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ごぼうかえるのTOKIの世界!
皆に元気を与えたい! 前向き楽しいブログを目指す(*^.^*) 口蓋裂の娘ちゃんと軽いADHD、軽いチック症状を持つ旦那と楽しくのんびりな日常をドールちゃん達が紹介する! 独自世界の幻想日本神話、自作小説書いています! 神と人形と人間と霊、そして『K』の季節感じる幻想データ世界TOKIの世界へようこそ! 和風SF日本神話の世界です( ´∀`)
変わり時…1交じる世界7
 駕籠に乗ったマナ達はクロノスがいるという例の村へ行く事にした。
 駕籠の中は快適だった。プラズマが言った通り電車のワンボックス席のようなシートがある。外からではそれがわからない。空間的におかしい気もしたがマナは気にするのをやめた。
 プラズマとマナはそのワンボックス席の椅子に座った。
 座った刹那、鶴が飛び立ち始めた。
 「では、いくよい!」
 ツルの一声で駕籠がふわりと浮いた。だが気持ち悪い感覚はなく、中からでは浮いているのかどうかもわからない。
 ツル達は高く飛び上がるとそのまま飛行を始めた。駕籠にはなぜか窓がついており、その窓から外の眺めを楽しめた。
 「なんだかわけがわからないけど外が見えるね。」
 「まあ、神々の関係ではわけわかんない事の方が多いよ。」
 マナが興味津々に窓から外を眺めている。飛行機に乗っているみたいなのに浮遊感がないのだ。不思議で仕方がない。
 プラズマはまたも興味が窓からの眺望に移ったマナに関心の目を向けた。
 「ああ、そうだ。クロノスについて少し調べておくか。しかし、はやいよなー……もう携帯電話の時代じゃないんだもんな。アヤが悪戦苦闘していた時代ではまだ携帯電話だったしな。ま、俺はもっと未来から来たけど。」
 プラズマはマナから目を離し、代わりにスマートフォンを取り出した。
 「スマホで神様の事が出てくるの?」
 マナが不思議そうに尋ねた。マナがいた世界では神のかの字も出てこない。
 「ん?まあ、ふつうの人間向けのやつにも出てくるが……俺は当然、神々向けの情報通信を見る。」
 プラズマは『天界通信本部ネット支部』と検索欄に入れるとその中の『ようこそ!外国神!』のコーナーを開いた。
 「このサイトは……?」
 マナがすかさずにプラズマのスマホ画面を見つめた。
 「これは日本に来た外国神を取材する記事だ。写真を見る限りだと田舎の野球少年って感じだな。」
 プラズマは今週の記事の中で『クロノス来日!』と書かれた記事を開いた。クロノスの写真も載っていた。野球帽に半袖短パンの子供が豊かな自然をバックに満面の笑みを浮かべている。
 パッと見て日本の子供にしか見えない。
 記事を読むと現在はリョウと名乗っていると書いてあった。
 「ふーん……。この子、過去、現代、未来の三方向からものが見られると。つまり、俺なんかよりももっと世界を見れているわけだ。これは期待だ。」
 プラズマはマナに向かってほほ笑んだ。
 次元が違いすぎる話にマナはどう反応すればいいかわからなかった。 


 しばらく静かに駕籠は飛んだ。窓からは一面の海が見える。潮風が流れカモメがどこかで鳴いている。ぽかぽかした太陽がなんだか眠気を誘った。
 「そろそろ着くよい!」
 ツルが声を上げた。ぼうっとしていたマナは驚いて半分腰を浮かせてしまった。
 「ははっ!あんたにとっちゃあわけわからん状態なのによくぼうっとできるな。」
 マナが飛び上がったのをプラズマが隣で楽しそうに見つめていた。
 「ちょ、ちょっと気持ちよくなっちゃって……うとうとと……。」
 マナも自分で自分の神経をさすがに疑った。やっぱり自分はだいぶんおかしいようだ。
 「ま、いいや。とりあえずそろそろ着くらしいぞ。」
 プラズマが心底楽しそうな顔をしながら地面が近づいてくるのを窓から見ていた。
 やがて駕籠は何の音もなく地面に着いた。どうなっているのかわからないが地面に着く感じも揺れる感じも何もなかった。
 「着いたよい!」
 ツルが元気よく声を上げた。それを合図にプラズマとマナは席を立った。
 外に出る。暑いほどの太陽がまずマナ達を照らした。辺りを見回すと右手に海が、そして左手に山々が堂々と立っていた。
 典型的な田舎である。近くに寂れた駅があり、券売機には蜘蛛の巣が張っている。
 「な、なんだかすごいところにきたね……。」
 マナが不安げな顔でプラズマを仰いだ。
 「まあ、いいじゃないか。俺は自然好きだぞ。虫は残念ながら嫌いだが。」
 プラズマは大きく伸びをしてツルに目配せをした。
 「よよい!もういいって事かよい?じゃ、またなんかあったら。」
 ツル達は軽く頭を下げるとさっさと飛び去って行った。なんだかさっぱりとしている神々の使いである。
 ツルが飛び去って行く水平線を眺めながらプラズマはため息をついた。
 「で、こっからどうやって探そうか……。」
 「あ……。」
 辺りは森に林にと自然豊かだが広すぎて検討がつかない。
 「とりあえずてきとうに……。」
 プラズマがてきとうに足を踏み出した刹那、近くにあった一本の木から男の子が降ってきた。
 虫取り網に半袖半パン、頭には野球キャップがついている。七、八歳くらいにしかみえない男の子だ。
 少年は写真で見たあのクロノスにそっくりだった。
 「あ、彼からわざわざ来てくれたよ。助かるぜ。」
 プラズマは別段驚く風でもなく笑みを浮かべながら少年を見つめた。
 「……ほんとにいたんだ……。」
 マナは不思議な雰囲気の男の子に目を見開いて驚いた。
 「……君が日本の時を守る時神未来神かな?」
 少年はプラズマを見て子供っぽい仕草で尋ねたが言葉はどこか大人びていた。
 「ああ。俺は時神未来神、湯瀬プラズマだ。あんたはクロノスか?」
 プラズマは日差しを手で覆いながら少年に会釈をした。
 「まあ、そうだね。クロノスだけど……今は日本に溶け込んでいるからリョウって呼んでほしいかな。なんでリョウなのかはね……。」
 クロノス、リョウはふてきな笑みを浮かべて言葉を切った。
 「なんとなくわかるが聞いてやるよ。」
 プラズマは子供だと思ったのかやたらと態度が横柄だった。
 「この物語を『了』できるからだよ。」
 リョウはクスクスと笑いながらプラズマを見上げた。
 「……なるほど……あんたは未来も見えるのか?ここにいる理由はわからないが俺達が来た理由はわかるだろう?」
 「まあね。君達は何をすればいいかわからないから来たんだよね?僕はここで過去も見た。プラズマ君、君の過去は簡単に見れるのだけどそこの女の子の過去はかなり不思議すぎる。この世界の子じゃないね?」
 リョウはマナの目を見ながら子供っぽい愛嬌ある顔で笑った。
 「ああ、おそらく伍から来ている。」
 プラズマはマナを一瞥してまたリョウに向き直った。
 「なるほど……。ところで世界はTOKIの世界と呼ばれているのを知っているかな?」
 リョウが試すようにプラズマを見上げた。プラズマはつまらなそうに首を横に振った。
 「いや。知らん。」
 「そう呼ばれているんだ。というかそうしたんだ。TOKIって文字はすべて線対称なんだ。Kは横にすると線対称だよね?つまり……この世界はけっこう単純だ。Tが『壱』と『陸』、『参』と『肆』を表していてOが『弐』の世界。……Kは飛ばしてIは『伍』の世界なんだよ。Kは横にしてTとO、そしてIを結んでいる者としている。……プラズマ君なら知っているかな?Kの存在を。」
 「ああ、まあ、そこそこはな。」
 プラズマは曖昧にごまかしていた。
 「けっこう恨みを買いやすいみたいだけどKは世界を結んでいるだけだからこの異変を解決する能力はない。マナちゃんだっけ?君は世界全体にとって異様で特例なんだ。君が望んだことのようだけど向こうのKが君をこちらへ呼んでしまったらしい。Kとしては君が伍の世界には不適格だと思ったようだね。だから君をこちらへ渡したんだ。」
 「は、はあ……。」
 マナはなんで名乗ってもいないのに自分の名前を知っているのかを聞きたかったが目の前にいる少年はおそらくそういう次元を通り越しているのだろうと思いなおした。
 なんだか雰囲気が異様なのでマナは気おされてなにも言葉が出てこなかった。
 「だけど君はこちらの世界をかなり疑っている。不思議な事、おかしなこと、すべてありえないと思っている。つまりKに初めてシステムエラーが出たって事だ。普通だったらこっちに来た段階でおかしいなんて思わない。Kの誰かがミスをしたか、あるいは……。」
 「意図的にマナをこちらへ入れたか……か?」
 プラズマの言葉にリョウは答えなかった。
 「まあ、とにかくこれはあんまりよろしくない結果を生むようだ。」
 リョウは腕を組んだまま、険しい顔をしていた。マナから無理やり過去と未来を盗み見ているようだ。
 「よろしくない結果って?なんだか怖いんだけど……。」
 怯えているマナにリョウは口角を上げて軽くほほ笑んだ。
 「見てみる?」
 「え……?」
 マナはリョウの顔を見て固まった。刹那、目の前が突然、渦を巻いて消えた。


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テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

明かし時…1ロスト・クロッカー7
 ナオ達は再びアヤの部屋に入り込み、たくさんある時計を一つ一つ調べていた。
 「栄次、時神の神力、わかりますか?残念ながら何もわからないのですが……。」
 ナオは首を傾げながら時計を撫でていた。
 「うむ……。はっきりとはわからないのだが……この時計だけ不思議な感じがするな……。」
 栄次は眉をひそめながら新品そうな時計を持ち上げた。横にいたムスビは栄次が持っている時計をまじまじと見つめていたが何もわかっていなさそうだった。とりあえず栄次はムスビに時計を渡した。
 「……これ、新しそうだな。やっぱ俺にはわからないなあ。」
 ムスビは一通り眺めると今度はナオの手に時計を置いた。
 「そうですね……。私もよくわかりませんがまだ買ったばかりのような気もします。」
 「ちょっと貸してくれるかの?」
 「はい。ヒメさん、どうぞ。」
 ムスビからナオに渡った時計はナオの隣にいたヒメに渡った。
 「歴史の分析をした所、職人さん手作りの目覚まし時計のようじゃ。昨日完成し、この家に届いたようじゃな。値段は一万円超じゃ……。アヤは前々からこの時計を狙ってお金を貯めていたようじゃな。」
 ヒメの分析にムスビは驚いた。
 「そんなこともわかるのかい?」
 「……わかるというか……この時計に携わった人々の歴史を見ただけじゃ。時計の事はわからぬがそれに関わった人の歴史ならば見れるからの。ワシは人の歴史を管理しておる故。」
 「な、なるほど……ヒメちゃんってすごいんだね。」
 ムスビは時計とヒメを交互に見つめながらつぶやいた。
 「で?栄次殿、これが時渡りした時計なのかの?」
 ヒメは時計から目を離し、栄次に目を向けた。
 「それはわからんのだがこの時計だけ神力が宿っているように思えるのだ。」
 栄次はなんとも言えない顔で首を傾げた。自信はなさそうだった。
 「まあ、今の段階では少しでも可能性がある方へかけたいな。栄次の思った通りに動いてみるしかねぇだろ。な?ナオさん。」
 ムスビはナオに目を向けた。
 「そうですね。今はそれしか手がありませんので……。ここは栄次の時神の勘を信じましょう。」
 ナオは大きく息を吐きだすと気合を入れた。
 「では……この時計が示す時間に行ってみるかの?昨日の昼過ぎくらいの時間帯だと思われるのじゃ。」
 「よし、じゃあそれで行こう。俺はよくわかんないからさ。」
 ヒメの言葉にムスビが元気よく答えた。
 「お、おい。正しくないかもしれんぞ……。」
 勝手に話が進み、栄次は困惑した顔でナオ達を見ると焦った声を上げた。
 「大丈夫です。間違えたら急いで戻りましょう。なにせ手がかりがないのですから片っ端からやらないといけないと思います。」
 「そうか。」
 ナオの発言に栄次は一言短く言うと口を閉ざした。
 「では行きましょう。ヒメさん、お願いします。」
 「う、うむ。いいのじゃな?それではさっそく転送するのじゃ。」
 ヒメはナオの合図でナオ達を過去の世界、参(さん)に飛ばした。
 ほぼ一瞬で何も考える余地はなく、ナオ達は白い光に包まれていた。気が付くと少しだけ違うアヤの部屋にナオ達はいた。昨日の日付の特売のチラシが床に散らばっており、先程触っていた時計は箱の中に入ったままだった。
 「……昨日に来た……ようだな。」
 栄次が小さくつぶやき、ナオとムスビはハッと我に返った。
 「あ、あれ……?ヒメちゃんは……?」
 頭が働きかけてきた頃、ムスビはヒメがこちらに来ていない事に気が付いた。
 「もしかするとヒメさんは送る事はできますが自分が過去に来る事はできないのではないでしょうか?」
 「じゃ、じゃあどうやって元の世界に……。」
 ナオとムスビは顔色を悪くした。
 「ん?ワシがどうしたのじゃ?」
 ふと隣からヒメの声がした。ヒメは廊下の方でこちらを窺うように立っていた。
 「良かったです。ヒメさんも過去に渡れたのですね。」
 ナオから安堵の吐息が漏れる。ヒメは少し複雑な表情で首を振った。
 「あ……えっといや……そなたらの世界で言うと……ワシは過去……えーと、参の世界のヒメじゃ。今は明日の自分とリンクしておるので一応、話はわかっているぞい。」
 「え……?よ、よくわかりませんがあなたは昨日のヒメさんという事ですか?」
 「うむ。そなたらからするとそうじゃな。しかし、中身は明日の自分じゃ。」
 戸惑うナオにヒメは落ち着いて答えた。
 「中身が明日の自分って……。」
 「じゃから、記憶を明日の自分とリンクさせておるだけじゃ。」
 「じゃ、じゃあ、別にさっきまで一緒にいたヒメちゃんと変わらないわけだよね?」
 「そうじゃ。」
 ムスビの動揺している声にもヒメは落ち着いて答えた。
 「ま、まあ話が通じるのならばそれでいいです。では、行きましょうか。」
 ナオはまだ戸惑っていたが徐々に落ち着きを取り戻した。
 「あ、ちょっとナオさん、行きましょうってどこへ?」
 ムスビがナオに手を広げて「わかりません」のポーズをとる。
 「……そ、それは栄次の時神を探知する能力で……なんとか……。」
 「俺か?何度も言うが……俺には自信がないぞ。」
 もじもじとしているナオに栄次は呆れたようにため息をついた。
 「やっぱり勢いで来たのかよ。」
 ムスビは頬を赤くしているナオを楽しそうに見つめた。
 「ム、ムスビ!楽しそうに笑っている場合ではございません!早くしないとアヤさんがっ……。」
 「あーあー、わかったよ。少し落ち着いて。ナオさん。とりあえず、栄次に任せよう。」
 「お前も結局は俺なのか……。」
 ナオをなだめるムスビを横目で見た栄次は再びため息をついた。
 

