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ごぼうかえるのTOKIの世界!
皆に元気を与えたい! 前向き楽しいブログを目指す(*^.^*) 口蓋裂の娘ちゃんと軽いADHD、軽いチック症状を持つ旦那と楽しくのんびりな日常をドールちゃん達が紹介する! 独自世界の幻想日本神話、自作小説書いています! 神と人形と人間と霊、そして『K』の季節感じる幻想データ世界TOKIの世界へようこそ! 和風SF日本神話の世界です( ´∀`)
ゆめみ時…1夜を生きるもの達1
知らず……生まれ死ぬる人、いづかたより来たりて、いづかたへか去る。
―自分にはわからない、生まれて死んでいく人は一体どこからやって来て、どこへ去って行くのか―
方丈記……行く河の流れ。


この世界は六つの世界でできている。壱、弐、参、肆、伍、陸の六つである。
この内、人間など生命がいる世界が壱、参、肆、陸の世界。壱は現在。参は過去。肆は未来。この三つは三直線に進んでいる。つまり、現在は平成だが過去である平成、未来である平成も同じ時間軸で平衡に存在しているという事だ。
伍はわからない。陸は現在と呼ばれている壱の世界の反転した世界と言われている。
 そして残りの弐の世界は人々が寝ている時に行く世界と言われている。つまり夢の世界だ。弐の世界は生きている個体が持っている世界観。弐の世界と一個にまとめているが個人個人で世界があるため、無数の世界がある。
 それから死んだ者は人の心に住むため、この弐の世界に住んでいる。
 故に霊魂の世界とも言われる。
 弐の世界には弐の世界の時間を管理する時神がいた。
 これはその神達の話である。

 「あー、弐に入り込んじゃったけどほんと、いっぱい世界があっておかしくなりそう。」
 金髪のかわいらしい顔つきの少女はツバがある帽子をかぶりなおし、歩き出した。ボーダーのワンピースが風で揺れる。めくれそうになるワンピースを手で押さえながら沢山の白い花が咲いている道をただ黙々と歩いていた。
 彼女はこの弐からの出口を探していた。しばらくどうしようもない気持ちで歩いていると目の前に瓦屋根の家がぽつんと建っていた。
 「どこの人間か、動物かの世界かはわからないけど……なんかの魂が住んでいるみたい。」
 少女は助けてもらおうと家に近づいた。
 「ねえ、何やっているの?」
 すぐ後ろで幼い少女の声が聞こえた。金髪の少女は慌てて振り向く。いつの間に後ろをとられていたのかわからないが着物を着た十歳に満たないだろう少女が不振な目でこちらを見ていた。
 「え、えっと。私は弐の世界の外から生きた者が入らないように見守っている絵括神(えくくりのかみ)なんだけど……。なんか弐の世界に落ちてしまって……あ、えっと私はライって名前。」
 金髪の少女ライは動揺しながらかろうじて言葉を発した。
 「神様ね。外の世界には沢山神様がいるらしいね。で、あんたはあれね。ここの中に入らずに外から守っている神様なわけね。」
 着物を着た幼い少女は無表情なままライを見つめた。
 「そ、そう。」
 ライは幼い少女の光りのない瞳に恐怖を感じながら答えた。
 「あ、ちなみにわたし達は幽霊だけど神様で中から弐を守っているよ。そういう役目をね、外の神から言い渡されてね。」
 「そ、そうなの。あ、あの、名前は……?」
 ライは黒い瞳から目をそらしつつ聞いた。
 「わたしはスズ。もう死んじゃっているけど戦国あたりの忍だったんだよ。」
 「その歳で!?」
 幼い少女、スズは平然と答えるのでライは驚いて目を見開いた。
 「女の子は大きくなると身軽に動けないからってわたしは早い段階で忍にさせられた。元々家が忍の家だったからね。大きくなったら暗殺方面じゃなくて諜報に回すつもりだったらしいけど……ま、すぐにここの主に殺されちゃったんだけどね。」
 スズは後ろにある瓦屋根の家をふと見て、どこか懐かしむ顔でライを見上げていた。
 「そ、そうなの……。」
 ライが複雑な顔をしているとスズの顔に突然恐怖の色が浮かんだ。
 「ん?どうしたの?」
 ライが声をかけた時、スズの真後ろに突然藍色の着物を着た男が現れた。男は若いのに白髪で髪を後ろで縛っており、右側だけ髪で顔を覆っている。そして目が悪いのか眼鏡をしていた。冷たい瞳がじっとスズを睨みつけている。
 「こっ……更夜!」
 「スズ……。料理に火薬を使うなと何度も言ったはずだ。」
 スズに更夜と呼ばれた男は冷たく低い声で静かにつぶやいた。
 「そ、創作料理を作ろうと思って……。」
 「ほう。」
 更夜は知らぬ間にスズの首筋にクナイを突きつけていた。
 「ご、ごめんね……。」
 「……。本心ではないな。」
 「……ひぃー。くわばらくわばら……。」
 スズは先程とはうって変わって怯えている。
 「お前は昔から嘘が下手だ。俺を騙せると思うな。」
 「ほ、ほら、更夜!見て!壱の……えーと……現世の神様が……な、なんか言いに来たみたいだよ!」
 「ええ!?」
 スズが救いを求めるようにライを見つめる。
 ……冗談じゃない。こんな怖い顔している人に何を言えばいいの……?
