「あまのしるしのかみ……。神様……その本が……。」
 「いや、彼はこの中にいる。」
 「中!?」
 マナは目を見開いて驚いた。プラズマは平然と頷いた。
 「そうだよ。じゃ、さっさと行こうや。」
 「え?どうやって?」
 マナが質問をした時、プラズマが悪戯っぽい笑顔を向けた。
 「単純な事だ。」
 プラズマはそう一言発すると白い本を開いた。
 刹那、マナの意識は遠くなり、真っ白な空間内に消えた。

 気がつくとマナはある古びた洋館の前に立っていた。辺りは森で囲まれており、霧のような白いもやが全体的に覆っていた。
 「驚いたか?ここはあの白い本の中だ。」
 洋館を眺め茫然としているマナにいつの間にか現れたプラズマが胸を張って言った。
 「驚いた……。明治時代の建物みたい……。本の中とは思えない。」
 「ふっ。白い本の中に入った事はマナはもうなじんだんだな。建物に驚いているくらいだから。こりゃあ、一筋縄にはいかない。あんたはある意味、すごい能力者だ。」
 すぐに興味が移ったマナにプラズマは驚きの声を上げた。
 「それで天記神さんは?」
 マナの興味は早くも神に移った。
 「あの図書館の中にいるよ。」
 「あれ、図書館だったの?」
 マナの驚きの声にプラズマは笑った。
 「そうだ。ま、パッと見てただの洋館だわな。じゃ、さっさと行こう。」
 プラズマは素早くマナを促してアイビーだかヘデラだかがつたう緑だらけの洋館のドアを開けた。
 「おじゃましまーす……。」
 重たい扉をプラズマが開けてからマナが恐る恐る声をかけた。
 「はーい!いらっしゃいませ。あら?プラズマさんと……あなたは……。」
 マナが声を上げた刹那、女っぽい男の声が聞こえた。
 「あらあら。まさかねぇ……。伍の世界の子だったりして?」
 「ご名答!さすが知識神!」
 女っぽい男の声にプラズマがおどけるように手を叩いた。
 「それは関係ないわよ。なんとなくわかっただけです。」
 女っぽい男の声は少しふてくされていた。
 姿を見ようとマナはそっとプラズマの脇から顔をのぞかせた。沢山の本棚をバックに青いきれいな長い髪を持つ秀麗な顔の男性と目があった。瞳は不思議な事にオレンジ色で頭には星をモチーフにしているのか星形の帽子が乗っている。紫色の水干袴のようなものを着こんでいてどこか品を感じた。
 ……それなのに女の人っぽい……。男の……神様だよね?
 マナは彼を見て少し混乱したが彼が彼女であることに気がついた。
 「ふ、複雑だ……。」
 マナの一言に天記神はコロコロと笑った。
 「何をお考えかしら?私は心は女です。ほほほ。」
 天記神はマナが考えていることをすべてお見通しだったようだ。マナは顔を赤くしてうつむいた。
 「ま、それは置いといて。話の通り、この子は伍の世界の住人なんだ。で、俺達は何か行動しなきゃいけないっぽいんだけど……どうしたらいいかわからないんだ。」
 プラズマは愛嬌のある顔で笑いかけた。
 「どうしたらいいかわからないって……私もわからないです。本ならばお貸しできる範囲でお貸しいたしますけど。」
 天記神は困った顔で首を傾げた。
 「じゃあ、なんか情報とかでも。最近変なニュースとか……。未来に関係する事とかで。」
 「んー……。情報ならば神々の情報新聞を書いている天界通信本部に行くのはどうかしら?……あ、そういえば……こないだの新聞で海外から時の神の方のクロノスさんが来ているって書いてあったわ。クロノスさんの波形の神かもしれませんけど、今はリョウと日本名を名乗りながら日本を満喫しているとか。」
 天記神の言葉にプラズマは目を輝かせた。
 「それだ。日本版の時の神じゃないところがミソか。そいつに話を聞こう!何かわかるかもしれない。」
 「単純ね……。ちゃんと新聞を読みましょうよ。」
 「いやー、俺、人間のやつしか読まねぇから。」
 天記神にプラズマはまた悪戯っぽい笑みを浮かべて答えた。
 「どうしますか?お茶でも飲んで行かれます?」
 「いや。そのクロノス……リョウだったか?はどこにいるんだ。」
 プラズマは閲覧席に座るように促した天記神を押しとどめ、尋ねた。
 「えーと……そうね。確か……。」
 天記神は考えながら田舎の村名をあげた。
 近くに海とバックには山、観光地の海岸よりもはるかに先の電車すら通っていない小さな村の名前だった。
 「なんでクロノスはそんなところに……。」
 「さあ?知りません。」
 プラズマのつぶやきに天記神は再び首を傾げた。
 「ま、いいや。とりあえず行ってみる。ありがとう。マナ、行くぞ。」
 突然名前を呼ばれマナは飛び上がって驚いた。
 「行くってどこ?」
 「聞いてなかったのか?クロノスに会いに行くぞ。まずは気になる事を片っ端からやっていく!」
 「ええっ!あっ、待ってよ!」
 先程のアヤの時と同じようにマナはプラズマに腕を取られ強制的に歩かされた。
 またも遠くに天記神の困った顔がマナを見つめていた。
 

 洋館を出て森の一点部分に足を踏み入れた刹那、マナの視界がまたも真っ白になった。