 アヤ達はとりあえず、ファミレスで春野菜を使ったセットメニューを二人でつつき、ある程度お腹をいっぱいにした。
 「実はね……。」
 少し安心したこばるとがアヤにひかえめに声をかけてきた。
 「ん?どうしたの?」
 「実は神は別に食事をとらなくてもいいんだよ。僕達はこの世界に生きているわけじゃないんだ。僕達は人間から想像して作られたプログラムのようなものだからパソコンのデータと同じなんだ。」
 「あら……。そうだったの?じゃあ、こばると君はお腹がすいてなかったのね。」
 アヤはもう何を聞いても驚かなかった。驚く事が多すぎて今更驚けなくなったのだ。
 「うん……。まあ、食べなくてもいいんだけどやっぱりお腹はすくんだよね。電子機器の充電と同じ感じかなあ。高天原では皆、人間が想像した物を食べているね。その場にあって実はその場にない。想像物がデータ化されて置いてあってそれを体に取り込むみたいな感じ。はたからみると人間と同じように普通に食事しているように見える。」
 「へ、へえ……じゃあ、私もそうなるの?私、これから時神になるのよね?」
 アヤはからのお皿を店員に渡しながら尋ねた。
 「時神は人間から神に変わっていくから君の場合、まだしばらくは変わらないと思うよ。と、言っても時神の生が人間から始まるっていうのも人間が想像してできたルールなんだけどね。だから君は人間の想像から人間と変わらない仕組みにされたわけだよ。えっと、つまり今の段階でも君は人であって人じゃないんだ。」
 「なるほどね。私は人間に想像されて作られた人間って事ね。今は。」
 「そういう事だね。」
 「時神は人に見えるって言うのも人が決めたルールなの?」
 「うん。『昔から時神は人に紛れて生活をしている』って人間が決めたんだよ。」
 こばるとの言葉でアヤは神が人を支配しているのではなく、人の想像力が神を生み出していることを知った。
 「……人は考える力でルールを作り、それで自分達を無意識に縛っているわけね。」
 「ま、まあ……そう言われればそうかもしれないね。でも、この世界の人は皆けっこう楽しそうに生きているからいいんじゃないかな。それでも。」
 「そうね。人は考える生き物だもの。大脳が発達しているからね。」
 アヤはふふんと笑うとお冷に口をつけた。
 「大脳……。こ、細かい話はよくわかんないけど、そろそろ出ようか?あ、大丈夫、もう僕は君を殺そうなんて思わないから。歴史は元に戻したよ!」
 「え?あ、うん。」
 必死な顔のこばるとにアヤは戸惑いながら答えた。
 「僕、君といると……なんだか落ち着くんだ。同じ現代神同士だからかな。」
 「……こばると君……。」
 こばるとは小さくほほ笑むとそっと立ち上がった。アヤはそんなこばるとをせつなげに見つめていた。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

ゆめみ時…1夜を生きるもの達7
 「あっ!」
 スズとトケイは驚いた。上空でずっと見ていたはずのサスケが消えていた。
 「サスケがいない……。」
 「もう……何が何だか……。」
 トケイはスズを抱きながら安全な空にいる。しばらくサスケを探していたがやはりサスケは近くにはいなかった。
 「ん?」
 スズが城から走って出てくる人影を見た。かなりの人間が城から逃げるように外に出てきている。
 「……なんかあったのかな……。」
 トケイが不安げにスズに目を向けた。
 「更夜……大丈夫かなー……。相手かなり強かったけど、襲われてたりしたら無事じゃすまないかも。」
 スズは心配そうに城を眺めた。
 「行ってみようか?」
 トケイが恐る恐る聞いてきた。スズは首を横に振った。
 「……。更夜に任せよう。わたしが行ってもあんたが行っても足手まといになりそう。忍は相手の弱みにつけこむのも得意だから。」
 「そっか……。じゃあ、ライを探そう。」
 「そうね……。今度は間違いなくあの男を仕留めるよ。」
 トケイとスズはお互い大きく頷いた。なんとなく城から出てきた人間を眺めていると人に紛れてやたらと速く走る人間が目に入った。
 「……?」
 「どうしたの?スズ。」
 トケイには見えていないようだった。
 「あれは……忍?何か……持ってる……。」
 スズにはその忍の姿ははっきりと見えていた。
 「?」
 「笛……。」
 忍が持っていたのは縦笛だった。スズの視力は自慢できるほどに良い。かなり遠くまで見渡す事ができた。おまけに動体視力もかなり凄い方だった。
 「笛だって!?」
 「声大きすぎ!」
 トケイの驚きの声に耳を塞いだスズはトケイの肩をポンポンと叩いた。
 「あれ、怪しすぎるねー。まさか優勝賞品?トケイ、とりあえず追うよ!」
 「う、うん。でもライは?」
 「みつからないモノを見つけるよりも見つかったモノから追及していったほうが後にいいの。落ち着いて今を見る。」
 「わ、わかった。」
 トケイはスズの指示した方向に高速で動き始めた。


 マゴロクがどこをどう走って来たのかわからないが城から離れた所で抱えていたライを降ろした。
 木々が覆い茂る森をマゴロクは歩き始めた。
 「あ、あの……。」
 「ついてくればいいよ。」
 不安な顔をしているライにマゴロクは優しく手を握り、微笑んだ。
 ライは仕方なくマゴロクに手を引かれ歩き出した。しばらく歩くと焚火の炎が揺れているのが見えた。何人かが焚火を囲んでいる。皆黒っぽい格好をしていた。
 その中にひときわ若そうな男がマゴロクを見て微笑んだ。
 「うまくいった?」
 「芸術神は連れてきた。絵括神だよ。主。」
 マゴロクは学生服を着ている若い男にライを紹介した。
 「あ、あの……どうも。」
 ライはとりあえず若い男に挨拶を返す。
 「ところであんた、月に行けるんだろ。」
 男はいきなりライにそんな事を聞いた。
 「月……?」
 「僕を月に連れてってくれよ。」
 男はライに近づいてきた。
 「え?えーと……無理だよ。あなたはもう弐の世界の住人だから……。」
 ライは戸惑いながら男に答えた。
 「無理矢理でも連れて行ってもらう。僕は月を経由して現世に戻らないといけないんだよ。マゴロク、僕の言うことをきかせてくれないかな?」
 男は狂気的に笑うとマゴロクをちらりと見た。
 「了解。……あんたの身体はもう動かない……。」
 マゴロクはライに糸縛りをかけた。
 「……っ!え!?う、動けない!」
 「悪いな。ビジネス対象に君は今、なってしまった。主の言うことをきけば痛い思いはしないよ。君は忍じゃないから選択肢をあげよう。」
 「そんな……。」
 怯えるライにマゴロクは冷たく言葉を吐いた。
 「素直に言うことをきけばこのまま何もしないが反抗するというなら俺は容赦しないよ。できればこのまま素直に言うことをきいてほしい。」
 「せ、選択肢も何も弐の世界の魂を現世になんて送れないよぉ……。弐の世界からもう一度、現世なんかに戻ったら魂がおかしくなっちゃうよ!」
 ライは半泣きで叫んだ。
 「別におかしくなってもいいんだ。僕はまだのうのうとあちらで生きているあいつを殺したいだけだから。そんでこっちの世界に連れこんで何度でも殺してやるんだよ。マゴロク、拷問しろ。いう事を聞けるようになるまでな。」
 男は狂気的にライを睨みつけた。
 「……や……やめて!あ、あなた、おかしいよぅ……。」
 ライはガタガタと震えながら目に涙を浮かべた。
 「……っ。」
 マゴロクは冷徹な瞳をしていてもその瞳が揺らいでいた。
 「マゴロク、何やってんだ。僕は主なんだろう?……っち、セイの演奏不足か。」
 「……!」
 男の言葉にライは反応した。ライはマゴロクの真黒な瞳を見上げた。
 よくマゴロクを見るとマゴロクのまわりには禍々しいが音括神セイの神力を感じた。
 「さすがにこれはビジネスだって言ってもなあ……。やりたくない。忍相手でもしかたなしにいままでやってたんだ。気を抜くと俺が死ぬからさ。だけどこの子は普通の子だ。俺はできないね。本当はセカンドライフで人殺しはしたくないんだよー。ショウゴ君。」
 マゴロクは男をショウゴと呼んだ。
 「ノノカとタカトもあの笛を狙っている……。あの笛は気がついたらこの大会の優勝賞品になってた……。セイにも逃げられて……僕はただ壱に行きたいだけだ。絵括神ライでも壱にいけるんだろ!だったら、もう笛なんてどうでもいいから連れてけるようにしてくれよ!マゴロク!」
 ショウゴと呼ばれた男はマゴロクに掴みかかる。
 「音括神セイは音楽で魂の俺達を主に繋いだ……。だがな、俺達は殺人鬼じゃない。もともとは隠密だよ。残酷な事がしたいわけじゃない。」
 マゴロクは怯えるライに目を向けた。
 「……セイちゃんを……知っているの?」
 ライは震えながらマゴロクを仰いだ。
 「俺は知らないなあ。主と残り二人の男女の間でセイと何かあったらしいがね。俺はその後、勝手に魂が主にくっついてしまっただけだよ。ただ、音楽を聴いただけなんだけどね。」
 マゴロクはふうとため息をつく。
 「ショウゴさん……セイちゃんと何があったの?」
 ライはマゴロクからショウゴに目線を移した。
 「……。」
 ショウゴはライの質問に何も答えなかった。