 更夜は鋭い瞳をこちらに向けてライが話すのを待っている。
 「あ……あの……えっと……。」
 「なんだ?」
 怯えるライに更夜は警戒しながら聞き返した。なんだかたまらなく怖かった。
 「な、なんでもないです……。はい。」
 ライは黙り込んでしまった。
 「ちょっと……、ライさん。これじゃあ、わたしが困るよ……。」
 スズが絶望的な顔でライに向かいつぶやいた。
 「困るって言われても私、怖いよ……。スズちゃん。」
 ライが涙目で更夜から目を離した刹那、男の子の声がした。
 「……。更夜、目が戻っているよ……。それは怖がるんじゃない?」
 家の障子戸からオレンジ色の髪をした男が顔を出した。男は奇妙な格好をしていた。ユニフォームのようなものを上に着ており、下はズボンだが太ももあたりにウィングのようなものがついている。無表情で無機質な瞳をしているが声には感情がこもっていた。
 まるで機械のようだ。
 「えーっと……。」
 ライはその男の顔を不思議そうに眺めた。
 「ああ、彼は霊魂とかじゃなくて元々ここにいる神様なんだって。なんでもありな弐の世界ならではの変な格好よね。でもいい神だよ。トケイって言う名前。」
 「トケイ……さん?」
 スズが不思議そうにしているライにわざわざ丁寧に説明してくれた。
 「トケイか。……ふう。」
 更夜は表情を柔らかくした。だが冷たい雰囲気は変わらない。長年しみついた雰囲気のようだ。
 「更夜は蒼眼の鷹って昔呼ばれていて、わたしと一緒の忍。忍だったわたしすら、更夜に睨まれて一歩も動けなくなったから更夜はかなり怖い。」
 スズはうんうんと頷く。トケイはスズと更夜を交互に見てため息をついた。
 「ああ、なるほど。スズ、またなんかしたの?」
 「火で煮るよりも火薬で一発ドンとやればすぐ煮物できると思ったよ。でも鍋が吹っ飛んで終わった。こうポーンって。」
 スズはジェスチャーをしながらクスクス思いだし笑いをした。しかしすぐに後ろに立っている更夜の荒々しい空気を感じ取り、顔を引き締めた。
 若干おいてけぼりなライはこのまま静かにここから離れるつもりだったが身体が動かなかったのでその場にいた。
 「で、あなたは何をしに来た?」
 更夜が先程よりも柔らかくライに質問をする。
 「え……その……ここから出ようと思っているんですけど出られなくなってしまって……。」
 ライはビクビクしながら更夜に答えた。声は小さくか細い。
 「あなたは確か、芸術神、絵括神。絵を描いて弐の世界を表現できるとか。」
 「は、はい!私の筆で絵を描けば弐の世界を作る事はできます。で、ですが、それは私が想像した妄想の世界の弐の方。人が個人個人で作る世界にもなりはしない上辺だけの世界です。その上辺の世界は作れるし、渡れるのですが……その……上辺の世界の中の中、世界の真髄は渡る事ができません。そ、それで上辺の世界からこちらに落ちてしまい、戻れなくて困っていまして……。」
 ライは話している最中に何を言っているのかわからなくなってしまい、後半は声が小さくなりすぎてほとんど彼らには聞き取ってもらえなかった。
 スズが難しい顔をしながら口を開く。
 「……まあ、よくわかんないけど、この世界の上にさらに世界があってライさんはその上の世界からこっちに落ちて来ちゃったわけだね。で、ライさんはこの世界の上にある世界っていうのを絵を描く事で表現できるって事。特殊技だね。」
 「あ、スズちゃんそうそう!」
 ライはうんうんと頷き微笑んだ。
 「ん?なんだ、足を怪我しているではないか。」
 更夜はライの右足に目を向けた。
 「え?怪我ってこちらに落ちてしまった時にちょっと足をねんざしたくらいですけど……。」
