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ごぼうかえるのTOKIの世界!
皆に元気を与えたい! 前向き楽しいブログを目指す(*^.^*) 口蓋裂の娘ちゃんと軽いADHD、軽いチック症状を持つ旦那と楽しくのんびりな日常をドールちゃん達が紹介する! 独自世界の幻想日本神話、自作小説書いています! 神と人形と人間と霊、そして『K』の季節感じる幻想データ世界TOKIの世界へようこそ! 和風SF日本神話の世界です( ´∀`)
かわたれ時…1月光と陽光の姫4
 高天原東。
 白い雲と青空が風に吹かれ流れていく。金色の建物は太陽の光を反射し、眩しいくらいに輝いていた。その建物の屋上に立つ二つの影。男と幼女の影。
「ワイズ、約束通り刀のあの子を送ったからね。あの芸術神の事は忘れてあげるよ。これで一応皆プラスになるねぇ。」
 剣王は冬の冷たい風をその身に受けながら口を開く。ここはワイズの別荘、あの金色のビルの屋上だ。剣王はワイズと話すため、駕籠に乗らずに待っていた。
 「輝照姫にはめんどうをかけたけど月の本当を暴くには仕方ない事だNE。あんたが条件をのんでくれて助かったYO。輝照姫には天御柱をつけたから弐に取り込まれる事はおそらくないと思うYO。」
 ワイズは腕を組み、街並みを見つめる。
 「君もよく考えるねぇ。自分が不利にならない方法をよくもまあ、思いつくものだよ。それがしの要件はあの名もなき神のあの子を月照明神に会わせる。だったんだけど、君は月照明神に会わせてやるから芸術神の件は黙っていろとそれがしに言った。名もなき神のあの子は弱いし、君が簡単に月照明神にあの子を会わせられるとは思えない。どうするのかと思っていたら信仰心の足りない太陽に援助してやると言い、輝照姫を月に行かせた。彼女なら強いからそれがしの部下のあの子も守ってやれる。天御柱もつけて体勢を万全にしてくれたしね。輝照姫が月に行く事によって月照明神が大きく動き出すだろう。それがしには月の事情なんて関係ないんだけどねぇ。」
 剣王は険しい顔をしているワイズをちらりと横目で見る。
 「月照明神の件で芸術神が関わってくるとしたら私にはかなり関係してくるYO。剣王。約束はかわしたYO。この件……漏らすな。」
 ワイズはサングラスの奥で剣王を睨みつけていた。
 「はいはい。それがしの要件を守ってくれていたら月の件に関しては黙っててあげるよ。」
 剣王はワイズにニコリと微笑むと待機していた駕籠に乗り込んだ。ワイズはそれをただ黙って見ていた。


 「白、黒プラス基本色十五パーセントってところね!この雪の塊は色々使えるわ!うふふ。」
 ライは近くに溜まっていた雪を触りながら不気味に微笑んでいる。
 「おーい。早く行くぞー。」
 なんとなくついて行く事になったライにみー君は控えめに声をかけた。
 「あら、こちらの草は……。」
 「もういいから行くよ……。」
 サキはライを引っ張り歩き出した。先程から時間がけっこう経ったがまだトンネルを抜けたばかりだ。
 「いやー、ライは芸術に飲み込まれるとめんどくせぇなあ。」
 「……へ?誰?」
 サキは声が聞こえた方を向いた。声の主はチイちゃんだった。
 「お前、いつからキャラ崩壊したんだ?さっき会ったばかりだが。」
 みー君も驚いてチイちゃんを見つめていた。
 「え?なんでしょうか?みー様。サキ様。」
 チイちゃんは特に慌てる素振りもなく当たり前に元の口調に戻った。
 「いや、なんでしょうかって……。」
 みー君が戸惑っているとチイちゃんはライに話しかけていた。
 「おい。ライ。さっさと来い。迷惑かけんじゃねぇぜ。鬱陶しいんだよ。」
 「……あー……えっと……なんか態度がだいぶん違うけど……。私達、会うのはじめてだよね?」
 ライは怯えた目で乱暴に言葉を発するチイちゃんを見上げる。
 「態度がちげぇのは当たり前だろ。あのお二方は破格に神格がちげぇんだよ。オレとお前は同じ神格。お前に対して下手に出る必要はねぇんだよ。わかったか!この芸術バカ。」
 チイちゃんの気迫にライは怯えながら何度も頷いている。
 「うわあ……。」
 「口悪っ……。」
 サキとみー君はそれぞれ声を漏らした。
 「お、同じ神格でも礼儀ってあるじゃない?あ、あんまり口が悪いとタケミカヅチ神に報告しちゃうよ……。」
 ライが何か反撃しようと小さく言葉を発した。
 「お前が剣王様に会えると思っているのか?舐めた口きいてんじゃねぇよ。」
 サキは少しチイちゃんを落ち着かせようと動き出した。
 「あんた、ちょっと口が悪いよ。ライの代わりにあたしがタケミカヅチ神に言いつけるよ。」
 「!」
 サキの言葉でチイちゃんは顔を真っ青にした。こう見ると子犬のようだ。
 「さささ……サキ様!ごめんなさい!許してください!だいぶ調子乗りました……。同神格に会ったのがはじめてで舞い上がってました!どうかお許しを……。」
 「よわっ!」
 さっきとはうって変わってチイちゃんは濡れた子犬のようにサキを見つめていた。
 ……ふう。見栄を張りたいけど張れない、そんな気持ちが表に出たのかね。何と言うか素直な男だよ。
 サキが頷いている横でみー君が呆れた声を上げた。
 「ほんと、鬱陶しい男だな。お前がめんどくさいぜ。」
 「で、結局これからどうやって月に行くんだい?」
 サキはとりあえず全員の顔を見回した。