 スズとトケイは忍を追っていた。忍はもうこちらに気がついているようだ。お互い高速で森の中を進む。トケイはスズの指示でその忍と一定の距離を保っていた。
 「……女忍だね。やっぱり手に持っているのは笛。かなりのやり手だね。」
 スズが先を走る女忍の隙を狙うがまったく隙が見えなかった。
 刹那、突然空がカッと光った。
 「な、なに!?」
 トケイは驚いて上を見上げた。
 「大丈夫よ。そのまま追いなさい。右!」
 「う、うん!」
 トケイはウィングをうまく動かし木の幹を潜り右に曲がる。
 「上に意識を集中させて逃げる技よ。線光弾か何かを投げたんでしょ。」
 「へ、へぇ……。」
 トケイは圧倒されながら声を発した。
 「わたし達と対峙しようとしないって事は交戦を避けてわたし達を撒きたいって思っているって事。」
 「なるほど。うわっ!」
 スズの言葉に頷いていたトケイは急に驚きの声を上げた。トケイのウィング目がけて鉤縄が飛んできていた。スズはトケイのウィングに鉤縄が巻きつく前に縄部分を小刀で切った。鉤の部分は暗闇に落ちていった。
 ふとスズが前を向くと女忍がいなかった。
 「!」
 スズは何かを感じ後ろを振り向く。後方から八方手裏剣が飛んできていた。
 「トケイ!後ろ!」
 「え?」
 トケイは慌てて後ろを振り向いた。スズはトケイに抱かれたまま、小刀で手裏剣を弾いた。
 「いない……。」
 スズは周囲を警戒した。木の枝から枝へと飛び移る影が映った。
 「トケイ、あっちの森の中!」
 「え?い、いけるかなあ……。」
 トケイは困惑した声でつぶやきながら木々の間にウィングを滑らせた。木の枝を避けながら女忍を追う。刹那、突然女忍から火が上がった。
 「!」
 轟々と炎が女忍を包んでいく。女忍は炎に包まれているが何事もなかったかのように高速で動いていた。
 「……はっ……。トケイ!止まりなさい!」
 「う!?うん!」
 トケイは木にぶつかりそうになりながら危なく止まった。
 ……これは火遁渡りの術!
 「もうあそこに女忍はいない。あの凄い速度で燃えながら動いているモノはおそらく布か何か。それを糸を使いながら動かす。わたし達は糸で動いていた布を追いかけていたわけ。」
 「よ、よくわかんないけどあの女の人はいなくなったんだ?」
 「いや、近くにいる。」
 スズはトケイに下に降りるように言った。トケイは素直に頷くとそのまま地面に足をつけた。足をつけたトケイとスズの前に黒い影がヌッと現れた。
 「せっかく撒けたと思ったのに残念です。」
 スズ達の目の前にいたのは例の女忍だった。女忍は服を着ておらず、胸元にさらしを巻いて下は布一枚巻いてあるだけだった。
 「この術は相手に炎を追わせる術だからね。大概術者は近くにいると踏んだだけ。」
 スズはまっすぐ女忍を睨みつけていた。
 「ふう……自分の服まで燃やしたっていうのに……やっぱり忍相手では見つかってしまいますね。」
 女忍はやれやれとため息をついた。
 「う、うわー!ごめんなさーい!」
 女忍の格好を見てしまったトケイは顔を真っ赤にしてひたすらあやまっていた。
 「あら、うぶな子がいるのですね。」
 「そんな事はいいよ。あんたの持ってる笛、それ優勝賞品じゃなくて?」
 悶えているトケイの肩を叩きながらスズは女忍に質問した。
 「どうでしょうかねぇ?あなた、怪我しているのですね。サスケとマゴロクにでもやられましたか?ダメですね。女忍の主な術は色香。男に手を上げさせてはダメです。真っ向から男と対峙して勝てるわけないでしょう?相手の力をどんどん減らしていくのですよ。」
 女忍は色っぽく笑う。不思議と女のスズもそれに魅了されかけた。
 「話を逸らさないでよ。」
 「あら?何のお話しでしたっけ?」
 女忍は潤んだ瞳をそっと細めると微笑んだ。大した仕草をしているわけではないのだが不思議とそそるくらいに美しく見惚れてしまうほど艶やかに見えた。
 ……この女は色香に特化した女忍……。
 「チヨメ!笛は?」
 ふと木々の間から学生服を身に纏った少女が現れた。
 「ノノカちゃん……いい時にきますね……。悪い意味ですけど。」
 チヨメと呼ばれた女忍は現れた少女をノノカと呼んだ。
 「それより笛。」
 「はいどうぞ。主。」
 ノノカが急かすように手を出してきたのでチヨメはため息をつきながら持っていた笛をノノカに渡した。
 「あんがと。これでセイを捕まえられるかな。」
 ノノカは笛を奪い取るとクスクスと笑った。
 「……ねえ、スズ……。」
 「しっ。」
 トケイはスズに声をかけようとしたが止められた。スズは手をわずかに動かし、綿毛を風に流した。
 ……風移しの術を使って笛がここにある事を伝えないと……。きっと優勝賞品だったこの笛はチヨメって女忍に盗まれたんだね……。更夜……気づいて。
 スズはノノカとチヨメが逃げた時に対応できるように静かに構えた。
 それを見たトケイもスズに習い、二人に隙をつかれないように気を引き締めた。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

かわたれ時…1月光と陽光の姫7
 ……あれ?オレ……どうなったんだろ……。
 チイちゃんはぼやっとした中、目を開けた。何故だかすごく眠たい。
 「もし……。もし……。しっかりしてくださいまし。」
 優しそうな女性の声がする。チイちゃんは誰かに揺すられていた。
 「ん……?」
 チイちゃんは焦点の合わない瞳で揺すっている者を見た。最初に瞳に映ったのはきれいな女性の顔。その次に烏帽子。その次はピンクのストレートロングヘアー。
 「もし!起きてくださいまし!」
 先程よりも揺すり方が激しくなっている。チイちゃんは徐々に我に返ってきた。
 「ほえ!?」
 しばらくしてチイちゃんは不思議な声を出し、がばっと起き上った。
 「あら、目が覚めました?」
 「……んん!?ひ、ひざまくら!ひざまくらぁ!」
 チイちゃんはこのきれいな女性にひざまくらをさせていた事に気がついた。状況を思い描き、顔を真っ赤に染めた。
 ……ひ、ひざまくら……だと!
 ついこないだまで刀だった事もあり、女性にあまり触れた事のなかったチイちゃんは異常に興奮していた。
 「も、萌える!」
 「大丈夫ですよ。あなたは燃えていません。怖い夢を見たのですね。」
 「え?えーと……。」
 女性は丁寧に答えてくれた。チイちゃんは真っ赤のまま改めて女性を観察した。見た目は白拍子だ。大人な女性という感じで物腰も柔らかい。色々とチイちゃんのドツボだった。
 「やっと戻ってきましたね。わたくしの刀……。」
 「……ん?」
 女性はチイちゃんの頭をそっと撫でた。チイちゃんは戸惑いと気恥かしさで真っ赤になったり戸惑ったりしている。
 「あら、わたくしを覚えていないのですか?わたくしは月照明神。あなたの持ち主です。まさかあなたが人型になって戻って来るとは思いませんでしたが……。」
 「月照……明神……?」
 微笑んでいる月照明神の顔を眺めながらチイちゃんはぼそりとつぶやいた。


 「なんであんたなんかが……。」
 月子はサキを睨みつけながらつぶやいた。
 「……?」
 サキは何の事を言っているのかわからず訝しげに月子を見ていた。月子は憎しみに満ちた顔で刀を振りかぶってきた。
 「サキ!」
 みー君が叫んだと同時にサキは素早く横に避ける。霊的着物を着ているため、体はかなり軽い。月子の斬撃もうまくかわせた。月子は間髪を入れず刀を振るう。
 「ちょっと!落ち着きなって!」
 サキはなだめるように月子に話しかける。もちろん、斬撃を避けながらだ。
 「うるさい!死ね!」
 「死ねって……こら!そんな言葉使うなってば。」
 月子の斬撃はサキを殺傷するために放たれている。冗談ではなく本気でサキを消そうとしているらしい。
 サキは剣で月子の刀を危なげに受ける。悔しいが月子の剣術能力は高い。しっかりと避けたはずだが肩先の着物がバッサリと裂けていた。
 「……っち……。」
 サキは露わになってしまった右腕を押さえ、苦渋の表情で月子を見つめた。
 「あら。右腕をもらうはずだったのに。ざーんねん❤」
 「サキ!」
 みー君が慌ててサキに向かい走り出したがすぐに月子のカマイタチで動きを止められてしまった。
 「あんたはそこにいろ。邪魔。」
 月子がしゃべるのとみー君がカマイタチを避けるのが同時だった。
 「月子、お前……!」
 「邪魔しないで。天之御柱神……。あんたには関係ないから!」
 「関係ないだと。誰のせいでこうなってんと思ってんだ。俺はサキの護衛を頼まれた。お前からサキを守れとワイズに言われている。これはおかしいと思うんだが。サキよりも先輩のお前が月を乱し、サキを消し、お前は一体何がしたい?」
 月子の叫びにみー君は冷静に答えた。それが怒りに触れたのか月子がさらに感情を爆発させた。
 「あんたには関係ない!……サキ、あんたはいいねぇ。こんな守ってくれる者まで現れて太陽を助けてくれる神が沢山いて!太陽を奪いグチャグチャにした欲深い人間の娘だっていうのに!」
 「……!」
 月子がゆっくりとサキの方を向く。刹那、サキの眉がぴくんと動いた。
 「知ってるよぉ。あんたの母親は概念化しているアマテラス大神を無理やりその身に宿して神になろうとした巫女なんでしょ。そんなやつが太陽を統べれるわけないわよねぇ?だいたい……人間だし。」
 「お母さんを侮辱するな……。」
 先程と明らかにサキの表情が変わった。月子はそんなサキを眺めながら涼しげに話し出す。
 「ほんと、消えて正解。太陽をぐちゃぐちゃにしてそのままポイとはどこまでも腐った親だわね。あんたはその女の娘なのになんでそんなに呑気にしていられるの?親も親なら子も子ってことね。」
 「あたしを馬鹿にするのはいい……。だけど、お母さんを馬鹿にするのは許さない!」
 月子の発言でサキの怒りが爆発した。たとえどんな親でも親を馬鹿にされるのは子供として耐えられない。サキもそうだった。もう冷静にはなっていられなかった。
 ……お母さんは確かに最低だった。だけどそれをこいつに言われる筋合いはない!
 サキは月子の刀を乱暴に振り払った。
 「サキ?」
 みー君はサキの変貌ぶりに戸惑い、そこから近づく事ができなかった。
 ……お母さんはあたしなんて見向きもしてくれなかったけど!でも……それでも……
 サキは感情を制御できなくなっていた。まわりに不必要な炎が噴き出す。
 「やめろ!サキ、落ち着け!」
 みー君の言葉は最早サキには届かなかった。
 ……それでも!あたしはあの人の娘だった!
 サキは月子に剣を振るう。容赦のない一撃を月子はかろうじて受けた。
 「何よ。いきなり感情的になっちゃって。」
 「ふざけんな!あんたに何がわかるっていうんだい!あんたがお母さんの何を知っているっていうんだい!何もわかっていないくせに偉そうに言うな!」
 サキはまた乱暴に刀を弾くと剣を振りかぶった。
 「そんな最低な人間の事なんて知りたいとも思わないわ!その娘であるあんたをなんでどいつもこいつもかばうのか私には全然わかんない!」
 月子も刀を振るう。刀を振るっている内に月子からツクヨミ神の力が溢れ出した。
 また、サキからもアマテラス大神の力が噴き出した。
 お互いが凄まじいエネルギーをおびながら武器を振るい合っていた。サキも月子も体中斬りきざまれながら怒りの感情のみでぶつかっていた。
 「やめろ……。」
 みー君が危機を感じ二人に向かい走り出す。ウサギは震えながら近くの柱に隠れていた。
 「おい!止まれ!やめろ!」
 膨大なエネルギーを持っている二人がぶつかり合ったら何が起こるかわからない。それにみー君は女性同士が殺し合うのを見たくなかった。
 「やめろ!」
 斬撃が飛び交う中、みー君は二人の間に立った。
 「やめろって言ってんだろうが!」
 みー君の神力が一瞬、時を止めた。
 「み、みー君!」
 サキが驚いて剣を引いた。赤い液体が大量に宙を舞う。みー君は色々と遅かった。
 みー君は二人を止めようと神力を放ったが間に合わず、二人の斬撃をその身に受ける事になってしまった。サキはみー君の背中を深く斬り、月子はみー君の胸から腹を思い切りえぐった。
 「がっ……。」
 みー君は口から血を吐きながらその場に崩れ落ちた。
それを見た月子は楽しそうに笑っていた。
 「あら……斬っちゃった。好都合だわ。ふふ……。」
 「そ、そんな……みー君……。」
 月子は絶望的な顔をしているサキを一瞥するとみー君を破壊されたエスカレーター部分から突き落とした。刹那、落ちゆくみー君の遥か下に宇宙空間が出現した。きれいな星々がサキには悪魔にしか見えなかった。まるでブラックホールのようにみー君はその星空に吸い込まれていく。
 「みー君!みー君!」
 サキは必死で手を伸ばしたがみー君に手は届かなかった。
 「ふふ……。弐の世界で永遠に眠りなさい。」
 月子はクスクスと笑いながら落ちていくみー君を冷たく見つめた。
 「……お前ら……落ち着けよ。せっかくのきれいな身体……傷になるぞ……。」
 みー君は最後にそうつぶやき、宇宙空間に飲まれ、跡形もなく消えた。
 「みー君……そんな……。みー君……あたしがみー君を……斬った?」
 うなだれ震えているサキは立っている事ができずその場に座り込んだ。まだ手に肉を断ち切った感触が残っている。サキの頭は真っ白になった。
 「さて、じゃあ、これで二人きりだわね。サキ。」
 月子が平然とサキの頭を足で踏みつぶした。
 「あんた……みー君に何をしたんだい……?」
 「何をしたって弐の世界へ連れてっただけよ?もう戻ってこないと思うけど。」
 「みー君をあたしが……。みー君……。」
 サキは耳を塞ぎ、震えながら涙を流していた。
 ……おかしくなってたあたしを止めようとしてくれてたのに……あたしは彼を……。
 サキは震える手で剣を握ったが握りきれず剣はそのまま地面に落ちた。手についた血を見て震えはいよいよひどくなった。
 ……もう何も考えられない……怖い……。
 「ふふ。無様ね。サキ。もうあんたを守ってくれる者はいない。あんたは助けてくれる者の影でふんぞり返っていただけなんだから奪っちゃえば私はあんたを容赦なく蹴落とせる!」
 月子は戦意喪失しているサキの顔を蹴り飛ばす。
 「っぐ……。」
 サキは顔を押さえ立ち上がろうとするが身体の震えがおさまらず立ち上がる事ができない。
 「満身創痍ね。ふふふふ!あははは!」
 月子は狂気的に笑いながら絶望しきっているサキを蹴り続けた。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