 我に返ると先程までいたごく普通の図書館に足をつけていた。目の前には先程と同じように白い本が一冊だけ置いてある。
 「戻ってきた。じゃ、こっから外に出て鶴を呼ぼうか。」
 「鶴?」
 勝手に歩き出したプラズマにマナは疑問の目を向けながら後に続いた。
 「鶴はツルだ。神々の使いだよ。」
 「……はあ……。」
 プラズマはさも当然のように手を広げた。再びわからない事が出たマナは首を傾げながらとりあえず返事をした。
 自動ドアから外に出てプラズマは太陽を眩しそうに手で遮りながら笑った。
 「ま、見ててみ。」
 「……う、うん。」
 なんだかわからなかったがマナはとりあえず頷いた。
 しばらくプラズマと共に青空を見上げていると大きな翼を羽ばたかせている人間のようなものが飛んで来るのが見えた。
 「ひぃ!?」
 マナは驚いて不思議な悲鳴を上げた。
 「ああ、あれがツル。人間には見えない神々の使いだ。ちなみにやつらは鳥になっている時は漢字で鶴。人型の時はカタカナでツルと表記しているようだ。」
 「ひっ……人型!?」
 神が存在している世界という事は辛うじて理解ができた。しかし、動物が人型になるところまでは理解ができない。
 そうこうしている内にツルがプラズマの前に着地していた。全体的に白と黒だ。白い着物に黒い袴、肩に赤いファーのようなものがついている。髪も白と黒で全体的に白、毛先だけ黒い。その髪を中国の宋の時代の様に上でまとめている。端正な顔立ちで目元に赤いアイラインを引いている青年だった。どこかの俳優のようだ。
 「よよい!行き先を提示してくれよい!」
 青年は顔に似つかわしくない言葉を吐くとプラズマとマナに深くお辞儀をした。
 「俺は主にツルを移動用に使うんだ。けっこう便利だぞ。」
 プラズマはマナに笑顔を向けるとツルが引いている駕籠を指差した。よく見ると四、五羽の鶴が脇の方にいつの間にかいた。
 「これ……江戸時代とかにあった駕籠ってやつかな?」
 「んまあ、中は結構心地いいぞ。ローカル線とかでよく見る電車のワンボックスみたいな感じだ。」
 マナとプラズマが話しているとツルが再び口を開いた。
 「よよい!行き先はどこだよい!」
 このツルは神々の使いだと言うのにどこか神々よりも偉そうだった。
 「ああ、悪いな。えっと……ちょっと不便な場所なんだが……。」
 プラズマは村名を素早く伝えた。
 「了解しましたよい!駕籠にどーぞ。」
 ツルはマイナーな村を瞬時に理解したようだ。そこら辺のタクシーよりもはるかに場所に詳しい。
 マナは感心しつつ、早くも興味が駕籠の中へと移っていた。
 「じゃあ、行くか。あんた、本当になじむのが早ぇんだな。さっきのツルの件はもう驚いてないのか。面白い。」
 プラズマは興味津々にマナを見、その後駕籠へと促した。

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変わり時…1交じる世界5
 やはりこの学校は自分がいてよい学校ではないと気がついたマナはアヤとサキに感謝しつつこの学校から一度外に出ることにした。
 こっそり校門を抜けて商店街を歩く。
 ……ここはどこだかわからないけど……とにかく……神が存在している……。
 マナは色々と考えながら当てもなく商店街を進む。
 「……。」
 ふと神社の鳥居が見えた。鳥居の階段で奇妙な格好をしている男を発見した。
 狐耳に赤いちゃんちゃんこ、白い袴……。瞳は青い。
 狐耳の男は大きく伸びをしながらおにぎりを食べていた。
 「……変な格好の人だな……。」
 マナは先程のように眼鏡を外してみた。前を歩く通行人は特に変わりはなかったが狐耳の男は沢山の電子数字に変わった。
 ……日穀信智神(にちこくしんとものかみ)……実りの神様。穀物の神……。
 ……やっぱり……あのひとも神だ……。
 神は……眼鏡を外すと電子数字になる……。マナが先程覚えた事実だ。
 しばらく観察を続けていると後ろから突然声がかかった。マナは驚きすぎて飛び上がってしまった。
 「ひい!」
 「あ……そんなに驚かすつもりはなかったんだよ。あんたがマナか?俺の未来見でちまちま出て来ていた女。そんでなんでか俺がこの壱(いち)の世界に来ちまった原因の女。」
 声は男だった。マナは恐る恐る後ろを向いた。目の前には赤い髪をした秀麗な顔の青年が涼しげに立っていた。
 「だ、誰?」
 マナは警戒しながらも眼鏡を少しずらした。もしかすると神かもしれないと思ったからだ。
 しかし、赤い髪の男は電子数字にはならなかった。
 「じゃあ……人間?」
 「ん?俺は人間じゃないぜ。時神未来神、湯瀬プラズマだ。」
 プラズマと名乗った男にマナはまた混乱した。
 「え?え?だって神様は電子数字になるんじゃないの?」
 「何言ってんだ?あんた?」
 マナの言葉にプラズマは首を傾げた。
 「あ、えっと……なんでもない。」
 マナは疑問を心にしまう事にした。今、そのことを言うのは混乱を生みそうだからだ。
 ここでマナはもう一つ、この世界について知った。
 ……神様は自分が電子数字であることを知らない。そして電子数字じゃない神もいる?