 「あの……鶴を使えばよろしいのでは?」
 委縮しきっているチイちゃんが恐る恐る声を発する。
 「ああ、それはいい考えだな。霊的鶴ならば霊的月にも入れる。生きている鶴だったらマジな宇宙旅行になってしまうし、人間が見ている月はただの砂だ。だいたい生きている鶴が宇宙に行けるわけがないがな。ははは。」
 みー君はまた楽しそうに笑っていた。
 「普通、霊的月に行くなら月神か、使いの兎が門を開いてくれなきゃ入れないよ。太陽だって太陽神か使いの猿じゃないと門を開けないし。現世だと特に条件があるし。それを丸無視して鶴で行けるのかい?」
 「んん……あー……どうなんだろうな?そう言われたら無理かもな。」
 サキの質問にみー君は顔を曇らせた。
 「あ、あの。私の能力を使えば行けると思うわ。」
 ライが話すか迷っている表情でサキ達の会話に割りこんできた。
 「あんたの能力ってなんだい?」
 サキは少し期待のこもった目でライを見つめた。
 「ええと、私が作り出す弐の世界で条件を満たせば月に行けると思う。私は演出家でも小説家でもないからただ、単純なお話って言うか絵になっちゃうんだけど……。」
 「ちょっと全然わからねぇですよ。」
 少し言葉に気をつけたチイちゃんがライに向かいボソボソと話す。
 「ああ、ごめんね。チイちゃん。ちゃんと説明するね。」
 「ち……チイちゃん……!?あんたには言われたくねぇんですけど……。」
 ライの言葉にチイちゃんの眉がピクンと動いていた。ライはそれに気がつかずに説明を続ける。
 「まず、私が月のお話を絵にする。この場合、竹取物語がメインでいいと思う。ただし、私は小説家じゃないからストーリーのない絵になると思う。それで描いた月は人間の心とか妄想心とか心霊が住む世界、弐の世界にいく。この月はアイディアとか妄想と一緒だからね。私が作り出す弐の世界へ……私の世界へ送られる。その月はもともと物語をベースでできている月だから現実世界にある本当の月ではない。それは月神が住んでいる霊的月も同様。あの霊的月も人間が作り出したもの。人間の想像力。つまり霊的月同士でリンクする。」
 「なるほどな。わかりやすい。」
 ライの説明でみー君は目を輝かせていた。なんだか冒険しているみたいで楽しいのだろう。
 「まあ、あたし達神も人間が作り出した想像の塊だしねぇ。霊的月同士で入るのが一番簡単かもね。」
 サキは険しい顔をしながらライに目を向けた。
 「でもこれ、月子に凄い怒られるかも……。月子、今誰も月に招こうとしないし。」
 「大丈夫だよ。ここで月に行かないと月の謎は解けないよ。さあ、やっておくれ。」
 目を伏せているライの肩をサキはポンと叩いた。
 「うん。わかった。やってみるね。」
 ライは少し迷いながら手からスケッチブックを出現させた。そのまま絵筆を取り出し、サラサラと絵を描いていく。竹取物語をイメージした竹と月があっと言う間にできあがった。色彩は水彩のように淡く月だけが輝きを放ち描かれていた。
 「ほお……。けっこうすげぇですね。」
 チイちゃんがスケッチブックを覗き込む。
 「ありがとう。チイちゃん。」
 「チイちゃんはやめてくれねぇですか。」
 「じゃあ、なんて呼べばいいの?」
 「うっ……。」
 ライの言葉でチイちゃんは詰まった。実際名がないのだからしかたがない。
 「もう誰が呼んでもチイちゃんでいいじゃないかい。チイ・チャンとかでさ。」
 「なんか海外の人っぽくなったな。」
 サキの発言にみー君は呆れた顔を向けた。
 そんなのんきに会話している時、ライの持っていた絵が光り出した。
 「じゃあ、準備できたから私の絵の世界へご案内するね。」
 ライはそう言うと隅っこに慣れた手つきで自身のサインを書いた。刹那、光がサキ達を包み、サキ達はスケッチブックに吸い込まれて行った。


 「えーと……。」
 閉じていた目を開けるとサキの目に竹藪が映った。あたりは暗いがやたらと明るい月がサキ達を照らしていた。
 「うーん……。」
 サキの隣りでライが一人唸っていた。
 「どうしたんだい?」
 「うーん。なんかね、ちょっと私の世界とは違うなあって……。」
 「これはあんたの絵の中なんだろう?」
 「そうなんだけどね。」
 ライはなんだか納得がいかない顔をしている。サキはさらにあたりを見回す。
 「まあ、一人一人、別々に世界があってその個人の世界がごちゃごちゃになっているのが弐なんだろう?別の人の世界観が少し混ざったんじゃないのかい?」
 「そんな事ないよ。私は芸術神だよ。ただの妄想だと世界観は曖昧になるけど私はちゃんと絵を描いたよ。サインもしたし。さっきあなた達をハメたのと同じやり方だよ?」
 ライは不安そうな顔をサキに向ける。サキもなんだか不安になってきた。
 「おーい!なんか赤ちゃんのモンスター見つけたぞー!」
 二人に不安が渦巻きはじめた時、みー君のやたら楽しそうな声が聞こえてきた。
 「てか、そういえばみー君がいなかった!あれ?チイちゃんもいない!」
 サキはライと二人きりな事に気がついた。ふと声が聞こえた方を向くとみー君が何かを抱えてこちらに走って来ていた。もう嫌な予感しかしなかった。
 「ああ!待ってください。みー様!」
 続いて後ろから追いかけているチイちゃんが映った。
 「おい。見ろよ。こんなの見つけたぞ。」
 みー君はサキ達の前で足を止めると抱えている物体をサキ達に見せた。