流れ時…1ロスト・クロッカー7
「機械式時計……。」
「これって江戸初期か戦国後期にあったって言われていた時計?」
アヤと未来神は公園から近いところにある古代博物館という名前の博物館にいた。
アヤは服を着替えていた。
赤色のドレスを変形させ、着物っぽくした服を着込んでいる。
この時代ではこれがはやりだそうだ。
見た目よりもかなり動きやすい。
話をもとに戻そう。
「戦国後期に作られた時計らしいぞ。説明にそう書いてある。」
目の前に木製で足の部分がやけに長い時計があった。
「これじゃあ、ちょっと戻り過ぎだわ。二千十年あたりの時計ってないの?」
「うーん……俺、この時代に行ってみたいんだよ。未来には紙と書くものがあれば戻れるんだろ?」
「まあ……そうだけど。……わかったわよ。どこの時間軸で時の神が狂い始めたのか知りたいって部分もあるし……しかたない。この時代に行きましょう。行けるかわかんないけどね。」
「よし!」
ため息をついたアヤとは対照的に未来神の顔は輝いていた。
アヤは未来神を呆れた目で見ながら時計の分析に入った。
「最古の機械式時計って徳川家康がスペイン国王からいただいたっていうのが現存している最古なんだって。その前に天文二十年にフランシスコ・ザビエルが大内義隆に献上したってのもあるし、天正十九年、ローマ法王庁へ派遣された日本少年使節団が帰国した時に、秀吉に献上したヨーロッパの土産の中に時計があったとも言われていたわ。どちらも現存してないはず。」
「詳しいんだね。俺にはよくわからない。」
「この機械式時計って最古の時計だったら東照宮にあるはずよね?ここにあるって事はこの時計は私の時代では発見されていなかった時計なのかしら?」
アヤがまじめな顔で時計とにらめっこをはじめたので未来神はため息をついて言った。
「とりあえずさ、はやく行こう。」
「だから、行けるかわからないわよ。」
「いいから。」
アヤはしぶしぶ未来神の手を掴むと無防備に放置されている時計にそっと手を置いた。
目の前がまた白くなった。


「うまくいったな。」
「また……タイムスリップした?……もう……ほんとに理解できない。」
二人は森の中に立っていた。
鳥のさえずりとなんだかわからない虫が姦しく鳴いている。
なんだか暑い。
どうやら夏に近いようだ。
手をひらひらさせて風を送っていると近くの草むらががさがさとなった。
「何?」
アヤが身構えると着物をきたポニーテールの男が草むらから顔を出した。
「時神過去神!」
草むらから顔を出したのは汗ばんだ顔をした過去神だった。
「お前は……」
過去神も鋭い目を見開き半ば驚いた顔をしていた。
「なんだ?君が過去神?」
未来神はにやりと笑いながら過去神を見つめた。
「お前……未来神か……。」
「そうだ。その髪型はあれなのか?最新のファッションとかなのか?」
「ふぁっしょんとはなんだ?」
「流行だ。」
「お前もこの時代を経験しているだろう。何を馬鹿な事を。」
未来神は過去神のポニーテールをぱさぱさ触りはじめた。
うざったそうに未来神を見た過去神は今度はアヤに話しかけた。
「お前、あれから未来へ飛べたのか?四百年ぶりくらいか。俺の記憶から消えるところだったぞ。」
「……そう……なのよね……。時を渡るって……こういう事よね……。という事は、今は戦国後期くらいって事なの?」
「慶長二十年だ。」
慶長二十年……大阪夏の陣あたりの年号だ。
「やっぱり戦国後期だわ。」
「俺は……人間の作る歴史が嫌いだ。争いばかりで生きた心地がしない。」
「そうなのか?俺は……今はけっこう楽しく生きているけどなあ。」
過去神が未来神を睨んだ。
「お前も俺が生きた時間を生きているのだろう?平気なのか?」
「平気じゃなかったさ。つるんでいた友達も戦争で死んだし。でも、今の俺の時代は平和なんだ。だから、戦争なんて起きてほしくないさ。」
「そうか。」
二人があまりにも次元がかけ離れた会話をしているため、アヤは会話に入れなかった。
「それより……お前達はなんでこの時代に来たんだ?これからまた戦争が起きるんだぞ。」
「ああ……思い出してきたよ。豊臣軍が滅ぶ戦いだね。ずいぶん前の事だったから俺自身忘れていたよ。来たのはただの好奇心さ。」
未来神は暗い顔つきでぼそりとつぶやいた。
どの時の神もいままでの歴史を通ってきているのだ。
嫌な事なんて数えきれないくらいあっただろう。
「一つ聞くわ。過去神、あなたは私を殺したいと思う?」
「いや。だから、お前を殺して俺はなんか得をするのかとだいぶ前にも聞いたような気がするが……。」
「……。じゃあこの時代じゃないんだわ……。あ、あなたは今どこへ行こうとしていたの?」
「俺は……天王寺に行く所だ。」
過去神は目を伏せた。
「そう……。」
つまり、天王寺・岡山の戦いの最中という事だ。
「だが……行くのはやめる事にする。もう……豊臣が勝てるとは思えん。……すまんが……また……聞いてもよいか?」
「何?」
「真田信繁はどうなった?死んだか?」
過去神は苦しそうな顔をしてつぶやいた。
真田信繁とは真田幸村の事だ。
「幸村?君、豊臣軍のやつと仲良かったのか?」
未来神が咄嗟に言葉を出した。
「幸村?信繁の事か?いや……手合せをした程度だ。」
「ああ、そうか。幸村は言い伝えの名か。ふーん、あれか。つまり、君は豊臣の方にはついてなかったんだ。手合せって死闘だったんじゃないか?」
「まあ、そうだな。俺は徳川の方についているからな。」
「いいな。俺は豊臣についたから地獄を見たよ?皆死んだ。あの時は本当に死ぬかと思ったよ。毛利と大野軍が自分の軍の数倍の徳川軍に正面から当たったらしいし。」
未来神は遠い過去を思い出すように語った。
「そうなのか……。それで……信繁は?」
「真田信繁は大阪夏の陣で戦死したって聞いたけど。」
「……つまりこの時代で死ぬのだな?……なるほど人生五十年か……。」
未来神にほとんど語られてしまったのでアヤは予備知識を話すことにした。
「あ、でも、説は色々あるの。信繁は生きていて秀頼と逃げた……とか。」
「そうか。……やつには生きていてほしいところだ。死んだのなら……しかたない事だがな。」
過去神は何かを思い出すように目をつぶると聞いた。
「これからの歴史も荒れるのか?」
「……。人の歴史なんてずっと荒れているさ。」
未来神は言葉を吐き捨てた。
「……もう、知り合いが死ぬのは耐えられない。まあ、どちらにしても俺よりも先に死んでしまうが……。……天王寺に行くよりもここから先の世界を知りたい。俺を未来へ連れて行ってくれないか。お前を殺そうとしている俺も気になるしな。」
過去神は銃声がしきりに聞こええてくる山をじっと見つめながら言った。
「天王寺に行かなくていいの?」
「……ああ。もういい。少し信繁の事が気になっただけだ。」
「そう……。」
少し沈黙があった後、
「ん?」
と、未来神が声を発した。
「どうしたの?」
気がつくと未来神が険しい顔で前を睨んでいる。
「なんだ?敵兵か?」
「違う。」
過去神とアヤも未来神が見ている方向を向いた。
そこにはフードのついている黒いローブのようなものを纏っている男が立っていた。
「……この時代の人間ではないな。」
過去神は目を細めた。
「時神?」
アヤが不思議そうに首をかしげたらその男はローブを翻して走り去ってしまった。
「追おう!」
三人はローブの男の後を走って追いかけた。
「この方面……天王寺?」
黒ローブの男は林の中を疾風の如く走っている。
必死に追いかけてもなぜか追いつかない。
「天王寺だって?俺、天王寺いけないよ!」
未来神が焦った顔で二人を止めたが足は止まらない。
「なんでだ?」
「俺に会っちゃうからさ。この時代の俺に。この時代の俺はたぶん、天王寺で戦っているから。時神は自分に会ってはいけないだろ?その時間軸の未来神に二人未来神が存在すると気がつかれた時どちらかが消滅する。つまり未来神がいなくなるわけだ。どちらかが消えるって事はどちらも自分自身だから両方消滅するって事なんだ。」
「え?そうなの?だから現代神も同じこと言っていたのね。」
「おい、見失った。」
話しながら走っていたせいか黒ローブの男は姿を消していた。
「はあ……しょうがないわ。」
「なんか、ごめん。」
未来神は丁寧に頭を下げた。
「もういい。……あの男は置いておいて一度未来へ連れて行ってくれ。」
過去神は燃え盛っている天王寺方面に向かって舌打ちするとアヤに目を向けた。
「行けるかわからないけど……わかったわ。……あなた、名前なんて言うの?」
「俺は白金栄次。お前は?」
「アヤ。」
「あ、ちなみに俺は湯瀬プラズマな。」
アヤは素早く時計を描くと先程の時間軸よりも少し未来の二千六百年と書いた。
彼らがおかしくなってしまったのはいつからなのかをちゃんと調べたかったからだ。
また目の前が真っ白になった。

テーマ:オリジナル小説 - ジャンル:小説・文学

TOKIの世界書シリーズ登場人物紹介!