 「……あんた……どっから来たんだ?」
 プラズマが端正な顔を若干曇らせて尋ねてきた。その『どこから来た』という言葉は場所を指していないという事はマナも理解できた。
 「……実は……よくわからないの。」
 マナは素直にプラズマにそう言った。本当によくわからなかった。
 「あんたは人間なのか?不思議な感覚を纏っているようだが。」
 プラズマはマナにとても興味があるようだ。マナは警戒しつつも素直に話す事に決めた。
 「よくわからないんだけど……私、現人神(あらひとかみ)なんだって……女の子から言われたの。」
 「現人神……。じゃあ、あんたは人間と神の中間にあるって事か?」
 「よくわからない。ここがどこかもわからない……。」
 プラズマの質問にはマナは何一つ答えられなかった。
 「そっか。それじゃあまずはあんたがどっから来たかだなあ。俺の未来見で出てきた時には俺とあんたは近々起こる未来で一緒に行動をしているらしい。でもあんたは未来から来た者じゃないって事はわかる。俺は肆(よん)の世界には敏感でね。」
 「……肆の世界?世界ってそんなにいっぱいあるものなの?私もこの世界に着くまで三回くらい場所が変わったの。」
 マナがそこまで言った時、妄想症だった例の少女の言葉を思い出した。
 ……向こうの世界、行ってみる?
 「……向こうの世界……。そうだ!私は向こうの世界に行ったんだ!」
 「おい、向こうの世界ってなんだ?」
 マナが自己解決をしているのでプラズマはいぶかしげにマナを仰いだ。
 「あ……えっと……違う。向こうの世界に行ったって事は……えーと……そう!向こうの世界からこちらの世界に来たって事だわ!」
 「向こうの世界って言うと……まさか……あんた……。」
 マナの言葉にプラズマが戸惑いの色を見せた。
 「宇宙空間みたいなところでスサノオ様に会ったの……。それから……。」
 「あんた、伍(ご)の世界からこっちに来たのか!?まいったなあ……。」
 マナが最後まで言い終わる前にプラズマが目を見開いて叫んだ。
 「伍の世界?えっと……五番目の世界って事?なんでそんなに世界がいっぱいあるの?」
 マナは頭をひねりながら知っていそうなプラズマに問いかけた。
 しかし、プラズマは首を傾げた。
 「知らん。伍の世界はこちらでは全く資料がない。俺だって肆の世界から来たんだぜ。あ、肆の世界って未来の世界なんだってな。まあ、あんたとは同一じゃないけど俺もここじゃあ異世界人って感じか?なんか違うかな?」
 「と、いう事はプラズマさんは私とちょっと近い立場にあると?」
 「たぶん。」
 なんだか煮え切らない答えが返ってきたがマナはなんとなく安心した。自分と同じような境遇の人がいたという事がマナの警戒心を解いた。
 「私、ここで生活をしていかないといけないみたいなんだけどここはバイトとか通貨とかどうなの?あなたは私よりも早くにこちらに来たみたいだから、知っているかな?」
 なんとなく話せそうな感じだったのでマナは質問をしてみた。
 「んあ?あー……たぶんバイトはあるし、通貨はここは日本だから『円』だな。」
 「私達の世界と一緒だ。ここは神がいるだけで私達の世界と変わらないって事かな?」
 「あんたの世界は神がいないのか?」
 「いないよ。」
 プラズマの言葉にマナは小さく頷いた。だから戸惑っているのだと思いながら。
 「ふーん。なんか寂しいなあ。……ああ、こっちの世界は後、戦争がない。世界が分断される前の過去にはあったが。未来は……あんたがどう動くかによってたぶん変わる。俺の世界の時代で起こる……自然共存派戦争もあんたが動くことでなくなる可能性がある。どう動くかまでは色々障壁があって見えなかった。たぶん、そこから沢山の可能性があったんだろう。……あの戦争は……こちらの世界の人間と伍の世界の人間の戦争だったんだ。いつの間にか世界が融合している未来を見てしまった。」
 「世界は分断されていたって……スケールが大きすぎる……。私がその戦争を失くすことができるかもしれないの?」
 マナの質問にプラズマは軽く笑った。
 「まあ、あんたがこっちに来たことでその戦争が起きるってのも間違いじゃない。俺の未来見からするとあんたは天秤だ。戦争が起きる原因を作ったのもあんたでなくす可能性を持っているのもあんただ。俺には力はないがあんたの通る道を確かめる必要がある。俺はだからあんたを探してた。見た感じだとあんたはいいやつっぽいな。」
 「……。」
 マナはプラズマの言葉で詰まった。自分がおとぎ話の世界の主人公になったような気がしてきた。
 ……まるで物語の主人公だ。
 だが事態はマナが考えているほど甘くないらしい。戦争が起きるのは本当でその戦争の引き金が自分で争うのは自分の世界の住人達とこちらの世界の住人達。
 プラズマの言っていることがすべて正しいならマナは慎重に動く必要がある。
 ただでさえ平常心を保つのが必死なのにそんなことを言われたマナはさらに頭を抱えた。
 自然共存派戦争は『時神アヤが関わった事件で少し出てきた』が今のマナが知る由もなかった。

 「ま、とりあえずだな、俺はあんたを見ていたい。どうせ元の時代には戻れないし、いい暇つぶしにはなるだろ。ここは平成二十九年だろ?2017年か。だいぶん前だな。この時代忘れてるぞ。俺。」