 「な……なんだい。この生き物は。」
 見た目、ドラゴンだ。だが、みー君の腕におさまるほど小さく、なぜか十二単を着ている。色は金色で背中から翼が生えている。目はくりくりしていてとてもかわいらしいが口元から覗く牙はこの世のものとは思えないくらい鋭い。
 「きっとあれだ。こいつはかぐや姫だ。かぐや姫!」
 「そんなわけあるかい!かぐや姫は人型だよ!」
 サキは顔を青くして楽しそうなみー君に叫んだ。
 「この龍は竹にくっついていたんです。輝きながら。」
 チイちゃんは頬をポリポリとかきながら龍を見つめる。
 「竹にくっついていたのをなんで持って来ちゃったんだい!戻してきな!かぐや姫は竹の中にいるんだよ!」
 「こいつが十二単着て竹にくっついていたらほら……捕まえたくなるだろう?凄い目立つしなあ?ははは!」
 みー君は楽しそうに笑っている。サキはふうとため息をついて心を落ち着かせた。
 それを横目で見ながらライが口を挟んだ。
 「そ、それね。かぐや姫だわ……。みー君の妄想力が私の世界を壊したんだね……。みー君が私の絵を見て勝手に想像を膨らませてたんだわ。ここはもうみー君の世界。」
 ライが肩を落としながらつぶやいた。
 「なんだって!てことは!ここはライの絵だけどみー君が勝手にシナリオを作っちゃった世界って事かい?」
 「うん。」
 「そんな……信じらんない……。」
 サキの胸に不安が広がる。みー君はまともではない。この世界もきっとまともではない。
 「おい。どうした?」
 みー君はきょとんとした目でサキを見ている。サキは再びため息をつくと無意識のみー君に質問をしてみた。
 「ねぇ、みー君。そのドラゴンをどうするつもりなんだい?」
 「育てて強くしたい。ほら……育成ゲームみたいに!」
 みー君の瞳は月に負けじと輝いている。
 「OK。わかった。質問を変えるよ。みー君の考えるシナリオは何だい?」
 「ん?シナリオ?そうだな。こいつを育てて強くして五つのアイテムをゲットしてエンディングで月に行くってのはどうだ?育成ゲーム風かぐや姫ドラゴンだ!」
 「こなくそ!」
 笑顔のみー君の頬をサキは思い切りつねった。
 「いででで……。何するんだ?つねるな。痛いだろう。」
 「ああ、ごめんよ。みー君。思わずね。とってもつねりたくなってしまってね。そしてそのアイテムはたぶん手に入らない……。」
 サキはみー君の頬を引っ張りながら怒りを押し殺していた。
 ……さすが厄災の神。彼といるとほんと厄だらけだよ。
 「あの話は有名だからな。知っているぞ。おい。いつまでつねってるんだ。痛いぞ。」
 みー君の両手がドラゴンによって封じられているのを良い事にサキはみー君の頬をつねり続けた。
 やがてため息をついたサキは開き直る事にした。
 「じゃあ、さっさとそのドラゴン強くして五つのアイテムとやらをとってきな。あんたが作った世界ならそのアイテムはあるかもしれない。あたしは見ているからさ。」
 「おう!わかった。頑張るぜ。」
 サキは遠ざかるみー君に向かい手をひらひらと動かすと近くにあった岩に座った。
 「ふう。じゃ、ちょっとあたしは寝ようかね。」
 サキが寝ようとした時、慌てている声が聞こえてきた。
 「さ、サキ!大変よ!これ見て!なんか地図が落ちてたわ!」
 慌てて近寄ってきたのはライだった。手には大きな地図を持っている。
 「はあ?地図?時代背景めちゃくちゃじゃないかい……。」
 サキはライが開いた地図を覗き込む。その地図はダンジョンマップと書かれており、なぜか世界地図のような広さがあった。サキはギョッとして声を上げた。
 「だ、ダメだ!あいつに任せちゃダメだ!追いかけないと!」
 サキは鼻歌を唄いながら遠ざかるみー君を青い顔で見つめた。
 「あ、サキ様。攻略本が落ちていました。」
 「はあ?攻略本だって?もうどこにかぐや姫の要素があるんだい!」
 チイちゃんが持って来たのは分厚い本だった。中を開くとかぐや姫ドラゴンの育成方法がびっしりと書かれていた。
 「ああー!もうやだ。あたし、帰りたい……。」
 「お!野生のドラゴンだ!いけ!かぐや!強くなれ!」
 サキがつぶやいた時遠くの方でみー君の独り言が響いていた。
 「さ、サキ様。こちらに最速クリア方法が書いてあります!本当にチート技らしいですが。」
 「なんだって?それはチートじゃない!本当のルートだよ!教えておくれ!」
 サキは必死でチイちゃんに食らいつく。
 「えーと。かぐや姫所有者……この場合、みー君ですね。……の妻となり……えーと……知意兎(ちいと)って書いてあるツボがある場所で所有者と寝ながら×××をするとかぐや姫は月に帰るエンディングになる……そうですが……。」
 「ええと……ちょっと、ちょっと待っておくれ。その……寝ながらの先はなんなんだい?」
 サキは戸惑いながらチイちゃんを見つめる。
 「わかりません。秘密だよって書いてあります。」
 チイちゃんは攻略本のページをサキに見せた。寝ながらの先は黒く塗りつぶされておりその上から白字で秘密だよと書かれていた。
 「ああ。もうダメ❤私違う想像しかできないわ。だって妻になってから寝ながらなにかをするなんて……もうねぇ?」
 「やめておくれ……。みー君の事だからきっと突拍子もない事なんだと思うよ。」
 「だからね、やっぱり……❤」