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変わり時…1交じる世界6
 マナとプラズマはここら周辺の図書館に向かって歩き出した。
 今は商店街を抜け駅前へと来ている。近くに商店街があるからか駅前には大きな商業施設がない。どうやら商店街の方がこの駅周辺では観光スポット並みに有名なようだ。
 その駅の近くに役所があった。その役所の建物の横に大きな図書館が堂々と建っていた。
 「おー、やっぱりあった!図書館。絶対駅前にあると思ってたんだ。」
 プラズマはホッとした顔をマナに向けた。
 「鋭い勘……。まあ、でも図書館なら確かに駅前の事が多いかも。」
 「じゃあ、いこっか。」
 マナの返事を待たずにプラズマはマナを引っ張り図書館内へと足を進めた。
 自動ドアから静かな館内に入る。天気が晴天だからか館内は少し暗く思えた。
 ロビーを通り抜けてプラズマは『図書館入り口』と書かれたドアを押した。
 「えーと……どこだ?」
 プラズマは図書館に入るなり独り言を言いながら辺りを見回しはじめた。
 「どこって?」
 マナが尋ねたがプラズマは答えなかった。
 しばらくまごまごしていると受付の女性がこちらに向かって来た。
 「この本棚を左へまっすぐ、その後、右です。」
 女性は意味深な一言を発すると再び持ち場へと戻ってしまった。
 「な、何?」
 マナが突然話しかけてきた女に戸惑いの声を上げた。
 「あー、あれは図書の神、天記神(あまのしるしのかみ)の操り人形だ。人間には見えない。俺達専用の図書館案内係だよ。」
 「は、はあ……。」
 プラズマはマナにほほ笑んだ。マナもよくわからずにとりあえずはにかんだ。
 「よーし、じゃあ、行こうか。えー……ここを左で突き当りを右か?」
 プラズマはマナを軽く引っ張り本棚と本棚の間を歩き始めた。
 「お、あった。」
 本棚の突き当りを右に行った時だった。プラズマが声をあげたのでマナもプラズマの脇から顔を出した。
 奥に不自然な空間があり、本棚の一つに一冊だけ真っ白な本が置いてあった。
 違和感がある理由はおそらく、本棚に本が一冊しかないからだろう。
 プラズマはその異質空間に平然と入り込み、白い本の前で立ち止まった。手招きされたのでマナも慌ててプラズマの元へと走った。
 「これだよ。」
 プラズマは白い本を手に取り、マナに見せてきた。
 白い本には『天記神』とだけ書いてあった。
 「……てんきしん?」
 「いや、これは『あまのしるしのかみ』と読むんだ。」
 「あまのしるしのかみ……。神様……その本が……。」
 「いや、彼はこの中にいる。」
 「中!?」
 マナは目を見開いて驚いた。プラズマは平然と頷いた。
 「そうだよ。じゃ、さっさと行こうや。」
 「え?どうやって?」
 マナが質問をした時、プラズマが悪戯っぽい笑顔を向けた。
 「単純な事だ。」
 プラズマはそう一言発すると白い本を開いた。
 刹那、マナの意識は遠くなり、真っ白な空間内に消えた。

 気がつくとマナはある古びた洋館の前に立っていた。辺りは森で囲まれており、霧のような白いもやが全体的に覆っていた。
 「驚いたか?ここはあの白い本の中だ。」
 洋館を眺め茫然としているマナにいつの間にか現れたプラズマが胸を張って言った。
 「驚いた……。明治時代の建物みたい……。本の中とは思えない。」
 「ふっ。白い本の中に入った事はマナはもうなじんだんだな。建物に驚いているくらいだから。こりゃあ、一筋縄にはいかない。あんたはある意味、すごい能力者だ。」
 すぐに興味が移ったマナにプラズマは驚きの声を上げた。
 「それで天記神さんは?」
 マナの興味は早くも神に移った。
 「あの図書館の中にいるよ。」
 「あれ、図書館だったの?」
 マナの驚きの声にプラズマは笑った。
 「そうだ。ま、パッと見てただの洋館だわな。じゃ、さっさと行こう。」
 プラズマは素早くマナを促してアイビーだかヘデラだかがつたう緑だらけの洋館のドアを開けた。
 「おじゃましまーす……。」
 重たい扉をプラズマが開けてからマナが恐る恐る声をかけた。
 「はーい!いらっしゃいませ。あら?プラズマさんと……あなたは……。」
 マナが声を上げた刹那、女っぽい男の声が聞こえた。
 「あらあら。まさかねぇ……。伍の世界の子だったりして?」
 「ご名答!さすが知識神!」
 女っぽい男の声にプラズマがおどけるように手を叩いた。
 「それは関係ないわよ。なんとなくわかっただけです。」
 女っぽい男の声は少しふてくされていた。
 姿を見ようとマナはそっとプラズマの脇から顔をのぞかせた。沢山の本棚をバックに青いきれいな長い髪を持つ秀麗な顔の男性と目があった。瞳は不思議な事にオレンジ色で頭には星をモチーフにしているのか星形の帽子が乗っている。紫色の水干袴のようなものを着こんでいてどこか品を感じた。
 ……それなのに女の人っぽい……。男の……神様だよね?
 マナは彼を見て少し混乱したが彼が彼女であることに気がついた。
 「ふ、複雑だ……。」
 マナの一言に天記神はコロコロと笑った。
 「何をお考えかしら?私は心は女です。ほほほ。」
 天記神はマナが考えていることをすべてお見通しだったようだ。マナは顔を赤くしてうつむいた。
 「ま、それは置いといて。話の通り、この子は伍の世界の住人なんだ。で、俺達は何か行動しなきゃいけないっぽいんだけど……どうしたらいいかわからないんだ。」
 プラズマは愛嬌のある顔で笑いかけた。
 「どうしたらいいかわからないって……私もわからないです。本ならばお貸しできる範囲でお貸しいたしますけど。」
 天記神は困った顔で首を傾げた。
 「じゃあ、なんか情報とかでも。最近変なニュースとか……。未来に関係する事とかで。」
 「んー……。情報ならば神々の情報新聞を書いている天界通信本部に行くのはどうかしら?……あ、そういえば……こないだの新聞で海外から時の神の方のクロノスさんが来ているって書いてあったわ。クロノスさんの波形の神かもしれませんけど、今はリョウと日本名を名乗りながら日本を満喫しているとか。」
 天記神の言葉にプラズマは目を輝かせた。
 「それだ。日本版の時の神じゃないところがミソか。そいつに話を聞こう!何かわかるかもしれない。」
 「単純ね……。ちゃんと新聞を読みましょうよ。」
 「いやー、俺、人間のやつしか読まねぇから。」
 天記神にプラズマはまた悪戯っぽい笑みを浮かべて答えた。
 「どうしますか?お茶でも飲んで行かれます?」
 「いや。そのクロノス……リョウだったか?はどこにいるんだ。」
 プラズマは閲覧席に座るように促した天記神を押しとどめ、尋ねた。
 「えーと……そうね。確か……。」
 天記神は考えながら田舎の村名をあげた。
 近くに海とバックには山、観光地の海岸よりもはるかに先の電車すら通っていない小さな村の名前だった。
 「なんでクロノスはそんなところに……。」
 「さあ?知りません。」
 プラズマのつぶやきに天記神は再び首を傾げた。
 「ま、いいや。とりあえず行ってみる。ありがとう。マナ、行くぞ。」
 突然名前を呼ばれマナは飛び上がって驚いた。
 「行くってどこ?」
 「聞いてなかったのか?クロノスに会いに行くぞ。まずは気になる事を片っ端からやっていく!」
 「ええっ!あっ、待ってよ!」
 先程のアヤの時と同じようにマナはプラズマに腕を取られ強制的に歩かされた。
 またも遠くに天記神の困った顔がマナを見つめていた。
 

 洋館を出て森の一点部分に足を踏み入れた刹那、マナの視界がまたも真っ白になった。
 我に返ると先程までいたごく普通の図書館に足をつけていた。目の前には先程と同じように白い本が一冊だけ置いてある。
 「戻ってきた。じゃ、こっから外に出て鶴を呼ぼうか。」
 「鶴?」
 勝手に歩き出したプラズマにマナは疑問の目を向けながら後に続いた。
 「鶴はツルだ。神々の使いだよ。」
 「……はあ……。」
 プラズマはさも当然のように手を広げた。再びわからない事が出たマナは首を傾げながらとりあえず返事をした。
 自動ドアから外に出てプラズマは太陽を眩しそうに手で遮りながら笑った。
 「ま、見ててみ。」
 「……う、うん。」
 なんだかわからなかったがマナはとりあえず頷いた。
 しばらくプラズマと共に青空を見上げていると大きな翼を羽ばたかせている人間のようなものが飛んで来るのが見えた。
 「ひぃ!?」
 マナは驚いて不思議な悲鳴を上げた。
 「ああ、あれがツル。人間には見えない神々の使いだ。ちなみにやつらは鳥になっている時は漢字で鶴。人型の時はカタカナでツルと表記しているようだ。」
 「ひっ……人型!?」
 神が存在している世界という事は辛うじて理解ができた。しかし、動物が人型になるところまでは理解ができない。
 そうこうしている内にツルがプラズマの前に着地していた。全体的に白と黒だ。白い着物に黒い袴、肩に赤いファーのようなものがついている。髪も白と黒で全体的に白、毛先だけ黒い。その髪を中国の宋の時代の様に上でまとめている。端正な顔立ちで目元に赤いアイラインを引いている青年だった。どこかの俳優のようだ。
 「よよい!行き先を提示してくれよい!」
 青年は顔に似つかわしくない言葉を吐くとプラズマとマナに深くお辞儀をした。
 「俺は主にツルを移動用に使うんだ。けっこう便利だぞ。」
 プラズマはマナに笑顔を向けるとツルが引いている駕籠を指差した。よく見ると四、五羽の鶴が脇の方にいつの間にかいた。
 「これ……江戸時代とかにあった駕籠ってやつかな?」
 「んまあ、中は結構心地いいぞ。ローカル線とかでよく見る電車のワンボックスみたいな感じだ。」
 マナとプラズマが話しているとツルが再び口を開いた。
 「よよい!行き先はどこだよい!」
 このツルは神々の使いだと言うのにどこか神々よりも偉そうだった。
 「ああ、悪いな。えっと……ちょっと不便な場所なんだが……。」
 プラズマは村名を素早く伝えた。
 「了解しましたよい!駕籠にどーぞ。」
 ツルはマイナーな村を瞬時に理解したようだ。そこら辺のタクシーよりもはるかに場所に詳しい。
 マナは感心しつつ、早くも興味が駕籠の中へと移っていた。
 「じゃあ、行くか。あんた、本当になじむのが早ぇんだな。さっきのツルの件はもう驚いてないのか。面白い。」
 プラズマは興味津々にマナを見、その後駕籠へと促した。