 ライは更夜を見、驚いた。ライの足は少し痛みを感じる程度で歩くのになんの支障もなかったがそれを更夜が言い当てた。
 「少し、見せてみろ。」
 更夜がライに右足首を見せるように言った。
 「あー……い、いえ……大丈夫です!」
 「重心が傾いている。まだ痛むのだろう?心配するな。手当をしようとしているだけだ。」
 ライは戸惑っていたがやはり少し痛むので見てもらう事にした。靴を脱いで右足首をさらす。そのまま更夜に足を差し出すわけにもいかず、まごまごしていると更夜が座るように言ってきた。ライは白い花が咲く地面に座り込み、不安そうな瞳で更夜を見た。
 更夜はそっとしゃがみ込むとライの右足首を触った。
 「……!」
 ライはなんだか少し恥ずかしくなり頬を赤く染めた。更夜のしなやかな指がライの右足を丁寧に触る。
 「ふむ……若干腫れているな。スズ、救急道具を持ってこい。」
 「わ、わかったわ。」
 スズは更夜に頷くと瓦屋根の家に入って行った。ライはなぜか更夜をぼうっと見つめていた。
 ……な、何これ……。凄いドキドキする……。よく見たらこの人かなりイケメンだし冷たくて鋭い瞳をしているけど思ったより優しくて……どこか知的で怖いところが私のツボ……。
 「ねぇ?ライだっけ?大丈夫……?」
 「はっ!」
 ふと気がつくとトケイが無機質な目をこちらに向けていた。
 「え……え?」
 ライは両手で顔をとりあえず隠す。
 「ふーん。ライさん……ライってば更夜に一目惚れしたのかなー?ねぇ?」
 シュタッと近くで音がしてスズが救急箱を持って現れた。スズはニヤニヤとこちらを見るともう一度つぶやいた。
 「一目惚れ?」
 「えっ……ち、違うよ。スズちゃん……。」
 ライは慌てて否定をする。
 「馬鹿な事を言ってんな。さっさと救急箱を渡せ。」
 更夜は呆れた顔をスズに向け、ニヤニヤ笑っているスズから救急箱を受け取る。
 ……そ、そうだね。いくら……き、気になったとしてもまだ早いよね……うん。
 ライはドキマギしながら首を縦に振った。
 「なんだ?痛むのか?」
 更夜が手当てをしながらライを仰ぐ。ライは真っ赤になった顔でぶんぶんと頭を横に振った。
 「だ、大丈夫……です。」
 ……この冷たく低い声だけど……かける言葉はとても優しい。その鋭い瞳の奥にある優しさが私をかきまわし、そのターコイズブルーの輝きが私の心を……。
 まあ、つまるところ、ライは更夜に一目ぼれをしたのであった。
 謎の恋心は唐突にライに襲い掛かった。
 「よし。まあ、これでいいだろう。」
 更夜が包帯をさっさと片付ける。
 「あ、あの……この包帯はちょっと大げさでは……?」
 ライは足首に巻かれた包帯を困惑した顔で見つめた。
 「ふむ。用心だな。あなたはあまり痛まなかったようだが本来ならかなり痛むはずだ。まだ頭がちゃんとした思考になっていないのだろう。落ち着いてきたら痛み出すぞ。」
 更夜は眼鏡をかけ直すと家に入って行ってしまった。更夜は背中越しでスズとトケイに「現世に送ってやれ。」
 と命じた。
 「はーい。了解。」
 「了解。」
 スズとトケイは気の抜けるような返事をするとライに手を伸ばした。
 「あ……あ!ちょっと待って!」
 ライは意味もなく声を上げた。
 「ん?何?」
 「どうしたのよ?」
 スズとトケイは声を上げたライに驚きながらも話を聞く体勢になった。
 ……あ、えっと……どうしよう……。なんか待ってとか言っちゃったよ……。特に意味もないのに……。なんて言おう……。
 ライは唾をごくんと飲み込むとしかたなく口を開いた。特に何か考えがあったわけでもない。
 「も、もう少し、いさせてもらってもいいかな?」