 「あんたはそっちの考えから抜けてくれるかい?それだけは絶対に違うと思う。」
 頬を真っ赤に染めているライにサキはきっぱりと言った。
 「おそらく寝ながら相撲をすると……とか、プロレスをすると……とかだと思う!」
 「サキ様……それもそれでおかしいと思いますが……。」
 自信満々のサキにチイちゃんはため息をついた。
 「まあ、考えてもしかたないね!よし、じゃあまず知意兎ツボを探そう!……ってこれかいぃ!」
 サキが立ち上がった時、自分が座っている物が岩ではなく大きなツボだった事に気がついた。ツボには知意兎と書かれており、なぜか逆さまになっている。
 「チートツボあっけなく見つかりましたね……。」
 「よし。まあ、ラッキーという事で。とりあえず今すぐみー君をここに連れてくるんだよ!」
 サキはすぐさま走り出した。こういう時の行動力だけサキは優れていた。
 「ああ。待ってください。」
 「サキ、待ってよー。」
 チイちゃんとライはたったと走り去るサキを戸惑いながら追いかけて行った。
 「あ、いたいた。なんかおっきい生き物が倒れているけど何やったんだい。まったく。」
 みー君はすぐ近くにいた。みー君の前には一匹の大きなドラゴンが倒れておりみー君の横に立っているかぐや姫ドラゴンは姫に似つかない咆哮をあげている。
 「かぐや!お前強いな。さっき拾ったスキルアップのアイテムも使ってみるか!えーと、ロキソなんとか……って書いてあるな。痛み止めみたいだな。ははっ。」
 「ちょっと、みー君。いいかい?」
 サキは感動しているみー君を静かに呼んだ。
 「ん?サキか。なんだ。お前も一緒にこいつ育てる気になったのか?」
 「そんなわけないじゃないかい。いいから来るんだよ。」
 サキはさっさときょとんとしているみー君の手を引き、走り出す。
 「お、おい!なんで戻るんだ?なんで走るんだー!?」
 「ちょっと用事があるんだよ。」
 「ああ、サキ様!」
 戻っているとチイちゃんと疲弊しているライが待っていた。
 「私は運動得意じゃないんだってば……はあ……はあ。」
 ライは今にも倒れそうな状態でサキを見つめていた。ライはサキを追いかけていたがおそらく追いつけないと悟りここに立ち止っていたらしい。チイちゃんはライの様子を見るために立ち止ったのか。
 「まったく情けないねぇ。しっかりしな。さっきの所まで戻るよ。」
 「ゆっくりでいいかな?」
 ライはひかえめに声を発する。
 「後からチイちゃんと一緒にきな。あたしは彼の気が変わらん内に行かなきゃならないから先行くよ。チイちゃん、ライを見ててあげておくれ。」
 「おまかせください!」
 チイちゃんはビシッとサキに言い放った。
 「あーん……もう、なんでそんなにキャラが違うのー?」
 「うるせぇですよ。待っててやるからさっさと歩くですよ。」
 ぼやいているライにチイちゃんはうんざりした顔で対応している。サキはそれを眺め、大きく頷くと再びみー君を引っ張り走り出した。
 「うおい!一体なんなんだ!なんで走るー……。かぐや置いて来てしまったんだが!」
 みー君は叫んでいたがサキはそれを丸無視で走り続けた。しばらく黙々と足を動かしているとツボが見えてきた。
 「はい。ついた。」
 サキはふうとため息を一つつくとツボを確認した。ちゃんと知意兎と書いてある。
 「なんだ?ここはさっきの所じゃないか。」
 みー君は不安げな顔であたりを見回していた。
 「みー君、覚悟!」
 サキは突然、みー君に襲い掛かった。みー君を大外刈りで押し倒し、サキはそこに覆いかぶさる。サキとみー君はぴったりとくっついたまま地面に転がった。
 「うわっ!な、なんだ!恥じらいもクソもないのか!お前は!」
 みー君は素っ頓狂な声を上げているが非常におとなしい。暴れると予想していたサキはどこかほっとしていた。
 「なんでこんなに積極的なんだ……。俺、はじめてなんだぞ……。」
 「何言っているんだい?」
 みー君は盛大な勘違いをしていた。顔を真っ赤にし泣きそうな顔でサキを見つめている。サキは素早くみー君を締め上げた。とりあえずツボの前でプロレス?を実行してみた。
 「いだだだ!腕を締め上げるな!何がしたいんだ!お前は!ひょっとすると男の悲鳴が趣味か!こ、これは何プレイと言うんだー!」
 みー君はじたばたと苦しそうに動いている。
 「違う。これじゃないね。そうか!まず妻じゃない!妻になってから……。」
 「妻!?」
 サキの一言にみー君は過剰に反応した。
 「じゃあ、これからあたしはあんたの妻になるよ!よし。」
 「妻って……妻ってぇええ?何故だ!なんでだ!うああああああ!」
 サキは戸惑いすぎておかしくなっているみー君にそう言うとまた腕を締め上げた。みー君は叫び声をあげている。
 「ごめんよ。みー君、少しだけの辛抱だよ!」
 サキもみー君の腕を締め上げるのに必死だった。ふと横を見るといつの間に来たのかチイちゃんとライが真っ青な顔でこちらを見ていた。ライはこの壮絶な現場に涙を流している。
 「こういうのってもっと甘々で天国にいるような気持ちになるものじゃないのか!お前がやっている事は辛々で地獄だ!」
 みー君が叫んだ時、サキはふっと我に返った。色々となんだかよくわからないが必死になりすぎていた。そして今、自分がやっている事とみー君と密着しすぎている事に気がついた。
 ……あたしは一体何をやっているんだい!