 プラズマは楽観的に笑っていた。マナは笑いごとではなかったがプラズマに合わせて引きつった笑顔を向けた。
 「えーと……。私、どうしたらいいかわからないんだけど……。一緒に行動するって事?」
 「そういう事!興味本位だけどやましい気持ちじゃないから、そこは理解してね。」
 「やましい気持ちって……。」
 プラズマの眩しい笑顔にマナは頭を抱えた。
 だがなんとなく無害な気もする。
 「で、あんた、これからどうするの?」
 「どうするって……?」
 プラズマの突然の質問にマナは戸惑った。
 「だから、これからどこ行こうって思っているのって事だ。」
 プラズマは相変わらず楽しそうにマナを見ていた。
 「え……。どこ行こう……。とりあえず、この辺歩く。」
 「オーケー。」
 マナは困った挙句、ただの散歩をすることにした。プラズマは嫌がるそぶりをみせず、単純にマナの後を歩いてきた。
 ……なんかこの人、変かも……。どう対応すればいいんだろ……。
 マナは不安げな顔で当てもなく歩く。プラズマが気になりすぎて風景が頭に入ってこない。
 どれだけ同じ道を行ったり来たりしたかわからないがマナの足が疲れ始めた頃、マナとプラズマを呼ぶ声が聞こえた。
 「マナ!っと……プラズマ!?あなたはなんでここにいるのよ!」
 声の主は先程の少女アヤだった。アヤはマナに目を向けた後、プラズマに目を向けて驚いていた。
 「あー、アヤか。久しぶりだな。」
 「久しぶりじゃないでしょ!なんでいるのよ。ここは現代よ。」
 呑気なプラズマとは反対にアヤは焦った顔をしていた。
 「そうなんだよな。俺、なんでか現代に来ちゃったんだよ。散歩してたら急にここにいてだな。」
 プラズマは少し困った顔でアヤを見ていた。
 「はあ……つまりは……また時間が狂う何かがあるというわけね。栄次は……。」
 アヤがため息交じりにつぶやき、プラズマがそれを拾って答えた。
 「栄次は今回関係ないっぽい。つまり、未来なんだ。」
 プラズマは少し楽しそうにマナに目を向けた。マナは身体を強張らせながら引きつった笑みを返した。
 「未来……あなた……一体……。」
 アヤがマナを不気味そうに見ている。マナもなんだか徐々に怖くなってきた。
 ……一体自分のようなちっぽけな存在が世界にどのような影響を与えているというのか……。
 マナはわけがわからずにアヤに向かい首を傾げた。
 とりあえず『何か話さないと』と思ったマナはアヤに外れた問いを投げかけた。
 「アヤさん……学校は……?」
 「学校?ああ、あれはもういいのよ。それよりも……。」
 アヤはマナの言葉をてきとうに流した。
 「アヤ、今回は俺とマナで動くからアヤは注意深く現代を見ていてくれ。」
 プラズマが焦っているアヤをなだめてほほ笑んだ。
 「……そ、そう。時間関係が狂うのは嫌だわ。一番、気持ちが悪くなるもの。」
 「わかってるって。あんたは現代神なんだから現代を『今』を守ってろ。『今』ですらおかしくなったらあんたの出番だ。」
 「……そうね。」
 アヤはまだ納得がいっていなさそうだったが渋々頷いた。
 「なあ、アヤ。」
 プラズマが思い出したようにアヤに会話を投げかけた。
 「何よ?」
 「俺達、これからどうすればいい?」
 プラズマがマナをちらりと横目で見つつアヤに尋ねた。
 アヤは明らかな呆れ顔を作った。
 「知らないわよ……。でも……まあ、そうね……。情報を集める面でも過去、現代、未来が繋がっているといった面でも……図書館に行くのがいいんじゃないかしら?」
 アヤは首を傾げながらため息交じりにそう言った。
 「そうか!なるほどな。参考になった。じゃあ、これから行こう!」
 プラズマはアヤにほほ笑むとマナに目を向けた。
 「図書館って……本で調べるの?」
 マナは完全に話についていけずに頭を悩ませていた。
 「違う。人が利用する図書館じゃないよ。神が利用する図書館だ。あそこの本には興味がないが……あそこにはひとり興味深い神がいる。」
 「本じゃないの?」
 「本よりももっとすげぇ奴だ。図書館のブレーンだよ。」
 「ぶれーん……。」
 プラズマは茫然としているマナの腕を掴んで歩き始めた。
 「アヤ、ありがとな。あんたもちょこちょこ原因を調べて見てくれ。」
 「わかったわ。気を付けて。」
 プラズマとアヤの会話はかなりドライだった。プラズマに腕を持っていかれながらマナは後ろを振り返った。
 少し疲れているアヤの顔が徐々に遠くなっていった。


テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

変わり時…1交じる世界4
 マナが茫然と立ちつくしていると突然チャイムが鳴った。マナはビクッと肩を震わせると辺りを怯えながら見回した。
 しかし、すぐに学校の一限目が終わったチャイムだと気がついたので顔を元に戻した。
 マナは一時間以上ここで茫然としていたらしい。
 我に返り、慌ててどこかへいく心構えを作ったがよく考えれば行く場所などない。
 まごまごしていると女の子の話し声が聞こえてきた。
 ……なんかまずい!こっち来てる?