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明かし時…1ロスト・クロッカー6
 夜八時を回ったか回っていないか……時計が狂っていてわからないが暗い道をムスビとヒメが歩いていた。
 「鉄骨が落ちている所ってもっと先かの?」
 「道の合流部とか言っていたから俺は交差点とかかなって思っているんだけどね。」
 ヒメの言葉にムスビは笑顔で答えた。
 「そうじゃな!もう少し歩いてみるのじゃ。」
 「いいよ。転ばないようにねー。」
 ムスビはヒメに優しく声をかけながら道を進む。しばらく歩くと交差点が見えた。その交差点の大通りの方に太い鉄骨が数本散らばっている。
 「あれじゃな……。ム……。あの鉄骨は昨日のお昼頃に起きた事故で投げ出されたものじゃ。しかしおかしいの……、この鉄骨はもう回収されているはずじゃ……。そしてなによりおかしなことが歴史の一部が切り取られここに持ってこられている事じゃ。」
 ヒメは鉄骨に近づき、戸惑った顔をしていた。これだけ鉄骨が散らばっているのに野次馬も警察も誰もいない。
 「たしかにおかしいね。誰もあの鉄骨に気が付いていないなんて。」
 ムスビもヒメに近づいた。
 「!」
 刹那、ヒメが目を見開き驚いてムスビを振り返った。
 「ん?どうしたの?」
 「また歴史が変わったのじゃ!」
 「え?」
 ムスビが慌てているヒメに向かい首を傾げた。
 「今、急激に歴史が元に戻ったのじゃ!」
 「歴史が元に戻った?」
 ムスビは不思議そうにヒメに目を向けた後、鉄骨に目を移した。
 「……あれ?」
 先程までそこにあった鉄骨はなぜか跡形もなく消えていた。
 「この鉄骨が元の時間軸に戻ったのじゃ……。一体何なのじゃ!いままでこんなことはなかったぞよ……。わしはどうすればよいのじゃ……。うわーん……。」
 ヒメは突然起きた事象に戸惑い、泣き出した。
 「な、泣かないで!ヒメちゃん。俺達がいるでしょ?一緒に何とかしよう!」
 「うん……。」
 ムスビは泣いているヒメに飴を一つ渡した。ヒメは泣きながら一つ頷くと素早く飴を口に入れた。
 「じゃ、じゃあまずはあれだ!時神過去神の……栄次に相談してみようか。人間の過去なら彼の方が詳しいと思うし……ね?」
 ムスビはヒメを優しく撫でながらほほ笑んだ。
 「うん……。」
 ヒメは一つ頷くと涙を拭った。
 「じゃ、行こうか!」
 ムスビがヒメの背中を軽く押しながら歩き始めた時、遠くで銀髪の男が走り去る姿が目に入った。着物を着ている若そうな男だった。
 「ん……?あいつは確か……。」
 「どうしたのじゃ?」
 「え?ああ、何でもないよ。行こうか。」
 ヒメが不安そうな顔をしていたのでムスビは表情を元に戻し、ヒメと手を繋いで歩き出した。
 ヒメとムスビはナオと栄次に会うため、とりあえずアヤの住むマンションに向かった。
 二神は細い道を黙々と歩きコンビニを越えてマンションへたどり着いた。
 「ナオさんと栄次いるかな?」
 「あのアヤという名の少女を追って行ったのじゃろ?ここがあの子の家ならばいるのではないかの?」
 ヒメは首を傾げながらムスビに目を向けた。
 「ま、とりあえず、アヤって子の部屋前まで行くか。」
 ムスビは優しくほほ笑みながらヒメの手を取り歩き出した。ヒメは恥ずかしがりながらもムスビに従った。
 マンションの階段を上がり、四階のアヤの部屋前まで来た。廊下部分でナオと栄次が真剣な顔つきで何かを考えていた。
 「あ!ナオさん!栄次!いたいたー!」
 ムスビが声を上げた時、栄次が一言ナオにつぶやいていた。
 「……あるとすれば……劣化異種だ。」
 「……え?」
 話の内容が理解できなかったムスビは不思議そうな顔でナオと栄次を見つめた。
 「……あ、ムスビにヒメさんですか。実はアヤさんが突然、例の男性と消えてしまって……。」
 ナオがムスビとヒメに気が付き、困惑した表情のまま状況を説明した。
 「……こちらもおかしかったのじゃ。鉄骨を調べたところ、歴史の一部が切り取られておった。」
 「歴史の一部が……。そうですか……。」
 ヒメの発言にナオはまた顔を青くした。
 「やはりな。……あの男は劣化異種で間違いないだろう。」
 栄次が勝手に自己解決してしまったのでナオ達は慌てて質問をした。
 「あの……劣化異種とは何でしょうか?」
 「ああ、時神の仕組みだ。時神は自分よりも力がある時神が生まれた場合、力がある時神の方が生き残り、力のない時神は消滅する……という仕組みで回っている。時神の生は人間から始まり、徐々に神になる。人間から時神に変わる神を向上異種と呼び、反対に消えてしまう時神を劣化異種という。今回は時神の内、現代神の向上異種が現れたんだろう。それがおそらくあの娘だ。あの娘はこれから時神になる。それで今存在しているあの男、現代神が劣化異種となった。」
 「つまりは……アヤさんが現代神になってあの男の子が消えてしまう現代神……ということですか?なんだかデリートを押されているような仕組みですね……。」
 ナオが眉を寄せ、気難しい顔で唸った。
 「時神は自分の歴史を自分で動かせない。つまり自身の体の時間は止まっている。人間と共に生きなければならない時神にとって変化することは大変な事だ。人間は常に変動する。それに合わせられる神でないと時神は務まらない。おそらく今に合った時神をこの世界が選んだのだろうな。あの男の方もかなり長い年月を生きているようだった。」
 栄次の言葉を聞いていたムスビが頭をポリポリとかきながら声を発した。
 「その仕組みはわかったけどさ、歴史が動いたのとどう関係があるんだよ?」
 「時神の生は人間から始まると言っただろう。まずは向上異種から説明しようか。人間は歴史を動かす能力を持っている。向上異種は人間の歴史を動かす力と時神の力が入り混じった状態だ。その作用か時を渡れ、人間の歴史を動かせる。次に劣化異種だが劣化異種が劣化していくのは時神の力が消えていき、逆に人間の力が戻ってくる。そして人間の力が大半を占めた時、時間が逆流し、死ぬ。時神は最低でも百年は生きている。人間が生きられる時間を凌駕しているので消えるのは仕方があるまい。その消えるまでに劣化異種も向上異種同様に時神の力と人間の力を両方持っている事となる。つまりだ……。劣化異種も歴史を動かせ、時を渡れる。」
 「……。」
 栄次の説明を聞いてナオ達は黙り込んだ。今の話を頭で整理しているようだ。
 その中、ヒメはこの話を知っていたのか一人頷いていた。
 「うむ……。向上異種を別名でタイムクロッカーと呼び、劣化異種を別名でロストクロッカーと呼ぶのじゃよ。おぬしら、神々の歴史を管理しておるのにこの事を知らなかったのかの?」
 「うっ……。」
 ヒメに突っ込まれ、ムスビとナオは返答に困った。
 神々の歴史の管理と言ってもそんなに細かいところまでの歴史は管理していない。ナオは大雑把な神々の歴史を管理しているだけだ。細かい歴史は他の神が担当している。
 「あっ、では……劣化異種……ロストクロッカーはアヤさんを連れて何をしているのでしょうか?」
 ナオは突然、言いようのない不安に襲われた。
 「……劣化異種の心情はおそらく、自分は消えたくないと思っているのだろうな。つまりは……。」
 「……アヤさんを消そうと動いている可能性があるという事ですか!」
 「そうだ。あの娘が消えればあの男はまだ時神を続けていられる。あの男はあの娘を殺そうと動いている可能性が高いだろう。」
 「そんな!私達も時を渡らないとっ……。」
 「それが俺達はできないだろ。」
 焦っているナオの頭にムスビがポンと手を置いた。
 「なっ、何をするのですか!」
 「あっ……いや、少し落ち着くかなーなんて……。」
 「な、なんですか……。もう……突然。」
 ムスビの笑顔を見て焦っていたナオは顔を赤くしてうつむいた。ムスビは顔を赤くしているナオをかわいいと思ったが口には出さなかった。
 「で……時を渡る方法だが……そこの……ヒメだったか?ができるのではないか?」
 栄次が会話に割り込み、ヒメに目を向けた。
 「う、うむ。ワシは人間の歴史を管理している神故、歴史神や時神なら時渡りさせてやれるかもしれぬがおぬしら本体ではなく、おぬしらの一部を過去の世界に召喚する形となるの。過去の世界は参(さん)の世界と呼ばれておるが現世であるここ、陸(ろく)の世界と過去にあたる参の世界は違う世界じゃ。絶対に参の世界を生きるおぬしらに会ってはいかぬぞ。」
 ヒメが気乗りしない顔で答えた。
 「ちょっと待って。そもそも、あの男とアヤって子がいつに行ったのかわからないんじゃないか?歴史を動かしたからって過去に行っているとは限らないだろ。もしかしたら未来へ行っている可能性も……。」
 ムスビが慌てて声を発した。
 「……その可能性もあるが……向上異種や劣化異種が未来へ行くときは未来の時計を想像して描き、行きたい未来の年代も書くことで人の持つ想像力で未来へ飛べる仕組みだ。だが、アヤとかいう小娘の部屋に紙も筆もなかった。未来に行った線は薄い。反対に過去に行くには作られた時計に触れば行ける。あの子の部屋には時計が沢山あった。あの時計の内のどれかを触ったと考えた方がいいだろう。」
 栄次は特に焦った様子もなく冷静に言葉を発した。
 「むぅ……もし未来へ飛んでいたらワシは何にもできんの。時神未来神をこの世界に召喚することはできるが未来へおぬしらを召喚することはできぬ。ちなみに未来の世界も過去の世界同様、別の世界じゃ。未来の世界は肆(よん)の世界と呼んでおる。」
 ヒメはため息交じりに答えると頭を抱えた。
 「じゃ、じゃあ、あのアヤって子の部屋の時計を調べてどこの過去に行ったのか正確に把握しないといけないってわけな。」
 ムスビがナオをちらりと見ながらつぶやいた。
 「このままではアヤさんが危険な可能性があります。……過去へ行きましょう。神力を辿ってどこの時計に触ったか調べる事から始めます。」
 ナオは大きく息を吸うともう一度アヤの家のドアノブを握った。
 

 アヤは再び行われた事故の質問攻めから脱出し、やっとのことでファミレスの椅子に腰を落ち着けることができた。
 「はあ……なんでこんなに私……死にかけるのかしら?」
 アヤは独り言を言いながら向かいに座っているこばるとを見つめた。こばるとはどこか苦しそうに目を伏せていた。
 「……ねえ……こばると君……。突然どうしたの?大丈夫?……な、何でも好きなもの食べていいから元気出して。」
 アヤは急に元気のなくなったこばるとにメニューを差し出し、柔らかくほほえんだ。
 「アヤ……。僕はね……僕は実は……。」
 こばるとはアヤに何かを言おうとしていた。店員がお冷を置いて去っていくのを見つめるとすぐにまた口を閉ざしてしまった。
 「ん?どうしたの?なんか悩みでもあるのかしら?悩みがあるのなら相談に乗るわよ。」
 アヤの優しい声にこばるとはさらに顔を歪ませた。
 「……。」
 「どうしたのよ?さっきまでの元気は?お腹すいているんでしょ?ほら、メニュー。」
 アヤがメニューを再び差し出した時、こばるとが小さく声を発した。
 「僕は……やっぱり君を殺せない……。殺したくない……。」
 「……何?」
 アヤはこばるとが発した一言に首を傾げていた。
 「でも僕は……僕は死にたくない……。」
 「……だから何を言っているのよ?」
 こばるとはアヤの戸惑った顔を見つめた。
 「いままで起きた事故は僕が歴史をいじって動かしたんだ。僕は江戸後期くらいから出現した君をそこら辺の事件事故の歴史を動かしてずっと殺そうとしていたんだ。全部、運がいいのか、かわされちゃってさ。君は……なかなか時神として覚醒しなくて何度も同じ顔で転生しているんだよ……。何度も何度も歴史を動かして君を殺そうとした……。でも、君は生き残ったままだ。」
 「ちょっと待って……。何言っているかわからないわ!話が飛びすぎよ……。」
 こばるとの暗い瞳を見ながらアヤはさらに困惑した顔で近くに置いてあったお冷に口をつけた。
 「……君はこれから時神になる神……向上異種、別名タイムクロッカー。反対に僕はこの世界から消える時神……劣化異種……別名ロストクロッカー……。」
 「ろすと……くろっかー……?」
 アヤの動揺はさらに大きくなり、こばるとの瞳は徐々に光がなくなっていった。
 「ねえ、アヤ、君は死んでくれって言ったら死ぬ?」
 こばるとは苦しそうな表情でアヤに尋ねた。
 「何言っているのよ……。そんなことを言われたって死ねるわけないでしょ。」
 アヤはまったくこばるとの心情が読み取れなかった。だいたい、何を言っているのかよくわからない。
 「そう。だから僕は……君を殺さないといけないんだよ……。」
 「ちょ、ちょっと待ってよ。理由を聞かせてちょうだい!あなた、さっきからわけわからないわよ。」
 「僕達時神の仕組みはね……自分よりも強い力を持った時神が生まれた時に弱い方が消滅する仕組みなんだ。僕は君よりも力が劣っている……。だから僕は死なないといけない。でもね……僕は死にたくないんだ。これから時神になる君を殺せば僕はずっと時神として生きていられるはずなんだ。でもね、僕がいつまでも生きていると他の時神が殺しにくるかもしれないんだ。」
 こばるとの追い込まれているような表情でアヤは冗談だと笑い飛ばせなかった。
 「……それって選択肢は私が死ぬかあなたが死ぬかしかないの?そういう極端な選択だけじゃなくて二人で生きる道を探すって選択はないの?」
 アヤは戸惑いながらこばるとに話を合わせた。
 「……それは無理だと思うんだ。」
 こばるとはほぼ即答した。アヤは困惑した顔のまま、こばるとに言い放った。
 「無理じゃないわ!やってみないとわからないでしょ!大丈夫。私はあなたに味方をするから。」
 アヤは向かいに座っているこばるとの震える手にそっと手を置いた。こばるとはとても悲しそうな顔をしていたがなんだか安心しているようにもみえた。
 「……。君は本当に優しいんだね……。やっぱり人を殺した事なんてない僕にこんなことは無理だ。僕が生きたいから君を殺すなんておかしな考えなんだ。」
 「こばると……君。」
 こばるとは再び目を伏せた。理由はまだよく理解していなかったのだがこばるとの瞳から涙が零れ落ちるのを見てアヤはなんとかして彼を助けてあげたいと思った。
 「こばると……君……。」
 「僕、死にたくないよ……。助けて!助けてよ!」
 絞り出すような声を出し、こばるとはアヤの手を握り返した。
 「……大丈夫よ。二人とも生きられる方法を探しましょう?ね?こばると君。」
 「……アヤ……ありがとう。」
 こばるとは小さくアヤにお礼を言った。アヤには目の前にいる彼がとても小さくか弱い存在に見えた。

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ゆめみ時…1夜を生きるもの達6
 ……この大会はいつまで行われるんだ?
 更夜はため息をついていた。自分を含めた六人はまだ大会に参加している。
 ……だいたい、舌の良い者達が集まっているという事は皆正解してしまい、いつまでたっても終わらんという事なのではないか?
 更夜は運ばれてきた鍋料理を味見しながら考えた。この最中にもどこからかクナイやら刃物やらが飛んできている。
 ……いつまでたっても終わらんのに優勝賞品は一つ。……それを巡って忍が動いている。
 ……裏で何をしているかわからないが俺をここに足止めさせようと考えている忍もいるはず。今、襲ってきている者は俺を殺そうとしているのではなく、俺に余計な考えをする暇をなくさせているとも考えられる。単純に俺を殺したいのかもしれんが……。
 更夜はちらりと隣を仰ぐ。残りの人間におかしい所はない。
 ……これはさっさとかたをつけた方が良さそうだ。他の者には悪いが……手っ取り早く勝たせてもらう。
 更夜は小さく指を動かし唐辛子を微量、風に流して残り五人の鍋の中に入れた。
 ……この鍋料理に唐辛子は入っていない。これで全員ひっかかる。
 更夜はついでに気づかれないように懐に入っていた香料のビンの蓋を開ける。中から唐辛子の匂いが風に乗って五人の鼻に届く。
 ……人間は匂いで物を判断する時もある。一応、鼻も狂わせておこう。
 ……微量の唐辛子でも匂いつきとなればここまで生き残ってきた者達ならば狂うはずだ。
 更夜は飛んできたクナイを軽やかに避け、そのクナイを拾い、懐に忍ばせる。いままで飛んできた物はすべて回収済みだ。だからこそ、ギャラリーや司会に気がつかれない。
 ……誰だか知らんが非常に迷惑だ。
 更夜はペンをその場に置いた。先程クナイが飛んできた方面目がけてそのままクナイを投げる。周りの人間はペンを置いただけだと思っているので気がついていない。
 ……先程からずっとこの調子だ。この人数でばれないように振る舞うのがどれだけ大変か……。
 司会の女性が記入用紙を持っていく。更夜は笑顔で会釈をした。女性は頬を赤らめると楽しそうに微笑んだ。