 「あ……えっと……ごめん!」
 サキは力を緩めると頬を赤く染めた。サキは冷静になるべく一度みー君から離れようとした。
 「待てよ。」
 離れようとしたサキを今度はみー君が押し倒した。
 「え?ちょ……な、なんだい?」
 サキは戸惑いながらみー君を見上げる。
 「お前、本当は甘々な事がしたかったんだろう?俺はその気になったぞ。」
 みー君が真面目な顔でサキを見つめているのでサキはさらに戸惑った。
 ……まずい……というかこれは……やばい。
 ちらりとライとチイちゃんを視界に入れる。二人は顔を真っ赤にして興奮気味にこちらを見つめていた。
 ……やっぱり……そういう事だよねぇ……。
 みー君の顔が徐々に近づいてくる。
 「み、みー君、ええっと、あっち向いてホイ!」
 サキは戸惑いつつ、人差し指で右を差した。運よくみー君は反射的に右を向いた。その時、一瞬、力も緩んだのでサキは慌てて脱出した。
 「みー君、ごめんよ。」
 「なんでだ?俺にあんなことしたというのに!妻になるって言ったのに!別にお前の事、何とも思ってなかったがその気になったじゃないか!」
 みー君はがっくりと肩を落として寂しそうにしていた。
 ……この男は……こっち関係は子供のようにピュアすぎるだろ……。まいった。
 「ごめん。ほんとにごめん。みー君。」
 「まあ、別にいいが……お前は一体何プレイを俺とするつもりだったんだ?」
 みー君は呆れた目でサキを見据えた。
 「まあ、プレイとかじゃなくてねぇ……。」
 「サキ様!あれを!」
 サキがごもっているとチイちゃんが指で何かを差していた。
 「なんだい?」
 サキはチイちゃんの指が示す方向を目で追った。
 「ん?」
月の方面から金色の大きな龍がこちらに向かって来ているのが見えた。ドラゴンはなぜか十二単を纏っている。
 「あれ?かぐやか?なんであんなデカくなっているんだ?」
 みー君は大きな金色のドラゴンを眺めながら首をひねった。
 「じゃあ、あれが……正解……。つまり××の所は寝ながらあっち向いてホイをするって事かい!やっぱりまともじゃなかったよ!たまたま当たっただけで普通だったら一生不明だよ……まったく。」
 サキは長いため息をついて頭を抱えた。
 「じゃあ、あのドラゴンは知意……」
 ライが声を発しようとした時、素早くサキが口を塞いだ。
 「チイちゃん!」
 「は、はい!」
 サキはライの『知意』発言からチイちゃんにつなげた。チイちゃんは何故呼ばれたのかわからないまま大きく返事をした。
 「名前を呼んでみただけだよ。気にしないでおくれ。」
 「は、はい!」
 サキはそう誤魔化し、ライの耳にそっとささやいた。
 「みー君にこの事がチート行為だって知られたらけっこう落ち込むよ。なんだかわからないままでいいんだよ。」
 「そ、そっか。」
 ライは恐る恐る頷いた。
 「おい。乗せてくれるって言っているぞ。」
 みー君はかぐやを指差しながら楽しそうに笑っている。もう先程の事は引きずっていない。なかなか平和な性格の持ち主のようだ。
 「とりあえず、あれに乗れば月にいけるって事ですね。」
 チイちゃんは徐々に近づいてくるドラゴンを眺めながらつぶやいた。
 「そうだねぇ。もう、月に行く事が目標みたいになってしまったね……。」
 ドラゴンは風を纏いながらサキ達の前に降り立った。かなりの大きさのドラゴンだったがサキはもうあまり驚かなかった。いままで破天荒な事が起こりすぎて感覚が色々と麻痺していた。
 「こうやって間近で見ると迫力凄い!肩甲骨から左右対称の翼がバランスいいね。輝きの光沢も特殊……。ちょっとスケッチを……。」
 ライは金色に輝くドラゴンを興味津々に見つめながら分析を始めた。
 「そんなのいいから行くよ。」
 サキはライを引っ張りながらドラゴンに近づく。大きすぎてどこから乗ったらいいかわからない。
 「よし、俺が風を起こしてドラゴンに乗せてやるよ。」
 みー君はいつの間にかドラゴンの背に乗っていた。そして手を振りながら楽しそうに笑っていた。
 「みー君、なんでもう乗っているのかって事は聞かないから優しく頼むよ!」
 サキが叫んだ刹那、サキ、チイちゃん、ライの身体がふわりと浮いた。浮いたと思ったら突然、台風並みの突風が吹いた。
 「ぎゃあああ!」
 三人は突然の事に目を回しながら完璧すぎる絶叫を上げていた。自分達がどんな感じで空を舞っているのかすらわからないまま、ただクルクルと飛ばされていた。
 「んー……やっぱり俺は厄災の神だった。」
 ふとみー君の呑気な声がすぐ近くで聞こえた。
 「……うう……。」
 気がつくとサキ達はもうドラゴンの背に乗っている状態だった。
 「なんか嫌な予感はしてたけど……優しくって言っておいたじゃないかい……。」