 マナは咄嗟に構えた。
 扉を凝視しているとそっと扉が開き、茶色のショートカットヘアーの少女とウェーブかかった長い黒髪の少女が談笑しながら入ってきた。
 「サキ、光合成したいって植物じゃあるまいし……。」
 「少し太陽を浴びたくなっただけさ。日光浴ってやつだよ。アヤもやればいいじゃないかい。こう……スーハ―スーハ―って太陽を吸い込む感じで。」
 「浴びるんじゃなくて吸い込むのね……。」
 茶色の髪の女の子は黒髪の女の子に呆れた目を向けていた。
 「うわっ!」
 黒髪の少女は立ち尽くすマナを見、目を見開いて驚いた。いつもこの時間は二人だけしか屋上にいないらしい。
 黒髪の少女の驚き方でマナはそう予想した。
 「あんた……どこのクラスの子だい?あ、あたしはサキって言うんだ。よろしくね。ここで会ったのも何かの縁とか言うし、ちょっとしゃべらない?」
 黒髪の少女は自分の事をサキと紹介した。彼女は人懐っこい性格なのかもしれない。猫のような愛嬌ある目つきで驚いていた顔から一転、笑顔に変わった。
 「私はアヤよ。あなたの校章のカラーから言ってあなたは私達と同じ学年のようね。」
 茶色の髪の少女はアヤというらしい。こちらの少女はサキと名乗った黒髪の少女よりもとっつきにくい感じがある。
 だが根はやさしそうだ。
 とりあえず、怪しまれないようにマナは自己紹介をすることにした。
 「私はマナって言います。えーと……。」
 マナは自己紹介することが名前しかない事に気がつき、詰まった。
 「いやー、気にしないでいいって!丁寧語じゃなくてもあたし達、同じ学年じゃないかい。」
 サキと名乗った黒髪の少女は愛嬌ある目を細めて柔らかく笑った。どうやらマナが丁寧語で戸惑っていると思ったらしい。
 「う、うん。」
 マナはとりあえず話を合わせ、軽く頷いた。
 なんだか変な汗が出ている。とても失礼なのだか人間とは違うようなそんな不思議な感覚が先程からマナを襲っていた。
 マナは顔に浮かんだ汗を拭おうとハンカチを取り出し、眼鏡をとった。
 「……っ!」
 刹那、目の前の少女達は突然に電子数字にかわった。目の前で沢山の電子数字が絶え間なく変動している。まるでデータのようだ。
 ゲームのようだった。ゲームも画面上では映像や風景になっているがゲームの本質、内部を覗くとわけのわからない数字とプログラムばかりだ。
 なんだかその感覚に似ている。マナはさらに変な汗をにじませ、怯えるように後ずさった。
 「ひっ!」
 小さく悲鳴を上げて倒れてしまいそうな体を頑張って目覚めさせる。
 わけのわからない数字の羅列だがマナにはそれがなぜか読めた。
 気がついたら口に出していた。
 「とっ……時神現代神アヤ……日本の時を守る神の内の一……。現代を守る時神。他に過去神、未来神がいる……。輝照姫大神(こうしょうきおおみかみ)……サキ……。太陽神のトップでアマテラス大神の力を一番受け継いだ……太陽神。概念になったとされるデータ、アマテラス大神を以前彼女の母親が体内に下ろしたのがはじまり……。」
 マナは震える声でつぶやくと腰から崩れ落ちた。腰が抜けたのだ。足に力がまったくはいらず立ち上がる事ができない。
 汗を拭ったマナは肩で息をしながら再び眼鏡をかけた。
 眼鏡をかけた刹那、電子数字は消え、その代わりに心配そうなアヤとサキが映った。
 「今……なんて言った?あたし達の……事。」
 サキがマナに近づきながら訝しげにこちらを見ていた。
 「え……えっと……その……。」
 マナは震えながら真っ白になる頭で何か言おうと考えたが何も思いつかなった。そのうち、なぜか右手に違和感を覚え、マナは右手に目をちらりと向けるが右手は何ともなかった。
 そっと眼鏡を下げて今度は右手を見てみた。よく見ると自分も電子数字の塊だった。
 右手の方の電子数字がパソコンのデリートのようにどんどん消えてなくなっている。
 ……消えてる!
 「ひっ……!」
 マナは悲鳴に近い声を上げてなくなっていく数字を怯えながら見つめていた。
 また妄想症だったKの言葉を思い出した。
 ……自己を保っていないと分解されちゃうよ……。
 「じっ……自己を保つ……。」
 マナは素早く眼鏡をかけると息を吐き、アヤ達に笑いかけた。ちゃんと笑えているか不安ではあったが。
 「ちょ、ちょっと貧血みたい。」
 「もしかして、あなた、神なの?」
 「神!?」
 アヤの言葉にマナは心臓がひっくり返るくらい驚き、素っ頓狂な声を上げた。
 ……神なんて私が……そんなわけない。神がいるわけが……。
 そうマナが思った刹那、先程の違和感がまた強くなった。それも先程よりも強く感じる。眼鏡を外すことは恐ろしくてできなかった。
 ……神がいるわけないって思っちゃいけないんだ……。あの時はあれだけ信じていたのに……心のどこかで信じることが冗談だったっていうの?