  夜空から突然人が降って来た。スズとトケイは驚いて目を見開いた。
 「あー!あんたはサスケね!」
 スズはサスケを鋭く睨みつける。サスケは頭をポリポリかくとニコリと笑った。
 「マゴロクに芸術神ライをさらわれたとねェ。んま、マゴロク強いから仕方ないんじゃねぃかィ?」
 サスケの言葉にスズの眉がぴくんと動いた。
 「ああ、あやつ、鵜飼マゴロクって言うんだァよ。マゴロクがなんで芸術神をさらったか知りたいだァろ?え?」
 「知りたい!知りたいです!」
 サスケの言葉に即座に反応したのはトケイだった。
 「馬鹿。罠に決まっているでしょ!」
 スズがトケイを止めた。
 「ワシに勝てたらいいよォ。教えてやらァ。ただし、ワシもお前らが邪魔だ。言っている意味がわかるなァ?」
 サスケの瞳が突然、鋭くなった。しかし、気は水のように静かだ。
 ……気持ち悪い……。
 スズとトケイはじりじりと後退していた。
 「トケイ!こいつはまずい!逃げるよ!」
 スズがトケイを引っ張ろうとした刹那、地面が突然爆発した。吹っ飛ばされたのはスズだけだ。
 「スズ!」
 トケイはスズに叫ぶ。土煙でスズの姿は見えない。
 「そこ、危ないんだがなァ。」
 サスケの声が土煙の中で聞こえる。トケイはサスケを探した。しかし見つからない。
 焦っているとスズが土煙の中から勢いよくトケイを引っ張った。
 「スズ!」
 「ダメ!勝てない!」
 スズが珍しく焦っていた。
 「スズ?」
 トケイは引っ張られながらスズを一瞥した。スズの腕からは血が滴っていた。
 「……なんでさっきからこんな強い忍ばっかり……。」
 スズの言葉は途中で切れた。
 「……っちぃ!」
土煙の中、突然現れたサスケの蹴りを腹にくらい、スズは遠くにまた飛ばされた。
 「スズ!なんでスズばっかり狙うんだよ!僕と闘え!」
 トケイは再び消えてしまったサスケに向かい叫んだ。どこからかサスケの声が聞こえた。
 「お前は同業者じゃねぃからな。動けなくするだけだァよ。忍相手にこれをやったら失礼だからあの娘にはやらん。だいたいかからんだろう。術自体になー……。」
 「……!え?え?な、なんだこれは!」
 トケイは気がつくと指一本動かせなくなっていた。
 「言っただろぃ?ワシに勝てたら教えてやるがワシもおめぇ達を邪魔だと思っているんだってな。ほいっとな。」
 サスケが一言そう発した刹那、土煙が風ですべて飛んで行った。
 「……!」
 トケイの目が見開かれた。視界が良くなりあたりの風景がよく見える。
 トケイのすぐ近くにスズが座り込んでいた。
 「ごほっ……微塵隠れか……。なるほど。すごいわね。」
 スズの服は破れており身体からは血が滴っている。
 「ご名答。ワシがもっとも得意とする忍術だィ。ちーとやりすぎたがなァ。ふむ。まだ息があるのかぃ?」
 「こんなんじゃ死なないよ。」
 スズはふうとため息をついた。
 「くそ!なんで動かないんだ!スズにもうひどい事しないでよ!教えてくれなくていいから!」
 トケイは動かない身体を必死に動かそうとしている。
 「あーあー、わたし、なんだか負けばっかり。やっぱり強い男忍は違うねー。」
 スズは必死のトケイとは裏腹、呑気に言葉を発した。
 「マゴロクは紳士な方だァ。ワシならやられる前にやるけどなァ。」
 「じゃあ、これは油断ね。」
 スズはサスケに冷酷な目を向けた。
 「!?」
 スズの身体から突然火柱が上がった。
 「す……スズ!?」
 トケイは目の前で燃えるスズに動揺していた。
 「馬鹿ね。こっち。」
 スズは何故かトケイのすぐ後ろにいた。
 「スズ……。」
 「糸縛りの術ね。糸で縛ってある程度動けなくして後は催眠。こんなのきっちゃえば動けるよ。」
 スズは持っていた小刀で糸を切った。とたんにトケイの身体が軽くなった。催眠術でかなしばりの状態にされていたらしい。
 「トケイ、ぼうっとしてないでさっさと飛んで!」
 スズの言葉にトケイは慌ててウィングを広げ空に飛びあがった。
 トケイはスズを抱きかかえる。かなり上まで飛び、下を見下ろした。
 サスケはこちらをじっと見ていた。
 「バレてたのね……。わたしの火遁(かとん)……。」
 「この高さならつたうものも何もないし、奴も追ってこれない。それより、スズ、大丈夫?」
 「大丈夫よ。最初の爆発とその次の爆発でかすり傷を負っただけ。後の攻撃は全部防いだよ。逃げやすくするためにわざとボロボロのフリをしただけ。それよりもこれじゃあ、下に降りられないね……。」
 スズは呆れた顔でトケイを見つめる。
 「でもここだったらやつも来れないし安心じゃない?」
 トケイは相変わらずの無表情でスズを見返した。
 「馬鹿ねー……。これじゃあ、わたし達、一歩も動けないよ。サスケはわたし達が邪魔をしなければいいわけだから……これ、ハメられたんだよ……。」
 スズが再びため息をついたのとトケイが「なるほど」とつぶやいた声が重なった。


 更夜はあっさりと大会に優勝した。
 「おめでとうございます!これが優勝賞品です!」
 司会の女性から更夜は古そうな縦笛を受け取った。
 「まさか勝てるとは思いませんでした。とても嬉しいです。」
 更夜は心底嬉しそうな顔でギャラリーに手を振った。ギャラリーの歓声が響く。
 しかし、平和な時もすぐに終わった。
 「な、なんだ!」
 ギャラリーの誰かが叫んだ。刹那、シャンデリアの明かりが落ち、あたりは急に真っ暗になった。歓喜の声を上げていたギャラリー達は次第に騒ぎはじめ、動揺と不安があたり一帯を包む。
 ……来たな……。
 更夜はさっと身体を低くし、何かをかわした。更夜は強く目を瞑り、すぐに目を開いた。
 いくら忍でも明るい所から急に暗くなると目が慣れない。こういう時は目をすぐに閉じ、すぐに開けると夜目の訓練をしている者ならば見えるようになる。
 ……奇襲は失敗したな。
 更夜の背後に人の気配がした。気配はゆらりと揺れ消えると更夜の下から突然、拳が現れた。
 更夜は素早く後ろに退きかわした。
 今度は真横から気配が消え、鋭い風が首元で唸りを上げた。更夜は前かがみになり紙一重でかわした。
 ……今のは刃物だな。俺の首を狙ってた。
 周りのギャラリーは突然、明かりが消えた事で不安が大きくなっていた。慌てて逃げる者、戸惑ってその場にいる者と様々だ。
 更夜はまわりが見えているはずだが襲ってきている者だけは見えない。更夜の視界に映らないように襲ってきているようだ。
 更夜は腰に差している刀を抜こうとしたがなぜか抜けなかった。
 ……っち……糸縛りか……
 更夜は刀に巻きついている糸を断ち切った。その隙を突き、手裏剣が更夜の肩を深く切り裂いた。
 「……っ。」
 ……怯んだら負ける。
 更夜は何事もなかったかのように刀を抜いた。
 「さすがだなァ。殺せそうで殺せんよ。」
 「サスケか。」
 「その笛、渡してくれんかな?」
 サスケの声だけが聞こえた。ふと気配がまた急に下から漂う。サスケはそのまま小刀で薙ぎ払い、更夜の首を狙った。
 ……俺を殺す気か……。
 更夜は少し退くと刀を振り下ろした。何かを捉えた気はしたが斬った感じではなかった。
 ……かなり速い……。
 刀がサスケの小刀とぶつかった。サスケの目と更夜の目がはじめて合った。
 「ここではお互い派手な事はできんはずだ。サスケ。」
 「暗殺する予定だったんだがなァ……。もうここまで来たら失敗かねェ。」
 「……だな。」
 更夜はもうサスケを視界に捉えていた。
 「ああ、一つ、お仲間さんの女忍、今どうなってるか知りたくねぃか?」
 「……。」
 わずかに更夜の気が乱れた。その一瞬の隙を突き、サスケは更夜の首を小刀で凪いだ。
 更夜は咄嗟にのけ反り斬撃をかわした。
 「……っ。」
 しかし更夜の首からは血が滲んでいた。完全に避けきれなかったようだ。
 「あの冷酷な鷹であるはずのあんたが気を乱されるとは珍しいもんみたよォ、ワシはァ。」
 更夜はまた消えてしまったサスケを気配だけで追い、刀を振りかぶった。サスケは横に飛んでかわした。
 「それからなァ、芸術神の方はさらわれちまったよォ。」
 サスケはにやりと笑い、また気が乱れた更夜から笛を奪おうとした。
 更夜は手を斬り裂こうとしたサスケの腕を取ると膝でサスケの腹に打撃を加えた。そのまま、サスケの腹を再び深く蹴りつけた。サスケは一瞬苦しそうに呻いたが再び更夜と距離をとった。
 「そう簡単に渡さん。」
 「怒っているのかィ?忍に守る者はいない方がいぃ。あんたもわかってんだろうが。利用されんだけよォ。あんたもそうやって生きてきたんだろうが。」
 サスケは再び更夜の首を狙う。更夜の視界に炎が突然現れた。更夜が炎に囚われている間、サスケは更夜の首を思い切り蹴り飛ばした。
 「……っ!」
 更夜は呻くと膝を床についた。
 「落ちなかったかィ……。」
 「げほ……はあ……はあ……。」
 一瞬息ができなくなった更夜は肩で息をし、呼吸を整えていた。
 「あんたはなァ、凄い才能を持っているんだィ。忍は天職だと思うがなァ。ワシは。」
 「……この職を良いと感じた事はない。……最悪だ。」
 「凄い才能を持ってて何を言うかィ。他の忍もなるべくあんたとは戦いたくないんだろうよォ。」
 サスケはケラケラと笑う。
 「……じゃあ襲ってくるな。」
 「それはできねェなァ。戦いたくはねィが仕事なら仕方ねェい。もう一つ教えとこかね。この世界に入り込んだ忍はあんたんとこの娘を覗いて皆甲賀者だァよ。」
 「いらん情報だな。」
 更夜とサスケは再びぶつかり合った。