 サキは今にも吐きそうな顔をみー君に向けた。ちなみにライとチイちゃんは白目を向いたまま気絶している。
 「すまん……。もともとが鬼神なんだ。俺にはここまでが精一杯だ。」
 みー君が素直にあやまってきたのでサキはそれ以上何も言えず、とりあえずチイちゃんとライを起こした。
 「ちょっと……あんたらは何気絶しているんだい。さっさと起きな。ほら!」
 サキは二人を乱暴に揺すった。
 「んん……気持ち悪いです。」
 「は、吐きそう……。」
 サキの声掛けにより二人は目を覚ました。顔色は悪く、今にも意識を失ってしまいそうだ。
 「ほら!しっかりするんだよ!おっとっと……。」
 サキが二人に喝を入れている時、ドラゴンが急に空へ羽ばたいた。風はやや冷たいが乗り心地は最高だ。暗い風景の中、ひときわ明るい月に向かいドラゴンはゆっくりと進み始めた。
 揺れもなく滑るように飛んでいるのでサキ達の心もだんだんと穏やかになってきた。
 「ああ、だんだんと気分が良くなってきたわ。意外に乗り心地いいね。」
 「そうでごぜぇますね。もう気持ち悪くねぇですよ。」
 先程まで青い顔していた二人はだんだんと元の調子を取り戻してきたようだ。顔色が元に戻ってきている。
 「お?」
 そんなまったりとした空気を壊したのはまたもみー君だった。かぐやの背中にボタンがあるのを発見したみー君はそのボタンをとりあえず押してしまった。それと同時にかぐやの口から火の弾が飛び出した。
 「お?……おお?」
 「な、なんだい?なんか火を吐いたよ……。」
 「なんだかものすごく嫌な予感がしますね。違う世界観に入ってしまったような……。」
 みー君のうずうずしている声を聞いた三人の胸中にはまずい雰囲気が渦巻きはじめていた。よくわからないが前方から何かが飛んでくる音が聞こえてくる。ヒュルルとなんだか不気味な音だ。
 「おお!ミサイルだ!」
 「ミサイル?ミサイルだって?」
 みー君の声を聞いた三人は恐る恐る前方を覗く。
 「ちょっ……ちょっ……ちょっ!ええええ?」
 三人は言葉を詰まらせながら顔を青くした。前方からかなり大きなミサイルが多数飛んできていた。風景は先程の場所からはうって変わって星空輝く宇宙になっている。少し先に輝いている月が見えた。
 「シューティングだ!ハイスコア狙うぜ!」
 みー君はかぐやの背中にある謎のボタンを操り、右に左にミサイルを避け、火の弾をミサイルにぶつけている。はじめから世界観はなかったがかぐや姫の世界観は完全に崩壊した。
 「きゃあああ!えええ?ちょっとどういう事!?」
 ライは右に左に揺れるドラゴンに必死につかまりながら絶叫を上げている。
 「あー、もう厄だらけだよ……。早く帰って寝たい!」
 サキもぼやきながらドラゴンにしがみつく。
 「ゲームはリアルにするとやばいですね……。さすがみー様……妄想たくましい。」
 チイちゃんはもう完全にまいっている。神力のない神にはこの現実は重すぎた。
 ……あーあ……チイちゃんもライもこれはかわいそうだよ……。
 サキはそう思いつつ、呆れた目でみー君を見つめた。
 「ボムは後何回使えるんだ?あたり判定は狭いのか?一度当たってみて試すしかないな。」
 「試すんじゃないよ!何を言っているんだい!まったく!あたし達を殺す気かい?」
 サキは呑気なみー君の耳をぎゅっと引っ張った。
 「いででで……。なんだ?お前もやりたいのか?」
 「そんなわけあるかい!今の状況でも普通じゃないけど頼むから普通に進んでおくれ!」
 「普通には進めないな。なぜならそこにミサイルがあるからだ!」
 「このやろ!」
 かっこよく言い放ったみー君の耳をサキはさらに引っ張った。
 「やめろー!耳がもげる。今、真剣なんだ。代わってやりたい所だが難易度がこれはかなり高い。ここを突破できたら代わるから少し待っててくれ。」
 「そういう事を言っているんじゃなくてだね……。」
 みー君ののんびり発言にサキはため息をついた。そしてもう諦める事にした。サキはみー君の耳を引っ張るのを止め、おとなしく後ろにさがった。
 「っち!ミサイルに追尾機能がついているな。誰だ?こんなかっこいいものを作ったのは!」
 みー君は悔しそうにつぶやいていた。
 『自分であります!ラビダージャン!』
 ふとどこからか凛々しい女性の声が聞こえた。
 「こ、今度は何ですか……。」
 チイちゃんは声の主に怯え、キョロキョロとあたりを見回している。
 「あ……ねぇ、上。」
 ライがげっそりとした顔で上を指差した。サキ達もそっと上を仰ぐ。
 「……な、なんだい?あれ……。」
 サキはもう驚かなかった。もう慣れてしまっていたからだ。サキ達の上空にいたのはプラモデルにありそうなロボットだった。デザインセンスに関してサキは一切わからない。
 『悪いですが月には来てほしくないであります!』