 「ん?」
 「んん?」
 ライの発言にスズとトケイは固まった。何故ライがまだいるつもりなのか考えているようだ。
 「あ、えっと……も、もう少し、この辺を見てみたいの!」
 ……ああ、更夜様の側にもっといたいなんて言えない……。
 ライは顔を赤くしながら叫ぶ。
 「え……あ、そう……。」
 スズは困惑した顔をトケイに向ける。トケイも首を傾げていたがすぐに頷いた。
 「まあ、いいんじゃない?僕はお客さんだと思えるよ。」
 トケイは無機質な目でライを見つめる。
 「ちょ、ちょっとでいいの……。その……。」
 「ははーん。さては更夜が目当てかなー?」
 スズが意地悪な顔でライを仰いだ。ライはブンブンと頭を横に振る。
 「ち、違うよ!」
 ライが顔を真っ赤にして否定しているのでスズはふふっと笑った。
 「まあ、いいわ。うちでお茶でもしましょうよ。」
 スズはどこか嬉しそうな顔でライの肩をポンポンと叩いた。
 「ほんと!ありがとう。」
 「あれ?本当に嬉しそうだね。」
 トケイがライの瞳を覗き込むように見てきた。
 「トケイ、彼女は本当に喜んでいるの。」
 スズに言われ、トケイがなるほどと軽く頷く。
 「あ……その……。」
 ライが戸惑っているのでスズはそっと手をとり歩き出した。
 「スズちゃん!?」
 「落ち着きなさい。それじゃあ話もろくにできないわよ。ね?」
 スズは突然、きれいな娘に変身した。先程の子供姿とは違い、何故か彼女は成長した。年齢はライよりも年上か。大人っぽい顔つきなのでよくわからない。紅いきれいな着物はしっかりと大人サイズに変わっている。
 「あ、あれ?なんか大きく……。」
 ライは目をパチパチさせてスズを仰ぐ。
 「これが本来のわたし。まあ、子供の時に死んだんだけどいつまでも子供だと正直きついのよね……。だから姿を大人に変えているの。弐の世界は魂で肉体がないから実体をつくるのにかなり自由なのよね。そこが魅力❤」
 スズは妖艶な声でライの耳にささやいた。女のライでさえ、なんだか恥ずかしくなり顔を赤くする。不思議な魅力を放つ姿だった。
 「は、はあ……。」
 「さ、行こう?お茶をお出しするよ。」
 スズは言葉がないライをただ引っ張り、家の中へ入って行った。


 「更夜、少しお茶を飲みたいそうだから上げるよ。」
 スズは畳の部屋でちゃぶ台を置いて座っている更夜に声をかけた。部屋はかなり広い。玄関はどうやら裏口のようだ。何故裏口から通されたのかはわからないが表の方は何か商売でもやっているらしい。廊下を挟んで広いキッチンもある。
 「茶か?たいしたものはないが。」
 更夜は相変わらず鋭い瞳でライを一瞥した。ライはぼーっと更夜を見つめていた。
 「なんだ?」
 「あ、いえ……。」
 ライは慌てて目を逸らした。
 「更夜、なんか怒っている?彼女、お客さんだよ。あ、そうか。スズの件で……。」
 「わーっ!」
 トケイの言葉を慌ててスズが遮る。
 「どうしたの?」
 「馬鹿!思い出させてどうすんのよ!」
 トケイとスズはこそこそと秘密の会話をしていた。
 二人が秘密の会話をしていると虫の居所が悪い更夜がバンっと突然ちゃぶ台を叩いた。
 そして無言でスズを睨みつけた。
 「くわばら……くわばら……あんたはホント怖いわよね……。」
 スズはライの影にこっそり隠れた。
 「隠れるな……。子供の姿になった方が俺は情けをかけてやれると思うがな……。その姿だと容赦は……。」
 更夜から漏れ出る殺気が手前にいるライにも突き刺さる。ライはスズ同様、ガタガタと震えた。しかし、ライには同時に不思議な感覚が襲っていた。それは変態的なものだ。
……更夜様に……お仕置きされたい!