 カチカチ鳴る歯を抑えつつ、マナはまともな思考ができない頭で答えを必死に探した。
 「そ、そうみたいなんだけど……なんの神だがわからない。」
 マナはとりあえず話を合わせる事にした。
 「ふーん。あなた、最近出現した神なのね?何の神だがわからないってけっこうまずいわ。神社はどこ?信仰心は大丈夫?」
 アヤはトンチンカンな事を言っているのに平然とマナにそう尋ねた。
 「大丈夫じゃない……。どうすればいいのかわからない。」
 マナはとりあえず素直な気持ちをアヤに伝えた。なんとなく彼女達は自分を助けてくれそうだったからだ。
 そういう風に話を合わせていると右手の違和感は知らぬ間に消失していた。
 「へえ……あたし達の事けっこう知っているみたいだねぇ。じゃあ、情報の神とか?」
 今度はサキが口を挟んできた。
 「じょ……情報の神?……そ、そういえば……あの女の子が現人神(あらひとかみ)って言っていたような……。」
 「あらひとかみ?何それ?」
 マナがてきとうに言った言葉にサキは首を傾げた。
 「現人神は確か……人間が神になる事よ。」
 アヤはサキに思い出すように答えた。
 「人間かい。じゃあ、あんたは人間の皮を被った神って事かね?」
 「そ、それはわからない。」
 サキの質問にマナは辛うじて返答した。
 正直、何を言っているのかまるでわからない。
 「ま、何やともあれ、あたし達はあんたを味方する事にするよ。」
 「そうね。私も味方するわよ。」
 サキとアヤは楽観的に話を片づけると「もうそろそろ授業だからまた、後で。」と手を振って去って行った。
 ……本当に彼女達を頼っていいのか?騙されていたりしないか?
 ……もう……元の世界に……帰り……
 そこまで頭に思い浮かべた時、また体中に違和感が襲ったので考えるのをやめた。
 
 

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変わり時…1交じる世界3
 「……おい。おーい!」
 誰かがマナを揺すっている。
 「起きろ。」
 「んっ……?」
 男の声が耳に響き、マナはそっと目を開けた。目の前に紫色の髪の男性が映る。
 男性は端正な顔立ちだが目つきが鋭く、なぜか甲冑を着こんでいた。
マナは眼鏡をどこかで落としてしまったのか眼鏡がなかったのであまりよく見えなかった。
 「お。やっと起きたか。あんた、伍の世界のやつだろ?」
 「あれ……?私は……。」
 マナは首をかしげながらゆっくり起き上がった。辺りを見回してみたが何もなく真っ暗だ。だがまるで宇宙空間内にいるように星のようなものが光っていた。
 「よくここまでこれたなあ。まあ、まだ伍の世界だが。」
 「あなたは誰……うっ!?」
 マナは質問しかけてから自分の体に目を移し驚いた。
 「きゃあっ!はだっ……私裸!」
 なぜかマナは一糸まとわぬ姿であった。つけていたシュシュもなくなっており、長い髪が色っぽく体にかかっている。
 マナは顔を真っ赤に染めて髪で体を隠した。
 「そりゃあな。お前は今、魂だから。……いや、こちらだとエネルギー体か。」
 「……エネルギー体が……どうして意思を持っているの?」
 マナは恐る恐る男に尋ねた。男は軽くマナに向かってほほ笑む。
 「ここは伍の世界の魂が行き着く世界だぜ。イザナミとイザナギが向こうの世界だけじゃなく伍の世界も繋げているんだ。その繋げているバイパス部分っていうのかな……あんたら伍の人間も眠っている時はここに来るんだぜ。そういうふうにできてんだ。」
 「よくわからない……。」
 「だろうな。眠っている時、魂の成分ダークマターは電子が離れるようにタンパク質の塊から抜け出し、一時的にここに集まる。そしてここに沢山あるダークマターの成分を魂が取り込み、増えるとタンパク質に引っ張られ肉体と魂が重なる。そして目覚めるわけだ。歳いってくるとタンパク質の塊……つまり体が衰えるから魂を引っ張りにくくなる。すると色々な障害が出たり、最終的には魂が肉体に戻れずに向こうの世界で肉体が腐るわけだ。魂は防腐剤的な感じだろうな。」
 男は楽しそうにマナに語った。
 「ここに集まる……。」
 「そうだ。ここは向こうの世界では魂とか精神の世界、弐の世界と呼ばれている。こちらの世界での名称はない。しっかし……こちらの世界のやつらはほんと、想像力にかける。見ろ。世界がねぇ。真っ暗だ。」
 「そんな事言われてもわからない……。」
 男の発言にマナはただ戸惑っていた。
 「ははっ!違いねぇ。俺達はこちらの弐の世界から外へ出られねぇ。だがちゃんと見守れる魂は見守って管理してるんだぜ。眠っている時、少なからず想像を膨らませるやつがこちらの世界でもいるんだよ。あんたみてぇなやつがな。俺達はその想像している生命の世界でしか今は生きられない。ごく少数だ。ちなみにここはアンって子の世界なわけだが、あんたはそのアンって子の世界に魂が入り込んでいるってわけだ。あんたの肉体はもうない。実態が保てるのもアンって子の想像のおかげだ。」
 「アンって……私の友達の……?」
 マナは驚いて声を上げた。