 これはロボットが話しているのではなく、おそらく中に誰かがいてその誰かが拡声器かなんかを使って話しかけているらしい。
 「おいおい。なんだ?そのかっこいいロボは……。」
 みー君は一人感動している。そしてみー君の心に反応するかのようにリズミカルなBGMがどこからともなく流れてきた。本当にゲームに入り込んだみたいだ。
 『弐の世界は不確定要素が強い世界。当然、妄想の塊も沢山落ちているであります!これは弐の世界に散らばっていたそれを組み合わせて作った鎧であります!ウサギンヌ!』
 ロボットの中にいる者も声が弾んでいる。単純に楽しんでいるのか。
 「ウサギンヌ?……もしかして……兎?」
 ライがぼそりとロボットに声をかけた。
 『その通り!自分はウサギであります!月のガーディアンでごじゃる!』
 声の主、ウサギは語尾を統一しないまま、元気な声で自己紹介をした。
 「ああ、月の使いのウサギかい。あたしらは月照明神の月子に会いたいんだよ。そこをどいておくれ。」
 サキが疲れた目でロボットを見上げた。返答はもう予想できていた。
 『ダメであります!現在月は誰も招いておらんでごじゃる。ラビダージャン。』
 ウサギは予想していた言葉を吐くと突然ミサイルを飛ばしてきた。ミサイルはまっすぐかぐやを狙い飛んで行った。
 「お?ボス戦か!」
 みー君の瞳がまた輝いた。
 「もうやめておくれ!頼むからこれ以上、みー君の心に火をつけないでおくれー!」
 サキは誰かに祈りながら叫んでいた。みー君はかぐやを素早くボタンで動かし、ミサイルをすべて避けた。もちろんサキ達は左右に激しく振られ、落ちるか落ちないかのギリギリのラインを彷徨う事になった。楽しそうにしているのはみー君だけだ。
 「くらえ!」
 みー君は火の弾が飛び出すボタンを連打した。かぐやは口を大きく開け、火を吐く。ロボットは素早く横に避け、炎を回避した。
 「なかなかやるであります!」
 「お前もな!」
 ウサギとみー君はお互い楽しそうだ。
 「だから、なんでこんなゲーム大会みたいなノリなんだい!」
 「ほんとだよぉ!こんなはずじゃなかったのにぃ!」
 サキの叫びにライが答えた。サキは一瞬固まった。
 ……こんなはずじゃなかった?
 サキはライのこの一言がひっかかった。
 「こんなはずじゃなかったって……?」
 「え?いや、だってこんなはずじゃなかったでしょ?」
 ライは何かを隠すようにサキに答えた。言うべきではなかったと顔が言っている。
 「あんた、やっぱり何か隠しているね?」
 「え?何の事?」
 ライがサキの言葉を誤魔化すように答えた。刹那、かぐやが激しく動いた。みー君がミサイルを必死で避けているためだ。
 「よし、ここだ。必殺技だ!」
 みー君は難しいボタンさばきでミサイルを避けながら必殺技ボタンを押した。まるでゲームの中のようだ。そしてみー君はこのかぐやの扱い方を完璧に分かっている。
 『グルオオオ!』
 かぐやは地響きがするほどの咆哮を上げると突然回転し、しなる尻尾をロボットに思い切り打ちつけた。
 「ぎゃあああああ!」
 もちろん、乗っているサキ達は必死につかまり、絶叫をあげ、半分気絶。ロボットはかぐやのしっぽ打ちにより、真っ二つになり、爆発した。
 「うわああ!死ぬでありまーす!ラビダージャン!」
 その爆発したロボットから子ウサギがクルクル回りながら飛び出した。ウサギは人型で少女の姿をしている。髪は白色で二つによわいており、そのよわいている髪がどういうわけかまっすぐウサギの耳のように立っている。服は紫の着流しだ。ただ、子供らしく太ももまでしか布がない。
 「子供のメスウサギか!これはまずい。落ちたら死ぬな。」
 みー君は焦りながら落ちてくるウサギを抱きとめた。
 「はわわわ……はわわ……。」
 ウサギは怯えながらあたりをキョロキョロ見回し、みー君を涙目で見上げた。この仕草はどこからどう見ても兎だった。
 「なんだ。中に入ってたのは怯え症の子ウサギか。わけわかんねえ語尾は誰に教わったんだが。」
 「はわわわ……。助けてくれてありがとうでごじゃる。なかなかお強い……。」
 「けっこう楽しかったぜ。じゃ、とりあえず、俺達は月に行くが……。いいよな?」
 みー君は怯えているウサギをそっとドラゴンの背中に降ろしてあげた。
 「負けて助けてもらって月に行くなとは言えないでごじゃる。どうぞでごじゃる。」
 ウサギは諦めた顔で下を向いた。
 「おい!やっと月に入れるぞ。」
 「そ、そうだねぇ……。良かったよ……。ほんと。」
 みー君の楽しそうな声にかろうじて答えを返したのはサキだった。
 「なんだよ。俺が頑張ったから行けるんだぞ。ん?あの芸術神はどこ行った?」
 みー君が後ろを振り向いた時、サキの顔と半分死んでいるチイちゃんの顔しか映らなかった。