 「こ、更夜様……。私にお仕置きしてください!」
 ライが後先考えずに発したこの発言にその場にいた一同は凍りついた。
 「ん?」
 「ん?」
 スズとトケイはわけがわからずお互いの顔を見合い固まっている。一番わけがわからないといった顔をしていたのは更夜だった。
 「あ……。」
 ライは顔を真っ赤にしてうつむいた。
 ……わ、私は何を言っているのー!?恥ずかしい!死にたい!
 しばらくしーんと場が静まり返った。その沈黙を破るようにトケイが呑気な声をあげた。
 「ああ、そうか。ライは優しいんだね。スズの代わりになるって言っているんだ。つまりかわいそうだからやめてあげてってオブラートに包んで言ったんだね。」
 「え?」
 トケイの言葉にライは真っ青な顔で三人を見回す。若干顔が引きつっている。
 「オブラートに包むっていうか……変な部分が包みきれてないよ?」
 スズは呆れた顔をライに向ける。
 「うう……。」
 ライは半分泣きそうな顔で畳の目を見ていた。
 「はあ……もういい。スズ、夜までに台所、なんとかしておけ。」
 ライの姿を見た更夜は疲れてしまったのか大きなため息をつき、スズに命じた。
 「それだけでいいの?わーい。楽になったわ。うふふ❤」
 「あ、僕も手伝う。」
 スズは鼻歌を唄いながら楽しそうにキッチンへ向かって行った。トケイもスズの後を追う。
 「まったく……調子がいい女め。」
 更夜は苦虫を噛み潰したような顔で去って行くスズの背を見送っていた。
 「あ、あの……」
 ライが控えめに声を上げた。もう何を話せばいいかよくわからない。
 「……好きにくつろげ。」
 更夜は慌てているライにそっけなく言い放った。
 ……そんな事を言われても……。
 「あ、あの!更夜様……。」
 「なんだ?……その更夜様っていうのはやめろ。」
 更夜は睨んでいないようだったがライはビクッと肩を震わせた。
 「更夜様は更夜様です!」
 ライは自分が意味不明な事を言った事に気がついた。
 「あー……いや……そのえっと……。」
 「あなたはなぜ弐の世界をうろついていた?」
 更夜が表情なく聞いてきた。
 「妹が行方不明なんです……。」
 ライは恐る恐る更夜に言葉を発する。
 「ふむ。」
 「三姉妹なんですけど姉の方は罪神で今、罰を受けています。悪い事をしていた姉が捕まった以前から妹が行方不明なのでとりあえず弐の世界を探そうと……。」
 更夜は軽く頷くとライを見据えた。
 「あなたの姉が何をしたか知らないが妹は姉の関係でいなくなった可能性があるとあなたは思っているのか?」
 「……は、はい。」
 「……。」
 更夜は黙り込んだ。しばらく静寂が部屋に流れた。ライはこの雰囲気に耐える事ができず何か話そうと必死に考えていた。しかし、何も思い浮かばない。
 「あ、あの……。」
 「しっ!」
 ライがとりあえず声を上げたところで更夜に止められた。更夜は鋭い瞳であたりの様子を伺う。そして突然立ち上がるとどこから出したのか刀を持ち、何もない空間を袈裟に斬った。
 「!?」
 ライは何が起こったのかわからず戸惑い、声を上げる事すらできなかった。
 「っち。」
 更夜は軽く舌打ちするといつ抜いたかわからない刀を鞘にしまった。
 「あ、あの……?」
 ライがかろうじて声を上げた刹那、カランと手裏剣が畳に落ちた。
 「もう気配が消えている。忍か?」
 「に、忍者?」
 更夜の冷静な発言にライは戸惑った。
 ……今の当たってたら怪我してたのに……冷静すぎる!かっこいい!