 男は再び愉快そうに笑った。
 「そうみてぇだな。あんたら、俺達の神社の話していたろ?それで夢で俺達が出てきたんだろう。」
 「俺達の……神社……?……はっ!あなたはまさかっ!三貴神のうちの……。」
 マナは目を見開いた。
 「ご名答。俺はスサノオだ。これをやるよ。」
 スサノオと名乗った男は驚きで震えているマナの手に眼鏡を乗せた。
 「……すっ……スサノオ!?……こ、これは……め、眼鏡?」
 「そうだぜ。落ち着けよ。あんたは俺が待ちに待ったこっちから向こうへ行く魂だ。向こうに行ったら驚くぜ。怪現象の嵐だ。あんたは向こうの世界では神が見えねぇみたいだからこの眼鏡をつけて神を見るといい。あ、ここは人が唯一想像を膨らませる弐の世界なんで俺が見えるんだが向こうだと普通に生活している人間達も神が見えねぇから。」
 「……さっきから何言っているのかわからないんだけど……。」
 マナは不安げな顔のままとりあえず眼鏡をつけた。
 眼鏡をつけたとたん、スサノオと名乗った男の後ろにガラスのような薄い透明な何かがどこまでも続いているのが見えた。その透明な板のようなものに五芒星が描かれている。
 「あれは……。」
 「向こうとこちらを繋ぐ結界だ。あんたがデータ上、あちらに入るとき問題ないと世界が判断したら分解されずに入れるだろう。向こうの世界の人間と同じコードを持っていたら入れるって事な。ま、その眼鏡が向こうの世界のものなんで問題ねぇと思うが。向こうの世界がお前をどうデータ化して溶け込ませるのか俺は楽しみだぜ。」
 スサノオは一方的に話すとマナの背中を軽く押した。少しだけ押しただけなのにマナはかなりのスピードで結界に向けて滑り出した。
 「……ちょっ……ねえ!私大丈夫なの?全然話がわからなかったんだけど!」
 マナは恐怖を感じ遠くなっていくスサノオに叫んだ。
 スサノオは笑っていた。マナの顔にさらに恐怖の色が浮かぶ。
 「ねえっ!」
 「問題ねぇだろ。あんたはもう……こちらの世界でも人間じゃねぇ。俺が見えた段階であんたは神だ。現人神(あらひとかみ)……。向こうの世界はそう判断すると俺は睨んでいる。そのまま行け!」
 「……っ!」
 スサノオの声はそこまでだった。マナは目の前に迫る五芒星に徐々に分解されていった。
 最後に見たのはスサノオの笑顔だった。不思議な笑みを浮かべている。
 ……そういえばスサノオは神話だと良くも描かれるけど悪くも描かれるよくわからない神だった……。
 マナは辺りの電子数字を眺めながらそんなことをふと思った。
 そう思っていた刹那、不思議な声が頭の中に介入してきた。
 ……今は解明されていないし名前もないけど魂の成分はソウハニウムって名前になるらしい……。未来は変わるかもしれないけどね。
 「……誰?」
 マナがそうつぶやいた刹那、意識は真っ白な靄の中に消えた。


 「はっ!」
 マナは気がつくと真っ白な空間にいた。体を起こし、辺りを確認してみても空間はどこまでも真っ白だった。先程とは真逆だ。
 「……どこまでも白い……。私はどうなっているの?これって夢?」
 マナは自分の体にとりあえず目を向けた。先程とは違い、何か着ている感じがあったからだ。
 「……これは……私の学生服……。」
 マナはいつも学校に行くときに着ている学生服を身にまとっていた。だが自分の学校の校章はなくなっていた。
 その代わり、マナの胸元には見た事もない学校の校章がついていた。知らない内に緑のシュシュも元に戻っていた。
 「いらっしゃい。はじめてのお客さん。」
 ふと後ろから少女の声が聞こえた。マナは慌てて振り返った。すぐ目の前にツインテールのモンペ姿の少女がほほ笑みながら立っていた。
 「誰!?」
 「そんなに驚かなくてもいいよ。現人神マナさん。私はK。よろしく。」
 「K……。」
 Kと名乗った少女はとても友好的に話しかけてきた。
 マナはKという名になにか引っ掛かりがあった。
 ……K……けい……ケイ……。ケイ?
 ……ケイ!
 『私はケイ。向こうだとK。人々の心の具現化でできたシステムの内の一つ。』
 ……そうだ!
 「……あの子がそう言っていた……。あの精神病院にいる女の子が!」
 「ふーん。お姉さんは向こうのKに会ったんだね?」
 マナが叫ぶように声を上げるがKの少女は別に驚いてもいなかった。
 「向こうの……K……。」
 「そう。実はあなたは一番真実に近いんだ。……あなたがこれからどう動くのか、向こうの私達の同胞も救ってくれるのか、私は楽しみにここで見ているからね。」
 少女Kは軽くほほ笑むとその場から姿を消した。
 「ちょっと!」
 マナが何だかわからず叫んだがマナもすぐに意識を失った。


 「このままじゃ遅刻しちゃう!」
 マナは商店街を焦りながら走っていた。現在は春の陽気漂う朝八時十五分。桜の花は残念ながらもう散っている。
 「もう少し!もう少しで学校!」
 マナはスカートを揺らしながら商店街を駆け抜ける。今は登校中だ。珍しくない朝寝坊で今日もマナは全力疾走している。
 「あーっ!今日は間に合わないかもしれない!」
 ……ん?