 「え?何言っているんだい。ライならここに……あれ?」
 ライはサキの後ろにいたはずだが見当たらない。とりあえず隣にいたチイちゃんの意識を叩いて戻した。
 「さ、サキ様……みー様……オレはもうダメです……。おえ……。」
 「ちょっとしっかりするんだよ!あんた、ライを見てないかい?まさか下に落とされたって事は……。」
 サキの発言にみー君は顔を青くした。
 「お前ら、ちゃんとつかまってなかったのかよ!」
 「あのねぇ、つかまっててもあれは振り落とされるよ!みー君……。」
 焦り始めたサキとみー君を死んだ目で見つめながらチイちゃんはぼそりとつぶやいた。
 「ああ。ライは一足先に月に行きましたよ……。」
 「はあ?」
 チイちゃんの言葉にサキは驚いた。
 「一足先にって……どういう事だ?」 
 みー君は眉間にしわを寄せながらチイちゃんを見つめた。
 「知りませんよ。ライは筆でなんか描いてそのままそれに乗って月に行っちゃったんですから。」
 「それは本当かい?」
 「はい……。ドラゴンが回転した瞬間でした。オレはその後からの意識がないんですが、あの時、ライが空を飛んで行ったのは事実です。」
 チイちゃんは今にも吐きそうな顔をサキ達に向け、つぶやいた。
 「なるほどね。じゃあ芸術神はやっぱり月子とグルだね。名探偵サキの予想はそんなところだよ。」
 「それはどういう事ですか?」
 サキはチイちゃんに自分の考えを話しはじめた。
 「だから、芸術神ライはこの世界でずっとみー君と戦っていたんだよ。」
 「はあ?俺と?」
 信じられないといった顔つきのみー君にサキは頷いて続けた。
 「あんたは無意識だっただろうけど向こうはあんたの妄想を破る事に必死だったんだよ。」
 そこでサキはチート技の事を思いだした。
 ……これはみー君には言えないけどあれのツボに書いてあった言葉は『知意兎』。深読みかもしれないけど兎って言葉。他はよくわからないけど、ウサギは確実に出て来た。もともとウサギをみー君と戦わせるつもりだったんだろうね。
 「なんか変だと思ったんだよな。なんかゲームみたいな世界だなとか思ってたが、そうか。俺の妄想だったのか!なるほどな。はっはっは!」
 みー君はまた楽観的に笑っている。
 「もうなんでこう、緊張感がないんだい!……で?ウサギだっけ?あんた、知意兎の意味ってわかるかい?」
 サキは途中声を落としてウサギに聞いてみた。ウサギは怯えつつ頷いた。
 「知意兎、月子さんとライの合言葉であります。『兎にも知られぬ意思』という意味らしいでごじゃる。自分にはさっぱり。」
 このペラペラしゃべるウサギにより、サキは一つの結論にたどり着いた。
 ……あのツボはライが描いたツボだね。みー君がライの描いた世界観を壊す存在であると知ったのでみー君の世界に変わりつつあるその弐の世界にツボを描き、ウサギを呼んでみー君の始末を試みた。
じゃあ、ライはあたしの性格を読んでチート技なんてものを用意したって事かい。あたしだったら絶対食らいつくからねぇ……。
 で、ウサギがあたしらの始末に失敗したからライは一端月に帰った。
 「あやしいと思っていたんだよ。あの子。絶対ライは月子とグルだ。」
 「そ、その根拠をまだ聞いておりません!」
 サキの発言にチイちゃんがむきになって声を張り上げた。サキは顔を曇らせ、だんまりを決め込んだ。
 「ま、なんでもいいがとりあえず月に行くぞ。ライも月に行っているんだろ?」
 みー君は渋面をつくっているサキの肩をポンと叩き、言った。
 「そうだね。とりあえず月に行くかい。あ、もう一つ、ウサギに質問。あんたは月子の命令であたし達を消しにきたわけかい?」
 「うーん。まあ、月子さんはサキ様を消せればそれでいいと。」
 ウサギがサキの顔色をうかがいながらつぶやいた。
 「じゃあ、月子はあたしに恨みがあるのかい?あたし、月子に会った事ないんだけどさ。」
 「そこらへんは自分にもわからないであります……。」
 ウサギは渋面をつくっているサキを怯えた目で見上げた。
 「あ、そう。わかった。とりあえず行ってみるしかないって事だね。あんた、月に案内しな。それと裏切ったあんたはあたしが守ってやるから安心しなよ。」
 「お、おお……ホントでありますか?月子さんは怖いであります。できれば怒らせたくないのでごじゃる。」
 「大丈夫。月子はどうせあたしが何とかしないといけないんだし、月子が力ずくでなんかしてきてもあたしはたぶん負けないよ。何があったか知らないけどあたしは月子を救わないといけない。ワイズとの約束があるからね。だからあんたの事も守ってやれるよ。」
 サキはウサギにニッコリと笑いかけた。ウサギは目を輝かせながら大きく頷いた。
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