 ライの戸惑いは変な方向へいっていた。
 更夜はやれやれと立ち上がるとスズの様子を見に台所の方へ向かっていった。
 ライは一人残されたので、興味本位で手裏剣を拾い上げた。
 ……けっこう重い!こんなの当たったら死んじゃうよ……。更夜様が守ってくれた?
 ……私、更夜様に守られちゃった!
 ライはきゃーと言いながらひとりで無駄な動きをしていた。刹那、畳がパカッと開いた。
 「うわっ!」
 ライは驚いて謎の動きを止めた。恐る恐る開いた畳の中を覗いてみると下に続く階段があった。畳の裏側には『立ち入り禁止』と書いてある。
 ……なんだろう?
 ライは「ちょっとだけなら」という気持ちでそっと中を覗いた。そしてなんとなく階段を降りはじめた。
 ……立ち入り禁止って書いてあるけど少しなら大丈夫かな……。
 ライは恐々地下に続く階段を降りた。階段は暗くて見えにくかったがその先の部屋は松明が灯っており明るかった。火事にならないかと心配したがこの炎は不思議と熱くなかった。ここは弐の世界、普通の炎ではないのだろうとライは納得し、部屋を眺めはじめた。
 「……ここは……書庫?」
 真ん中に質素な机のみ置いてあり、その机を囲むように本棚が置かれていた。
 ライは机に置いてあった一冊の本に目を向ける。どうやらその本は日記帳のようだ。
 「……日記帳?」
 ライはあたりをちらりと見るとドキドキしながら少しだけ開いた。
 ……この弐の世界を自由に動くことができる者がいる。それは人形やネズミといった神ではない者達だ。彼らはKと名乗る者の使いだそうだ。Kという者は何者なのか私はそれが知りたい。
 「……K?」
 ライがぼそりと言葉を発した刹那、首筋に何かが当たっている事に気がついた。
 「ひっ!」
 ライはビクッと肩を震わせた。後ろから強い殺気を感じた。そういうのに詳しくないライでもこの威圧には耐えられなかった。額が汗で濡れる。
 「やはり、諜報が目的か。」
 鋭く低い声が後ろから聞こえた。
 「ち、ちがっ……。」
 ライは怯えながら咄嗟に言葉を口にしたが何かを首筋に当てられたまま階段を登らされた。
 ライの後ろから首筋にクナイをつきつけていたのは更夜だった。更夜は地上に出るとライを畳に押さえつけ腕を捻り上げた。
 「い……痛い!」
 「あそこで何をしていた?」
 冷たい声がライに突き刺さる。
 「に、日記帳読んでいました!」
 ライは涙目になりながら叫んだ。
 「あなたはどこからの使者だ?」
 更夜はさらにライの腕を捻る。
 「うう……ただ弐に落ちちゃっただけですぅ……。ごめんなさい!許してください!」
 「……このまま吐かなければ腕を折るぞ。……その前に拷問にかけるか。」
 更夜の冷徹な瞳がライをさらに怯えさせた。
 「ご、ごうもん!?」
 「忍は捕まったら終わりだ。拷問で吐かなければあなたは死ぬだけだ。」
 「しっ……。」
 更夜はライを忍だと思ったらしい。ライ自身、先程から怪しい行動ばかりしていたため、そう思われても仕方がなかった。
 「盗んだものなども調べさせてもらうぞ。」
 「ぬ、盗んでいましぇん……。」
 ライはグシグシ泣きながら更夜と会話をしている。
 「忍相手にそれは通じない。お前の潔白は身体をみればわかる事だ……。」
 「わああん……。」
 「泣いても無駄だ。情けの方面には俺は動かない。俺は冷たい男だからな。」
 更夜は冷笑を浮かべライの耳にそっとささやいた。
 「更夜?何して……ってうわ!」
 トケイが部屋に入ってきたと同時に驚きの声を上げた。
 「トケイ?何よ?大きな声出して……。」
 スズもひょっこり顔を出すと目を見開き、一瞬だけさっと顔を引っ込めた。
 「スズ、トケイ。この女は忍だ。書庫をアサっていた。」
 「……ライちゃんが?」
 スズは真面目に答える更夜に首を傾げた。スズはライを見る。ライは絶望しきった顔でわんわん泣いていた。スズは呆れた顔で更夜に再び目線を映す。