 走っていてマナは突然変な違和感にとらわれた。
 ……ちょっと待って……。
 マナは足を止めた。
 「私……なんで走っているの?こんな見たこともない場所を……。」
 マナの瞳が突然黄色に発光し、電子数字が回った。しかし、すぐに元の茶色の瞳に戻った。
 「私はついこないだ学校にいて、授業を受けて帰ってそれで日曜になってレティとアンと一緒に妄想症の子と会った。私は登校中じゃない。」
 引き返そうとしたがよく考えたらここがどこだかわからない。
 「……ここはどこ?」
 よくわからないがなぜか行ったこともない学校の行き道を知っていた。
 「……よくわからないけど……その学校へ行ってみよう。」
 とりあえず、マナは不安げな顔で学校への道を歩き始めた。
 しばらく商店街を歩いていると見たこともない学校についた。
 「……この学校は知らない……。場所もどこだかわからないのになんでこの学校への行き道を知っているの?」
 マナは不思議に思ったが恐怖は感じなかった。
 ……入ってみよう……。
 好奇心の方が強くマナははやる気持ちで校門をくぐった。
 少し古臭い学校だった。だがさびれてはいない。
 どこにでもある公立の高校のようだ。
 時刻は九時を過ぎた。
 学校は朝の慌ただしい朝礼が終わり、今はのんびりと一限目の授業に入っている。
 マナはなんだか場違いな気分を感じながら恐る恐る廊下を歩いた。この時間帯は寝坊した生徒が慌てて教室に入っていく時間帯でもある。
マナは慌てている三人の生徒とすれ違った。通り過ぎさまに制服を見るとなぜか自分と同じ制服を着ていた。
……この学生服はここの学校のものなんだ……。
……でもなんで私がここの学校の制服を着ているの?
学校の制服は着ているものの場所以外学校の事はわからない。
この学校に通っていたとしてクラスはどこなのか、時間割の状況もわからない。
……私はやっぱりこの学校の生徒じゃない。
マナはそういう結論を出し、とりあえず学校関係者に見つからない場所を探した。
……屋上……。
マナは四階の階段を上った後、五階へ続く階段を見上げた。五階は屋上になっているようだ。
……でも屋上ってだいたい鍵がかかっているはず……。
そんなことを思いながら階段を上ると重そうな扉があった。
マナはダメもとで扉のノブをひねった。
「あっ……。」
鍵がかかっていると思っていた扉はあっけなく開いた。
「開いた……。」
マナはそのまま屋上へ出て静かに扉を閉めた。
春のあたたかな風とまだ残っている桜の花びらが頬をかすめる。快晴の空がとても気持ちいい。
「屋上は開いているんだ……この学校。」
辺りを見回すとのどかな自然風景が遠くに見えた。しばらくぼんやりと風景やらグランドで体育をやっている生徒達を眺めるやらをやっていると少し目が疲れてきた。
マナは目を休めようと眼鏡をはずした。辺りは若干ぼやけたが少し遠くの方に大きな鳥居が存在していることに気がついた。
「……あれ?眼鏡していた時は見えなかったのに眼鏡をはずしたら鳥居が見える……。」
ひとりごとをつぶやきながら眼鏡をはずした状態で一周ぐるりと見回してみる。
鳥居は全部で三つあった。ちょうどこの学校を真ん中に正三角形を形成するように鳥居が立っている。
……ふーん。ぴったり正三角形になるように鳥居が立っているね。おもしろいわ。
……ん?……『正三角形に』鳥居が立っている?
マナは固まった。
再び眼鏡をしてみる。辺りは鮮明になったが遠くに見えていたはずの鳥居がなくなった。
「あれ?」
マナは再び眼鏡をはずしてみた。辺りはぼやけほとんど見えなくなったが遠くにある鳥居だけははっきり見えた。
……まって……この配置……どこかで……。
「はっ!」
マナは目を見開いて驚いた。そういえばアンが言っていた三つの鳥居と位置が酷似している。
「真ん中に……妄想症の精神病院があって……結界が……云々ってアンが……。」
マナは震える声でつぶやくと再び眼鏡をかけた。眼鏡をかけたとたん、その鳥居は跡形もなく消えた。
……一体どういうこと?眼鏡をはずすと見えるなんておかしいよ……。それにここは妄想症の病院じゃなくて学校……。
……何がどうなっているの?
 マナは突然、言いようのない不安と恐怖に襲われた。
 ……ここは何なの?私がおかしいの?
 マナは狂いそうになっていた。不安になればなるほど不安になってくる。
 その時、重度妄想症だったKと名乗った少女の言葉を思い出した。
 ……しっかり自己を保っていないと分解されちゃうよ……。
 「しっかり……自己を……保っていないと分解……されちゃうよ……。」
 マナは茫然と遠くの風景をながめた。下のグランドでは楽しそうに笑う生徒達が体育の授業でサッカーをやっていた。
 ……これから私はどうすればいいのだろう?

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