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かわたれ時…1月光と陽光の姫6
 サキ達はもう一度天守閣の中へ入った。ピンク色の廊下の先にエスカレーターが動いていた。エスカレーターももちろんピンク色だ。
 「何と言うか……ピンク色には慣れたが城の内部にいる月神、兎達に全然会わないのが気になるな。」
 みー君はエスカレーターを登りながらつぶやく。
 「確かにねぇ。恐ろしいくらい静かだよ。」
 先程から何も物音がしない。エスカレーターが動く音のみ響く。とても不気味だ。
 「む……。ここら周辺にいる皆の心が弐にいるでごじゃる。肉体は行っておらぬ故、眠っている状態であります……。城の外にいた者達は肉体ごと弐に行ってしまわれたでありますが……。城内の者達はまだなんとか……。」
 ウサギが怯えながらあたりを見回した。
 「なんでわかるんだ?お前、あれか?パーティの中にいる物知りキャラか?」
 「みー君!声がでかいよ!」
 「お前もな……。」
 サキとみー君がこそこそ話しているとウサギが恐る恐る声を出した。
 「自分達は弐の世界の上辺と月を守っているであります……。月神、兎も睡眠はとるのでシフト制で休んでいるのであります。その時に何人弐に行っているのかとか……まあ、つまり何人寝ているのかを随時把握しているのでごじゃる。月の兎の特殊能力とでも言うか、とにかく兎は弐にいる人数を把握する能力を持っているのでごじゃる。」
 ウサギは話しながらじわっと瞳を潤ませた。今にも大泣きしそうな雰囲気だ。
 「わっ……待つんだよ。こんなところで泣かないでおくれ。」
 サキは慌ててウサギの涙をふく。ウサギは同胞が消えてしまった事にだいぶまいっているらしい。
 「こんな状態なのに月子ってやつは何やってんだ?って、こりゃあ月子がやったのか。」
 みー君は二階から三階へ行くエスカレーターに乗りながらつぶやいた。
 「つつつ、月子さんを悪く言うなであります!月子さんはそんな事をするお方ではないでごじゃる!」
 「でもその月子ってやつはサキを殺そうとしていたんだろ?悪く言うなって言う方が無理じゃねぇか?」
 みー君のそっけない言動にウサギは突然怒り出した。
 「月子さんはそんな神じゃないであります!絶対に同胞にひどい事したりとか……し、しないであります!」
 ウサギはどこか必死の面持ちでみー君に掴みかかるように言葉をまくし立てる。
 「……お前も……もうわかってんだろうが。こういう状態になったのは月子のせいだとな。何むきになってんだよ。隠したい事情でもあるのか?」
 「みー君、やめなよ。兎には兎の何かがあるんだよ。きっと。」
 みー君とウサギの会話が喧嘩腰になってきたのでサキは慌てて止めに入った。
 「お前は黙ってろ。」
 みー君はサキをじろっと睨みつけた。それを見たサキはなんだかカチンときた。
 「黙ってろってなんだい!あんたがそんなデリカシーの無い事ばかり言うから……!」
 「わわわ、待つであります!喧嘩はよくないでごじゃる!」
 止め役だったサキ本人が喧嘩腰になってしまったので今度はウサギが止めに入った。
 「喧嘩なんてしてねぇよ。こいつが勝手に怒ってるだけだろ。」
 「はあ?」
 サキはみー君の言動でさらに腹が立った。みー君は涼しげな顔で四階に続くエスカレーターに乗る。
 「少し落ち着けよ。俺は別に喧嘩しようってわけじゃない。ただ……言い方が悪かったな。すまない。お願いだ。少し何もしゃべるな。俺はウサギと会話がしたい。」
 みー君の鋭い瞳にサキが映る。みー君はサキとは違いとても冷静だった。それを感じたサキはみー君が何かを言おうとしていると判断した。
 「みー君。あんたはあたしよりもはるかに長く生きている。あんたがまわりにイライラをぶつけるわけないね。イライラしてたのはあたしだ。わかった。少し黙る。」
 「お前、イライラしていたのか。」
 みー君は少しだけ驚いた顔をしていた。
 「当たり前だよ。太陽も思うように動かせてないっていうのに他のやつらから月の様子を見て来いって言われておまけに月のやつらにあたしは殺されかけるし。チイちゃんもどうなったかわからない!」
 サキは愚痴をこぼしながら深呼吸をし、心を落ち着けた。
 「そうだな。お前は不運だ。不運だが死ぬほどの不運ではない。あの男も確実に死んだとは言いきれない。」
 「まあそうだねぇ。確かにまだ何にもわかってない。もう、イライラしてないよ。……とりあえず、あたしはいいから二人で話しな。」
 みー君の不器用な慰めに満足したサキはため息を再びつくと黙り込んだ。
 「わりぃな。……で、ウサギ、先程はまわりくどく言ったが……俺にはやっぱり難しいんで、簡潔に結論を言おう。」
 みー君はそこでいったん言葉をきった。ウサギは瞬きをしながら言葉の先を待っている。
 「これ、だいぶん前に起こった月照明神がいなくなったそれにとても似ているんだが……。月神の王は姉妹そろって一つの神なんだろう?月子は妹だったはずだ。姉はどうした?消えたのか?それとも消したのか?先程むきになってたのはそれだろう?お前は何か知っているな?」
 「!」
 みー君の発言にウサギは狼狽していた。
 「し、知らないであります!げ、月照明神様……いえ、主上は自ら弐の世界へと向かわれた。自分達に何も言わずに行方不明になられた。つ、月子さんにも何も言わずにいなくなられた。自分達は主上が何らかの理由で弐に行き、その理由が解決したら月に戻ってくると思っているであります。」
 「それは苦しい理由だな。お前、さっき弐の世界に入り込んだら出て来れないって言ってたじゃないか。お前は実際、自ら弐に行く月照明神を見たのか?月子にそう言われただけなんじゃないのか?」
 みー君の諭すような口調にウサギは黙り込んだ。しばらく静寂が包んだ。みー君はウサギが何かを口にするまで声を発さないつもりのようだ。黙ってウサギを見据えている。
 やがて観念したようにウサギがぼそぼそとつぶやきはじめた。
 「先程述べた理由は……自分が他の月神様や兎達に流したウソでごじゃる。自分は月神様の使いでごじゃる故……どんな状態でも月神様の意向に従う。……だが……もうそれは先程の件で守れそうにないであります。」
 「という事は……お前は本当を知っているんだな……。」
 みー君は一つの結論を導き出し、大きく頷いた。ウサギはみー君の鋭い瞳に怯えながら続きを話しだした。
 「自分は月子さんが姉君を弐に突き落とすのをこの目でみたでごじゃる。なぜそうなったのかはわからないでごじゃる。ただ、自分は誰にも悟られぬようにこの件を必死で隠してきた。誰にも見られていなかった故……自分は知らない顔をしようと思ったのでごじゃる。これは月子さんにとって外に漏らしてほしくない内容だと判断し、自分はウソを言って隠ぺいしたであります。」
 ウサギは怯えながらゆっくりと言葉を漏らした。
 「なるほどな……。まあ、お前の判断も間違ってはいないな。」
 みー君はウサギから目を離すとサキに目を向けた。サキが意見を言うか言わないかで迷っているような感じだったからだ。
 「なんだ?なんか言いたそうだな。」
 「みー君、ごめん。しゃべるよ。……今の話を聞くかぎりだと……ウサギの判断はあまり正しいとは思えないよ。現場を見ていたんだったらウソで隠ぺいするんじゃなくてさ、原因究明とか色々するべきだったんだとあたしは思うよ。見て見ぬふりってよくないんじゃないかい?」
 サキはみー君を見た後、ウサギに目を向けた。ウサギは唇を噛み、うつむいていた。
 「まあ、お前の言っている事も正しい。が、よく考えろ。今となっては月子の不審感が月神達に知られているが当時はどうだったか。ツクヨミ神の加護を受け、月照明神は尊敬の対象だったはずだ。そんな状態でこのチビ兎が、『妹が姉を弐の世界に突き落とし消した』と言ってしまったらこいつは間違いなく死刑だ。こいつには何の力もない。ただの反逆罪だ。保身のためならこいつの判断は正しい。ただ、こいつの身は相当苦しかったと予想される。一人で誰にも相談せず、月子に不審感は持っているものの従順で……子供なのに精神がよく持ったものだ。」
 みー君はウサギの頭にそっと手を乗せた。
 「……みー君……。……そうか。それを考えてなかったよ……。あたしの言った事は正義の味方きどりで何も考えていないだけだ。」
 サキは自分の意見を恥じた。うつむき、何を言うか迷った。サキの顔を見たみー君は突然ふっと笑った。
 「な、なんだい?」
 「いや、変な顔しているなと思ってな。」
 「変な顔だって?」
 「いや、怒るな怒るな。……お前の言った意見だがな、それもあっているぞ。弱い立場のやつができなかったら強い立場のやつらがやればいいんだ。原因の究明や、月子に関しては現在やっているだろ?」
 みー君がサキに向かい笑いかけた。刹那、サキの瞳に輝きが戻った。
 「そ、そうだね!そうだ!あたしがやればいいんだよ!って……あれ?あたし、なんであんたにいいようにコントロールされているんだい?」
 「モチベを上げただけだろ。コントロールなんてそんな……お前が自機だったらまともに動かないだろうな。AボタンのコマンドなのにBボタンのコマンドやるだろ?」
 「まったく、たとえがいちいちわからないんだよ……。みー君は。」
 サキに元気が戻った。みー君は満足そうに頷き、意味深に「さてと」とつぶやきエスカレーターの到着地点を睨んだ。
 「みー君?ん?……ウサギ?」
 ウサギが静かにサキの腰回りにひっついてきた。ひどく怯えているようだ。サキはふと何かを感じみー君が向いている方向を向いた。
 「!」
 エスカレーターの到着地点に月子が立っていた。氷のような瞳の奥には憎悪が見えている。
 「あれが月子か。実際見るのははじめてだな。」
 みー君は不気味に笑った。
 「あれが月子……不思議とはじめてな感じがしないね……。なんでかな。」
 サキはなぜか懐かしい気持ちになっていた。会った事がないというのにどこかで会っているようなそんな気がした。
 「おそらく、今、概念化しているツクヨミ神とアマテラス大神が関係しているんだろうな。サキはアマテラス大神の色々を受け継いでいてあいつはツクヨミ神の色々を受け継いでいる。もともとあのツクヨミ神とアマテラス大神は姉弟だ。色々細かい理由があって仲が悪くなったらしいがな。」
 「遠い記憶がこんな懐かしい気持ちを呼び起こしているってわけかい。」
 サキは月子を睨みつけた。
 「!」
 刹那、月子が手から刀を出現させ、勢いよく振るった。刀からはカマイタチが飛び、エスカレーターを粉々に破壊した。
 「うわあ!ちょっ……!」
 「いきなりかよ!」
 みー君は慌てて風を起こし、三人の落下を防いだ。
 「ぎゃあああ!」
 しかし、みー君は元々厄災の神、台風じみた風しか出せずサキ達は吹っ飛ばされる形となった。
 だがなんとか月子がいるフロアまでは到達する事ができた。地面に叩きつけられる勢いだったがサキもウサギも不思議と怪我はなかった。
 「おっと、すまん。怪我してないか?いきなりだったもんで制御がちょっとできなかった。」
 「あ、あんたはいつもそうじゃないかい……。」
 慌てているみー君にサキは吐きそうになりながらも言葉を発した。エスカレーターは原型を留めていないくらい破壊されていた。もう足を乗せる所もない。
 「ま、まあ、ここから落ちるよりはマシでごじゃる……。……つ、月子さん……自分、やっぱりこのままではいけない気がするであります……。」
 ウサギはサキにしがみついたまま月子を怯えた目で見つめていた。
 「月は吉凶を占う所でもあるわね。厄神を連れてきたって事は凶かしら?そうね。さっきので全員しとめられなかったんだもの。私にとっては凶だわ。」
 月子はウサギの問いかけには答えず不気味に微笑みながらサキ達を睨みつけていた。
 「月子さん!外の警備をしている者達が弐の世界へそのまま入り込み、城内の者は魂が弐に行っているであります。なんとか元に戻してもらえないでごじゃるか……?」
 ウサギは震える身体を押さえつつ叫んだ。月子の瞳は暗く、冷たいままだ。
 「あなたは私に意見できる立場ではないわ。このままでいいのよ。場がおさまったら元に戻すから……。」
 「とはどういう事だ?」
 みー君がウサギの代わりに月子に質問をした。その瞬間、月子の顔に冷笑が浮かんだ。
 「あなた達はもう外へは出られないわ。」
 「ほお。」
 みー君の瞳が青色からスウッと赤色に変わる。サキはみー君の豹変に驚きながらも剣を手から出現させ構えた。
 「やっぱりすべての原因は月子か……。話し合いでなんとかなりそうにないし、どうしたもんかね。」
 「さて、原因究明はどうしたものか。……しかし、舐められたもんだな。俺はイザナギ神とイザナミ神との間に生まれた子供だぜ?」
 「知っているよ。みー君。」
 サキとみー君の間に恐る恐る入り込んできたウサギがきょろきょろと二人を見上げていた。
 「じ、自分に何か……できる事は……?」
 「今はまだいい。少し退がっていろ。」
 「そうだね。話せる状況でもないし、もうちょっと様子見をするべきだね。」
 ウサギはサキとみー君の答えを聞き、おとなしく後ろに退いた。
 「みー君、いいかい?これは敵を叩きのめすわけじゃないよ。いいね。」
 「わかった。」
 二人は月子に向かい構えをとった。このまま、月子と対峙をし、チイちゃんが帰ってくるとは思えなかったが二人はここからどうすればいいかわからなかった。ただ、月子さんに会うという目的だけでここまできてしまったため、会ってから何をすればいいのかまったく決めていない。
 底冷えするような瞳でこちらを見ている月子と対峙しながら二人は頬を伝う汗もそのままこれからどうするか必死で考えていた。

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