 「違うでしょ?これ。ねえ?」
 「うん。」
 スズの言葉に隣にいたトケイも大きく頷いた。
 「これから拷問に入るつもりだ。」
 「拷問って……更夜、やめなさいよ。その子、本気で泣いているよ。間違いなく忍じゃないって!そんなどんくさい忍いないからね。」
 スズは更夜をバッとどかすとライをそっと座らせてやった。
 「ずずぢゃん……。」
 ライはスズに涙でグジャグジャな顔を向けた。
 「だから言ったよね、わたし。更夜はこういう男だからって。」
 「ずずぢゃん……。ごういうのいいがもぢれない……。」
 ライはグシグシ泣きながらスズにすがった。
 「はあ?いいかもしれないって……やっぱりあんた、ぶっ飛んだ変態だね。……ねえ、更夜、この子なんか知らないけど喜んでいるよ。」
 スズはやれやれと更夜を仰ぐ。
 「喜ばせたつもりはない。」
 更夜はため息をつくと持っていたクナイをどこかに消した。
 「あ、更夜、居酒屋の御品書きに追加してほしいものがあるんだ。試作で作ったんだけどアイスクリーム。溶けちゃうから早めに食べてほしい。」
 空気を読んでいなかったのかトケイがそっとガラス容器に盛りつけられたアイスクリームを更夜に差し出した。
 更夜は無言でアイスクリームを受け取ると一口食べた。
 「っむ……。ほどよい甘さでうまいな。牛の乳と砂糖は控えめ、卵黄、それから……わずかな塩と後は酒か。ほんの少しラム酒でも入っているか?これはうまい。品書きに追加だ。」
 「うわー……隠し味共に全部入っているもの当てられた……。嬉しいけど複雑。」
 トケイは無表情のまま頭を抱えた。
 「更夜は舌もいいからね。一体忍としてどれだけ訓練してきたんだか。」
 「居酒屋?」
 「え?ああ、うちは表稼業で居酒屋やってんのよ。」
 ライの質問にスズはにこりと微笑み言葉を返した。
 「居酒屋……。」
 「で、更夜、なんか甘いものが好きみたいでね、甘味の御品書きも増えちゃって。」
 「おい。」
 スズがクスクス笑いながら更夜を見る。更夜はあからさまに嫌な顔をした。
 ……更夜様……甘いものが好きなんだ……。なんかかわいー。
 ライもクスリと笑った。先程の事はもう頭から消えてしまったらしい。
 「っち。トケイ、スズ、その女を監視しとけ。しばらくここにいてもらう。それから先程、どこからか手裏剣が飛んできた。お前達も用心しておけ。」
 「手裏剣?」
 「そうだ。八方手裏剣……だな。甲賀者か?まあ、今は気配を感じない。とりあえず用心しろ。」
 更夜は深いため息をつくと足音なく去って行った。
 「用心しろってどう用心すればいいのよねー?あー、あの爺さんは風呂に行ったのかな。もう夕方だからね。ホント、生活が爺さん。」
 スズは呆れた顔をライに向けた。
「でも若いんだよね?スズちゃん……。」
 「まあ、魂年齢は若いと思うけどね。もう何百年もいるからよくわかんなくなってきたわ。まあ、この世界に何百年とかそういう時間はないのだけれど。一つ一つの世界が別々に毎日不変にまわっているから時間とかあんまりないみたい。」
 「……へえ……。」
 スズの言葉にライは圧倒されながら答えた。
 「なんか色々良かったね。君、ここにいたかったみたいだし。」
 トケイが頷きながらライを見ていた。
 「え?う、うん。」
 ライは戸惑いながらトケイに答えた。
 「あんな思いしたのにまだここにいたいって思うの?」
 スズがライの肩をぽんぽん叩きながら質問してきた。
 「うん。いたい!いたいよ……。は~……更夜様。」
 「あーあーあー、ダメだこりゃ。」
 ライがうっとりとした表情を見せていたのでスズはもうライの好きなようにさせようと決めた。
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